緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
そして、苦しい試験が終わったら打ち上げをするのは若者として当然だろう。アルコールなどなくとも、気心が知れたものと一緒に騒ぐだけでとても楽しいものだ。
そういうわけで、いつものメンバーにもう一人を加えてファミレスに来ていた。
「――うわあああ。絶対落ちたよう」
泣いているのは麗日だ。
まあ、散々な結果と言っていい。勝ちはしたが、それは13号が危険行為に驚いて隙ができてしまっただけ。
まあ、雄英教師として情けないというべき場面であろうが、しかしだからといって麗日の自殺行為が褒められるわけがないだろう。
まあ、あの場面なら確実に死んでいたと思うのはオーバードライブに毒されている証なのだが。常人は勝ったから、ともう少し能天気だ。
「ハハハハハ! ま、それもいい経験だ。本番なら死んでたじゃねえか。今のうちに失敗できてよかったと思うぜ!」
笑い飛ばす出久。
確かに結果は落第以外にないだろうが、それも貴重な経験と豪快に笑っている。そもそも、彼自身が八百万がいなければ盛大に落第していた。
もちろん、殺されないのが分かっているからいい経験だと突っ込もうとしてはいたものの。それはむしろ減点ポイントになるはずだ。
「まあまあ、勝てたんだろ? まあ、ちょっとはヤバいかもしれないけど、温情を期待しようぜ」
こちらは普通に慰めている切島。
ノリが出久に近いところがあるが、それでも常識人をまだまだ抜け出せていない。プルスウルトラを超えたオーバードライブは遠い。
まあ貴重なストッパー枠は重要だと言うことで。
「悩んだときはヤケ食いですわ!」
こちらは悩みを吹っ切れて嬉しかったのか少々ハイテンションになっている八百万。どんどん料理を頼んでいる。
前来た時に皆で食べたのがよほど楽しかったらしい。
「嬉しい時は?」
「もちろん、お祝いにいっぱいご飯を食べますわ!」
ちなみに、こんなでも八百万は太らない。
ダイエットなどしなくても、個性を使えばいくらでもカロリーを燃焼できるのだ。端的に言って世の中の女性の敵である。
「同じじゃねえか。はっはっはっは!」
なぜか出久とコントを繰り広げている。
うるさいことこの上ない。ありていに言って他の客への迷惑なのだが。
「――静かにしたまえ、緑谷君! 麗日君! ここは公共の場だぞ。雄英たる自負を忘れぬように! 周りに迷惑をかけないように!」
こうして、注意するメンバーもいる。
「なんだよ、天哉。ちょっとくらいいいじゃねえか。ちょっと話しているだけだぜ」
「そのちょっとくらいが風紀を乱すのだ!」
だが、実は一番うるさいのが飯田だった。
「ぶえええええええん!」
「おお、よしよし。飲んで忘れようぜ」
泣き出してしまった麗日に切島がコーラを差し出す。
「……緑谷、ポテト頼んでいいか?」
なぜかフライドポテトに並々ならぬ執着を見せる轟。
誘ってほしそうに物陰から見せていたから、出久が誘ったのだ。まあ、父親の呪縛から逃れたことがいい方向に行っているのだろう。
こうやって仲間と食事に行くのはいい傾向なのだろうが。
――カオスなこと、この上なかった。
出久はとりあえず沈んでいる麗日に声をかける。
暗い雰囲気はよくない。だが、こういうときなんて声をかけていいのかも分からない。ただ、分からないからといって口ごもる性質でもない。
「……なあ、麗日。個性の使い方を考えないのか?」
「え?」
それこそ、それくらいしか引き出しがない。
戦いと、闘争に個性を使用すること。出久はそればかりだ。
「まあ、俺が役に立てることと言ったらそれくらいだしな。お前は戦闘にほとんど個性を使ってなかっただろ。青山の方も、使う間もなく追い詰められてたが」
ちなみに青山に関して言うことはない。親しくはないし、そして不合格な理由を共に試験を受ける仲間が駄目だったからとしてはいけないだろう。
「あ……うん。だって、13号先生強かったし。あんな問答無用で来られちゃどうしようもないよ。瓦礫を投げても分解されちゃうんだよ?」
そして、こと『個性』にだけ目を向ければ最強なのは13号だ。オールマイト? あれは本人が強いだけだ。
ブラックホールは攻撃力が無限大……まともな精神では立ち向かえない。まあ、そこを乗り越えて踏み込んでさえしまえば本人の方は何とかできるのだが。
「麗日の個性、『無重力』か。瓦礫とかないと意味がないから使いづらそうだよな。ま、言って俺も硬くなるだけだから、たまに個性じゃなくても良くねってなるけど」
「切島の『硬化』なら使い道があるぞ? というか、お前も見てただろ」
「え、何がだよ。いいのがあるなら言ってくれ」
「USJの脳無だ。奴は身体を爆弾に変えて加速していた」
