緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
その後、精密検査を行い、またリカバリーガールの治療のかいあって……病院でできることが何もなくなったため、3人は退院を許された。
そう、全力以上の力の行使は確実に寿命を縮めていた。そして、後遺症も確かに刻まれている。あくまで、これ以上の治療は不可能と言う判断だ。
――あとはリハビリしていくしかない。原作の緑谷以上に状態は悪いが……それで止まるようならオーバードライブではない。
これはひたすら前に向かっていくだけの彼の英雄譚である。
とはいえ、破滅は今日明日の話ではなく……入院患者の出久は自由に動くことを許されていない。
そもそもマスコミを防ぐために一般患者や見舞客はもちろん、事前に言い含めておいた医者以外の医療関係者に顔を見られることは許されていない。
あれだけの大事件だ、知られれば大騒ぎは免れない。
とはいえ、学生の出久を閉じ込めておくわけにもいかない。だから逆に家族を呼び寄せて半分軟禁状態だ。
どうせ、明日には退院が決まっている。これ以上できることはない。
そして、呼ばれた家族。緑谷の母は泣き出してしまい、疲れたのか寝てしまった。
「――悪いな、母さん。心配ばかりかけちまう俺は確かに駄目な奴だよ。なあ、信じられるかよ……こんな俺なんかがテレビじゃヒーロー扱いで、警察も雄英もヒーロー様にゃ手出しできねえってさ。……こんな奴に憧れるなんて、間違ってるのにな」
ため息をつく。
家族には本当に悪いことをしていると思っている。だが、それでも止まらないのが光の宿痾と言うものだ。
悪を倒すため、息子を心配する母の気持ちを汲んでやれないことに臍を噛むが……何度でもやらかすことは自覚の上だ。
「出久。……やめる気はないんだね?」
そして、それは昨日今日の話ではないのだ。
出久がこういう人間だと、家族は分かっている。この父も、心配しないわけがない。心優しい普通の男だ。
ヒーローなんて危険なことはやめてほしいと願っている。それでも、息子の性格を知っているから止められない。自分では……否、世界の誰にも止めることなどできやしない。
――たとえオールマイトであったとしても。
「その通りだよ、父さん。何を言われようが、俺が止まることはない。そう生まれついちまったのかな。この衝動を止めることは俺にもできない」
その言葉は重苦しい。
母と父にこんな心配をかける自分はゴミクズなのだと自戒する。世間体はともかく――それこそヴィランにでもなった方がマシかもしれない。
少なくとも、命だけは助かるのだから。この優しい両親は二択を選ぶのなら、そちらを選ぶだろう。
”だが止まらん”。誰かの涙をぬぐうため、オーバードライブは走り続ける。
「そうか。なら、父さんは応援してるよ。……ずっとお前のことを見ていたんだ。お前みたいな馬鹿は死ななきゃ治らないことくらい、とっくに知ってるんだよ」
「ハハ、俺の馬鹿が死んだくらいで治るかよ。――俺は幸せ者だな。……母さんを任せていいか?」
「まったく。言ったそばからこれだ。……どこへ行く気だい?」
「名前も知らないあの子のところに。不安がってたからな、顔くらいは見せてやらないと」
「そうか。見つかるなよ?」
「当然」
出久は姿を消す。
ワンフォーオールのパワーなど使わずとも鍛え上げた肉体、そして戦闘眼があれば人の死角を乗り継いだ潜入工作も容易いのだ。
誰かに見つかれば大騒ぎになって病院に大迷惑がかかる……ならば、誰にも見つからなければいいという暴論を実行する。
そして、その病室にたどり着く。
「よ、会いに来たぜ。お姫さん」
死穢八斎會に囚われ、拷問じみた人体実験を受け続けた少女――壊理。
彼女を助けようとしたものは例外なく治崎によって殺された。だからこそ、自分は居るだけで死を振りまく呪われた存在だと思い込んでしまった。
……悪いのは全て己が野望のため人殺しを続けてきた治崎であるのに。
だからこそ、彼の登場が人生観すらも打ち砕いた。彼こそ最悪の魔王を下した勇者に他ならない。
「あなた……は、オーバードライブ……!」
――助けを求めてはいけない。
抱きしめてくれたその腕は、植え付けられた価値観を破壊した。それこそ、全てに絶望していた彼女が淡い恋心を抱いてしまうほどにまで。
それは大した回復だ。地獄にいる人間が、恋愛感情なんて余計なものに興味を抱くことはありえないのだから。
「あなたの名前を聞かせてほしい。あなたが涙するとき、この拳をもって脅威を打ち払おう」
ひざまずき、手を取ってウィンクする。
どこかで見たようなお姫様と騎士の一幕。恋愛感情には疎いが、子供が好むものくらいは知っている。
なにより自分が
きっと、誰にだって一番似合う表情は笑顔だから。彼女を笑顔にしてあげたい、心の底からそう思う。
