緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第19話 期末試験(飯田、切島VSエクトプラズム)

 

 お次は飯田と切島だ。

 二人とも仲良く出久に影響されたため、同じ弱点を抱えていた。勝利の栄光を目指していても、光の亡者にはまだ遠い。よって、強い相手に対しては当たり前に負けてしまう。

 ――のに、立ち向かう。

 それは無謀だが、光に焦がれた者には勇気と無謀は区別できない。

 飯田ならエクトプラズムを相手にせずにゴールに突っ込めば勝てる。もちろん切島も囮になる必要があるだろうけど、恐らく7割がた成功するだろう。

 他のクラスメイト達と比べても高すぎる成功率。だが、二人はその選択肢を選ばない。視野の狭い彼らでは、それができるようになるだけでも十分合格圏内だと言うことだ。

 

「さて、相手はエクトプラズム先生。どうする、切島君」

「当然、真正面から勝ちに行く!」

 

 もちろん、逃げるが勝ちなんて男らしくないことはしないのだけど。

 どこまでも努力し、あとは根性で補えばいい。その思い込みを何とかしない限り、自らの傲慢によって滅んだ強欲竜と同じ末路を辿るだろう。

 どこまでも本気を叫んで、他人と馴れ合うことができずに死んでいった彼と同じく、敵と戦って死ぬだけの虚しい生だ。

 

「同意見だ。だが、作戦を練る必要があるだろう」

「ああ!? んなもん要らねえよ。というか、作戦もなにもねえだろう。お前のエンジンと俺の硬化、真正面からぶん殴る以外に何かあるかよ。それとも、走って後ろからやるか?」

 

「それは御免だ。なるほど、ならば全力を出し切るか」

「ああ、制限時間なんて関係ない。走れなくなった時が俺たちの負けだ」

 

 まあ、最初から課題点を全力で投げ捨てに行ってる感がいなめないし、これでは課題を出したかいがないと言われるかもしれないが……これが今の彼らだ。

 ただ影響されただけ。オールマイトに憧れ、オーバードライブの表面をなぞるだけ。

 このままでは容赦なく不合格になるしかないだろう。

 

「行くか」

「応」

 

 ――試験が始まった。

 

「……む。愚かな」

 

 エクトプラズムが呟く。

 真正面からの特攻を選んだことを知れた。長時間の戦いに難がある二人。分身たちで足止めすれば、それで勝利だ。

 全力全開で短期決戦を決めにかかるのは間違ってはいないが、それでも格上相手に策もなく突っ込むのは論外だった。

 

「「……おおおお!」」

 

 気迫十分、分身たちを倒していく。

 そして分身のオリジナルの元までたどり着こうと。だが、実力差がある。例え分身であろうと、容易には倒せない。

 もちろん、これは試験だ。分身は彼らでも倒せる程度まで弱体化しているが……

 

「……っはぁ。っぐぅ――」

「ぜぇ。ぜぇ……はあ――」

 

 息が上がっていた。

 全力での戦闘、最初は効果が上がっていたが、全力を出せる数十秒が過ぎればすぐに頭打ちだ。

 しかも、飯田はレシプロバーストまで使っている。

 もう、残り時間もない。

 

「――愚かな。飯田君、君は頭もいいのに作戦を考えようと思わなかったのか? 正面から立ち向かうだけがヒーローの能ではない」

 

「そして、切島君。君が自分の頭が良くないと思っているようだ。だがな、君とて雄英に入れるだけの頭がある。自分の頭が悪いと思考停止するな」

 

 もう終わったものと、説教まで始めた。

 

「さて、切島君は硬度が弱くなってきたな。そして、飯田君もそろそろ限界だろう。相手が格上だからと、初めから切り札を切るのは良くなかったな」

 

 そして、全力で走り続けていられるタイムリミットが過ぎた。

 ――が。

 

「策ならある。この一瞬!」

 

 飯田が囲いを抜ける。

 終わったと見せかけての強行突破。相手が生徒と舐めているだけに効果はバツグンだ。

 更に言えば、その必殺技は体育祭でその欠点までお披露目済み、隙を突くと言うのならこれ以上ない判断だ。

 

「強行突破! 逃せば、こちらに勝ち目はない!」

「当たり前だ! 俺たちは、勝ァつ!」

 

 気合いを入れる。

 正念場はこれからだ。根性による限界突破。体力は尽きた、ならばそこからどれだけ踏ん張れるか。

 

