緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第13話 神話の始まり

 

 出久は地下に落とされた。少女を追う治崎を追うためには地上へ出なければいけないのだが、しかし。

 そこに現われたのは、ペストマスクをかぶる二人組。

 その片割れ、大男がニヤつきながら言葉を吐く。

 

「お前、強そうだな。分かるぜ、お前みたいな目をした奴とのケンカは楽しい。その身に宿した力だけで戦うのがいいんだ。……分かるか」

「上での戦いを見るに、身体増強系。良かったな、乱波。楽しめそうだぞ」

 

 大男が歩を進める。片割れは興味がなさそうだ。

 ここで現れたのだから相性が悪いことはない。つまり、絆もなく連携など殆んどない相手と出久は看破した。

 

「……ステゴロかよ。いいね、男のロマンだ」

 

 出久も笑う。ファイティングポーズを取り、殴り合う気満々だ。

 立ち止まる暇はない、ゆえに正面から突破する。

 

「分かってくれるか! お前、いい奴だな‼ さあ、やろう!」

「――行くぞ!」

 

 ぶつかり合う両者の拳は壁に正面衝突し、出久は引き下がる。

 気勢をそがれた。

 片割れの個性、強固なバリアを張る。出久も向こうも力が乗り切っていないにしても、正面衝突してビクともしないのは凄まじい強度だ。

 

「おい、天蓋。これ外せ、使うな。そもそも俺はバリアなんて必要ないんだ」

 

 敵の片割れ、乱波がガンガンとバリアを叩き始める。 

 

「私欲に溺れるな。オーバーホール様の言いつけを忘れるな。コンビネーションで確実に処理するんだ」

 

 言った瞬間、乱波は僧侶服を殴り始める。

 仲間割れ、むしろ最初から仲間意識などないのかもしれない。やはり、組んだ経験が浅い。

 

「おい、どういうつもりだケンカ狂いめ」

 

 言い合いまで始めた。

 だから、出久は三人目を見つけることに注力する。探していたのは地面を操る個性の持ち主。地面に引き込まれたのは、オーバーホールの仕業ではないと確信している。

 そちらの三人目を潰さないことには追いかけられない。

 

「俺は殺し合えればそれでいい」

「好きにしろ。それで処理できるのなら」

 

 出久が色々と考えを巡らせているうちに、敵はバリアを解いた。

 

「わかってくれたか。良いひきこもりだ」

 

「……ん? そっちの話は終わったか?」

「待っててくれたのか。良いガキ。……いや、男だ」

 

「だろ。じゃあ、やろうか」

 

 拳を握り締める。二人組を倒さねば、何もかも始まらない。

 こいつらを倒し、地面を操る個性持ちも倒し、グラントリノとともに治崎を打倒するのだ。

 そのために、この二人をすぐに片付ける。

 

「「――おおおおおお!」」

 

 すさまじいまでの殴り合いが始まる。

 1秒に5発ほどが互いに突き刺さり、1秒2秒……5分を数えてもラッシュは続く。

 

「ははははは! 楽しい! 一番楽しいぞ!」

「ああ! 俺も楽しい! だが、勝つのは俺だ!」

 

「負けないぞ! こんな楽しいことやめられるか!」

「こんな楽しい殴り合いは俺も経験したことねえぜ! ……だからこそ、勝つ!」

 

 骨にヒビが入るほどに殴りあって。

 

「やっと腕が温まってきた‼ 天蓋、バリアは?」

「出さない」

 

「なんだ、良い人ばっかじゃねえか。生きててよかった!」

「――ああ。お前はいい奴だ。だからこそ、負けてはいられんと痛感した。お前を倒すためには更なる領域に足を踏み込む必要があると理解した!」

 

 殴り合いはさらに加速する。

 

「「おおおおおお!!!」」

 

 それはたったの1分の戦いだった。 

 だが、それは魂を燃やしつくした1分。先の5分などよりもよほど濃密だ。

 

「お前の勝ちだ。……満足したよ」

 

