緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
最後の一戦、それは轟&爆豪とオールマイトの戦いだ。規格外を除けば正真正銘のNo1とNo2、同じ欠点を持っているのは偶然と言ってもよいのか。
強すぎる力を持つ者は孤立する。
――それは逃れられない定めなのか。
とにもかくにも、轟と爆豪は協調性がないと言うヒーローとしては致命的な欠点を持っている。
誰もついてこないなら一人でやればいい、それもヒーローとしての一つのカタチだろう。例えばエンデヴァーはそのタイプだ。
だが、ほかならぬオールマイトを前にそんな余裕はぶっこけない。
そう、かけ離れた実力差による虐殺劇が始まるのだ。
「――おい、半分野郎。俺の邪魔をしたら殺すぞ」
「俺のことを呼ぶなら氷野郎と呼べ。お前から凍らせてもいいんだぞ」
スタート、する以前から喧嘩を始める二人。
互いにメンチを切り、頭突きする寸前で睨みあっていた。こういうとき、ツワモノなら腐った想像でもするのかもしれない。
モニタの前ではクラスメイト達があちゃあ、と言う顔で見ていた。予想はできていたが……こういうのは悪い予想が当たったと言うべきだろうか。
「上等、テメエから潰す」
「……ふん」
個性を使ってBOMBOM言わせてる爆豪、しかし轟は興味を失ったみたいにそっぽを向く。
最悪の相性である。
そして、それに突っ込む役も居ず……試験がスタートしてしまった。
「俺一人で勝つ。いいか、テメエの力なんてアテにしね――」
「――言ってろ」
轟が走り出した。
彼の父親エンデヴァーの拷問じみた訓練は、ほとんど実を結んでいなかった。その教育の結果としてでかい氷壁、格上には通じない一発屋になった。
格下にしか通じない曲芸師、冷静に評価するならそのあたりだろう。原作轟であれば、無限に撃てるだけの固定砲台と言ったところか。
だが、ラビットヒーロー”ミルコ”に教えられたことを存分に活かすことで生まれ変わった。
鍛え上げられた肉体を用いた格闘戦への適正を得たのだ。
父親とは全く関係がないミルコ譲りの体術を振るうことに拒否感はない。ゆえに、彼は今や格上ともやり合える可能性を秘めている。
「さて、オールマイトは……おそらくゴール前だな。待ってろ、すぐに行ってやる」
とはいえ、戦術面は何も変わっていない。大雑把で、特に何も考えていないのだ。
そのままだから、敵を倒すための策を考える以前の問題だ。ただがむしゃらに正面突破を試みる。
「っざけんな! ぶっ殺すぞ、テメエ。俺を無視するとはいい度胸だ!」
すぐに爆豪が追い付いた。
……爆速ターボを使いながら。彼はいつも激昂しているように見せかけてクレバーだ。自らの実力を十全に発揮する方法を誤らない。
序盤からバンバン個性を使ってガス欠にならないかと言えば、そんなことにはならないのだ。
この試験はタイムリミット制、試験の時間中全力で動き続けるための体力配分に間違いはない。
そして、爆速ターボだって最初から全力を出すために身体を温めている手の一つ。無駄など何一つなかった。
「……」
「無視すんな、ゴラァ!」
ただ――そんないがみ合いが許されるほど、オールマイトの名は安くない。
例え、オーバーホールとの戦いで更なる爆弾を抱えようと……身体の半分の重りを付けられようと。
それでも、彼は平和の象徴なのだから。
ただの拳の一撃が空を割り、地を砕く。圧倒的なまでの暴虐が彼らに牙をむいた。
「――来やがった!」
「は! 遠距離攻撃なんてテレビで見たぜ!」
即座に反応。
両者ともに才能が有り、努力も欠かしていない。
爆豪は右手の威力を増大、自らを弾き飛ばして衝撃波の軌道から逃れようとする。
轟は持ち前の身体能力で横に飛びのく。実の親に殴られ、蹴られながら反射神経を鍛えてきたのだ、ならばそれくらいは。
――そう、きちんと対応できた。
ただ、オールマイトの前ではそれすらただの誤差だったと言うだけの話だ。
「え――がはっ!」
「なに……ぐッ!」
走っていた通路を丸ごと剥がすような広範囲攻撃だ。逃れようもない。
そう、反応出来て、方向転換もできた。だが、それで?
