緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第10話 ヒーロー殺し

 

 

 今の出久が積むべきは実戦経験。

 グラントリノは教えは基本的に戦闘能力のみに関する。よって、昼は実戦形式。夜は本番の都市部でのヒーロー活動だ。

 ……その初日。

 

 新幹線の時間を二人は睡眠に当てていた。

 ヒーローでもそういう休息方法に慣れていない者がいるが、この二人は軍人バリに休めるときに休むことを実践していた。

 だが、ヒーローというのは寝ているときにも悲鳴が聞こえれば目を覚ますものだ。

 新幹線の壁をぶち破って脳無が来た。

 

「小僧、座ってろ!」

 

 グラントリノが押し出したから乗客には被害がない。インターン生としては乗客の保護に力を貸すべきだろうが。

 破られた壁から外に出て、眼下に広がる街を見る。

 

「……同時襲撃か」

 

 至る所から火の手が上がっている。

 場所から見て何かしらの目的があるわけではない。ただ騒ぎを起こしたいだけだ。これなら、新幹線を守る意義はない。

 

「天哉」

 

 苦い顔で思い出す。彼は思いつめた顔をしていた。そして『子供大人』の死柄木なら、対抗意識を燃やしてこうすることもあるだろうと予測する。

 改人が量産されている可能性はオールマイトと話していた。悪い予想が現実になったくらいで慌てやしない。

 そして、個人的に最悪なのはこの騒ぎの中、天哉がヒーロー殺しに殺されることだ。彼は自分から突っかかって行きかねない。

 ヒーローとしては特定の誰かを、顔も知らない誰かの上に置くのはよくないことだろうが。とはいえ、他のヒーローは来ているから顔も知らない誰かは彼らに任せればいい、グラントリノだっている。

 

「……行くか」

 

 ゆえに悩まず飛び出した。

 場所は分からないが、暗い路地裏だ。それがヒーロー殺しのやり方であれば、虱潰しに探せばいい。

 そして、その頃ヒーロー殺しは。

 

 

「俺が為すべきことを為す」

 

 一人のヒーローを殺そうとしていた。

 すでに個性によって動きを止め、一対一ではもはや勝負は決まった。

 

「死ね、くそ野郎」

 

 だから、ヒーローは恨み言を言うくらいしかできないのだ。

 

「ヒーローなら、死に際の言葉は選べ」

 

 凶刃が閃き一人の命が失われる、その瞬間。

 

「――」

 

 神速の蹴りが放たれる。敵が死んでもかまわないという強烈な蹴り。当たれば骨すら砕く一撃が、頭めがけてくたばれと叫んだ。

 

「スーツを着た子供。消えろ、子供の入っていい領域じゃない」

 

 だが、ヒーロー殺しは殺せない。

 絶妙な身体操作でダメージを無効化した。それは前世紀でいう武術と呼ばれる技術だ。

 

「インゲニウム、この名に聞き覚えは?」

「その目、仇討ちか?」

 

「知らぬなら、語る言葉はない。ただ、消え失せるがいい……悪め」

 

 これこそが轢殺の光の意思。

 オーバードライブから光の宿痾が感染する。そして、最も度合いが深いのが彼だ。

 

「そうか。死ね」

 

 とはいえ、個人の欲求に従った私刑なのは依然変わらず。ヒーロー殺しの標的から逃れるはずもない。

 

「……勝つのは僕だ」

 

 だからこそ、飯田はそれを口にする。

 出久が何度も口にしていた言葉。最後には必ず勝つという意思の力。縋るようにつぶやくその言葉は、しかし飯田に力を与えることはない。

 

「インゲニウム……ハァ。兄弟か……ハァ。奴は伝聞のために残した」

 

 ヒーロー殺しが飯田の後ろに回る。飯田はそれについていくことなどできはしない。ただ木偶のようにその刃を受けるのみ。

 

「どこに消えた!?」

 

 そう、光の宿痾が伝染しようともそれだけで強くなれるなら苦労はない。

 どこまでも努力してしまうからこそ、どこまでも強くなる。であれば、今の飯田はまだ努力していない。狂気に身を任せていない。

 

「――弱いな」

 

 ざっくりと、靴に仕込んだ刃がそのまま飯田の腕を抉った。

 一朝一夕で強くなれはしない。心の改革は一瞬でも、肉体は血肉でできている。そうである以上、対抗する術はない。

 

