緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
主人公の暴れっぷりに対する言い訳回です。設定の話しかしないので、そういうのが好きでない人は飛ばしてもらった方がいいかもしれません。
グラントリノ、オールマイト、オーバードライブの三人は病院にぶち込まれた。
なおオーバーホールに関しては、エリの個性は暴走することもなく、三人が混ざった状態でタルタロスへと収監された。
原作とは異なり、敵連合とのいさかいを起こしていないため腕は無事だ。というか、切ろうにもどこが本人の腕かは分からないのだが……
「お前たち、三人とも揃って無理しすぎじゃよ」
どこか諦めたようにリカバリーガールがため息をつく。
強大な敵を前にして背を向けるなど想像もできない三人だが……こうも怪我して帰ってくると遠い目をしたくもなる。
「……グラントリノ、お前さんが居ながら……」
頭を抱える。
いつも怪我をしている出久を文句も言わず治していたのは、いわずもがな諦めたからだ。原作の緑谷のように己の身を顧みることができれば、戒めとして残すこともしただろうが……
このオーバードライブは反省しても顧みることはない。例え腕がもげようが、何も変わらず無茶をする。
ヒーローが人を助けるように、当然のようにそれを成すのだから治す方としてはたまらない。
「――返す言葉もねえやな。つっても、俺は教育者じゃねえけどな。専門外だ」
HAHAHAと笑っている。
グラントリノはどこまでも無茶をやってしまう精神に惚れこんでいるところがある。無茶を咎めろと言っても、むしろ煽る側なのだ。
「いや……そこは……私も反省するところでして……はい」
逆にオールマイトは困り切った愛想笑いを浮かべている。
弟子の怪我に責任を感じているのだ。……ちなみに自分の身を顧みる気はないところが頭痛のタネだ。
常人ならベッドの上で生命維持装置につながれているほどの後遺症を押してヒーロー活動をしている彼に、自分を顧みる発想はなかった。
「はっはっは! ばあさん、そりゃ無理だ。何を言われても聞かない馬鹿ってのがこの世には存在するんだよ」
そして、出久は呵呵と大笑する。
「開き直るな、若造」
ゴン、とカルテで叩いた。
「……で、そこの警察の人は話をしに来てくれたのかい?」
出久は肩をすくめる。オールマイトはともかくとして、いやこの状況ではオールマイト三師弟が表に出るのも多分に政治的な問題があるのだが……
その弟子であるオーバードライブにヒーロー免許がないことが問題になる。
法律に照らせば立派なヴィランである。そして本人に自覚があってもやらかすのだから二の句が継げない。
「また会ったな、ええと…塚内直正さんだったか」
「ああ、直正君! また世話になるよ」
オールマイトが手を上げる。彼も手を挙げて答える。
「……厄介なことをしてくれた、というのが本音だがね」
やれやれと肩をすくめる。
「やはり、マズかったかね?」
「世論は好意的に受け止めている。平和の象徴、その後継者が体育祭で圧倒的な活躍を見せ、さらには暴れまわるヴィランを止めて見せた。しかも、謎に包まれていたオールマイトの師匠すら判明しては、ね」
空前のヒーローブームだ。
皆が皆、オールマイトとその師弟を称えている。ひょっとしなくても危ういほどに。
「誤魔化せやせんのか? 俺の名を知ってる奴もそういないはずだが」
「人間の好奇心と言うものを舐めちゃいけませんよ、グラントリノ。積極的に活動していないだけで籍は置いているんだ。もう事務所まで特定されてますよ」
「参ったね、コリャ。まあ、俺としちゃそう困ったことでもないが……どうすんだ、敏典?」
「……ど、どうしましょう……?」
困り果てる。
オールマイトが平和の象徴と呼ばれているのは、その偉業からだ。彼が特別政治的センスに恵まれていたわけではない。
この情報で世の中がどう動くかなど分かるはずがない。
「別に騒がしくなるのはどうでもいいし、バレようとどうでもいいんだが。俺にゃ正直その辺がよく分からねえからなあ」
そして、それはグラントリノも同じこと。
というか、興味がない分輪をかけてひどかった。この個性社会を安定させるためにはどうすればいいか……方針はあっても具体的な対案までは出せない。
彼らはヒーローであって政治屋ではなかった。
「繰り返しますが、世間では好意的に受け止められています。この状況で緑谷君を裁くことは警察にはできない。どう考えても”見逃す”または無視するような形になります」
「そ……そうか」
ホッとした様子のオールマイト。
「だが、それは本来許されることではない」
ずい、と出久の前に来る。
「――君は何をしてしまったのか理解しているのかね?」
彼は殺気すら込めて出久を睨みつける。
分からなければ殺す、という意味すら込められた強烈な視線だ。本来、ヒーローの卵であっても気圧される”それ”。
