竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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狭霧山の死闘 肆

西暦1915年(大正4年) 7月 狭霧山

 

 

「黒死牟殿?何故、こんなところに?」

 

 

 鱗滝の死に様を目にしながら、いきなりここに現れた黒死牟の存在に童磨は首を傾げた。

 

 禰豆子の事は自分に任された筈であったし、鱗滝に苦戦していたというわけでもなかったからだ。

 

 まあ、もっとも肝心な禰豆子は逃がしてしまっていたので、自分の失態は明らかであったが、何処の方向に逃げたか自分でも分からない以上、幾ら透き通る世界を持つとは言え、今から黒死牟が探したところで到底見つかるとは思えない。

 

 そう思った童磨だったが、問われた黒死牟はそれに答えることはなく、代わりにこう返した。

 

 

「童磨・・・お前は・・・すぐに撤退しろ・・・あの方が待っている」

 

 

 

べペン

 

 

 

 黒死牟がそう言った直後、琵琶の音が鳴り、童磨の体は無限城へと回収されていく。

 

 それを見届けた黒死牟は、次にある方向へとその6つの目を向けた。

 

 

「やはり・・・来たか・・・竈門炭治郎」

 

 

「・・・」

 

 

 黒死牟の言葉に沈黙を以て答える炭治郎。

 

 だが、その目にはかなりの怒りを宿していた。

 

 

「・・・これはお前がやったのか?」

 

 

 炭治郎は体を真っ二つにされ、既に死亡している様子の鱗滝を視線で示しながらそう言う。

 

 だが、本来なら確認するまでもない。

 

 何故なら、真っ二つにされた部分の鱗滝の切り口は明らかに刀によるものだったのだから。

 

 しかし、それでも鱗滝が死んだという現実が認められずにその問いを行ったのだ。

 

 

「そうだ・・・私が・・・やった」

 

 

「何故、こんなことを・・・と言うのは愚問だな」

 

 

「その通り・・・鬼と鬼狩り・・・敵対者に与するならば・・・狙われるは必然」

 

 

 お互いの問答。

 

 それは戦いの摂理でもあり、常識でもある。

 

 しかし、殺された側の方が納得できるかどうかと問われれば話は別だった。

 

 

「ああ、理屈はそうなるさ。だが・・・納得できるかどうかは話は別だな」

 

 

 炭治郎がそう言いきった時、黒死牟は背中に岩がのし掛かったような感覚を覚えた。

 

 それは僅かな、されど重い。

 

 400年前に縁壱と遭遇したあの時よりは小さかったが、確かにその時感じたものと同じ威圧感だった。

 

 

「なるほど・・・そこまで・・・強くなっていたか」

 

 

 黒死牟はそう呟きながら那田蜘蛛山で戦った時の事を思い出す。

 

 あの時は炭治郎の事を手強いとは思ったものの、命の危険に値するほどの強さではないと判定していた。

 

 しかし、今は違う。

 

 縁壱程ではないが、明らかに自分の脅威となる存在だった。

 

 だが、だからこそ黒死牟は歯噛みする。

 

 何故、縁壱と繋がるものはこのように特別なのか、と。

 

 それは無意識のうちに黒死牟から怒りの感情を生み出す。

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 ──そして、両者はどちらも違う性質の怒りを抱えたまま、ほぼ同じタイミングで足を前へと進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り

 

 

 

 まず最初に技を繰り出したのは黒死牟。

 

 月輪を纏わせた形の異なる横凪ぎの2連撃の斬撃技が炭治郎へと向かう。

 

 

 

日の呼吸 参ノ型 列日紅鏡

 

 

 

 対する炭治郎もまた、横凪ぎの2連撃にてこれを相殺する。

 

 その際、発生した衝撃は那田蜘蛛山の時であれば、吹き飛ばされていた程のものだったが、あれから鍛練を積んで強くなった炭治郎はどうにかギリギリのところで踏み留まった。

 

 そして、そこから反撃を開始する。

 

 

 

日の呼吸 壱ノ型 円舞

 

 

 

 横凪ぎの斬撃。

 

 しかし、これは黒死牟が刀を使って弾いたことで防がれてしまう。

 

 が──

 

 

 

パキン

 

 

 

 刀そのものは炭治郎が繰り出してきた技の威力に耐えられなかったのか、真っ二つに折れてしまった。

 

 

「!?」

 

 

 黒死牟はそれを確認した途端、慌てて一旦後方へと下がる。

 

 そして、急いで刀を再生させることを目論むが、その間に炭治郎はもう1つの技を繰り出した。

 

 

 

日の呼吸 拾ノ型 火車

 

 

 

 空中で縦に回転する斬撃。

 

 刀の再生に専念していた黒死牟はこれを回避する事が出来ずにその斬撃を受け、左腕が見事に切り落とされた。

 

 

「くっ!?」

 

 

 黒死牟は苦悶の声を上げる。

 

 

(よし、これで能力は数分は半減できる)

 

 

 そう確信する炭治郎。

 

 再生力が低下する日の呼吸で左腕を切り落とされれば、上弦の壱と言えども数分は回復できない。

 

 もっとも、逆に言えばそれだけの時間だけしか優位を保てないのだが、それでも万全の状態と比べればどちらがマシかは言うまでもなかった。

 

 だが、黒死牟もただの木偶の坊状態で終わる筈もなく、呼吸を駆使して反撃を行う。

 

 

 

月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍

 

 

 

 刀を振らずに竜巻のような多数の斬撃を見舞う技。

 

 優位と思っていた途端にやって来る攻撃に少しだけ驚いた炭治郎だったが、すぐに対処を行う。

 

 

 

日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

 

 

 

