竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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那田蜘蛛山 肆

西暦1915年(大正4年) 2月 那田蜘蛛山

 

 

 

月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

 

 

 

日の呼吸 壱ノ型・改 円舞一閃

 

 

 

 両者が放った第一撃は、奇しくもお互いの呼吸の壱ノ型(炭治郎の方はその改良だが)だった。

 

 そして、黒死牟が放った技は見た目は単純な横凪ぎの斬撃だが、原作では霞柱である時透無一郎の左手を斬り飛ばした技であり、その速さは異次元と評される程のものだ。

 

 対して、円舞一閃は鱗滝に見せた時のような全集中・一点を行って放った技ではないため、今回は“空”ではないがためにエフェクトこそあるものの、あの時のような威力も速さもない。

 

 しかし、それでもこの斬撃は下弦の鬼であれば反応すら出来ないし、上弦の鬼でも回避は困難な上に、もし斬撃を頸に受けたりすれば弐以下の鬼はあっという間に頸を切り落とされるという恐ろしい代物だ。

 

 だが、上弦の壱の前ではそれは些か力不足と言えた。

 

 故に──

 

 

「ぐっ!」

 

 

 横凪ぎの技と共にやって来る三日月の斬撃こそどうにか相殺したものの、炭治郎は単純な力で競り負けた結果、衝撃に耐えきれずに後方へと吹き飛ばされる。

 

 

 

月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

 

 

 

 そこへ黒死牟が更なる追撃を行い、3つの取り囲むような斬撃が炭治郎へ向かっていく。

 

 

 

日の呼吸 参ノ型 列日紅鏡

 

 

 

 しかし、炭治郎も伊達に透き通る世界を身に付けている訳ではなく、素早く体勢を立て直して迎撃を行う。

 

 そして、その2連撃の左右水平斬りにより、どうにかそれを相殺した。

 

 

(危ないな。これはある意味、2年前の無惨の時より面倒だぞ)

 

 

 炭治郎はそう思った。

 

 2年前のあの時は無惨に日の呼吸のトラウマを利用することによって、攻撃よりも回避に専念させることができ、戦闘中に家族を失うという重大な失態を犯しながらも、どうにか撃退できたのだが、この男は無惨とは違い、日の呼吸を憎んではいてもトラウマは無いので、それが通じない。

 

 しかも、透き通る世界を通しているのでこちらの攻撃も先読みされてしまう。

 

 原作の悲鳴嶼のように自身の血流を操作して欺くなどということが出来れば良いのだが、あれは初見殺しに近いし、そもそも炭治郎にはそんな事は出来ない。

 

 

(どうする?下手に攻撃も出来ないとなると、いよいよもって打つ手が無いぞ)

 

 

 炭治郎はそう思っていたが、実を言うとこの時、黒死牟も同じような事を思っていた。

 

 

(やはり・・・日の呼吸は厄介だ・・・他の呼吸ならば・・・無理をしてでも・・・仕留められているものを)

 

 

 黒死牟は歯噛みしながらそう思った。

 

 憎んでいる相手の呼吸だけあり、彼は日の呼吸の事をよく理解している。

 

 そして、彼が恐れているもの。

 

 それは日の呼吸特有の鬼の再生阻害効果だ。

 

 通常の呼吸ならば赫刀でも用意しないと鬼の再生の阻害は出来ないのだが、日の呼吸は赫刀抜きでも鬼の再生の阻害が可能だった。

 

 それは鬼の肉体再生というアドバンテージを大きく崩す要素であり、もしこのまま腕が切り落とされたりした場合、黒死牟のような上弦の鬼でも回復までにはどれ程急いでも1分は掛かってしまうのだ。

 

 

(ここには・・・鬼殺隊士が・・・多く居る・・・奴等に介入されると・・・面倒だ)

 

 

 更に不味いのが、この那田蜘蛛山という山が鬼殺隊によって制圧されつつある状況だ。

 

 何時もなら問題はない。

 

 仮にこの山に居る炭治郎以外の柱2人を含めた鬼殺隊士を殺せと言われれば、問題なく実行できる自信がある。

 

 しかし、ここで炭治郎に日の呼吸による手傷を負わされてしまうと、万が一という事も有り得てしまうのだ。

 

 

(そうなると・・・一旦・・・距離を取って・・・戦ってみるか)

 

 

 黒死牟はそう考える。

 

 しかし、またもや奇しくも、炭治郎は彼と同じような事を考えていた。

 

 

(このまま下手に接近戦をすると不利だ。となると、少し距離を取った攻撃をしてみるか)

 

 