「お前も、お前の兄も弱い。偽物だからだ」

 

 血をべろりと舐め上げた。

 それだけで飯田の動きが止まる。動かない体は前のめりに倒れてしまう。

 

「黙れ悪党! 兄さんは多くの人を助け導いていた‼ 立派なヒーローなんだ!」

 

「お前が潰していい理由なんかない……‼ 俺に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!」

 

「――お前を倒す!」

 

 たとえ、殺しても。そう、決めたのだが……現実は非情だ。動かない身体では、こうして恨み言を叫ぶくらいしかできない。

 先にやられた彼のように。

 

「あいつをまず救けろよ」

 

 それがヒーロー殺しの信じるヒーローの姿だった。人を助ける、だから悪を目の前にしても誰かを見捨てていい道理はない。

 テロリストの要求は飲まないなんて国際常識は、今の個性社会には通用しない。

 

「オールマイトはそうだったぞ。アレを救い出した上で俺を倒していたはずだ。……ハァ。オールマイトなら出来たぞ? オールマイトなら出来たぞ? ……オールマイトなら出来たぞ?」

 

 だが、ステインの奉じる理想は”オールマイト”。彼から外れるものは全て”偽物”。倒すべき害悪に他ならない。

 

「自らを顧みず他を救い出せ、己の為に力を振るうな。目先の憎しみにとらわれ私欲を満たそうなど……ヒーロー(オールマイト)から最も遠い行いだ」

 

 それが正しい社会と信じている。正しいヒーローと信じている。

 

「だから死ぬんだ」

 

 飯田の人生はここで終わる。心臓を刃で絶たれる。

 逆転の可能性など、動かない身体には残っていない。

 

「じゃあな、正しい世界への供物」

 

 振り下ろされる。

 

「待てよ」

 

 何かが飛んできて、刃を折った。

 黒いコートの裾をたなびかせ、現れた彼は。

 

「聞かせてもらった。お前はよくやったよ、天哉」

 

 ヒーロー殺しが気付いた瞬間には、飯田も、先にやられていた彼も後方に下げられていた。

 グラントリノ譲りの歩法はしっかりと根付いている。

 

「……先に助けたか。見どころがある。……ハァ」

「ねえよ。俺は飯田をこんなにしたお前をぶっ飛ばす」

 

「私欲。……ヒーロー失格。……ハァ」

「それと、黙って聞かせてもらったが一つ言いたいことがある。お前、それはさすがに情けなくねえか?」

 

「……聞こう」

 

 傾聴の姿勢を見せた。

 

「言わせてもらうぜ。まあ、お前の言い分も間違っちゃあいねえ。自分のためじゃなく、誰かのために人を助けるヒーロー。すげえかっこいいし、それを実践してる奴はそれは凄い奴だよ。……オールマイトのように」

「そう、オールマイトこそ真のヒーロー。世の中には偽物があふれている、ゆえに誰かが警鐘を慣らさねばならないのだ。この社会は間違っていると」

 

「それが違うって言ってるんだよ。それはテメエの信念の話だ。……他人に押し付けるんじゃねえよ。情けねえんだよ、テメエでやろうともしない信念に何の意味がある?」

 

 続ける。

 

「――俺が思ってるのと違うから、お前は偽物だってか!? 違うだろうが! 偽物も、本物も! 誰かのために拳を握れりゃ十分だ! 富? 名声? 求めたっていいだろうが! ……誰かのために戦っているのは、嘘じゃないんだから」

 

 激情とともに、そう叫んだ。

 

「……」

 

 ヒーロー殺しは静かに拝聴する。

 間違っている、その自覚はある。自分はヒーローでは”ない”。

 

「だがな、テメエはなんだ? 好き勝手なことを言って、誰かを傷つけている! その信念が本物なら! まず己が実践して見せろ! 誰かにやらせてんじゃねえよ、お前の信念だろうが!」

「――それが、できれば……!」

 

 それは確かにやろうとしていた。

 だけど、どんなに努力しても、どれほどあがいても自分の個性では社会はヒーロー免許をくれなかった。

 だからこそ、今こんなことをしているのに。知ったように口を利いてくれると……顔を歪めた。

 

