緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第2話 爆豪・敗北

 

 そして、オールマイトは去って行った。

 後でノートに書いてあるサインを発見した緑谷は狂喜した。

 今は家に帰っている最中だ。

 

「――」

「――」

 

 興奮した人の声が聞こえる。何か騒ぎが起きている。

 何かヴィランが悪いことをしていても、緑谷に助ける力はない。大昔の空手と言うやつを本を片手に修めているが、そんなものは体力づくりの範疇だ。

 しゃしゃり出たところでむしろ助けに来たヒーローの邪魔になることくらいは承知している。

 

「でも、見に行っちまうんだよな」

 

 ゆえに、ささっと見て帰ろうと思っていた。

 ノートは大切だ、オールマイトのサインが書いてあるのだ。奪われたり、汚れたりしたら大事だから。

 

「……ッ!?」

 

 だが、そこに居たのはさっきのヴィランだった。

 蠢き、そのでかい図体で周囲を威嚇している。

 そいつはオールマイトが捕まえていた敵。ここに居る理由が、あのとき落としてしまったことが原因なら、責は自分にあるのは明白だろうと歯噛みする。

 

「誰か捕まってる。……ッかっちゃん!?」

 

 顔見知りだった。

 もがいている。『爆破』の個性で周辺は滅茶苦茶だ。

 そこだけ爆撃にあったかのような有様になり果てている。延焼が起きて火災旋風が起きていないのは幸いだった。

 ヒーローも消火活動に移っている。

 

「くそッ! ふざけんな、こら!」

 

 そんな爆豪はヴィランの腕の中で元気にもがいている。

 さすがの強さだ、呼吸もできないのにあれほど騒げるとは。だが、爆発は虚しく宙を、そして無関係な建物を焼き続けるだけだ。

 

「……」

 

 周りを見る。ヒーローたちはすでに到着していた。

 だが、彼らは動けないでいる。

 爆豪が辺りのものを手当たり次第で破壊するから近寄れないのだ。その姿を見て、出久は顔を歪める。

 

「――なあ、それは流石に情けなくないか?」

 

 他の誰でもない、爆豪にキレた。

 八つ当たりじみた癇癪だと自覚している。ただのヒーローでもない被害者に言うことでは決してないと自戒している。

 だが、それはそれ。

 

 爆豪のことは内心では認めていた。言いたいことは言う気持ちのいい奴だと思っていた。それも、確固たる自分を持っているからこそと……思っていた。

 計算高い側面もあるが、口の悪さだけはどうにもならないのも個性の範疇。少なくとも出久はそれを嫌ってはいなかった。

 だが、だからこそ、そこでくすぶっているのは我慢がならない。そこも悪い癖なのだろう、”すごい奴は強い”などと無意識に決めつけている悪癖だ。

 

「……当てなきゃ、当たらんだろう? お前さん、どこに向かって撃ってるんだ。そんな撃ち方じゃハトの一匹も落とせねえよ」

 

 だからこそ、この言葉だ。

 相手ができると思い込んで無理難題をこともなげに言い放つ。苦しみ、もがいている相手に対して、なんで頑張らないんだと無神経なことを言ってしまう。

 それを愛のムチと呼ぶのかもしれないが、向けられた方はたまったものではないだろう。いくら自分=出久が頑張れる人間だったとしても。えてしてそういう人間は異端であることは間違いがない。

 

「……ッ! ――ッ!」

 

 爆豪の反論は届かない。

 物理的に口を塞がれているから、声を出せないのは当然だ。

 出久のそれは正論ではあるかもしれないが、実現不能な暴論だ。

 

「……やれよ」

 

 周囲は緑谷を止めようとする。

 なにせ、そんなものは馬鹿げた自殺だ。つまり、自分の顔面を焼き潰せば当たるなんて、狂気の理論だ。

 必ず当たる場所なんて、敵が入り込もうとしている自らの口や肌それ以外にない。

 敵が回避したとして、それはつまり拘束が緩むのとイコールだから脱出できる。

 もちろん、論理と現実は別だ。そんなこと自ら身体を焼くなど、正気で出来やしない。

 

「やれないなら、俺が助けてやるよ!」

 

 ためらっている爆豪を見て、出久が走り出した。

 そう、あの時とは違う。誰かが助けを求めている、だからこそどこまでも行くのだ。小賢しい理論など殴り壊して。

 