 僅かな時間の間に、全く同じような事を考えた両者。

 

 そして、2人はこれまた全く同じタイミングで技を放つ。

 

 

 

月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍

 

 

 

日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

 

 

 

 そして、月の無数の斬撃と日の熱風が衝突した時、凄まじい爆風と轟音が周囲に巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの爆風が巻き起こった後、当然のことながら2人の柱はその上弦の壱が居るという現場に向かう。

 

 ちなみにカナヲは置いてきた。

 

 先程、下弦の伍を倒したとはいえ、流石に上弦レベルの相手は不可能だと判断されたし、巻き込まれないように撤退する隠の部隊の護衛も必要だったからだ。

 

 

(上弦の壱、か。癸の隊士が交戦中との事だが、流石にその位の強さとなると癸の隊士では生き残れまい)

 

 

 上弦の壱が居るという位置に移動しながら、義勇はそのような事を考えていた。

 

 実際、癸の階級で下弦の鬼を倒したというのは前例があるのだが、上弦の鬼に遭遇して生き残った癸の隊士というのは前例がない。

 

 何故なら、上弦は才能でどうこうできるレベルの強さではなく、経験不足な癸の隊士ではまず生き残れないからだ。

 

 ましてや、その上弦のトップとなると、尚更生きている可能性は低い。

 

 

(だが、もし生きているようならば・・・)

 

 

 どういう経緯で生き残ったにせよ、間違いなく柱になれる。

 

 冨岡にはそのような確信があった。

 

 まあ、そもそも上弦と戦って生き残るなど、柱ですらほぼ無理だったので、冨岡がそう思うのも別段不自然な話でもないのだが。

 

 そして、2人は炭治郎と上弦の壱が居る場所までやって来た。

 

 しかし、そこには──

 

 

 

 

 

 

「なんですか、これ?」

 

 

 

 

 

 

 ──柱ですらほとんど(・・・・・・・・)目で捉えることが(・・・・・・・・)出来ない(・・・・)戦闘を繰り広げる上弦の壱と炭治郎の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ 

 

 爆風によって、文字通り煙に巻かれた2人。

 

 だが、両者とも透き通る世界によって相手の位置は既に捉えていた。

 

 

「今の・・・うちだ」

 

 

 黒死牟はそう言いながら、炭治郎との距離を一気に詰める。

 

 この爆風で視界が悪いうちに炭治郎を斬ってしまおうと考えたのだ。

 

 ・・・しかし、ここで黒死牟にとって誤算だったのが、炭治郎が透き通る世界を会得していたことだった。

 

 というのも、先程の攻防ではお互いに型こそ繰り出したものの、ろくな斬り合いをしていなかったので、戦闘情報が少なすぎてそれが分からなかったのだ。

 

 加えて、ここ数百年の間に透き通る世界に入った者は久しく見なかった上に、相手に痣が無いこともあって、“こいつも透き通る世界に入っている覚醒者ではない”と勝手に錯覚してしまっていた。

 

 そして、そのまま不用意に近づいてしまった結果、炭治郎の攻撃を受けることとなる。

 

 

 

日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞

 

 

 

 炎舞。

 

 それは壱ノ型の円舞と読み方こそ同じだが、技の内容は全く違い、こちらは上下の高速2連撃の技だ。

 

 横凪ぎの技ではないので、相手が横の姿勢で無い限り、鬼の頸は取れない技なのだが、相手の手足を切り落とすには十分な技だった。

 

 そして、最初の降り下ろす斬撃はどうにか反応した黒死牟によってかわされたものの、続く振り上げる攻撃は炭治郎が距離を詰めてから放ったお蔭もあって黒死牟の胸元に傷を付ける。

 

 だが、そこで炭治郎は追撃を仕掛けた。

 

 

 

日の呼吸 拾ノ型 火車

 

 

 

 両手で陽炎を纏った刀を持ちながら前方に宙返りする一撃。

 

 これによって、黒死牟は肩口を切り裂かれ、ダメージを負う。

 

 が──

 

 

「ふんっ!」

 

 

 型では埒が明かないと見たのか、黒死牟は反撃として通常の斬撃を行ってくる。

 

 炭治郎はそれをどうにか受け止めるが、力の差もあって後方に仰け反る。

 

 

(不味い!?)

 

 

 体勢を崩されたことに焦りの色を浮かべる炭治郎。

 

 しかし、そこに無慈悲にも黒死牟は止めを刺すためなのか、月の呼吸の技を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面

 

 

 

 

 

 

 

 ──月の無数の斬撃が炭治郎に向かって降り注ごうとしていた。


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