竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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この時点(西暦1915年11月)でのかまぼこ隊及びカナヲの階級

竈門炭治郎 柱(日柱。鬼殺隊で最高の階級)

我妻善逸 丁(ひのと。一般隊士10階級の内の4番目の階級。つまり、炭治郎の4つ下)

嘴平伊之助 戊(つちのえ。一般隊士10階級の内の5番目の階級。つまり、炭治郎の5つ下)

栗花落カナヲ 柱(花柱)


刀鍛冶の里

西暦1915年(大正4年) 11月 刀鍛冶の里

 

 ここは刀鍛冶の里。

 

 それは刀鍛冶を集めて形成された里であり、日輪刀の新調や修繕など、鬼殺隊の武器関係の生産を司っていた。

 

 当然、その重要性から産屋敷邸同様に厳重な秘匿がなされているが、物資の流れなどの関係でどうしてもその秘匿性には限界があり、原作では玉壺に位置を特定され、半天狗と玉壺の2体の上弦が襲撃している。

 

 そんな刀鍛冶の里に、日柱と花柱は訪れていた。

 

 

「炭治郎。お前、何を考えている?」

 

 

 刀鍛冶の里の温泉に入る鬼の青年──愈史郎は同じく温泉に入っている炭治郎に詰問するように尋ねた。

 

 そして、その視線は何時にも増して鋭く、よほどその質問は彼にとって真剣なものであったのだと窺える。

 

 

「何を考えている、とは?」

 

 

「珠世様をここに連れてきたことだ。お前の話ではここに上弦の鬼が来る可能性があるから、その戦いの治療のために一時的に珠世様をここに移動させたいという事だったが、そんなものはあの蟲の小娘でも出来たんじゃないのか?」

 

 

 そう、実はこの刀鍛冶の里での上弦戦に備えて、炭治郎は御館様に珠世をこの刀鍛冶の里に一時的に移すことを打診していた。

 

 勿論、それは妓夫太郎の毒や獪岳の血鬼術に対抗するためのものだったし、珠世自身も上弦の鬼の血が手に入るかもしれないという思惑から了承したのだが、愈史郎からすればしのぶで代理が勤まるものを、なぜわざわざそんな危険地帯に珠世を来させたのかが分からず、少々不満に思っていたのだ。

 

 

「ああ、その事ですか。実は珠世さんをここに連れてくるように俺が言ったのには幾つか理由があります」

 

 

「なんだ?」

 

 

「まず1つ目が侵食系の血鬼術の治療は珠世さんの方が適切に処置できると思ったこと。もう1つはあまり柱を集中させすぎると本来の担当管区などが疎かになってしまうことです」

 

 

 今現在、この里には5人の柱(恋柱、月柱、霞柱、日柱、花柱)が集結している状態(ちなみにこれに加えて、善逸や伊之助も保険のために炭治郎はここに呼んでいる)だ。

 

 しかし、蟲柱までもが加わってしまうと、柱の3分の2がここに集中してしまうことになるので、流石にそれをしてしまうと通常の鬼狩り事業にまで支障が出てしまうと炭治郎が判断したのだ。

 

 

「それに今は何処に居ても安全だとは言えませんし、下手に警備の手薄なところに居るよりは戦力の整った最前線に居る方が安全ですよ」

 

 

 そう言う炭治郎だったが、鬼との戦いに“後方”という概念がないことなど、彼自身がよく理解していた。

 

 なにしろ、鳴女は自らの視界に入る場所なら何処でも戦力を投入することが可能なのだ。

 

 つまり、鳴女が居る限り、何処に居ようがその気になれば最前線となるので、はっきり言って安全な場所など無いに等しい。

 

 現に後方拠点である筈の蝶屋敷は先月に上弦の弐の襲撃を受けているのだから。

 

 

「それは・・・まあいい。鬼殺隊と関わると決めた以上、何時までも突っ込んでも仕方あるまい」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「ふんっ。・・・ところで、お前は何故鬼殺隊に戻ってきたんだ?」

 

 

「・・・どういう意味ですか?」

 

 

「お前は浅草で会った時こう言ったな。『大切な家族を人間に戻してやりたい』、と」

 

 

「ええ」

 

 

「その想いは紛れもなく本当だったんだろう。それは認める。だが、だからこそ分からん。何故、その家族が鬼殺隊によって殺されたのに戻ってきたんだ?」

 

 

「・・・」

 

 

 その言葉に炭治郎は沈黙する。

 

 そんな炭治郎を他所に、愈史郎は更に言葉を重ねた。

 

 

「まあ、お前の同期への入れ込みもあったんだろうな。お前はあの小娘に惚れていたようだし、禰豆子が居なくなった後ではそれに依存するのも仕方ないだろう。・・・しかし、鬼殺隊と関わりを絶ってそのまま小娘と共に暮らすという選択肢も有った筈だが?」

 

 

「それは・・・愈史郎さんが一番よく分かっているんじゃないですか?」

 

 

「ん?」

 

 

「仮に俺がそうするとしても、カナヲは鬼殺隊と関わりを絶つことを了承しないでしょう。なにしろ、彼女の姉が鬼殺隊に所属したままなんですから。そして、それによって関係が拗れてカナヲと離れ離れになるかもしれない。・・・それを考えたら、俺が鬼殺隊に戻るしか選択肢が無かったんですよ」

 

 

「・・・なるほどな」

 

 

 炭治郎の言葉に愈史郎は納得の表情を浮かべる。

 

 そもそもこの2人は現在、境遇が酷く似通っていた。

 

 彼らはそれぞれ愛している異性が居る上に、その愛した女性が鬼殺隊と関わりを絶つことを嫌がっているという点も、鬼殺隊を敵視しているという部分も全く同じだ。

 