 高速での回避技。

 

 残像での誤魔化しに加えて、攻撃そのものが咄嗟に行われていた為か、精密さに掛けており、黒死牟の攻撃は不発に終わる。

 

 しかし、その間に黒死牟は既に刀の再生を終えており、そこから彼の猛撃が始まった。

 

 

 

月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面

 

 

 

 上から降り注ぐ軌道が複雑な無数の斬撃。

 

 那田蜘蛛山でも使った技だったが、鍛練を行ったせいもあるのか、あの時よりも更に技が研磨していた。

 

 しかも、あの時、幻日虹で回避できたのは奇跡に等しい偶然に近かった為、もしあの時と炭治郎の実力が変わらなければ、この戦いはこれで締めとなっていただろう。

 

 だが、炭治郎の方も成長していたことがこの窮地を救った。

 

 

 

日の呼吸 拾壱ノ型・改 幻日虹・百足

 

 

 

 先程と同じ回避技の改良型。

 

 それは百足蛇腹のように低い姿勢で回避する技だった。

 

 しかし、今度は先程のように横に回避するのではなく、前に移動して潜り抜ける形での回避を行う。

 

 

「!?」

 

 

 黒死牟は驚いた。

 

 まさかこのような思い切った回避手段を取ってくるとは思わなかったからだ。

 

 普通、このような手段は回避する側によっぽどの自信がない限りはしない。

 

 何故なら、相手の攻撃に自分から向かっていくような行為なのだから。

 

 しかし、炭治郎は技が降りきる前に見事に攻撃の回避を行い、少々掠り傷を負いつつも、黒死牟の懐に飛び込むことに成功した。

 

 そして──

 

 

 

日の呼吸 拾肆ノ型 生生陽天

 

 

 

 変幻自在の連撃。

 

 猗窩座の時はまだ覚えたてだったこともあってあまり使いこなせなかったが、あれから2ヶ月程が経ち、使い方の要領も大分分かってきたことで、徐々に使いこなせるようになっていた。

 

 そして、この連撃を黒死牟は刀で弾いたりかわしたりしているが、既に懐に入り込んだのもあって完全にはかわしきれず、黒死牟の体は徐々に傷ついていく。

 

 

(くそっ!どうする?このままじゃ、攻めきれないうちに態勢を整えてしまう!!)

 

 

 だが、それでも炭治郎は焦っていた。

 

 既に切り飛ばした黒死牟の左腕は完全に再生しており、何かの切っ掛けが有ればすぐに態勢を整えるだろう。

 

 しかも、この生生陽天はあまり攻撃力の高い技ではない。

 

 体力と呼吸の続く限り連撃出来るというメリットはあるが、反面、他の技より攻撃力は低いのだ。

 

 その為、上弦の壱を仕留めるには今一つ威力が足りない。

 

 全集中・一点を使えればギリギリ出来るかもしれないが、全集中・一点は一時的に動きを止めなければならないので、そんなことをしている間に斬られてしまう。

 

 

(・・・こうなったら)

 

 

 炭治郎はあることを思い付き、一か八か、実行することにした。

 

 

 

日の呼吸 拾参ノ型 円環

 

 

 

炎舞

 

 

 

陽華突

 

 

 

 拾参ノ型 円環。

 

 日の呼吸の締めを担う技であり、壱から拾弐ノ型の技を繋げることで発動させるものでもある。

 

 しかし、正直言ってこれは何度やってもこの世界の炭治郎は出来が悪く、あまり続けて繋げられなかったのだが、それでも2つくらいならば繋げることは出来た。

 

 そして、炭治郎はこれにより、縦の高速2連撃である炎舞と日の呼吸唯一の突き技である陽華突を続けざまに発動する。

 

 まず始めに炎舞の2連撃により、黒死牟の手首を切り落とす。

 

 その際、刀も一緒に落ちたが、それに構うことなく炭治郎は続けざまに陽華突を発動し、かつて下弦の壱にしたように、相手の首を突き刺し、喉を潰す。

 

 

「ぐ・・・」

 

 

 黒死牟は苦悶の声を上げた。

 

 しかし、炭治郎の行動はこれで終わりではない。

 

 

 

全集中・一点

 

 

 

 黒死牟の喉に突き刺さった刀の柄を手放し、一旦距離を取ると、炭治郎は全集中・一点を開始する。

 

 しかし、その間に黒死牟の両腕と刀は再生されていたおり、まず黒死牟はその頸に刺さった日輪刀を引き抜こうした。

 

 このままでは呼吸が出来なかったからだ。

 

 冷静に考えれば、この時、炭治郎は刀を持っていなかったので、そのまま斬り殺すべきだったのだが、長い間、呼吸で仕留めてきた習慣はなかなか抜けずに、黒死牟は何時もの通りに呼吸で殺そうと考えてしまった。

 

 だが、結局、それが命取りとなり、黒死牟が刀を引き抜く前に全集中・一点を終えた炭治郎が目にも止まらぬ早さで急接近し、その日輪刀を柄を再び持つと、そのまま厭夢を倒した時と同じくある技を発動した。

 

 

 

日の呼吸 参ノ型 列日紅鏡

 

 

 

 左右の高速2連撃。

 

 それは厭夢を倒した時と同じ戦法であり、そこに全集中・一点を加えた力により、一気に黒死牟の頸を取ろうと考えたのだ。

 

 そして、まず右への一撃で柄を持っていた黒死牟の腕は振り払われ、そのまま頸が半分ほど斬れると、更に刀を返した一撃は黒死牟の頸元へと向かっていき──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べペン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その音が聞こえた直後、黒死牟の体は炭治郎の一撃によって斬り裂かれた。


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