 乱波が倒れ伏す。

 もはや指の一本を動かす力も残っていない。

 

「ああ、お前は強かった。罪を償え。――そして、シャバに出てきたらもう一回やろうぜ」

「ああ、本当に良い人……だ。約束……だぞ」

 

 気絶した。

 

「……乱波! 馬鹿な、乱波が負けただと!? だが、殴り合いのダメージは互角のはず! このバリアに閉じ込められればどうしようもあるまい!」

 

 出久に向かって閉じ込めるようにバリアを張る。

 閉じ込めることで足止めを図った。クレバーな一手だ、治崎がエリを取り返せば向こうの勝ちなのだから。天蓋自身が逃げられず捕まるが関係ない、それは致命的ではない。

 

「お前は一度バリアを破れなかった! つまり、ここで貴様は終わるのだ! 後々ヒーローが駆け付け、私は逮捕されるだろうが……勝つのは我々だ。もとより我らは汚れ仕事専門‼ここで捕まろうとも負けではない! 最期に勝つのは死穢八斎會だ」

 

 確かにその通り、と出久は頷いて。

 

「……」

 

 静かに歩いていく。

 

「な、なんだ? 無駄にバリアを叩くか? ならやってみるがいい。私はオーバーホール様が目的を達成するまで、決して貴様を逃がさん! 貴様をここにとどめて見せる! 貴様はここで終わるのだ! 指をくわえて見ているがいい、オーバーホール様の勝利を!」

「――逃げる奴が、立ち向かう奴に敵うかよ」

 

 一撃でバリアごと砕き、殴り伏せた。

 

「一度そのバリアの強度は確かめた。二度目はない」

 

 逃げの一手を打つ者に、勝利の女神は微笑まない。ただそれだけのことだった。

 そして。

 

「出てこい」

 

 言うが、何も音がしない。

 

「なら、一直線にぶち抜いて地下(ここ)から出ていくまでだ」

 

 何の衒いもなく、本気で天井を砕いて脱出すると言っている。

 焦ったように、部屋がすくんで、縮小していく。出久の言葉が本気なのだと言うことは見ていれば分かる。

 ゆえに押しつぶす。ここで殺さねば止められないと理解した。

 

(オーバーホール)の攻撃に比べれば、ただの児戯。個性上昇薬による強化だな」

 

 またもや揺れが広がる。

 図星だった。もちろん、出久のそれはただの予想。だが、明らかにあの二人の個性の練度とは違いすぎた。

 まるで強すぎる力を扱いきれないように。

 ならば、予想できないことはない。種類までは分からずとも、ブーストありきでこれなのは見て取った。

 

「さあ、地上に出るぞ」

 

 殴り、蹴り、砕く。地を粉砕して昇りゆく所業。

 それはもうプロどころか、トップランカーの実力だ。それも、破壊力一辺倒ではなく、必要な場所だけを砕いて進んで行く判断力まで併せ持つ。

 

「そして、三人か。なあ、お前ら。……そのマスクって、もしかして幹部の証なのか?」

 

 『窃盗』窃野、『結晶』宝生、『食』多部。

 三人の幹部が姿を現した。駄目押しの一手にして、最期の一線。崖っぷちに追い込まれた。ゆえにこそ、敵も本気だ。

 ――ボスの目指す理想のため、ここで負けることは許されない。ここで負けて失われるのは、自分の身柄などと言うどうでもいいものではない。

 

「そう、俺たちは『死穢八斎會』。ボスの右腕となり、汚れ仕事を担当する。使い捨てられようと上等のゴミどもさぁ!」

 

 三人揃い、個性上昇薬まで使えば、プロを倒すことすら容易である。

 相性がよければトップクラスを相手にすることすら可能であろう。努力は裏切らない。紡いだ絆は裏切らない。

 ……ゆえ、決死でオーバードライブに対峙する。

 