「確かに僕のレシプロバーストには限界がある。だが、緑谷君に言われてね。何事も思考停止してはいけない、と。だから、なぜ限界があるのかを考えたわけだ。つまり肉体の防衛反応、これ以上は危険と判断して身体が勝手に強制停止しているわけだ」

「ならば、なぜレシプロバーストを使えている!?」

 

「――ならば、限界を超えればいいだけだ。それ以上使えば脚が焼ける……そんなもの、我慢すればいいだけの話! 出久はそうした。ならば、僕だってできるはずだ! そう、これこそが新たな必殺技! 『レシプロバースト・オーバーリミット』!」

「また……危険な真似を!」

 

 己の身体すら顧みない限界突破は、これこそ光の宿痾と言える。

 そして、その悟りを得たからには応えるのが個性因子だろう。それを成すだけの意志が、個性を暴走させる。

 

「だが、捕まえたぞ! 後で説教……なに!?」

 

 今度こそ完全に驚いた。威力が上がっている。

 自爆覚悟のオーバーリミットは、更なる自傷による威力の拡大という結果を引き寄せる。皮膚を焼きながらも威力はなお強大に成長する。 

 

 以前の彼を参考に調整した分身では、足止めすらもままならない。

 蹴り砕き、曳き潰してただ進むその姿はまさに砲弾。止まらない、全て叩き潰しながらまっすぐに。

 

「だが! 教師を舐めてもらっては困る! そんなヤケクソで倒せはせんぞ!」

 

 直線的なその前蹴りをいなされた。

 飯田はエンジンで無理やり回転して横から蹴撃を放ったが、それも防がれた。

 ならばと言わんばかりに縦回転で下から顎を狙うが、予想済と言わんばかりに頭を傾けるだけで回避された。

 

「……勝つ! 絶対に、勝ってみせる!」

「その意気やよし! だが、技がついていってないぞ! 一つ一つの攻撃が雑すぎる。連携がない! そんな有様では、敵に一撃入れることすらおぼつかん!」

 

 刻一刻と蓄積していくダメージ、攻撃の一つすらかすりもしない絶望。

 だが、飯田は立ち向かう。

 

「……俺だって、やるときゃやるんだ。忘れないでくれよ……なあ、先生!」

「切島! 寝てろ」

 

 分身で固める。こうなれば防御力など関係なく封殺できる。

 今は飯田の処理をしなければ。

 

「足手まといの、お荷物なんかじゃいられねえ。お前が限界を突破するなら、俺だって。……なあ、出久」

 

 頼るは根性。

 もうすべての手は出し尽くした。その先にあるのはそれしかない。それに……言うものだろう。

 

「男の武器は昔から決まってらあ! 気合いと根性、それ以外にあるものかァ!」

 

 リミットオーバー、限界突破。爆走する意思が硬化の軛を超えてギフトをもたらす。

 そう、それはもとより”防御力を上げる”だけのチャチな個性ではない。硬い意志を貫き通す、そのためのものだから。

 

「さあ、拘束なんてぶち壊してやったぞ。勝負はこれからだ! エクトプラズマァ!」

 

 『硬化』の個性が筋力増強の効果さえももたらしながら、ひたすら進む。

 この場で最高速のギアをぶち抜いた。もちろん代償はあるものの、土壇場での進化とすらいえる暴挙にエクトプラズマは驚愕する。

 

「ああ、俺たち二人の絆であなたを倒す! エクトプラズマ先生!」

 

 二人して向かってくる。だが……

 

「青いな。本来、連携とは高度な訓練を必要とする。友達がどうのなどではないのだ……このように」

 

 エクトプラズマがかわせば、そこには互いの姿が。――正面衝突する。

 同士討ちだ、ただ一直線に向かってくるだけの単調な攻撃は操作するのも容易い。そして。

 

「即席の連携を崩すほど簡単なものはない。こうしてやれば、後はいがみ合って勝手に自滅する……む?」

 

 同じように向かってきた。

 もう一度、同じように同士討ちさせた。切島の拳は飯田の腹を抉り、飯田の脚は切島の頭を刈った。

 普通は敵を放っておいて「わざとだろ」「わざとじゃねえよ」などといがみ合い始めるものだが。

 

「それがどうした!? 仲間が裏切るわきゃねえだろうが!」

「あなたが僕らの攻撃を利用したとしても、やることは変わらない! どちらかの攻撃を当てて倒すだけだ!」

 

 そんな様子は全くない。

 相手のことを信頼して、最善を尽くすと信じているから相方の攻撃が当たろうと気にしない。それは必要経費で、とても痛いけれど……根性出して我慢すればいいだけだ。

 

「おおお!」

 

