緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第9話 グラントリノ

 

 雄英体育祭が終わり、職場体験へ移る。

 出久は原作とは違って異常性が目立つことはなかったため、指名は多い。

 だが、彼の光の性質は見る者の目を焼く。役不足の舞台では行きつかずとも、兆候はこの数がすでに示している。

 胎動は始まったばかりだ、今は……まだ。

 

 一方で飯田は原作とは異なる思惑で、そして同じ行動を歩んでいる。

 決定的なシーンはすぐそこだ。光の亡者が群れをなす。そこに至るまでに、彼は防ぐ機会があったが未来を見通せる目を持たない老人(グラントリノ)は止められない。

 

 幾多の指名があろうが、師の勧めを無視する出久ではなく、グラントリノの元へ行く。

 ――これはヒーロー殺しとの決戦前の前哨戦。

 

「雄英高校から来た緑谷です。今日はよろしくお願いします」

 

 扉を開けた先には血まみれの老人が倒れていた。

 まったく気圧されることもなく。

 

「それ、コスチュームでしょう。汚れるのはよくないと思いますが」

 

 一応彼も敬語は使えるのだ。

 そして、床に広がる血がケチャップであることなど扉を開ける前から気付いている。血臭なら、ドアくらいでは遮断できない。

 

「いやあ、切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケた~、と言おうと思ったんじゃが。まじで全っ然、焦らんのな」

 

 やれやれと起き上がる。

 死んだふりは堂に入ったものだったが、しかし本気で騙そうとするならせめてきっちりと道具くらいは用意しなければ話にならない。

 

「騙そうとするなら血のりくらい用意すればいいじゃねえのか?」

 

 呆れた声で呟いた。

 

「……誰だ君は!?」

「雄英から来た緑谷出久です」

 

「誰だ君は?」

「いや、俺は緑谷。……いや、違うか。俺は『限界突破(オーバードライブ)』。オーバードライブの緑谷出久だ」

 

「――分かってんじゃねえか。そういうとこ、俊典じゃ教えられんはずだけどな。なるほど、とんでもねえ奴を弟子にしたもんだ。あいつ」

「ああ。オールマイトの弟子として、恥ずかしい真似はできねえ」

 

「よし。ならば、コスチューム着てみなさいよ。うん、良いコスチュームじゃないの」

 

 グラントリノの手にはスーツケース、一瞬の間に奪われた。殺気がなかったとはいえ動きのキレが凄まじい。

 単なる速さでは今の出久を出し抜くことはできはしない。

 

(いつの間に。すさまじい速さ、それだけじゃねえ。速いだけなら気付ける……この爺さん、強い)

 

「んで、撃ってきなさいワンフォーオール。お前がどこまで扱えるのか、見てみたい」

「遠慮はしねえぜ、爺さん」

 

 出久は拳を握り締める。相手が年寄りだろうが関係ない。それ以前に凄まじい実力を持つ男と理解した。

 ――ここにいるのはオールマイトの師匠だ。

 手加減など、侮辱にしかならない。

 

「受精卵小僧の拳など当たらんよ」

「……っせい!」

 

 そして、言葉通りに遠慮はない。

 速いと理解しているからこそ狙いは腹。とにかく、”当てる”。100%のワンフォーオールは当てるだけで意識を刈り取る強力な一撃だからそれで充分。

 まあ強いからこそ当たりどころが悪いと死ぬのだが、この実力者がまさか回避をミスるなど思わない。

 

「さすがに当たれんな、コレ」

 

 消える。

 

「……どこだ!?」

 

 WAM、という特徴的な移動音は聞こえていた。

 捉えようと神経を研ぎ澄ませて。

 

「ほれ」

 

 腰に衝撃が走る。

 あの時のヴィランとは違う、脳無は強力なステータスだよりの改人だった。実際、速度という意味では爆破による加速の半分以下。力に至っては下過ぎて10分の1より低いということしか分からない。

 だが事実、アレより手ごわい。

 

「――ならば!」

 

 戦闘法を一瞬で切り替える。

 集中しても捉えられないなら、肉を切らせて骨を断つ。ふんばって攻撃を受け止め、動きが止まったところに100%をカスらせでもできれば。

 

「まだまだ甘いな、やはり俊典は教育に関しちゃ素人以下だな」

「ま、そうだろうな」

 