「或る者は社会に適応できず捨てられた。或る者は恋人に裏切られ多額の借金を背負い、死ぬことさえ許されない。或る者は金の亡者に道具として利用され、金にならないと要らぬ人間として徹底的に打ちのめされた」

「俺たちはゴミだが。ゴミはゴミなりに固い絆で結ばれている」

「後先なんか知ったこっちゃない! 価値を与えてくれた男のため、邪魔者は殺す!」

 

 三人、展開する。

 連携の訓練など受けてなくとも、固い絆が互いを活かすやり方を十分に心得ている。それは見知らぬ相手とすら即興で組むヒーローより明らかに一段上の強固な結束だった。

 

「ヒーローには理解できんさ! コイツを受け止めきれるかな」

 

 三位一体の連携が、完全無欠と化して出久に襲い掛かる。

 逃げ場はない。

 立ち向かおうと、一人を相手にすればその瞬間に別の二人に襲われる。その無謬の連携を崩したければ、そう――遠距離などの相手がどうであろうと関係のない戦法を取る以外にないだろう。

 

「素晴らしい絆だ。固く結ばれた絆、その友情は何物にも代えがたい。……お前たちはヴィランではあるが、その絆は美しいとさえ思うよ」

 

 それでも出久は、ただ歩いていく。

 無造作に、真正面から足音響かせ向かっていく。

 

「……だが」

 

 一人目、『結晶』宝生の宝石を広げた突撃はかわせない。偽物とはいえ、その強度は本物だ。

 強力な一撃を持つ者が相手でなければ圧死させられる。

 出久はただの拳の一振りで宝石を砕き、二撃目で顎を打ち抜いて意識を刈り取った。

 

 二人目、『窃盗』窃野。身に着けたものを窃りつつ、身体の各部に仕込んだナイフで急所を狙う。そして、ナイフは毒付きだ。

 ヒーローアイテムを使う、もしくは何かを身に着ける系統の個性であればどうしようもなく奪われていた。

 出久も防刃・耐火性のスーツ上半身を奪われた。気にかけず、上半身裸のままアッパーカットで意識を刈った。

 

 三人目、『食』多部。何でも食べるその個性の前に防御力は無為。そして、歯には神経毒の二段構え。

 どんなに硬い相手でも他の二人が囮になりつつチェックメイトすれば、敵はない。

 ――その二人が一瞬で倒されていなければ。そして、出久がグラントリノのもとで身のこなしを学んでいなければその牙が届いたかもしれない。

 顔をぶん殴り、歯を全てへし折った。

 

 一言で言えば相性が悪かった。

 増強系の個性を前に『窃盗』は無意味で、防御の面でも『結晶』を打ち砕く力を持っていて、さらに『食』に関しては元から出久は盾系ですらなかった。

 入中が戦場を整えるにしろ、幹部8人から抽出するのでは選択肢が少なかった。

 

「――勝つのは俺だ」

 

 そして、その瞳は揺らがない。

 下を見つめる。

 9人中5人までを下され、もはや後はないと必死になり始めた者。

 本部長、入中。出久を地下に叩き込み、しかし脱出を許した男。ここでコイツをどうにかしなければオーバーホールに殺される。

 いや、殺したとしても5人も失ってしまったのだから……もう後はない。

 

 最後の力を振り絞る。絶対に殺すと誓ったゆえ、もう後は考えない。

 地面が竜の顎と化す。

 凶器は地面そのもの、1tなど遥かに超える大質量が出久に迫る。

 

「ワンフォーオール120%……」

 

 だが、出久の目に恐怖はない。

 見つめるはただ勝利のみ。

 

「Oklahoma SMASH‼」

 

 大地すら砕き、敵を粉砕した。

 だが、出久はそのまま地に倒れ伏した。6人を一人で倒したのだ。死穢八斎會を文字通りに半壊させた代償は甘くない。

 殴り合いで蓄積したダメージが、最後の地を消し飛ばす一撃で噴出した。

 

 もはや、立ち上がる力もなく、前のめりに倒れ伏せるのみ。

 

 

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