緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第12話 神話の始まり

 

 ヒーロー殺しは気絶した。

 そこで死亡でないのが、また医学的に頭を抱える事態だが……しかしそれはそれとして別の話だ。

 

 そして、子供たちは病室へ入れられた。

 飯田以外の傷は舐めれば治る程度の軽傷だった。だが、彼だけは後遺症が残ってしまった。

 そして罪状は手柄と一緒に白紙へ。その辺りは原作と一緒である。

 

 そして、ここからが原作との乖離。

 ”出久の外傷の度合いが低い”。面倒な言い方をしたのは、腕をボキボキぶち折っていく原作と比べても、中身に蓄積したダメージという点では、むしろこちらの出久のほうが深刻だからだ。

 更に後の話。個性を進化させた結果、たった一回使っただけで大きなダメージを受けた死柄木。彼はトラウマを乗り越えることで街すら消す力を得た。

 そして、オーバードライブはいつもそれ(進化)で窮地を乗り切ってきた。

 ――それは寿命を削る。

 誰にも知られぬまま、太陽はその身を削って輝くのだ。

 

 しかし、光の宿痾は寿命がどうのを気にしない。ただ前へ向かって進むのみ。

 出久は何も気にせず、もう一度街へ繰り出した。

 「今度はもうちょっとまともに実戦経験積め」とは大師匠のありがたいお言葉である。もっともだと思ったから、そうしている。

 

 勝手なことやったガキどもは拘束しとけよ、などと言われるかもしれないが入院の必要もないのにそうすれば、それこそ手柄をなかったことにした意味がなくなる。

 何かありましたよ、と宣伝しているようなものだったから。

 かくして、何も顧みていない出久は今日も元気にヒーロー活動を行う。

 

「……勝った!」

「いや、競争じゃねえよ。ま、その調子で行けや」

 

 だからこうして、ひったくり犯などを捕まえている。

 いくら超常の力を使ったところで、犯罪の内容はというとひったくりに恐喝程度が関の山。傷害事件の一つもなければ、仰々しく拘束するわけにもいかない。

 説教して終わり……でなければ、すぐに刑務所は満杯になってしまう悲しい経済的問題だ。

 

「よっし! 次ぃ!」

 

 声援に手を振り返しながらも、順調にパトロールを進める。

 日常にあっては異常も浮き彫りにならないものだ。”それ”は、そういう舞台があってこそ輝く。

 普通の人では立ち入れない英雄の領域(ギガントマキア)でこそ、太陽は人々の目を焼きつくすのだ。

 

「腹減った。俺ぁ、なんか買ってくる。ちょっと座っとれ」

 

 と、グラントリノは目を離した。

 保須市で目を離した結果、どうなったかを忘れてしまったように。

 いや、ペナルティは喰らってもグラントリノ的には大したことがなかったし。むしろオールマイトを思い起こす微笑ましいエピソードだ。

 怪我らしい怪我もしていなかったから、奇麗に頭から抜けていた。

 

「――おう。待ってるよ」

 

 だから、これが全ての始まり。

 光の宿痾が全てを焼き尽くす序章曲。

 

「……だれか、おねがい。……だれか」

 

 路地裏から弱弱しい響く声。

 喧騒にかき消されたその言葉は、しっかりと出久の耳に届いた。

 

「なんだ……助けてほしいのかい? 嬢ちゃん」

 

 だからこそためらわない。

 座っとれ、などという言葉などガン無視だ。

 

「……あ」

 

 すぐに彼女の元へ駆け付けた。

 ボロボロの服。痛々しく巻かれた包帯。そして何よりも、その足には靴がない。虐待の証拠としては十分だろう。

 

「たすけて……くれる?」

「ああ、だから言ってみろ。つらい時には”助けて”って言うんだぜ、嬢ちゃん」

 

 しゃがみこんで目を合わせる。

 ニカっと笑いかけた。

 

「でも……あなたが、死んでしまう……から。私はそんなこと言っちゃいけないの」

「ガキがそんなん気にしてんじゃねえよ」

 

 ぽん、と頭に手を置いた。

 

「うちの娘がすみませんね、ヒーロー」

 

 そして、治崎が顔を出す。出久は彼が指定敵団体のトップということも知らない。敵候補など、プロだって一々覚えちゃいない。

 もちろん、オールマイトの元相棒のナイトアイが彼をマークしていることなど、知る由もない。

 

「遊び盛りで怪我が多いんですよ。困ったものです」

「テメエがこれをやったのか?」

 

「いえいえ、勘違いなさらないでください。事故ですよ、虐待しているわけじゃない。何度も言われてこっちも困ってるんですよ。さ、エリこっちに来なさい」

 

 少女は震えて、出久の手を離さない。

 

「子供の相手は慣れてる。事故の怪我と、誰かにやられた怪我の見分けはつくんだよ。その嘘くさい笑顔をやめるんだな」

「――恥ずかしい話です。……人目につくし……こちらに来てもらえますか」

 

 彼は元居た路地裏に戻っていく。

 出久もついていく。なおも、言い訳をつくろいながらも人気のない場所へと誘導する。

 

「……で、聞きたいんだが嬢ちゃんは素体の方か? じゃあないな、なら材料か。性質は実際に見ないことには分からねえが、武器の方だな?」

 

 出久がだしぬけに言い放った。

 

「――っ! 貴様、どこまで知っている!?」

 

 敵が勢いよく壁に手をたたきつける。個性『分解』を発動、コンクリが変形して棘と化し出久を突き刺ささんと狙う。

 その攻撃は早い、走って逃げられるほど遅くない。

 