あの脳無が身体を爆弾に変える個性を持っていた。もちろん再生能力も持っていたから残弾は尽きない。
そして、踵を吹き飛ばせば漫画でよくある瞬歩が。背中を吹き飛ばせば超高速の体当たりだ。
「……怖ぇよ。自爆とかヤだよ。つか、できねえよ。『硬化』だぞ」
「サポートアイテムですりゃいいだけの話じゃねえか。……んで、麗日だな。個性の高速スイッチが可能なら、踏み込みの瞬間を無重力で、そしてインパクトの直前に戻せばパンチ力が上がるぜ」
「あ、それいいかも! すごい修行が必要そうだけども!」
麗日の顔がぱっと明るくなる。
格闘術に関してはインターンで仕込まれた。たかが1週間でそれなりの者に仕上がるとは、教えた方も教わる方もすごいが……まあ、それにしても出久の提案は難易度が高すぎる。
そも、初めに個性の終了条件を変更すると言う絶望的なハードルがある。
「いや、やめとけよ。それ、腕にダイレクトに負担が来るだろ。……限界超えた力を発揮すると、普通に後でフィードバックが来るんだよな。今も殴られた傷より身体の節々が痛いぜ」
それが限界突破の代償だ。
出久が普通に我慢できているせいで大したことがないとか思われるかもしれないが、大人でも耐えきれずに鎮痛薬に依存するレベルだ、本来は。
切島がそこまで行くかと言えば、これからの苦難次第だろう。必要もないのに限界突破など本来ならありえない。し、学園生活でそこまでの覚醒を求められるようなことなど間違っている。
「ちぇー。でも、必殺技がないと置いてかれちゃうよね。ちょっとくらい、痛い思いは必要なのかな……?」
「俺が言っても説得力がねえだろうが、必要はないぜ」
出久が言う。
全く説得力がないように聞こえるが、真剣だ。確かに相手を倒すと言うなら覚醒は全てを解決する。
けれど、実際にそれをやり、代償に身を蝕まれている人間からすれば他人にそれはやってほしくない。
「え。でも、そんなの――」
「それこそ13号先生とかか? 戦うばかりがヒーローじゃねえもんな。誰かを救うのだって立派なヒーローだ」
そう、敵を倒すばかりがヒーローではない。
まあ雄英の校風としては敵を倒すことを重要視しているのは間違いがないが、だからと言ってトップランカーに殴り込みをかけなければ卒業生失格というわけでもない。
この個性社会で、ヒーローの姿は一つじゃないのだから。
「あ、そっか。切島君、頭いい」
「ま、その戦闘を得手としてない13号先生に完膚なきまでに負けたわけだが」
「だよねえ。戦う力は必要だよねえ……どーしよ」
まあ、そこが課題だ。
雄英に入学した以上は戦闘力は必須。とはいえ、『無重力』では攻撃力が足らないし応用にかける。
「まあ、一つ言わせてもらうなら、付け焼刃ではどうにもならないという事実だな。ヒーロー殺しの体術は下手な個性よりもよほど格上だった。自分を軽くする、ものを軽くする……ただそれだけなら個性なんて関係なく体を鍛えたほうが良いかもしれねえな」
「そんなぁ……」
努力は人を強くする。正論だが、それだけにどうにもならない。
年月と言う血肉を積み重ねないと仕方ないのだが、それは一朝一夕ではどうしようもない。
「それを否と言う気概があるのなら、飛躍する他ないだろう。個性は無限に進化する、それまでとは別物と言えるほどに鍛え上げれば、見える光景もあるかもな」
ぽつりと言う。
それは理論値。出久でさえたどり着けない個性進化の果て。究極にまで手を伸ばさない限り、決して理解できない。
「きっと、それははた目からでは理解できないようなものとなるだろう。例えば、オールマイトの個性が単なる超パワーだと言われているように。……本当に凄まじいものは、間違っていると分かっていても陳腐な言葉を当てはめるしかないのさ」
オールマイトの個性が『超パワー』だなんて、本人はそう言うけども誰も信じていない。
だが、しかしじゃあこれだというものもないのだ。そのように言葉では表せないほどの能力こそが究極だろう。
「……理解できないほどの個性。――それが」
麗日は目を伏せる。
話が終わったと判断したのか出久は轟に声をかける。
「よ、喰ってるかい?」
轟はもくもくとポテトを食べていた。
「ああ、こういうのもいいもんだな。にぎやかで」
「はは。もっとしゃべろうぜ」
打ち上げの楽しい時間が過ぎていく。
――ただ一人、麗日だけは掌を。個性の発動キーである肉球を眺めていた。
ゼロ・グラビティって今のインフレバトルについていけていないイメージがあります。正直、相手を浮かしたところで空中機動手段すら持ってない雑魚しか倒せないし。攻撃力も
上がらない以上、彼女がついていくのは難しいのではないでしょうか。
そもそも触れたら相手を無効化できるって、実力者なら空中移動手段くらい持ってるものでは?
というわけで、後でオリ能力を付けます。