「――ッ!」

 

 爆豪が、何かを言った。

 

「なんだ、このガキ……!?」

 

 殴っても蹴っても流動する体には効果がない。

 なのに、緑谷は不敵な笑みで諦めない。これこそが光の宿痾、誰かのためならどこまでだって頑張れる。

 ――そして、悪を轢殺するのだ。

 

「臓器はなし。ペットボトルに入ってたもんな、予想はできてたさ。だが、別にお前さんは兵器じゃない。ただ生まれながらに戦闘に向いてたってだけの話だ。結果と要因は話は違うな?」

 

 拳の軌道が変わる。

 目を狙った。臓器がなくとも、視界には水晶体が必要だ。それはヘドロでは代用ができない。

 

「……ッヒィ」

 

 身をよじってかわした。

 そんなんでも、まともな人間的感覚はあるらしい。

 弱点がないなどありえない、なぜならそもそも彼は偶然強力な個性を持っているだけであって……無敵の個性をデザインされた改造人間ではないのだ。

 そう、例えば今の彼は知らないが……戦闘用に生み出された脳無とは違う。

 

「っがは!」

 

 一瞬口からヘドロが離れた爆豪が息をつく。

 

「やっぱり、弱点はあるよなあ!」

 

 次に狙うのは歯。

 これはヒーローが無能だったと言う話ではない。拷問前提の戦い方などヒーローはしないというだけの話だった。

 だが……

 

「無駄死にだ! 自殺志願者か!?」

 

 ヒーローの一人の声が届く。

 いかにためらいが無かったとしても所詮は無個性。薙ぎ払う一撃で死に至るから、有効な攻撃手法を得たとしても、攻撃する前に殺されてしまう。

 

「……なんで!?」

 

 爆豪が問う。理解できない、なんでこいつはここに居るのか。

 そして、このヘドロヴィランが恐れるのが自分ではないのか。

 

「……っ! 来るなァ!」

 

 ヴィランが無我夢中に腕を振るう。だからこそ、出久はここで死ぬ。

 流動体の重い一撃で死に至る。恐怖を感じたから手加減などできない、追い詰められた犬のような必死の反撃。

 そして、それを見逃せない男が一人。死を覚悟で、などとは思わない。出久が誰かを助けるため、体が勝手に動いたと信じるからこそ。

 

「プロはいつだって命がけェ!」

 

 血を吐きながらも、オールマイトが来た。

 ……助けに来た。

 

「DETROIT SMASH!」

 

 一撃だ。

 ただの一発で敵を倒し、雨すら降らせた。周りの火事が消火されていく。

 野次馬たちの歓声を聞きながら。

 

(――これが、オールマイト。すげえな)

 

 かくして、緑谷はすさまじく怒られた。

 自殺教唆だ、むべなるかな。しかも自殺志願の満願まであっては。

 しかし、上を向いて歩く。信念を貫いたことに後悔などない。自宅への帰り道を意気揚々と歩く。……つくづく、3時間に渡って叱られ続けた者の姿とは思えない。

 

 誰かが走って近づいてくる。

 

「デクゥ! 俺はテメエに助けを求めてなんかねえぞ、負けてねえ。無個性に助けられてもねえ。見下すなよ、クソナードが!」

 

 言い捨て、爆豪は去っていった。

 

「……ふう」

 

 ため息をついた。全くもって言っていることが分からない。見下してはいない、だがあそこで”頑張れなかった”爆豪に失望しただけだ。

 この世は分からないことばかりだ。光の道を歩む者は人の感情に寄り添えない。

 ――”それでも進む”。どこまでもまい進するのが彼らなのだから救えない。思いも、命も、全てを(わだち)にして背負っていくのが彼らの生き様である。

 

「私が来た!」

 

 電柱の裏からオールマイトが姿を表した。

 

「……ゴフゥ」

 

 だが、すぐにトゥルーフォームに戻ってしまった。

 

「少年、君に礼と……提案をしに来たんだ。君がいなければ口先だけのニセ筋になるところだった! ありがとう‼」

 

 オールマイトが手を差し出す。

 

「君なら私の”力”を受け継ぐに値する‼ 私の力を君が受け取ってみないかという話さ‼」

 