「男なら、背中で語れ。別に口でもいいさ。だが、誰かに迷惑をかけてんじゃねえよ。それで築かれるのは……誰かが誰かの一挙一動を監視しあう楽園しか残らねえだろうが」

「お前の言うことは……ハァ。正しい。確かに人殺しで正した世界はそれこそ誰もいない極楽浄土(エリュシオン)だろう。俺が理想に燃える改革者などでなく、薄汚い犯罪者であること……認めよう。ハァ」

 

 一瞬、目を伏せる。

 

「だが、誰かがこの間違った社会に警鐘を鳴らさねばならない。その為に礎として、世を正した後……俺は自らの命をこの手で絶とう」

 

 静かな目にゆらりと燃える熱。

 それはヒーローであろうとも圧倒する意思だった。それこそが彼の強さ、ヒーローになれないほど弱かった彼をヒーロー殺しの強者へと変えた禁断のリンゴ。

 個性? 生まれ? 金にあかせたサポートアイテム? 違うだろう。人を強くするのはそんなものではない。

 ――不断の努力、それだけだ。

 

「させねえよ。誰かの命も、天哉の命も俺が守る」

 

 だが、意思という点なら出久も負けない。

 個性を進化すらさせる強靭な意思。ヒーロー殺しを黒い太陽とするなら、オーバードライブは直視すれば心を焼く真なる太陽だ。

 

「貴様は殺す。ヒーロー社会を正すため、越えねばならない壁と理解した」

「……いいや。勝つのは俺だ」

 

 回る回る回る。

 凶刃と拳が交錯する。

 その一撃一撃が必殺だ。ヒーロー殺しの吸血は、1対1であれば僅かな傷が決着となる強力な個性。

 だが、出久とて一撃で終わらせることのできる強大なパワーを持つワンフォーオールだ。一撃一撃の全てが100%、腕だろうが足だろうが粉砕して粉々にすれば立てる道理などない。当たったのが刃だとして、その衝撃は腕に伝播して骨を砕く。

 

「おおおおお!」

「……ハァ。……ハァッ!」

 

 だからこそ、この二人の戦いは決定的に噛み合わない。

 一撃が勝負を決めるからこそ、まったくもって当たらないのだ。全てを回避して、拳と刃は衝突することすらない。

 

 続く続く続く。

 

 5分? 10分? いつまで経っても必殺の輪舞を舞い続ける。

 一撃必殺をぶつけ合う短期決戦は、今や持久戦の様相を呈してきた。

 

「……!?」

 

 息を呑んだのは出久のほうだった。

 軌道が捻じ曲がる。ここにきて、ヒーロー殺しがわずかに上回る。

 その要因は「努力」。飽き果てるほどの努力努力努力努力努力努力努力が開花する。いかに出久が努力しようとも土台が違う。積み重ねてきた年月の重みが違う。

 ――ついに。

 

「っく!」

 

 傷つけられた。一撃必殺の勝負はヒーロー殺しが勝った。

 

「だが……まだだ!」

 

 舐められるまでは終わりではないと、腹に一撃をお見舞いする。

 吹き飛んだ。

 

「いいや……もう終わった」

 

 瓦礫の中からヒーロー殺しがゆらりと立ち上がる。拳を振り切る前に停止させられた。そのせいで威力が拳に乗りきらず、再起を許した。

 

「やらせねえよ」

 

 だが、唐突に現れた氷壁が出久たちを守るように立ちふさがる。援軍だ。

 

「緑谷、こういうのはもっと詳しく書け。……んで、数分もすりゃプロが現着する。こいつらはやらせねえぞ、ヒーロー殺し」

 

 轟焦凍……彼もまた光の宿痾に呑まれつつあるものの一人。

 

「左……使わないのか?」

「俺は右だけでやると決めた」

 

「我執に目を曇らせる。……お前もヒーロー失格だ。……ハァ」

 

 原作とは同じように進みつつも各人の心の持ちようが異なる。ゆえに、原作では合格した出久と轟は、ここでは不合格を下された。

 ヒーロー殺しは満身創痍、さらに援軍まで来た最悪の状況でも誇りは揺らがない。ただ刃を交わすのみ。

 





 たぶん、オールマイトなら出来たぞ? のセリフは皆予想していたかと思います。まったくキャラ崩壊せずにこれ言えるとは、ヒーロー殺しも凄いですね。
 実はこの時点で原作の逮捕時よりも酷い怪我を負っていたり……

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