緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
「……お前も駄目だ。……ハァ」
ヒーロー殺しが動く。
氷壁など砕けばいいだけ。実力者の前では氷壁は足止めにもなりはしない。
「今、俺を嗤ったか? お前か?」
一瞬で懐に飛び込んだ。
「……ぐっ! 見誤った、か……!」
すでに肋骨がまとめて折れていた。ワンフォーオールのパワーは途中まで炸裂していたのだから。
気絶しなかったのは、彼の意志力の賜物だ。
だが、肉体は鋼でできていない。見誤ったのは向こうの実力、このようなコンディションで相手にできるような子供ではなかった。
「どうせ俺なんか、ヒーローの器ではないと思っているんだろう? お前も」
轟がケガ人に強烈な蹴りを叩き込んだ。
さらに氷結が敵を閉じ込める。……氷壁では威力不足、格上に対しては視界をふさぐ程度の役にしか立たないと体育祭の出久戦で思い知らされたこその新技。
氷結の力を込めた蹴りを当て、吹き飛んだ敵を凍らせる。ため込んで、一気に爆発させる分威力が収束している。
「と……轟君、どうした? なにか、すごく……やさぐれてないか?」
そのあまりの変容ぶりに飯田さえ状況を忘れてうろたえる。
「体育祭、俺は完膚なきまでに敗北した。初めて他人からどう見られているのかが気になってネットを見てみた」
「いや……そこでネットを見るのはダメだろ」
出久が突っ込んだ。
「そこでは散々に書かれていた。身体どころか個性まで半端な半分野郎だとか、親の七光りだけの調子こいたガキだとか。余りにも酷いと思ったもんで……反論してみた」
「いやいや、そこでなんで反論するんだ、轟君。そういうのは無視が一番だと……」
「完膚なきまでに言い負かされたよ」
人の話など聞いちゃいない。
「そう。俺は地獄を見た。だから、後は這い上がるだけだ。なあ、ヒーロー殺しだったか……まだ、死んじゃいねえだろう?」
カツカツと音を響かせて、倒れ伏したヒーロー殺しへ迫る。
本気で止めを刺そうとしているようにしか見えない。
「……なるほど。ネットね、俺も覚えがある。青い過去だな。だが、引くわけにはいかん。……俺には、貴様を殺す義務がある」
立ち上がった。
肋骨は全損、口からは血があふれ、肺が破れた特徴的なゴロゴロという泡立つような音が呼吸に混ざる。
一刻も早く救急車に乗せるべき重症なのに。
「貴様らは間違っている。俺を殺せるのはオールマイトだけだ。……真のヒーロー以外に負けるわけにはいかんのだ!」
気力、根性……そんな精神論が現実を打ち壊す。
体に付いた霜を振り落とし、冷気によって紫色になった唇がだんだん戻っていく。強靭な肉体が身体の内部にまで染み込んだ冷気を溶かす。
「――確かに、自分のためにヒーローをするのは違う。そういうことなら、俺も間違っているんだろうな」
出久が言葉を紡ぐ。
「だが、貴様の方法も間違っている。間違っているのは互いに同じ。……なればこそ、負けられん」
動く。
個性『吸血』で縛られた身体が、絶対の軛を意志力のみで強引に突破する。
「……馬鹿な! タイムリミットはまだ過ぎていない!」
「血を舐めることで相手を止める個性。すさまじい個性だが、無茶を通さねば勝てないなら通すまで」
「緑谷君……! 君がそうするのなら、俺だって……! ぬおおおおお!」
飯田も叫ぶ。けれど、個性に縛られた身体はピクリとも動かない。
まだ叫ぶ。動かない。
横で見ていたプロヒーローは動揺を隠せない。普通、諦めるだろう? というか、気合で個性を打ち破るなんてどういうことだと。
「やるぞ、焦凍」
「……はー」
二人、歩き出した。
轟はポケットに手を突っ込んで悪ぶって。出久はまるで散歩のように。
相手の個性を封殺できる遠距離戦など、ハナから頭にない。そんな大雑把では勝てないのは分かっている。
「真なるヒーロー社会のために」
ヒーロー殺しがクラウチングスタートの態勢をとる。
こちらも、小手調べなど考えもしない。全力で、一直線に命を絶つ。
「おおおお!」
機先を制したのはヒーロー殺し。
一直線に飛び込んで、ナイフで心臓を狙う。
「っふ!」
だが、出久が即座に反応する。
振り下ろした拳が、腕ごと砕いた。
「お前はいいよなあ……ちゃんと信念があってさあ!」
氷結を込めた蹴りが頭を撃ち抜く。相手が死ぬかもなどと一切考えていない攻撃だ。
「っぐ! だが、貴様はまだ素人だ!」
ヒーロー殺しは体をねじり、強引に回避した。
その回避行動で折れた骨が自身の肉を突き破る。だが、そんなことは関係ない。気合と根性でねじ伏せ進むのみ。
「貴様から殺す!」
残った無事な腕で、轟の脳天にナイフを突き立てる。
