竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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那田蜘蛛山

西暦1915年(大正4年) 2月 那田蜘蛛山 入口 

 

 あの最終選別から約2ヶ月。

 

 あれから炭治郎は沼鬼を倒し、珠世と出会い、その後の屋敷の任務で善逸や伊之助と出会った。

 

 ちなみに禰豆子は鱗滝に預けてある。

 

 何故そうしたかと言えば答えは簡単で、原作のように背負ったまま戦うのは面倒だと思っていたし、少しでも柱合裁判の期間を先延ばしにしたいという思惑も有ったからだ。

 

 そして、初任務からここまでは禰豆子が居ない以外はほとんど原作通りに進んでいたのだが、違った点は幾つかあり、その筆頭が浅草で鬼舞辻無惨に出会わなかった事だった。

 

 どうやら2年前のあれで継国縁壱にやられたトラウマが引き起こされた結果、無限城に引きこもっているらしい。

 

 それ以外にも細かなところで原作と違う点はあったのだが、そのまま物語は那田蜘蛛山まで進んでいったのだが、そこでも原作と違う事が起こっていた。

 

 

「──助かったよ、ありがとう」

 

 

 男はそう言いながら、助けてくれた3人(かまぼこ隊)の少年の1人──竈門炭治郎に礼を言う。

 

 実はこの男は、原作では入口付近で母蜘蛛の操る糸によって山に引き戻されたのだが、それを察していた炭治郎が糸を斬って救出した人物だ。

 

 

「いえ、大丈夫です。それより、なにがあったのかを説明して貰いたいんですが・・・」

 

 

 炭治郎はその礼に返答しながらも、何があったかの説明を促す。

 

 勿論、何が起こっているのかは知っているのだが、まだ山に入ってもいない自分が説明するのはどう考えても不自然なので、こうして男に説明させようという訳であった。

 

 

「ああ、実は──」

 

 

 そこから先は原作で村田が説明した内容と同じだった。

 

 どうやら山に入ったは良いものの、突然、剣士達が自分に斬り掛かってきたり、別動隊も連絡が着かなかったりしているらしい。

 

 おそらく前者は母蜘蛛、後者は兄蜘蛛にやられたのだろう。

 

 

「──というわけなんだ」

 

 

「そうですか」

 

 

「よし!じゃあ、早速山に入ろうぜ!!」

 

 

 そう言ったのは伊之助だった。

 

 彼はこの蜘蛛の山には強敵が居ると悟り、それと戦ってみたかったのだ。

 

 対して、それを慌てて止めようとしたのは男と善逸だった。

 

 

「ええっ!今の話し聞いてたのかよ!!この山には強い鬼が居るって!!」

 

 

「そうだよ!柱が来るまで待とうぜ!!」

 

 

「いや、それは止めた方が良いな」

 

 

 炭治郎はそう言いながら、男と善逸の言葉を否定した。

 

 

「ど、どうして!?」

 

 

「仮に柱が来るとしてももう少し後だろう?少なくとも、俺達が山に入るのより先には来ない」

 

 

「いや、そりゃあそうだけど・・・」

 

 

「そして、俺達が今やらなきゃ今も山に入って戦っている人達が危険だ」

 

 

 炭治郎はきっぱりとそう言ったが、本音は少し違う。

 

 実を言うと、彼はこの山に居る下弦の伍の頚が欲しかったのだ。

 

 それは柱合裁判を見越して手柄を立てるためであった。

 

 原作では那田蜘蛛山の一件で禰豆子の存在がバレて炭治郎は柱合裁判に掛けられる。

 

 この世界では鱗滝に預けているので、どうなのかは分からないが、どちらにしろいずれはバレて柱合裁判に掛けられることとなるだろう。

 

 そうなる前に、十二鬼月の頚は確実に挙げておく必要がある。

 

 原作では累を倒さずとも柱合裁判は乗りきれたが、今回もそうなるとは限らないし、早めに力を認められるに越したことはないのだから。

 

 そんな本音を隠しつつ、炭治郎はもっともらしいことを言ったが、実を言うと善逸には原作通り兄蜘蛛を倒すことを期待していた。

 

 その理由としては、あれは日の呼吸では少し倒すのが面倒だと感じていたし、噛まれたら蜘蛛になる毒蜘蛛を操る鬼など相手にしたくもない。

 

 そういう思惑もあり、善逸には原作通りに兄蜘蛛を倒して貰いたかったのだ。

 

 

「・・・」

 

 

「よし!よく言った。紋二朗!!じゃあ、行こうぜ!!」

 

 

「炭治郎だって!!」

 

 

「あっ・・・」

 

 

 そうして炭治郎と伊之助は善逸と男を置いたまま、山へと入っていく。

 

 そして、炭治郎は伊之助と共に山に入りながらこう思った。

 

 

(さて、まずは母蜘蛛に退場してもらうとするか)

 

 

 炭治郎はそう思いながら“透き通る世界”を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これで、この山に来た大半の鬼狩りは全滅して私の手駒となった)