 まあ、炭治郎の場合は妹を殺された憎悪から、愈史郎の場合は警戒心からと多少敵視する理由は違っていたが、それでも同志と言える程に心が似通っている事に変わりはない。

 

 

「まあ、我々は愛する人のために行くところまで行くしかないんです。例えそれが地獄であろうとね」

 

 

 炭治郎はそう言って露天風呂に浸かりながら、憂鬱げに夜空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 

 

 炭治郎が愈史郎と会話を交わしていた頃、女風呂の方では、花柱・栗花落カナヲと恋柱・甘露寺蜜璃が鉢合わせていた。

 

 

「うわぁ」

 

 

 甘露寺はカナヲの肌を見ながら頬を赤らめる。

 

 カナヲは元々の器量や肌の白さもあって、男女問わずにかなりの人気があり、その美しい肌を全面的に晒すこのような場では闇夜に輝く月と合わさり、女神のような神秘的な光景を晒しだしていた。

 

 しかし、甘露寺が注目していたのはそこではない。

 

 彼女が注目していたのは、カナヲの肌に存在する紅い幾つもの虫刺されのような痕だった。

 

 甘露寺は頭は少しばかり残念なところはあるが、それでも馬鹿という程ではない。

 

 恋柱と名付けられるだけあって、そういう面では確かな知識を持っており、カナヲの紅い痕の理由やそれを着けたであろう人間もだいたい頭の中で思い浮かんでいた。

 

 

「それ、もしかして炭治郎君の?」

 

 

「・・・はい」

 

 

 少しの沈黙の末、羞恥に顔を赤らめつつもカナヲは肯定の言葉を口にする。

 

 そして、彼女は思い出す。

 

 少し前に彼と恋仲になった頃の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数週間前

 

 

「カナヲ。すまなかった」

 

 

 日屋敷に荷物を移し終えた直後、炭治郎は突然カナヲに謝った。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 だが、対するカナヲはキョトンとした感じに首を傾げている。

 

 何故謝られたのか理由が分からなかったからだ。

 

 

「その・・・嫁入り前のカナヲを抱いてしまったことだよ。あれは半ば自棄になっていたとは言え、許されることじゃない」

 

 

 炭治郎は土下座しながらそう言う。

 

 妹や兄弟子を続けざまに失って自棄になっていたとは言え、恋仲でもないカナヲを抱いてしまった罪悪感はずっと炭治郎を蝕んでいた。

 

 そして、炭治郎はこの機会にカナヲとの関係を清算したいと考えており、このような行動を取っていたのだ。

 

 

「・・・別に良いよ」

 

 

「えっ?」

 

 

「私は炭治郎が好きだから。抱かれたことに後悔はないよ」

 

 

 意外にもあっさりとそう口にするカナヲ。

 

 おそらくその発言は紛れもない本心なのだろう。

 

 その証拠に頬をうっすらと赤らめており、視線は少しだけ反らされている。

 

 

(・・・違うだろう?カナヲ)

 

 

 だが、炭治郎はその言葉に対してどす黒い感情を抱く。

 

 確かに彼女の言葉に嘘がないという事は炭治郎にも分かる。

 

 だが、おそらく彼女は誰に抱かれても内心はどうあれ、抱いた相手を許したことだろう。

 

 何故なら、彼女は炭治郎よりもよっぽど強く優しいのだから。

 

 そんなことは彼女を抱いた炭治郎自身がよく実感している。

 

 しかし、彼女にとってはそうでも、炭治郎にとっては話は別だ。

 

 彼女が誰かの手によって抱かれることなど、炭治郎からしてみれば到底看過できないし、もしそんな相手が現れた場合、炭治郎は相手を斬り殺してしまう自信がある。

 

 

(それだけは嫌だ)

 

 

 炭治郎はそう思い、意を決して改めて告白することにした。

 

 

 

 

 

「──カナヲ。俺もお前が好きだ。結婚を前提に・・・いや、これはまだ早いか。だけど、絶対に君だけは幸せにして見せる。命に換えても。だから、君も少しだけでも良い。頼む!付き合ってくれ!!」

 

 

 

 

 

 炭治郎はその時、信じてもいない神に祈った。

 

 どうかカナヲと一時だけでも良いので結ばれますように、と。

 

 正直言って、この先鬼舞辻無惨を討伐するにしてもしないにしても、自分が生きているかどうかは分からない。

 

 だが、それでも炭治郎はカナヲに対して自分の想いを告白したのは、例えこの先死ぬとしても、それまではカナヲと結ばれていたいという思いもがあったからだ。

 

 ちなみに万が一死んだ場合も、それはそれで地獄からカナヲの幸せを願うつもりだった。

 

 しかし、どちらにしても炭治郎はカナヲを死なすつもりは一切ない。

 

 その為ならば自分の命は勿論、仲間の命を磨り潰す形になったとしても生かして幸せにするつもりだ。

 

 それが強制的に天国に送られてしまった家族への最後の贖罪だとも感じていたのだから。

 

 そして──

 

 

 

 

 

「うん、良いよ」

 

 

 

 

 

 

 ──そんな悲壮な決意を込めた炭治郎の告白に、カナヲは花が咲いたような笑顔を浮かべながらそう答えた。




炭治郎が入隊してからこの時点(西暦1915年11月)までの十二鬼月の討伐数

上弦2体

下弦6体

計8体

・内訳

竈門炭治郎(3体)→下弦の壱(厭夢)、上弦の肆(半天狗)、上弦の参(猗窩座)

栗花落カナヲ(2体)→下弦の伍(累)、下弦の陸

不死川実弥(2体)→新下弦の壱(轆轤)、新々下弦の壱(病葉)

我妻善逸→新々々下弦の壱(釜鵺)

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