「悪を倒してハッピーエンド、なんて単純な話じゃねえだろう? 漫画にでもいくらでも転がってるさ、魔王を倒した勇者が次の魔王になるなんて話。……突出した力は災害にしかならない。と、すりゃその末路も納得ってもんだな」
そう、悪い奴を倒してハッピーエンドなんて、漫画にもそうはない。
なぜなら、現実は暴力ではどうにもならないから。女の子に無理やり迫っている悪い男をぶちのめしました、その後に待っているのはラブストーリーではなく傷害罪による逮捕だ。
出久はそれを十分に自覚して、その視線を受ける謂れは十分にあると韜晦する。
「そこまで分かっていながら、なぜ……!」
「誰かが泣いているのが許せない。――誰かのために。自分以外の誰かのために。誰かの明日を守るのだ。……そのためなら、悪に堕ちようと後悔はない」
言い切った。
それが偽りのない信念。死のうが曲げることはない鋼の決意だった。
「……」
塚内はため息をつく。
「第二次世界大戦の話を習ったかな? 高校一年生だし、まだそこまで進んでないかな」
「確か、悪いナチスに日本が協力して、悪党ともども締めあげられたって話だったかな」
「そうなっているね。悪いと言われているのはなぜかも、習ったかな」
「人体実験とか、そういうのだろ?」
「君自身がそう思っていないことは明らかにわかる態度だから話すが、悪いのは負けたことだよ。負けたから、”悪”とされたんだ。悪とされた行いの殆どは、当時両勢力がやっていたんだ。ナチスだけなんかではないんだよ」
もちろん、ナチスのそれは度が過ぎていたが……そんなものは敗戦末期の狂気だろう。誰だって、勝っていればまともで、負けていれば”おかしく”もなる。
大なり小なりを突き詰めれば反論はできるだろうが、ここではそれは大した差異ではない。
「……ま、そうだな。だが、俺は勝ったぜ」
「だから許された。……世間に。そして、歴史にも許されるだろう。――なぜなら、第二次世界大戦は宗教が発端の、殴ってもいい悪い奴を決めるための戦いだったからね。勝った方は殴られない。その理論はこの個性社会にも根付いている」
「悪い奴は、悪い奴じゃねえかな」
「では、悪と言うものの基準は何かな? 法律かな。だが、法律も大戦の前と後で、そして個性社会となる前後で変わっている。法律はその時々で移り変わるんだ、絶対じゃない。それに、世論と言う形のないものに左右されるしね」
ゆえに、重要なのは歴史は勝者が作ってきたと言う事実。負けた方が悪い奴と、歴史書には連綿と記されている。
だからこそ出久は無罪なのだ。
緑谷出久は雄英退学レベルの罪を犯した……が、ここでそうすると世論の突き上げを喰らう。どう考えても、ペナルティを課すことすらできない立場に雄英はいる。
無罪放免だが、実情は警察にも雄英にも首元にナイフが突き付けられている。喉元を掻っ捌かれようと生徒を罰する、なんてのも普通に考えてできることではないだろう。
大きすぎる杭は叩くことすらできないのだから。
「――」
空気が沈む。これまではただの前提の確認。これからが本番だ。
世間に知られるような、明確なペナルティは下せない。けれど、言っておかねばならないことがあるから。
「緑谷君、私はね……世界に必要なのはルールだと思っている。確かに勝者は裁けない。勝った者が正義で、負けた者が悪になるのが世の常だ」
「いいや、正義が勝つ。もっとも……正義の反対はまた別の正義で、正義を叫ぶほどに流れる血が多くなるのも現実だろうがね」
「君は今回ルールに違反した。それが正義と呼ばれる行いだとしても、他ならぬ警察がそれをするのが酷い恥知らずであろうとも、私は君を糾弾する。ルールを破り、多くの人々を危険に晒した君を」
始まりは出久だった。
エリを見つけて、戦闘になった。避けようと思えば避けられたのだ……エリを見捨てて。そして。
「――」
出久は塚内の目を真正面から見つめる。
自らの犯した罪から逃げないために。あそこで手を取らなければエリは救われていなかったなんて、言い訳にもならない。
”そこはそれ”
ルール違反が街中での怪獣決戦に繋がり、偉大なる師二人を病院送りにした。
その罪は受け止めなければならない。
「警察はヴィラン受取係などと呼ばれてはいるが、私はルールを守らせるための大事な職業だと思っている。ルールがなければ、世界はただ強い奴が偉いだけの獣の秩序となってしまう」
「そうだな。だから、あんたたちがいる。俺たちみたいな破綻者が礼賛されるだけの世の中なんて間違っている。暴力を振るうしか能のない奴に笑顔は作れない。きっと、本当に偉い奴ってのは……悪い奴をぶちのめす
「なるほどね。本当に偉いのは何かを作る人か。……その見解には同意するよ。だが、覚えておいてほしい。君が社会の敵と認定されたその時、警察は君の敵となる」
「覚えておくぜ」
それで、会話は終わった。
一言まとめ
警察「お巡りさん舐めるなよ
出久「警察なんかよりパンでも焼けた方がよっぽど偉いぜ」