それで攻略できる存在が、No1など名乗れない。ただの軽い一撃で生徒たちの甘すぎる思惑を打ち砕いた。
「HAHAHAHAHA! さあ、間抜けなヒーローたちよ! このヴィランが叩き潰してくれよう」
遠くから響く声。
見えないはずなのにその姿ははっきりと見える。途中にある家々が全て吹き飛ばされてしまっていた。
「なんつー威力だよ」
「ふざけた攻撃範囲だよ、クソが」
立ち上がる。
方向転換できたのが良かった。真正面からその威力に正面衝突していたら、立ち上がれなかったかもしれない。
「なあ、少年たちよ。このオールマイトが、いがみ合いながら勝てるほど弱いとでも?」
すぐ傍にオールマイトの顔があった。
まだ位置が遠いから殴られはしないと、高をくくっていた顔が驚愕に歪む。
「――嘘だろ。速すぎるだろ」
「もうちょっと頑張りたまえ」
轟を殴りつけた。
ボールのように吹き飛んでいく。……が、かろうじて防御はできた。意識は保てているし、骨も折れてない。
「おっと。やっぱ重いなコレ。うーん、我ながら拳にキレがない。……で、爆豪少年は何してるのかな?」
ぶんぶんと腕を振って見せる。
試験前に付けた重りは、オールマイトをこそもっとも縛っていた。常人ならば死んでいる負傷、そして全力を超えた代償はまだまだ回復できていないのだから。
「――溜めてたんだよ!」
籠手を向けた。
悪役プレイさながら。仲間がやられている隙に必殺技の段取りを整えた。轟を犠牲にしてのチェックメイト。だが、しかし……
「いやいや、初っ端から必殺技はマズイよ?」
「……!?」
ピンが引き抜けない。
オールマイトの手に掴まれて、動かせない。離れた箇所から一瞬で目の前まで近づかれてしまった。
「そういう”いかにも”なギミックは発動方法に予想を付けられちゃうんだよなあ。コレ、抜かなきゃ作動しないんだろ? 見れば分かるぜ」
「――調子に乗ってんじゃねえ!」
顎を狙った蹴り。この体勢からでも十分に威力を乗せられるのは生来の動きのキレの良さからだ。
チンピラ相手なら何もわからないうちに失神させられる。
「やぶれかぶれはダメだぜ?」
真剣白刃取り、とは違うだろうがしっかりと足を掴まれてしまった。オールマイト、No1ヒーローは、分かっていたことだが強すぎる。
「じゃあ、普通に撃つだけだ。……そもそも、あんたにリスク無しで勝てると思う方が間違ってたぜ」
ならばと、装備に頼らず掌から最大火力を放とうとして。
「判断が遅いぜ」
何かを感じたと思ったら視界が凄まじいスピードで回転する。投げられたことは自覚できない。
三半規管をゆさぶられるダメージと、何が起こったかわからない混乱が頭を地獄のようにゆだらせる。
もはやチェックメイト。
とりあえず、試験の総評はスタートしたのに仲間といがみ合ってるのは論外、と言うことで。
「――ふざけんな!」
爆豪は認めない。
侮っていた出久に無様に負けた。そう、完膚なきほどに負けた。
じゃあ、と憧れた相手に想いをぶつけたら、一つだけ教えてくれたことがあった。だから、それを頑張ろうと思って。
けれど、
気絶だったのだけど、それこそ爆豪にとっては逃げと同義だ。
「ここで無様に負けて、アイツに追いつけるかよ!」
何もわからない。……否。”このままでは負ける”ことは分かっている。
それこそオールマイトの手の内、狙い撃ちだ。
ならば、状況を変えなければならない。どうあっても。
「おおお! お! がっ!」
爆破、爆破、爆破。何もわからないから、とりあえず移動する。自分がどこに向かうのかも分からず爆速ターボを放つ。
3回目で見事に地面に叩きつけられたが、そうなるのは分かっていた。視界に入る情報が処理しきれないのに滅茶苦茶に移動すれば壁に当たるの当然だ。
だが、おかげで分かったことがある。投げられたのだ、空中で回転していたから視界が滅茶苦茶になっている。
そして、無様に這いつくばろうと、倒れ伏せたのだからそこは地面。ならば。
「立ち上がるんだよ! 何度でも!」
痛いのも、視界がゆれても我慢して立ち上がった。
「おいおい、無茶をする。だが、私好みだ。……そして」
オールマイトが視線を横にやる。
「一度ぶん殴られたくらいで俺は止まらねえぞ、オールマイト。闇の中で這いつくばった経験に比べりゃ、この程度の痛みなんぞ」
そして、殴り飛ばされた轟が戻ってきた。
ゴールとは逆方向に飛ばされたとはいえ、爆豪を囮にゴールに行くことなど考えていない。
「どうせ俺なんて不合格になると思ってんだろ? その鼻、明かしてやるよ。……テメエごとぶち抜いてやる。恨むなよ、爆豪」
