竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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この時点(西暦1915年10月)でのかまぼこ隊及びカナヲの階級

竈門炭治郎 柱(日柱。鬼殺隊で最高の階級。“元”でないのは辞表が受理されていないため)

我妻善逸 庚(かのえ。一般隊士10階級の内の7番目の階級。つまり、炭治郎の7つ下)

嘴平伊之助 己(つちのと。一般隊士10階級の内の6番目の階級。つまり、炭治郎の6つ下)

栗花落カナヲ 甲(きのえ。一般隊士10階級の内の最上の階級。つまり、炭治郎の1つ下)


蝶屋敷防衛戦

西暦1915年(大正4年) 10月 雲取山

 

 

「ねぇ、炭治郎。蝶屋敷に行ってみない?」

 

 

 炭治郎の家で暮らし始めたカナヲがそのような事を言い出したのは、10月に入ってすぐの頃だった。

 

 

「蝶屋敷?なんでまた急に?」

 

 

「アオイが鎹烏で手紙を送ってきたの。今度、炭治郎と一緒にも来ないかって」

 

 

「ふーん。蝶屋敷、ね」

 

 

 蝶屋敷。

 

 それは鬼殺隊の医療施設であり、蟲柱・胡蝶しのぶとその姉である胡蝶カナエが管理する屋敷だった。

 

 そして、原作炭治郎の活動拠点ともなった場所だが、この世界の炭治郎は利用してはいるし、頻繁に訪れてはいたものの、活動拠点とまではしていない。

 

 が、同時にかなり思い入れのある場所であるということも確かであり、炭治郎が鬼殺隊から去る時もこの蝶屋敷の人間と別れることは心底惜しんだ経験がある。

 

 

「・・・でも、蝶屋敷は一般人は入れないだろ?」

 

 

 そう、蝶屋敷はあくまで鬼殺隊士の医療施設であり、一般人は受け入れていない。

 

 それに加えて、働いている人間が女性ばかりということもあって、蝶屋敷の周辺に存在する町の人間で新しく来た者の中には卑猥な事をする施設ではないかとゲスの勘繰りを入れる者も居るのが現状だった。

 

 辞表が受理されていないであろうことは薄々気づいてはいるが、それでもそれは雇う側の勝手であり、今の炭治郎の立場はあくまで一般人だと本人は思っている。

 

 まあ、それを言ったらかつて蝶屋敷に案内してくれた鱗滝も元柱という一般人に近い立場だったので、元鬼殺隊士である炭治郎なら入れるのかもしれないが、未だ鬼殺隊を恨んでいる炭治郎からしてみれば、鬼殺隊に関わる場所である蝶屋敷にはなるべく近づきたくないというのが本音だった。

 

 

「うん。でも、炭治郎は特別だから」

 

 

「特別、か」

 

 

 特別。

 

 その言葉は場合によっては気分の良いものではあるかもしれないが、この場合は炭治郎にとって全く嬉しいものではなかった。

 

 確かに自分は鬼殺隊では特別だったのだろう。

 

 なにしろ、鬼殺隊の最高幹部の1人である柱であったし、蝶屋敷の人間とも深い関わりを持っていたのだから。

  

 しかし、その立場が嬉しいのはあくまで鬼殺隊の一員であることに誇りを持っていた場合であり、そうでなければただの肩書き程度だろうし、中には炭治郎のように自分の肩書きを憎む者も稀に居る。

 

 そういうわけで、炭治郎は特別と言われてもあまり嬉しくはなかった。

 

 しかし──

 

 

(アオイさんやカナエさん、善逸や伊之助はどうしているかなぁ)

 

 

 思い出すのは蝶屋敷の友人達のこと。

 

 神崎アオイは原作通り自分の事を腰抜けだと言っていたが、炭治郎からしてみれば命を繋ぐ作業は命を奪う作業よりも重要だと感じており、その事をアオイに伝えると、彼女は驚いた顔をしながらも救われたような顔をして笑っていた。

 

 胡蝶カナエは不死川が死んだ時は落ち込んでいたが、それでも産まれてくる赤ん坊の為に凛とした顔を保っており、母親の強さには驚かされたものだ。

 

 善逸はあの無限列車の後も煉獄が亡くならなかったお蔭か、任務の際に泣き言を言うことが多かったが、音柱が亡くなった後には原作が煉獄が亡くなった後のような状態となり、遅まきながら本気で強くなろうと鍛練を始めた。

 

 まあ、それは伊之助も同じだったが。

 

 他にも何人か炭治郎と仲の良い人間は居たが、この4人がその中でも特に仲の良い人間達だった。

 

 

(そう言えば、黙って出ていっちゃったから挨拶もしなかったな)

 

 

 炭治郎は今更ながらその事に少しだけ罪悪感が沸いてくる。

 

 あの時は禰豆子が殺されたショックで頭に血が昇っていた為に一刻も早く鬼殺隊を出ていくことばかりを考えており、友人達への挨拶を一切行わずに去ってしまった。

 

 状況が状況だったとは言え、流石に失礼なことをしたという自覚はある。

 

