緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第23話 林間合宿・日常編

 

 職場体験、そして激動のショッピングモールでの一幕が終わり、1-Aは林間合宿へ向かう。

 彼らを乗せるバスが空き地に止まり、彼女たちがやってくる。

 

「きらめく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ‼」

 

 二人のヒーローによる土砂崩れで、生徒達は崖下に叩き込まれた。バスが事前に知らせてない位置で止まったとき、すでに訓練は始まっていたのだ。

 さすがに動揺し、なすすべもなく飲まれる生徒たち。もしかしたら動揺さえしていなかったら反撃できたかもしれないが、まだ彼らには覚悟が足りない。

 ヒーローは救う存在であるのと同時に”襲われる”存在なのだという自覚がなかった。

 ただ一人を除いて。

 

「――甘いぜ」

 

 だが、すでにオールマイトと共闘すら行った出久をそんなもので止めるのは不可能だ。

 常在戦場の志、ここにあり。

 彼ならば、例え風呂場だろうが襲われれば拳を振るうに否やはない。即座に戦闘へと移行する。

 

「だと思ったよ、跳ねっ返り」

 

 イレイザーヘッドが彼を見る。個性無効化、だがワンフォーオールを消されたところで出久は止まらない。

 ワンフォーオールはこれ以上なく尊い代物で、そして強い。だが、頼り切るのは違うだろう?

 

「関係ねえな! ――ッ!?」

 

 彼女たち二人の中から、即座に土砂崩れを作った方を見分けて特攻する。

 ピクシーボブは、身振りも何もなしで個性を扱えるほど戦闘に特化していない。見分けたなら、後は速攻だ。

 この個性は距離さえ縮めれば役に立たない。

 ワンフォーオールなしの出久の拳が突き刺さる。相手は女だ、手加減はしているがゲロくらいは吐いてもらう。

 

「甘いのである。敵は、これで全員と思う心の隙に付けこんでくる」

 

 三人目、虎が来た。手加減なしで殴りつける。

 出久の力はオーバーホール戦がテレビ中継されたことで知れ渡っている。そこら辺の対策くらいはしてあるのだ。

 土砂崩れに巻き込まれないのは予想済みだから、対応も打ち合わせ済みだ。それでも、彼女が一撃貰ったのは個性なしの出久が速すぎた。

 

「……いい拳だったぜ! こんちくしょう!」

 

 出久もまた崖下に消えた。

 ちゃんと防御はしているのが抜け目のない彼らしい。イレイザーヘッドに個性を消されていなかったらダメージ覚悟の反撃をしていた。

 これで、イレイザーヘッドの効果範囲から逃れた。ということになり、普通なら死角に潜んで奇襲を狙うところだが……

 これは授業である。合宿所の方へ向かって一直線だ、そういうところでへそを曲げる彼ではなかった。

 

「――さて」

 

 崖の下で目にしたのは、獣を前に膀胱が限界を迎えた峰田。決壊した様子が哀れみすら誘う。

 気を失ったみたいに呆然としている彼の前に。

 

「気をしっかり持てや。つか、雄英なんだから自己管理くらいやっておけ。トイレ中だから漏らしながらヴィランに殺されましたとか、親はどんな顔をして聞けばいいんだよ」

 

 さっそうと現れる。

 彼の前に立ちふさがり、そして。

 

「み、緑谷ァ!?」

 

 獣を蹴り砕いた。

 ――それはぼろぼろと、土くれになって崩れていく。

 

「ま、こんなもんか」

 

 誰かが、そういうことかと呟いた。

 これも雄英の授業、土で作られた獣を突破する。それがこの試験。この獣達も、あそこにいたヒーローの個性による産物なのだ。

 そして、これらを突破して目的地に着くのがゴール。タイムリミットは。

 

「そういえば、午後2時までにたどり着け……だったか。昼前についてやるぜ」

 

 弾かれたように疾走する。

 ワンフォーオールを使えば土の獣など物の数ではない。殴り、引きちぎり、圧倒的なスピードで進んでいく。

 後ろを気にもかけずに。

 

 ……

 

「お、さすがに早いね。さすがNo.1後継者」

 

 出迎えたのはラグドールだった。

 感心感心と頷いている。殴られた恨みとかはない、ただ凄いなと思うだけだ。しっかり手加減はされていたし。

 

「No.1はやめてくれ。俺はオールマイトの弟子だが、それで譲られていいものじゃないだろ、No.1ってのは」

 

 出久は露骨に顔をしかめた。

 

「なるほど。ま、そのあたりはわからないでもないけど。確かに言われてみれば、本気でNo.1を目指してるNo.2さんに悪いか。じゃ、オールマイトの弟子君と呼ぼう」

「俺はオーバードライブだ。いつか覚えさせてやる」

 