つまりは特攻、上等な策を考えるだけの頭がないから。肉を切らせて骨を断つのを狙った。
残っているもう一人は……気合と根性で倒せばいい。まずは一人、それからだ。
「……残念。注意が逸れたのはそちらもだ」
神速の二連撃。
出久は初めからそれを考えていた。腕を潰したくらいでは止まらないと信じたからこそ、脳天に拳をぶち込んでようやく止まった。
「し、死んだのか?」
おそるおそる飯田が聞いた。
「まさか、生きてるよ。縛っておこう」
「そうだな、縛るもん探してくる」
テキパキと行動が早い。
「そ、そういえば二人はどこの事務所に行っていたんだ? それに、なぜここに」
「俺はグラントリノ事務所だ。新幹線に乗っている途中で脳無に襲われた」
「こっちはミルコのところでパトロールをしていた。緑谷からのメールが来たからこっちに来た」
「……ラビットヒーローの? 轟君とは何も関係がないと思ったのだが。エンデヴァーからオファーは?」
「クソ親父のところになんて行くか。……それと、選んだ理由は指名があった中では順位が一番高かったからだ」
「かっちゃんの奴も同じ理由で事務所選んでそうだな。俺はというと、グラントリノへの紹介があったからだが」
「紹介? 指名ではなく?」
「指名と、紹介かな。オールマイトからな」
「なるほど。……しかし、なんだな」
飯田が天を仰ぐ。
「こうなってしまうと、全てが終わった感がある」
「そうだな、脳無も殆ど片付いた……ッ!?」
出し抜けに飛行型の脳無の突撃が来た。他から逃げてきた脳無だ。原作よりも数が多い。
まんまと出久が攫われる。
「そっちから近づいてくれんなら、好都合……ッ!?」
まったく慌てず、むしろ掴まれた指を掴み返し、逃がさないように。
そこから必殺の一撃を叩き込もうとして。
「――てめえも今街で暴れてる奴だな? 蹴っ飛ばす」
助けに来たその人が、脳無の頭蓋を一撃で砕いた。
そればかりか、出久を抱きしめて地上へ着地する。
「ラビットヒーロー『ミルコ』、見参ってね! 轟、アンタいきなり飛び出すから探したじゃないのさ」
「……すみません、ご迷惑かけました。確証もないし、俺なんかの言うことは信用ならないかと」
「なんでこんな卑屈な性格になっちゃったかねえ、アンタ。ま、いいさ。いずれその根性は叩き直す! で、そっちはヒーロー殺しか」
くしゃりと順番に頭を撫でる。
それは叩くに近い上、踏ん張ってないと地面と衝突しかねかったが、確かに暖かかった。飯田は耐えきれずに地面とキスした。
「なんで席に座ってねえんだ」
そして出久はグラントリノに蹴っ飛ばされた。
ヒーローたちも集まってきた。
これでヴィランの護送もできる。心配することなど何もない、と皆の気が緩んだ。飯田ともう一人の金縛りもとっくに解けている。
――ゆえに、そこを突くのは常套手段だろう?
自爆型脳無、発動すれば半径数千mは吹き飛ぶ”それ”が投入される。
それは一瞬。まばたきをする間にそれは広がり、根を伸ばし炸裂する。腹黒い犯罪者は絶好の一瞬を狙って起爆する。
黒き脈動が明滅し、全てを破壊するのだ。
「偽物がはこびるこの社会も、徒に力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ」
だが、ヒーロー殺しの漆黒の意思はまだ灯っている。
裂けば噴き出る樹液のような黒い液体も血液。動きを止めた。
「全ては、正しき社会のために」
その心臓に刃を突き立てた。
ヒーロー殺し。完全に命を絶つまではくじけないのだ。そして、周りの市民、果てはヒーローの命まで救って見せた。
そこに、エンデヴァーまでが到着する。
彼こそが最もヒーローから遠い偽物。そう信じるからこそ、ヒーロー殺しの眼光はなお鋭く。
「誰かが血に染まらねば……!
そう、動く。
絶対に動いてはならない重症。触れただけで死因になる、それだけの傷を負っていると言うのにその目に死の影はない。
「来い」
ゆえに、戦うのだ。
赤子にすら勝てないような体で前へ進む。光の宿痾――出久と同質のそれが現代医学を凌駕する。
「来てみろ偽物ども」
眼光を前に全員が動きを止める。
「俺を殺していいのはオールマイトだけだ」
一歩、進んだ。
ヒーロー殺し終了。色々ぶち込んだ割には原作と同じ結果に落ち着きました。
エンデヴァーを出さないのは決めていたことでした。轟君は原作からして炎と氷の併用ばかりですが、やりたいなら氷だけでやってもいいと思います。
そもそも扱いづらい力を使うくらいなら封印した方が良いこともあります。シルヴァリオシリーズのデッドエンドさんも人型兵器のくせに異能を封印して人間の戦い方をしたほうが強いという有様です。
ちなみに代役としてミルコを出したのは出したかったからです。これで雄英に関わらせる布石ができました。