 となると、その事を謝るためにも蝶屋敷に行った方が良いのかもしれないと炭治郎は考えた。

 

 

「・・・少しだけ様子を見に行こうかな」

 

 

「そう?じゃあ、アオイにそう言っておくね」

 

 

 炭治郎の呟きに意外な表情をしつつも、カナヲはアオイに炭治郎が行く旨を伝えるために自らの鎹烏を蝶屋敷に向けて送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇無限城

 

 

「蝶屋敷だと?」

 

 

 無惨は眉を潜める視線を、その報告を持ってきた童磨へと向ける。

 

 

「はい、信者達の調べでは隊士達の医療施設だそうですが、ここに打撃を与えれば奴等の安全な場所は完全に無くなります」

 

 

 童磨はニッコリと笑いながらそう言う。

 

 先月に猗窩座を失って以来、無惨は十二鬼月を温存するために積極的な行動を控えさせていた。

 

 しかし、それと同時に産屋敷家や鬼殺隊の刀を造っているという刀鍛冶の里を童磨や玉壺に探させていたのだが、一向に掴める気配がない。

 

 まあ、鬼殺隊結成以来、1000年も掴めていないのだから大して期待してはいなかったが、それでも鬼殺隊という組織を潰すのならば絶対に潰す必要のある場所だった。

 

 しかし、今回、童磨が持ってきたのは蝶屋敷という医療施設の位置。

 

 潰せば多少の隊士は殺せるだろうし、動揺を与えることが出来るかもしれないが、どう見ても鬼殺隊全体にとって致命傷になるとは到底思えない。

 

 

「・・・安全な場所を1つ無くしたからどうなると言うのだ?医療施設など、代わりは幾らでもある」

 

 

 無惨は鬼になって長い。

 

 なので、病気や怪我などで医療施設の世話になる可能性など皆無であったし、更に医者嫌いなのもあって珠世のような例外を除いては医者と関わっては来なかった。

 

 しかし、それでも医者やその施設というのはそれなりの数が居るというのは分かっており、そんなところを潰したところで何かがあるとも思えないし、そこへの戦力投入は博打要素が多い。

 

 何故なら、医療施設ということは管理している人間や警備の人間が柱かもしれないし、あるいは怪我か何かでそこに居るかもしれない柱と鉢合わせする可能性もある。

 

 そして、もし炭治郎がそこに居たりすれば、投入された戦力は大した戦果を挙げないままに全滅する可能性が高い。

 

 もっとも、実際は炭治郎はもう鬼殺隊を辞めていたので、その可能性は限りなく低かったのだが、炭治郎が鬼殺隊を辞めたことは鬼側は未だに把握していないため、当然、その首領である無惨もその事は知らなかった。

 

 

「いえいえ。実は鬼殺隊が保有する本格的な医療施設というのはここだけでして、後は他にも有るようですが、小さかったり、気軽に隊士が活用できるのはここだけのようです。ですので、ここを壊滅させることが出来れば、奴等の医療態勢を崩壊させることも可能でしょう」

 

 

 もっともらしい理由を述べる童磨。

 

 実際に童磨がここを攻めることを無惨に進言しているのは、信者からの報告でこの屋敷を管理しているのは女性のみと聞いて、自分の好みに合っていると判断したからであり、別に鬼殺隊に大ダメージを与えることを考えているわけではない。

 

 まあ、だからと言って重要施設では無いのかと聞かれると、そうでもないというのも本当だった。

 

 柱の精神的支柱が御館様ならば、この蝶屋敷は一般隊士の精神的支柱だ。

 

 ここを壊滅させることを出来れば、一般隊士に大きな動揺を与えることも可能だった。

 

 

「それに、あの耳飾りの剣士も頻繁に利用するそうです」

 

 

「・・・良いだろう。お前に鬼を数十体程預ける。それで必ずその蝶屋敷とやらを壊滅させろ」

 

 

 最後の言葉が決め手だった。

 

 無惨は童磨に鬼数十体を配下に置いての蝶屋敷襲撃を許可する。

 

 もっとも、無惨はこの蝶屋敷襲撃にはあまり効果を期待しておらず、何かあったらすぐに引き上げさせるつもりでいた。

 

 これ以上戦力を消耗させるわけにはいかなかったからだ。

 

 ──しかし、この無惨の決定によって、蝶屋敷が惨劇に見舞われる事態になるということが確定されてしまったというのも、また確かだった。




原作と比べての柱の強さ(西暦1915年10月時)

炎柱→原作よりやや強い(原作よりも長生きしており、その分鍛練を積んだため)。

恋柱→原作と変わらない。

蛇柱→原作と変わらない。

霞柱→原作より強い(記憶があり、明確な目的意識があるため)。

蟲柱→原作より若干強い(冨岡の仇を取るために修行をし始めた為)。

岩柱→原作と変わらない。

月柱→原作の無一郎と同じくらいの強さ(つまり、この世界の無一郎より弱い)。

日柱→8月時点での上弦の壱と同じくらいの強さ(つまり、今の上弦の壱より弱い)。

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