「覚えてはいるんだけどね。でも、うーん……豪華昼食はさすがに用意してないんだよなあ。私たちの昼食、食べてく?」

「ああ、貰うぜ」

 

 そこに、イレイザーヘッドが来る。

 

「緑谷か。11時、ね。事前に森を破壊するなと言っておいたんだが」

「悪いね。何本か折っちまった。思ったより脆かったが、あれ木か? あれだけ太くても、もう少し”しなる”と思ったんだが……」

 

「訓練用の促成栽培だからな、壊れやすいんだよ。実戦でも、ものはあれくらい丁寧に扱え。いいな?」

「了解。これも、先生の教示だと思っておくぜ」

 

「そうしておけ。あと、昼めし食ったら用意しておけ。どうせお前は突破すると思ってたから、別の課題を用意しておいた。合理的にな」

 

 

 一方、残された1-Aはというと。

 

「おおおおお!」

 

 飯田が土の獣を蹴り砕く。

 だが、獣は連携する。耐久力はそこまででもないが、数がいる。一匹を倒す間に囲まれる。

 今もまた、一匹を倒す間に3匹からの同時攻撃を受けそうになっている。今の彼の実力ではこの森を抜けるのは不可能だ。

 

「てやあああ!」

 

「そこですわ!」

 

「おらあ!」

 

 そう、一人でなら。

 麗日、八百万、切島の三人が迫ってきた3匹を打ち砕く。

 プロから見ればお粗末であるものの、しっかりと連携している。一匹の生物のような有機的な動きは期待できないにしろ、互いの隙をカバーすることをしっかり意識している。

 一組になって動けば実力は躍進する。一人より二人の方が強いのは常識だ。

 

「……よし! こっちは足止めできたぜ!」

「こういう逃げる所に関して有能なのよね、峰田ちゃん」

 

 『もぎもぎ』の個性と蛙吹の視野の広さなら、足止めに絶大な威力を発揮する。1-Aの面々はUSJでの経験を経て、しっかりと連携の重要さを学んでいた。

 孤立しては何もできない。だが、仲間と一緒なら立ち向かえる。何でもできる。

 

「それじゃ何もできねえだろ。……哀れだな、獣ごときにゃお似合いだ」

 

 そして、轟が凍らせた。

 そのまま砕く。氷結の恐ろしいまでの力は相変わらずだ。

 メンタル面も、変にマイナス方向に固定されてしまったものの……安定と言う意味では心強い。

 

「うひょお、相変わらずすっげえ威力……」

 

 峰田が口に手を当てる。

 敵じゃなくて良かったとしか思えないほどの個性である。

 

「やってんなあ。だが、その程度じゃあ、これからの戦場は生き残れないぜ」

 

 声がした。その方向を見てみると。

 

「緑谷君……!?」

 

「なんだ……その恰好……ッ!」

 

 見るからに悪者ですと主張する赤い鬼面。駄目押しに、背中にはヒーロー皆殺しと書かれた旗がバタバタとたなびいている。

 それは、一昔前の不良でもしないような格好であった。

 

「今の俺はヴィランの『オーバードライブ』。能天気に合宿に来た哀れな卵ども! 貴様共は我らが仕掛けた罠に嵌ったのさ! さあ、英雄となる前に殺してくれよう! そして、世界に革命の火を掲げるのだ!」

 

 呵呵と大笑するその姿。

 つまりは、そう。これこそがイレイザーヘッドの言った次の課題。

 更に向こうへ。土の獣の次の相手は出久だった。

 

「だ、だめだ。あいつはオールマイトの後継だぜ!? 勝てるわきゃねえよ、オイラは逃げる!」

 

 峰田が全力で駆けだした。

 

「駄目よ、峰田ちゃ……」

 

 蛙吹が止める。逃げるしかないと言うのは確かにそうかもしれないが、しかしそんな無防備に走っては――

 

「遅え」

 

 ズドンと、足で背中を踏みしめる。腹の中のもの全てを吐き出すような衝撃が峰田を襲う。

 硬い、重い。圧壊する。目の前が真っ暗になる。

 

「……っが。あ――」

 

 昼を食べていたら全て吐き出していた。今は胃の中が空っぽで、むしろ助かったのか。

 白目をむく。

 

「駄目だぜ、峰田。確かに逃げることそれ自体は責められることじゃねえ。強敵が相手なら、ちゃんと逃げねえとな。だが、だからといって背中を見せるのは違うぜ。敵が見逃す理由なんて、どこにもねえんだからさ。HAHAHAHAHAHA!」

 

 大笑が響く。

 そして、そこに反応するのが一人。

 

「――今、俺を笑ったか?」

 

 ミルコ譲りの強烈な蹴りが突き刺さった。

 蹴り飛ばされ、木に叩きつけられてその木ごと氷結する。

 制御が大雑把、かつ威力が低いのを解消するため、ヒーロー殺しのときも見せた新技だ。

 