「……えへへ。うん、ありがとう。私のカッコいいヒーローさん」
ニコリと笑う。
年相応の少女らしい表情。
とってくれた手にほおずりする。傷だらけでボロボロだけど、とても暖かい手。……自分を地獄から救い出してくれた大きな手。
「やっぱり笑った顔の方が素敵だぜ、お姫様」
「うん。……うん」
その幼い心に、出久の笑顔がしっかりと焼き付いてしまった。
そして、次の日……家族一家で帰る。
オールマイトとグラントリノはやることがあると言うので別行動だ。エリについては、まだ病院だ。
多少のリハビリは許されているが、しばらくはゆっくり静養しろと言われていた。まあ、守るつもりはあるのだが。問題は彼にとってどこまでがリハビリに当たるかと言うことだろう。
(拷問じみた)筋トレくらいは普通に許されているだろうと思う出久だった。まあ、それを見た母は口から泡を吹いて気絶することになるのだが。
それはそれとして、退院と来たからには1-Aの全員が見舞いにやってきていた。
「――お。お前さんたち、どうしたい? おそろいでまあ……かっちゃんは隠れてるんだな」
遠くの方から誰が隠れているかボケエという怒鳴り声が聞こえてきた。
「緑谷君。僕は、君に言わなければならないことがある」
飯田が一歩前に出た。
実のところ、クラスの雰囲気は歓迎よりもずっと困惑の方が色濃く出ていた。凄い、というのは知っていた。
実際、一対一でやれと言われて簡単に頷くのは2割に届かないだろう。実力がかけ離れすぎている。
だが”これ”は訳が違う。
――”ヴィランと戦う”なんてのは、戦う力を持っていることとイコールじゃない。それは明らかに法律違反で、犯罪で……ヴィラン的ですらある行為だ。
「ああ、真っ先に言ってくれるのはお前だと思っていたぜ」
「……なぜだ!? なぜ、法を犯した? 確かに助けを求めていた人は居たのだろう。だが、君の行為は周りの人ばかりか、助けを求める人まで危険に曝した」
ゆえに飯田は激高する。信じていたのだ、友人だと思っていたのだ。なのに、ルールを犯して平然としている。
――きっと、次もやるだろう。
どんな状況だって、ためらうことすらないに違いない。
「否定はしない」
「言い訳があるのなら言うといい! あの場ではそうする必要があった、とか。グラントリノにそう言われた、とか。ただ自衛のための最低限の個性行使だったとか……なんでもいい。僕を納得させるだけの理由をくれよ」
泣き崩れた。
クラスメイト、ではあるが尊敬できる先人とすら思っていた。その彼がルールを犯すことに対して、心の中で処理ができていない。
そこはヒーロー殺しと同じかもしれない。好きなものを自分の価値観で語るのは誰でもやることだ。
そして、彼の価値観は”規則”。社会通念上においては上等な価値観だろう。
だが……
「ねえよ、んなもん」
オーバードライブはばっさりと切り捨てる。
彼の価値観は誰かを助ける、ただそれだけ。法律も規律もすべて無視しただけのこと。
迷惑をかけたと言う自覚もあるし、破らない方法があればそうするだろうがその時点でそうするしかないと思えば突き進む。
目的をしっかり定めるための分別はあるが、しかしその途中で轢くものまでは考慮しない。法も規律も、誰かを助けるために邪魔なら殴り壊してひたすら爆走する。
「……ッ!? 君は、規律をどうでもいいと? それでヴィランに落ちたとしてもかまわないと言うのか。……答えてみろ、緑谷出久!」
「かまわない。――誰かの涙をぬぐうためならば」
静かに燃える瞳の中の意志が、嘘偽りでないことを知らせる。
何を言われようと変わることのない灼熱の意志。何も隠していないし、誤魔化してもいない。彼は依然としてオーバードライブ。誰かの涙をぬぐうためならば、あらゆる限界を踏破する男。
「なんで、君が。……君に正しいヒーローの姿を見たと思ったのに」
「俺なんかを目指すのは初めから間違っているんだよ。お前なりに考えて、俺なんかじゃなく――そして、オールマイトでもない。お前のヒーロー像ってのを見つけるんだな」
うずくまる飯田の肩に手を置く。
「誰かの受け売りでもいい、”兄のように”だって間違っちゃいない。それはオリジナルでなくていいんだよ。偽物だろうが真似だろうが、そう信じて行動に移すことは間違いじゃないんだから」
しんとした空気によく響いた。
「ただ、人気者の猿真似だけはやめておけ。誰かが言ったことじゃない、お前で見つけろ――倣うに足る先人の姿を。お前の憧れを。……なあ、天哉」
出久が足を向けると、後ろにいたクラスメイトが道を開ける。
まるでモーセの一幕だ。彼についていける者はいない。……実力的にも、そしてその意志の強靭さすらも。
追いかけて声をかける、そんなことさえ今の彼らにはできなかった。
作者が言えたことではないかもしれませんが、1-Aと主人公の戦力差が深刻すぎる。もう一人でヴィラン連合潰せるよ……