「それは俺のセリフだ。テメエごとぶち殺してやるから、化けて出てくんなよ」
そして、とても仲間に向けるものではないことを言う。
「「――上等。やってやるぜ」」
走り出す。
「いや、協調性というものを身に着けてほしいんだけどね?」
なんか曲がりくねった挙句、明後日の結論を出してしまった彼らをオールマイトは迎え撃つ。
さすがにこれは不合格かな、なんて思いつつ。
「死ィねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
爆破爆破爆破。その三連奏が生み出すは爆速ターボを超えた加速。
もはや己に返るダメージすら無視しての人間砲弾を撃ち出した。体当たり、だが反射ダメージを顧みないそれは強力だ。
「ちょっとそれは受けきれないKANA!?」
オールマイトは避けた。
「ボケが。無理やり付き合ってもらうぜ!」
砲弾から手が伸びる。
なぜなら、それは爆豪なのだから。手くらい出すし、なんなら噛みついても来る。
「この距離なら殺せる! ハウザーイン……」
「それは喰らいたくないな!」
拳を打ち下ろし爆豪の身体を地面に叩きつけた。
オールマイトの額には汗、今の身体でそれは勘弁である。まあ、危うげなく技の発動ごと潰して見せたわけだが。
「俺は忘れても仕方ないモブかよ。……なあ!?」
そして、遅れてきた轟。
「ちょ――このタイミング、アレ発動してたら君も喰らってたよね!?」
「それがどうした。日陰者は傷くらい覚悟しねえと進めねえんだよ! 食らいやがれェ」
強烈な蹴り。だが。
「ふん!」
はじき返した。氷結は発動しない。
「――轟少年、いい蹴りだ。だが、個性を使うタイミングがわずかに遅れたな。……精進すると良い」
今度こそ、轟が一撃を受けて気絶する。その前に。
「っちィ! だが、まだだ!」
氷壁を張る。オールマイトを前には目隠しくらいにしかならないが……今、この一瞬においては貴重な一瞬が稼げた。
「おい! 爆豪! 寝てるな!」
「起きてんだよ! テメエも、オールマイトも……ぶっ殺す」
ついに、ハウザ―インパクト発動。
オールマイトも、そして轟も飲み込まれる。……が。
「これで一人。まったくしぶとい少年たちだ」
オールマイト健在。
轟の首に手刀を当てて寝かせたと同時、彼をかばいながら身を伏せて威力の大部分を空振りさせた。
「もう限界だろう。休め」
「聞こえねえな」
爆豪は構えを取る。
そう、あの日に教えてもらった構えを毎日毎日来る日も来る日も打ち続けて。それでもまだ出久がやっていると言う1万回には届いていないが、いつも明日は届かせるという信念で挑んでいる。
「……それを教えたのは私だったね。なるほど、最後はそれか」
「絶対、勝つんだよ。アンタにも、そしてデクにも」
オールマイトが歩いていく。爆豪がそれを待つ。
「では、最期を飾ろうか。……ド派手に行こう!」
「好きにしやがれ。……勝つのは、俺だァ!」
間合いに足を踏み入れた。
その瞬間、爆豪が完全な軌跡を描いて拳を入れる。
そしてオールマイトが同じように拳を入れる。
教えた者、教えられた者がただ愚直に拳を合わせる。
殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。殴る。殴られる。
一発、一発を丁寧に。
――そして、両者同時に倒れた。
「やれやれ。……さあ、ゴールまで行くと良い、爆豪少年。実は足を凍らされてしまっていてね。体力が限界なんだ。もう動けん」
オールマイトが言う。彼はそのまま倒れたままだ。
「勝つんだ。……どんなに無様でも。……俺は、勝つ」
けれど、爆豪はずりずりと這いずりながら芋虫のように進んでいく。
誰が見ても哀れさを誘う光景で、彼にムカついている人間にとっては胸がすくような気がするかもしれない。
けれど。
「……すごい」
「生意気だと思ってたけど、根性あるなあ」
「あいつ、あんなに本気だったんだ……」
最終戦、モニターの前に1-A皆が集まっている。
泣いていた。あまりにも凄まじいその光景に胸がいっぱいになった。
ああ、そうとも。どれだけ格好悪くても……立ち上がることすらできなくとも、彼はヒーローだ。
「ハハハハハハ! そうだ、誇れや。かっちゃん! テメエの勝ちだ!」
出久も大笑しながら拍手を打つ。
皆、つられて拍手し始めた。
彼がゴールをくぐる。……爆豪、轟。試験クリア。
最後、オールマイトは(気持ち的に)立てませんでした。
多分ヴィランが来たぞと言えば跳ね起きますね。