緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第14話 オーバーホール

 

 一方、グラントリノは少女を守っていた。

 

「――っち。厄介な、それに嬢ちゃんを降ろす暇がない……!」

 

 彼は傷だらけだ。

 オーバーホールはなりふり構わず建物を牙へ変えて襲い掛かる。全方位を覆いつくすその攻撃は、グラントリノすら捉えうる並ぶものなき範囲攻撃だ。

 巧く、速い相手……ならば物理的に避ける隙間をなくしてしまえばいい。迫る牙を蹴り砕かねば、少女を守ることさえできやしない。

 ここまで広範囲、かつ細かい制御も可能な個性は前例がない。視界内全てが攻撃範囲だから、相手するには敵の攻撃を相殺し続ける必要がある。

 

「ヒーローってのは大変だなあ。そんなに傷ついて。ああ、血だらけで、泥にまみれて……汚いな」

 

 治崎は嫌悪に眉を寄せる。

 ヒーローと言うのが、嫌いで、憎たらしくてたまらない。血に塗れても動くその姿が汚物以上に(けが)らわしく思える。

 その誰かを助けようともがく姿全て、病気に他ならない。

 

「戻ってこい、壊理。おまえは人を壊す。そう生まれついた。――お前の行動一つ一つが人を殺す、呪われた存在なんだよ」

 

 牙がグラントリノの身体を傷付ける。血が、少女の身体に付く。

 少女が目を見開く。

 思い返すのは、血に塗れて二度と動かなくなってしまった大人たち。助けを求めた手をとってくれた人たちは例外なく殺された。

 幼い彼女は学んでしまった……助けを求める己の手が人を殺すなどと、間違ったことを。治崎の言うがまま。

 

「やめて! おじいちゃん、もういいの。私は――」

「馬鹿なことをいうな、嬢ちゃん。ガキは悲しいときゃ泣いて、楽しい時に笑ってりゃいいんだよ。特別なことじゃない。……おい、テメエ! 嬢ちゃんごとぶっ殺す気か!? 取り返しに来たんじゃねえのかよ!?」

「ああ、壊れても支障がない。すぐに修復すれば蘇生できる。原形をとどめていなくとも元通りに戻せる。……なんだ、弟子の方は気付いていたぞ?」

 

「……っな!? っちィ――」

 

 退避。 

 一瞬息をつけるが、しかし当然のように追い詰められる。ビルがあればガラスが鋭い牙と化すのだ。その上にビルはそのまま”高い”。

 もう武器として使い終わった元の場所とは違い、上も塞がれる。四方八方に加えて下、そして上も塞げば完成だ。

 

「私を置いて逃げて、おじいちゃん!」

「は。冗談言うんじゃねえよ――」

 

 絶体絶命。だが、諦めない。

 可能性などなかろうが、道を見つけて見せると息まいた。

 

「――ふざけるな!」

 

 第三者の声。全てをすり抜けて敵の元まで到達する。

 地獄のような無差別攻撃を軽々と乗り越える強力な『個性』。並み居るプロヒーローたちが指を咥えて見ているしかない状況で、彼だけは踏み込んだ。

 

「POWERRRRRRRRR!」

 

 拳が、強かに治崎の頬を殴りつけた。

 『ルミリオン』が戦場に参加した。

 応援に駆け付けた他のヒーローはこの地獄の戦線に加わることもできずに避難活動を行っていたが、彼の個性ならば戦える。

 近くにいた理由は、彼の事務所が死穢八斎會をマークしていたから。むしろ、本筋としてはこっちの方で、グラントリノの方がポッと出だ。

 

「……あ。が――」

 

 完全に意識の外からの攻撃だ、治崎はひとたまりもなく目を回す。

 わずかばかり、息を吸うだけの時間を奪えた。

 

「大丈夫ですか!? その子は?」

 

 そして、ルミリオンはグラントリノの元へ赴いた。血だらけの彼に代わり、自分が戦うのだと。

 

「良いとこに来たな、兄ちゃん。この子を頼む」

 

 だが、その爺さんは不敵な笑みを浮かべて戦意が衰えない。

 むしろ女の子をこちらへ押し付けてくる。

 

「……な、おじいさん。あなたは一人で戦うつもりですか!?」

「お前さんは強い、扱い辛そうな個性でよくやっておる。だが……あれを相手できるのは俺だけだ」

 

 目の前で治崎の体が分解する。……再構成、負傷を直して全快した。

 さらには。

 

『今、いい気分か?』

 

 別の個性を発揮する。

 部下と融合することにより複数の個性を扱う。オールフォーワンとは違う、しかし同種の悍ましさをもって個性が疾駆する。

 

「「最悪だね――」」

 

 無理やり答えされた。『真実吐き』の個性。

 駆けつけてすぐにグラントリノに落とされた音元。すでに落とされていた彼を取り込み、その個性を得た。

 使われれば口が勝手に動く、隙ができる。その状態ではまともに動くこともできはしない。その隙をオーバーホールは見逃さない。

 