 だが、捉えられない。

 壁になって、一瞬でも動きが止まればと考えたが止まらない。

 攻撃が来た直後にはグラントリノはそこにはいない。攻撃直後の隙がない。

 

「おお? 反論が来るかと思ったが」

「授業中もカンペ頼みだからな。客観的な事実だろ」

 

「あいつ、一回締めといた方がいいか……?」

「そういえば、知っているか? 大師匠。オールマイト、実は今マッサージ椅子にハマってるようで」

 

「ジジくせえな。……っと。甘い」

 

 会話で意識を逸らした隙に一発入れようとしてかわされた。

 スライディングはむなしく宙をかく。

 

「これも効かねえか」

「お前さん、案外こすいな。俊典のやり方じゃねえから、オリジナルか?」

 

「まさか、爆笑トークを参考にさせていただきましたよ」

「はっはっは。お前さんも俊典と同じく笑いの才能はねえやな。ある意味お似合いか? で、諦めちまったかい?」

 

「まあな、小手先は諦める」

 

 パンと手を合わせる。出久はニヤリと笑う。打たれる覚悟を決めたのだ。

 

「こっからは、ごり押しで行くぜ」

「……顔つきが変わったな。いいぜ、来いよ。指導つけてやる」

 

「よろしくお願いします、大師匠」

 

 一つ、頭を下げて。

 

「おおおおおお!」

 

 拳をふるう。回避された。だが、もう様子見はやめたのだ。さらにさらにと、反撃されても構わずに猪のように突っ込み続ける。

 

「おお!」

 

 床を、壁を跳ねて縦横無尽に。グラントリノは一度目を離すと居場所すらわからなくなる。だが、立ち止まっては翻弄されるだけだと一瞬前に居た場所へ拳を振るう。

 

「ヤケッパチか!」

 

 だが殴る感触はなく、しかし腹に、腕に、足に衝撃が来る。

 やはり巧すぎる。視線誘導に、身体の身のこなし。高次元の武術が影を見ることすら許さない。

 

「道は切り開くものだ! そしてあんたの攻撃は軽い! チャンスを待つだけだ!」

 

 そう、一撃で意識を刈り取るような攻撃ではない。

 急所はきっちり防御している。ワンフォーオールのパワーならば袖をつかめば終わる。

 ならば、後は根性で耐えて機会を待つだけだ。

 

「そういうところはアイツの弟子だな。考えがそっくりだ、だが俊典はへばるまで俺を捕まえられんかったぞ!」

「ならば、師を超えるだけだ!」

 

 パンチ。回避、殴られる。パンチ。回避、殴られる。パンチ。回避、殴られる。殴られる。パンチ。回避、殴られる。殴られる。殴られる。パンチ。回避、殴られる。パンチ。回避、殴られる。殴られる。殴られる。パンチ。回避、殴られる。殴られる。殴られる。殴られる。殴られる。殴られる。殴られる……

 

「っへ。捕まえたぜ」

「た、タンマ。もういい、お前の勝ちだ」

 

 グラントリノが殴られる前にぐしゃりと潰れた。

 

「……飯。風呂、寝たい」

 

 散々殴られた出久より、グラントリノの方がグロッキーになってしまった。

 年寄どうのでなく、出久の体力が化け物過ぎた。10か月分のトレーニングを2週間で、しかも寝る間を削ってやっていた彼だ。

 

「なにか買ってきます。とはいえ、これではオールマイトに勝ったとは言えねえなコリャ」

「くっそ。俺も歳食った。俊典とやったときなら倍はイケた」

 

「俺は3倍はイケました」

「張り合うな、ガキ。さっさと飯買ってこい、たい焼きな」

 

「了解」

 

 そして、朝食――のはずのそれを昼食代わりに。

 

「ほれ、お前も食え」

「では、ありがたく」

 

 もそもそとたい焼きを食べる二人は、オールマイトの話で盛り上がった。

 

 





 出久はグラントリノとは普通に仲良くなります。気楽に電話する仲になりました。
 出久君、このメンタリティだと逆に同年代より大人世代の方が付き合いやすそう気がします。スポットライトが当たっているキャラは個性が強烈だから問題なさそうですが……佐藤とか瀬呂あたりだと会話に困りそう。


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