「何も知らんさ。鎌をかけさせてもらった。……だが、似たようなものを見たことがあるんでね。あんたらもヴィラン連合の一味かい?」

 

 迫る棘を拳で砕いた。

 

「俺たちをあんなチンピラと一緒にするな……!」

 

 周りから襲い来る隙間のない棘。普通なら瞬きもできずに串刺しだ。だが、ほかならぬオーバードライブを相手にするにはまだ足りない。

 ……全て砕く。

 

「そうかい。それは悪いことを言った。まあ、技術的には別系統だわな。向こうは改造人間だが、そっちは人間を材料にしたわけだ。持ち歩きを考えれば銃弾(カートリッジ)かね?」

「……その発言が出てくる時点で逃すわけにはいかんか。それにしてもヒーローの思考じゃないな。実物を見たわけじゃないのに、人体を加工するなんて思いつくもんじゃない」

 

「こっちはDNAに紐づく個性を知っているんでね。人間を改造するというやり方があれば、人間を材料にするというやり方もあらあな。誰も気付くわけがないと思って油断しすぎだぜ、アンタ」

「英雄志願の病人が……‼ 邪魔をするな!」

 

 大量の槍。それだけでは通用しないからこそ、次だ。構成素材を変えたそれはむしろ全て鋼でできたそれより厄介だ。

 コンクリの柔らかさに慣れたところで、鋼だと砕ききれない。

 

「また面倒なことをしくさりおって……!」

 

 援軍……グラントリノ、到着。

 コンクリも、鋼も、全てを折り砕いた。

 

「……若!」

 

 さらに組の援軍まで到着したとあっては、事態は更に混迷を深めていく。

 

「グラントリノ。彼女を病院へ」

「……それをするならお前さんだろうが! 仕事は大人に任せとけ、インターン生だろうが!」

 

「大師匠、俺はあんたのことを信じてる。その子を安全な場所に送り届けるのに時間なんていらないさ、頼りにしてるぜ」

 

 それは、どちらが早いかという問題だ。

 結局オーバードライブは戦うし、グラントリノだって逃げたりしない。

 なら、グラントリノの『ジェット』の方が確実に早い。すぐにもう一度駆けつけてくれると疑わない。

 

「さあ、あの爺さんが君を安全なところまで連れて行ってくれる」

 

 その子の頭を撫でる。だが、彼女は不安そうにしている。

 

「大丈夫だ。……俺が来た」

 

 不敵に笑って見せた。

 その笑顔はなぜか、この人ならやれると思わせるもので。

 

「本当に? 大丈夫? 死んだりしない? 皆と同じように」

「――勝つのは俺だ」

 

 グラントリノに託し、前を向く。

 

「なんだ、テメエ。ガキか? ヤクザ舐めんじゃねえぞ、おら」

 

 敵名『クロノスタシス』、頭に生えた時計のような針を突き刺して相手の動きを遅くする。

 横道から来た彼は出久に向かって躍りかかる。

 ガキなどぶん殴ってしまえば泣いて素直になるものだ。そして、ヒーローの実力も知っている。敵視されているのだ、調べもする。

 ただのプロヒーローなら不意を突けば十分倒せると知っている。

 

「当たれば終わりの一撃必殺系の個性だな。今となっては珍しいものじゃない」

 

 だが、出久の実力はただのプロすらも外れている。オールマイトの弟子だからこそ、努力をかかさずどこまでも強くなるのだ。伸びた針をかわし――

 

「ヒーローってのは皆馬鹿だな」

「馬鹿だと言うほうが馬鹿なんだぜ?」

 

 長針に隠した短針の二段構え。一撃必殺をかわして安心した隙に突き刺せるはずだったが、読まれていればもはや詰みである。

 本命の針を掴んで止めた上に腹に一撃叩き込む。ただそれだけで意識を刈り取った。

 

「クロノ! 役立たずが……!」

「おいおい、仲間想いみたいなことやってんじゃねえよ」

 

 そのままそいつの身体を抱え、砲弾のように投げ飛ばした。

 人間大砲……ヒーローのやることではない。

 

「邪魔だ!」

 

 隆起したコンクリで飛んできたクロノスタシスを弾き飛ばす。

 その隙に出久が前へ出る。敵の仲間を盾代わりに道を切り開くのは、本当にヒーローらしくないが、しかしこれがオーバードライブだ。

 

「隙ができたぞ? 仲間を殺させないように必死なのはヴィランもヒーローも同じだな?」

 

 高速の一撃が迫る。

 ワンフォーオール120%の一撃は人間に使っていいものではない。殴れば血の煙となって飛び散るが……オーバードライブはためらわない。

 

「……!?」

 

 飛び散った。

 だが、手ごたえがおかしい。まるで雲でも殴ったかのように。

 

「つくづく度し難い……‼ 俺を分解するにも、痛みは感じるんだ!」

 

 なんと、敵は自らを分解して回避したのだ。

 さらに、地面が割れる。一度見た分解と再生によるそれなら、出久は捕まりはしない。……つまり新手の敵だ。

 

 敵も必死なのだ。

 そう、すぐにエリを手に入れなければ。病院を破壊してでも取り返さねばすべてが終わる。

 だが、この目ざとい男を残せば何か悪いことが起きる。

 ――つまり。

 

「分断と各個撃破。治崎は大師匠を追ったようだな。……そして、俺の相手は」

 

 姿を表したのは二人組。

 

「私たちがする」

「さあ、ケンカしようぜえ!」

 

 僧侶のような服を着た男。そしてもう一人の大男、こちらはシャツにジーンズと簡素な格好だが膨らんだ筋肉は伊達ではない。

 どこからどう見ても、武闘派の二人が出久の道を塞いだ。

 

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