「個性なんてものが備わってるから夢を見る。自分が何者かになれると……精神に疾患を抱えるんだ!」

 

 分解、破壊の力が迫る。

 力の通り道はバラバラに壊れて、戻ることはない。それが人間に当たればどうなるかは火を見るより明らかだろう。

 

「Calolina SMASH!」

 

 超絶パワーが吹き飛ばした。それは。

 

「もう大丈夫だ、私が来た!」

 

 オールマイト、参戦。

 

「おい、敏典。俺に向かってそのセリフを吐くとは良い度胸だな」

「グ、グラントリノ? いえ、あのナマ言うつもりではなくて……」

 

「丁度いい。お前の弟子も別のトコで頑張ってる。二人で奴をやるぞ」

「よっし! では、少女を頼むぜミリオ少年!」

 

「……ッはい!」

 

 後ろを向いて、駆けだした。

 これで、運命は変わった。彼が個性を失う未来は来ない。

 

「オールマイト、平和の象徴。ああ、笑えるなあ……お前は今から救おうとしたその子の力で全てを失うんだ!」

 

 銃を向ける。

 

「HAHAHAHAHA! そんなものは怖くはないぞ!」

「気をつけろ、敏典。あいつは……」

 

『平和の象徴なんてもの、本気でなれると信じてたのか?』

 

「なれるかじゃない。……なるんだよ!」

「本気で言う馬鹿を手伝いたいと思っちまったんだから、仕方がねえだろう」

 

 本音を吐きつつ、殴りつけた。

 一度見た、それで十分だ。口が勝手に動くなら、動くに任せて戦うだけの話。話している間は息が吸えないし歯も食いしばれないが、それで? 元より個性一つで完封できるような生温い地獄(戦場)を歩んじゃいない。

 

「現代病の! 汚らわしい英雄志願どもがァ!」

 

 最大規模で個性を使う。半径200mの全てが獲物を噛み砕く牙と化す。何度も見せた分解を応用した全体攻撃が、規模を増してもう一度。

 

「HAHA。そんなもの」

 

 オールマイトが拳の連打で牙を砕く。

 

「俺たちにかかりゃ屁でもねえよ」

 

 グラントリノが逃げ遅れた人々を救助した。

 

「ああ、汚らわしい。俺は潔癖症なんだ! こんなことになるなんて……! 貴様ら、絶対に許さんぞ! 殺して、蘇生して、精神が崩壊するまで殺し続けてくれる!」

 

 空気が変わる。

 さらに別の個性まで発揮し始めた。

 

「……ッ!?」

「立っていられない……? これは、グラントリノ?」

 

 視界が揺れる。

 膝が崩れる。まるで、泥酔したかのような。

 

「ぶっ飛ばした奴、起きれないくらい強く叩いたんだが……!」

 

 それこそ、死穢八斎會の7人目。

 

「そう、これは泥木の個性だよ。一瞬で倒された役立たずの力なんて知らなかっただろう?」

 

 オーバーホールの強大な個性に加え、デバフ系の個性が二つ。実際、複数個性を扱うなら最適解に近いだろう。

 強い個性を何個も持ってきたところでエネルギーをドカ喰いするだけだ。ならば、頼みとする力を一つとその他の発動するだけで相手の力を奪えばどこまでも順当に強くなれる。

 それだけでも手が付けられないと言うのに。

 

「そして、これでどうだ?」

 

 力が抜ける感覚。最後の8人目、活瓶力也の『活力』。自らにバフすらかけるそれは、ソシャゲで言うなら敵ボスにしか許されないチートである。

 これはもう最強状態だろう。オール・フォー・ワンを彷彿とさせるその所業。個性の簒奪と使用……

 

「死ぬがいい、平和の象徴。貴様を倒し、死穢八斎會が世界を支配する。……案外、No1ヒーローというのも弱かったな」

 

 隠れたところで真実吐きの個性の前には無意味。声が聞こえたところを叩けばいい。

 そして周囲に生命ある限り活力を吸い上げ強大化は止まらない。ダメ押しに、泥酔の個性があるから立って逃げることもできやしない。

 

「これは……キツい! HAHAHAHA、大丈夫ですか? グラントリノ」

「馬鹿言ってんじゃねえ、この程度でどうにかなるか。……だが」

 

 敵はビルほどの岩を持ち上げる。野球ボールみたいにぶん投げた。オールマイトとグラントリノは動けない。が――

 

「――師匠と、大師匠を放って寝てるわけにゃいかねえだろ。常識的に考えて」

 

「Texas SMASH!」

 

 黒コートをたなびかせ、三人目が来る。超パワーを拳に集中させ、岩を砕いてみせた。

 ここに、師弟3人。そろい踏み。

 

 

 

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