 

 

 母蜘蛛は糸によって隊士達を操りながらそう思いつつ、これで累に怒られることはないと静かに安堵する。

 

 この山に居る鬼は母蜘蛛を含めて5体。

 

 その内の1体は十二鬼月と呼ばれる無惨直属の鬼達の内の1つであり、下弦の伍という地位に立っている。

 

 下弦の伍は十二鬼月の中では下から2番目と、あまり強いわけではないのだが、それでも普通の鬼などと比べれば圧倒的な強さを持つ。

 

 彼を倒せるのは柱か、準柱レベル、あるいはそれに匹敵する強さを持った隊士くらいだろう。

 

 もっとも、癇癪が激しいこともあって、何か累の意思にそぐわない事がある度に自分は酷い目に遭わされるのだが。

 

 

(これで累に怒られないで済む。増援が来たようだけど、鬼狩りの柱でもない限りは大丈夫でしょう)

 

 

 母蜘蛛はそう考えていた。

 

 しかし、それは見方を変えれば油断にもなりうる。

 

 確かに昨今の鬼殺隊は質が落ちているので、柱と一般隊士の差はえげつないくらいになっていたし、実際に5体の鬼に対して、鬼殺隊側は10人も居ながらたった1体すら倒せず苦戦するという無様な惨状を晒していたが、それでも一般隊士に例外が居ないわけではない。

 

 それが原作五感組でもあった。

 

 そして、今回入った増援はその五感組の1人である伊之助。

 

 更に──

 

 

「!? なに!!?」

 

 

 母蜘蛛がそれに気づいたのは、増援を察知した数分後の事だった。

 

 彼女の操る蜘蛛から敵がこちらに近づいていることを知らされたのだ。

 

 母蜘蛛の戦闘スタイルは彼女の操る蜘蛛が相手の体に糸をくくりつけ、それを操ることによって戦うという間接的な戦い方だったのだが、この蜘蛛は偵察にも使える。

 

 その為、母蜘蛛に接近してくる1つの影の存在を察知できたのだが、仮に察知できなかったとしてもあまり運命は変わらなかっただろう。

 

 何故なら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一般隊士の例外中の例外となる存在──この世界の竈門炭治郎に目を付けられた時点で彼女の運命は決まっていたのだから。

 

 そして、母蜘蛛は炭治郎の回転する斬撃によって、何が起こったか分からないまま、その頚を落とされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──大丈夫ですか?」

 

 

 母蜘蛛の頚を落とした後、炭治郎は丁度近くに居た隊士──村田と協力する形で、まだ生き残っていた隊士達を救出(伊之助は消化不良で不満そうだったが)していた。

 

 

「あっ、ああ」

 

 

「そうですか。じゃあ、俺と伊之助はここらの安全を確保するために鬼を掃討してくるので、村田さん、後は頼みます。行くぞ、伊之助」

 

 

「指図すんじゃねぇ!!言われなくても、行くぜ!!」

 

 

 そう言うと、伊之助は山の奥へと邁進していこうとする。

 

 しかし、そこに──

 

 

 

ガアアアア

 

 

 

 母蜘蛛が操っていた大男の鬼がやって来た。

 

 

(ん?なんだ、こいつ?父蜘蛛じゃねぇな)

 

 

 その鬼はあのアニメで見たような父蜘蛛の蜘蛛のような顔ではなく、手の部分が蜘蛛となっている。

 

 だが、それでも鬼は鬼。

 

 炭治郎は改めて日輪刀を構える。

 

 そして、周りをチラッと見ると、あの糸で操られたダメージが体に出ており、村田以外の隊士は動けそうにない様子だった。

 

 ならば、即急に片付けた方が良いだろう。

 

 そう思い、前に歩み出そうとしたが、その前に伊之助が前へと出た。

 

 

「よっしゃあ!行くぜ!!」

 

 

 

獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂き

 

 

 

 獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂き。

 

 それは両刀を左右に分けた斬撃だったが、それによってその鬼の頚はあっさりと斬られ、崩れ落ちた。

 

 その呆気ない結末に、炭治郎は改めてこの鬼が父蜘蛛ではなく、別の鬼であると確信する。

 

 そして、記憶の中のアニメの内容を引き摺り出し、あることを思い出した。

 

 

(あっ!思い出した。こいつ、母蜘蛛が操っていた首無しの大男の奴じゃねえか)

 

 

 炭治郎はようやくそれが原作で母蜘蛛が操っていたあの首無しの鬼であると分かった。

 

 その証拠に、手の部分が蜘蛛となっている。

 

 

(母蜘蛛とこの鬼は別個体という扱いで、母蜘蛛を殺してもこの鬼は消滅せず、何処からか自分の頚を持ってきて着けたって訳か。たくっ、人騒がせな)

 

 

 炭治郎は悪態をつきながら、これから苛烈になっていくであろう戦いに思いを馳せていた。


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