 すぐさま本題に入った。だが、直球過ぎて訳が分からない。

 この言葉だけでは説明責任を果たしたとは、とても言えないだろう。

 

「ああ」

 

 それでも出久は即答だった。

 なにも悩まず、躊躇もなく出久はオールマイトの手を取った。あまりにもはっきりしたその態度に、逆にオールマイトの方が面食らってしまう。

 

「……え。あの、説明とか聞かないの? 実は、台本とか用意してきたんだけど」

 

 そう、説明は用意してきた。

 まさか主題を言うだけで首を縦に振られるとは思ってもみなかった。

 

「まさか。オールマイト、あなたは素晴らしい人だ。そんなあなたを疑うことなんてできやしない。だって……それは、誰かを助けることなんだろう?」

 

 ゆらぎなど微塵たりともない。全てが本心だ。

 よくある考えなしの責任放棄でもない。考え抜いたうえで、オールマイトが相手なら疑うことなど何もないと信じている。

 

「……」

 

 言葉を失ってしまう。

 この子は本当に、人を見て、それで決めたのだ。ミーハー? 空気に流されて? そんなことはありえない。

 先の事件の顛末を見れば分かる。この子は、否……この男は全人類から石を投げられてもなお、自らの信念に従う筋金入りの頑固者だ。

 

「一つ、聞いてもいいかな?」

「ああ」

 

「なぜ、彼を助けようとしたのかな? 常識的に考えて、無個性では助けることなんてできないだろう」

 

 緑谷は少し考えて。

 

「……体が勝手に動いた。それだけだ」

 

 そう、それだけ。

 もとより小難しいことを考える性格などしていない。個性社会について意見を求められても”よくわからん”で終わる男だ。

 

「……ッフ。名を残したヒーローは必ずこう結ぶ。体が勝手に動いていた、とね! やはり思って通りだ、君は私の後継者に相応しい!」

 

 バンバン肩を叩いた。

 

「だが、オールマイト。俺は」

 

 ここで初めて苦い顔をする。

 期待されて、成果を出すのは望むところではあるがハードルが高すぎるだろう。どこまでも努力するのに躊躇はないが、それでやり遂げられずに迷惑をかけてはいけない。

 

「無個性だって大丈夫さ! 個性を譲渡する個性、それが私の受け継いだ個性! 冠された名は『ワンフォーオール』‼」

 

「一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い次へ、そうして、救いを求める声と義勇の心が紡いできた」

 

「――力の結晶‼ 君になら渡しても良いと思ったのさ‼」

 

 疑念を払うかのように指さした。

 

「ありがとう、信じてくれて。……あなたの期待に応えて見せる!」

 

 出久は拳を握り締めた。

 

「……君、本当に他人のこと疑わないね。少し心配になってくるよ。……現代の個性学ではそれの委譲などありえないとされているのにね」

「あんたなら信頼できる。騙されたとしたら、そいつは俺の目が節穴だったということだ」

 

「やれやれ、頼もしいな。だが、個性を受け継ぐには準備が居る。そのままでは個性に体が耐えきれず四肢がもげ爆散してしまうからね」

「修行か! なにをやるんだ? 100kmマラソンか? 1000kgプレスか?」

 

 なぜか嬉しそうにする出久だった。

 

「いや……そんなことしたら死んじゃうでしょ。今は私だってできないよ? そんなこと」

「そうか。確かに40㎞走ろうとしたら、途中で倒れて母さんにこっぴどく叱られたことがあるしな……」

 

「何やってんの、君」

「昔は42㎞走る競技があったと聞いたから、俺もできると思ったんだが」

 

「実はスポーツマンだったり?」

「部活には所属してねえな」

 

「ま、いいさ! 明日、海浜公園に集合だ少年!」

「おうよ!」

 

 そういうことになった。

 

 





 ヘドロヴィランの設定を少し変更しましたが、そもそも個性ってそこまで使いやすいものでしょうかね?
 シルヴァリオシリーズでは、万能なのは”そういうコンセプトで開発された”からですが。基本自然発生で、しかも腹下したり自分を焼いたりと言ったデメリット個性まで出ているのに、隙の無い個性は逆に不自然かと思いました。
 なので、五体満足で捕まえる気がなければヘドロヴィランは物理攻撃で倒せる設定にしました。


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