「……げほ。はあ、助かったぜ轟。はっはぁ! 残念だな、緑谷ァ。ヴィランなんてイキがっても、そんな風にやられちまうんだからな! 俺たちのゴールをそこで指くわえて見ているが……い……い……?」

 

 音がする。

 叩きつけるような音。それは氷河が割れる音。

 

「戦う気がねえなら退いてろ。こいつは俺が相手する」

 

 轟が目の前を睨みつける。

 

「嘘だろ!? あれで倒せてねえのかよ! どんだけチートなんだよ、緑谷って野郎はよォ!」

「下がるんだ、峰田君。ここは逃げの一択が正解だ。見たまえ、旗と鬼面に騙されがちだがあちこちにおかしなふくらみがある。……おそらく、全力を出させないための拘束具が何かだろう」

 

「それで1-A全員を相手にできると思ってるわけか。……なめやがって」

 

 一際大きい音がして氷が砕け散る。

 

「こういうとき、真っ先に突っかかってきそうな奴がいねェな。どっかに行っっちまったか?」

 

 そうしゃべる顔にダメージの色は見えない。ほとんど通じていない。必殺の一撃のはずが、わずかに動きを止めただけとは。

 

「あいつは集団行動が苦手みたいでな。お前を追いかけて先に行っちまったよ」

 

 そう、ここには爆豪を除く1-A全員が集合している。分断されることなく、実直に進んでいるのだ。

 そして、一人が前に出た。

 

「切島か!」

「俺は逃げねえ! 挑んでやる!」

 

 『硬化』全開で殴りかかる。

 実力差は客観的に見ても天と地の差だろう。だが、それで挑まないのは男が廃ると意気を上げた。

 

「いいぜ、来い!」

 

 緑谷も受ける。

 突破を最優先とするなら、切島を囮に散らばってゴールを目指すことが最善だろう。すでに土の獣の能力は把握した。慣れてきているから、一人でも突破は可能だ。

 緑谷に捕まる何人かは脱落するだろうが、それが最もクレバーで堅実な手段。

 

「……挑むぞ、緑谷君!」

 

 しかし飯田がレシプロバーストをもって襲い掛かる。

 持久力に欠けるその必殺技は、戦術としては落第だ。ここで全力を出したところで、後に続かない。

 それでも、逃げたくはなかったから立ち向かう。堅実なだけの手段など選ぶことはない。

 

「だが、共に向かうだけでは意味がないぞ! 重ね合わさなくては、ただの力に他ならない。隙を突くのは容易いな!」

 

 切島の顎を撃ち抜き、わずかに意識を失った瞬間……飯田の方に押し出した。

 飯田はもう止まらない。車と同様に。

 

「では、私が束ねるための糸となりましょう」

 

 飯田の身体が持ち上がる。八百万が、糸を使って無理やり軌道を変更させた。

 

「……ッチィ!」

 

 だが、その状態からでも出久は回避した。

 鬼面を狙うその一撃を回避するために身を伏せて。

 

「っおおおお!」

 

 切島が復活した。

 ラッシュを喰らってしまう。ガードはするけれど、勢いが強すぎる。1秒で体力を使い切ってしまうようなラッシュを前にカウンターを取れない。

 

「だが……まだだ」

 

 ダメージが薄い。

 今の切島では押し切れない。「逃げたくない」という思いだけで立っている彼には訓練の積み重ねがない。

 

「うん。……だから」

 

 もう勢いが落ちた。対抗できたのは一瞬だけで。

 

「今です! どいてください、切島さん」

 

 しかし、その一瞬さえあれば良かった。

 ここには18人のクラスメイトがそろっている。皆で試験をクリアするために、協力できる。

 

「超・合体必殺! 『元気玉』ァァ!」

 

 麗日が叫んだその名前は今漫画からパクってきたものだろう。だが、威力は本物だ。

 全員の必殺技を一塊にして投げつけた。

 

「……は。お前ら全員、やっぱりヒーローじゃねえか」

 

 地響きとともに、出久は地面に叩きつけられる。

 だが。

 

「まだだ」

 

 ――立ち上がる。

 光の宿痾は極度の負けず嫌いだ。

 クラスメイト達の結束、合体技。それは素晴らしい光だった。ならば、自分もまたその光に相応しく進化せねばなるまいと。

 暴走する光の意思が、拘束具すら破壊する。

 

「お前ら、逃げるぞ!」

 

 だが、彼らは一目散に逃げ去った。

 「ただ背中を向けるだけじゃ駄目だぞ」は出久の言葉。彼らはその通りに、一撃与えて怯ませてから逃走に移った。

 

 結果……全員で夕食に舌鼓を打つことができた。

 

 

 





 ちなみに爆豪は4時くらいに到着しています。他メンバーは7時くらい。
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