 叫んでドロップキックをかましてきた飯田を身体ごと避け。

 

「逃げねえ。……勝つんだ!」

 

 殴りかかってくる切島の機先を制して拳を入れる。

 根性だろうが何だろうが、殴られている時には殴れない。身体が勝手に後ろに倒れていくのだから、それは根性の問題ではなく、物理法則的な必然だ。

 

「切島君。スマン!」

 

 だからこそ、ここで飯田がサマーソルトキックをかます。……切島へ。

 蹴って、無理やり体勢を立ち直らせたのだ。

 

「勝つ……んだ!」

 

 衝撃が走る。痛い。 

 だが、今は敵のことを。よくわからないが敵が目の前に居て、殴れる距離にいる。だから――

 

「……行けえ!」

 

 飯田が叫ぶ。

 友の声があるから、倒れるわけにはいかない。全てをこの一撃にかけ。

 

「俺と、お前で勝利を掴むんだ! 『烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)』!」

 

 全力のボディブローを放った。

 

「……まったく。強引な奴らだ、本当なら赤点ものだぞ」

 

 ふ、と笑って……エクトプラズマが倒れる。

 

「捕縛、完了だ」

 

 飯田が手錠をかけた。

 

 

 

 そして、モニタールームでリカバリーガールが独白する。

 

「まったく、どいつもこいつも甘い奴らばかりだ。エクトプラズマなど普通に起き上がれただろうに」

 

 嘆息する。

 とはいえ、命のかかった勝負ではなく試験なのだから……そこまでガチにする方が難易度的にヤバイだろう。

 

「ま、試験としては合格だからいいじゃねえか。いや、本当は学ばせたかった方と逆方向に突き抜けた感はあるが」

 

 出久はからからと笑う。

 アイツラは本当にすごくて、抱きしめてやりたくてたまらない。ああ、あれこそ(おとこ)と言うものだろう。

 

「本当にね。というか、そこはアンタにも言えるよオーバードライブ。どうせ人の言うことなんて聞きゃしないんだから、せめて他人の意見を参考にすることくらい覚えなさいな」

「……? 俺は八百万に頼らなきゃ試験に合格できなかったと自覚してるが」

 

「ホントにもう。反省も顧みることはしなくても、過去の経験から学ぶことだけはするんだから。……まあ、アンタについてはとっくに諦めたよ」

「お、麗日の奴も試験が終わったな」

 

「青山の坊主との試験ね。課題が何か分ったかい?」

「麗日の奴にゃ決定打がない。それに、今のを見る限りじゃ思い切りもねえな。最期、懐に飛び込んで勝利を得たようだが、判断が遅すぎる。それに、あの軌道じゃ向こうがその気だったら殺されて終わりだ」

 

「さすがにシビアな判定するね。それに、アタシにゃ手を離したのも偶然に見えたね。で、お友達じゃない方はどうだい?」

「手を離したのも偶然だと? 別に手が限界だったわけでもなさそうだが。ま、後で本人に聞いてみるか。それで、青山の方だっけか。……あれは論外だろ。麗日の足を引っ張っただけだ」

 

「言うね。……ああいう子、辛いよ。多分、周囲じゃ一番のヒーロー向けの個性だったんだろうね。破壊力があるし、なにより目立つ。でも……広い世界に出ればそのレベルの個性がいくらでも転がってるのに気付く。自分の個性に苦手意識を持ってれば、猶更ね」

「ま、それならそれでいいだろ。ヒーローなんて因果な商売しなくても、他に道はいくらでもある。きっと、アイツなら弱い人々の心を分かってやれる優しい経営者にでもなれるさ」

 

「アレの親が資産家だってこと、知ってたのかい?」

「いや、クラスメイトなら全員知ってるだろ」

 

「ま、安心したよ。アンタがクラスメイトが誰でも知ってることを知っていて、さ」

「何の冗談だよ」

 

「人から外れすぎるでないよ。人から怖がられたら終わりだ。一人で生きていけるほど強くても、人の輪から外れて生きていくような人間に誰かは救えない」

「――心にとどめておくよ、ばあさん」

 

 






 補足です。
 切島と飯田の進化は、出久がやった意志力による個性強制進化ではありません。あれはあくまで自爆による威力増強です。
 なお、SS主としては個性因子そのものにステータス上昇効果があると考えています。でなければ、吸血と言う増強と関係ないステインの強さが説明できません。だから切島も攻撃力がUPしました。
 ちなみにかなりの自爆ダメージを負ったので、この二人は後でリカバリーガールの説教です。

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