緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

25 / 70
第24話 英雄の犠牲者

 

 一人の子供、洸汰がとある場所で膝を抱えていた。

 吹きすさぶ風がうなりを上げる。眼下では1-Aの生徒たちが集まって騒いでいる。一人でいるには余りにももの寂しい光景だが。

 それでも、彼にとっては虫唾が走る連中と一緒にいるよりはマシだった。

 

「よ、坊主。興奮しすぎたかい?」

 

 そこに出久がやってきた。片手をあげる。

 平穏が破られた。そいつは忌々しい奴らの一人。大嫌いなヒーローだった。しかも、明確な落ち度まで突かれたら、それは怒鳴り返すしかない。

 

「……な! ふ、ふざけるな! そんなこと思ってない!」

 

 顔を真っ赤にして反論した。

 夜、風呂に入った時ピクシーボブ達に頼まれて女風呂の護衛をしたわけだが……峰田の邪悪な企みを阻止したとき、間違って女湯の方を見てしまった。

 そう、決してわざとではない。そんなふうにからかわれるのは大嫌いだ。それも、ヒーロー志望のやつらなんかに。

 

「HAHAHA! まあ、ガキで良かったな。良い思い出として残しとけよ」

 

 出久はけらけらと笑っている。

 まあ、これが他ならぬ峰田ならば血の涙を流していただろうし、飯田あたりなら説教でもかましただろうが。

 

「……くそ!」

 

 洸汰は全力でそっぽを向いた。

 

「……」

「……」

 

 二人、星を眺めた。

 

「お前さんの両親のこと、聞いたぜ」

「――アンタも、皆と同じこと言うのかよ」

 

「そりゃ、立派な行いだったとか、彼らは息子のことを愛してた――だとかさ。そんなことか?」

「そうだよ! 僕は、ヒーローも、この社会も嫌いだ……!」

 

 地面を殴りつける。

 わずかに血がにじむ。詳しく説明する気なんかなかった。誰も、どうせ分かってくれないのだ。

 ……保護者の彼女たちもそうだった。自分がヒーローで、両親の最期も立派な死に様だったから。他ならぬ彼らの息子には知っていてほしいと思ってしまうことが、相互理解の邪魔をする。

 

「そりゃそうだ。お前のことを置いて、どっかに行っちまったんだ。ヒーローとしてはともかく、親失格なのは変わらんだろう」

「……え?」

 

 呆けてしまう。そんなことを言われたのは初めてだ。

 会う人会う人、皆が自分のことを責めた。慰めていたのかもしれないが、しかし最終的には決まって「両親のことを悪く言うな」という結論しかなかった。

 間違っているのはヒーローが嫌いな自分だと、ものを知らない子供に諭すように。

 

「寂しいよな。一緒に居る、そんな家族として当たり前の願いすら踏みにじられた。一発ぶん殴ってやればチャラにしてやれるかもしれないが、もう殴ることすらできないんだ。そりゃ、どうしようもねえわな」

 

 ガリガリと頭をかく。

 初めてそんなことを言ってくれたその人は、自嘲に顔を歪めていた。

 

「……そっか。うん、僕はただ一緒にいて欲しかった。――死んでほしくなかっただけなのに。死ぬのが、立派だなんて……」

 

 その言葉はすとんと胸に落ちた。

 それは、ずっと彼の胸の中にある感情だった。

 

 人間、誰かのことを分かってやれたと思うときは多いが……それはただの錯覚だ。自分のことでもないのに理解できる方がおかしいのだ

 

 では、何なら理解できるかと言えば、それは”自分のこと”だ。語化できないもやもやをうまく言い表してくれたのなら、それは分かる。

 出久はというと、論外だ。彼は置いて行く方であり、置いて行かれる方ではない。この言葉も、本当に理解できているわけじゃない。

 そういうものだから自戒しなくてはならないと、自らを戒める言葉だった。

 

「泣け」

 

 洸汰の頭を押さえつけるみたいに撫でてやる。

 そういうところは不器用だ。

 ――そんな不器用さが父にあるかさえ、子供(洸汰)は知らない。仕事仕事と、あまりかまってくれずに死んでしまった。

 

「男が泣いていいのは負けたとき……それと身内が死んだ時だけだ。だから、今は思い切り泣け」

「うう……うわあああああん!」

 

 盛大に泣いた。

 そんなこともできなかった。だって、皆……悲しむ方がおかしいとそう言われていたのだ。本意でないだろうが、しかし”そんなこと思ってなかった”が通じるなら”俺はそう思った”も通じるだろう。

 誰も彼もが、口をそろえて立派だなどと言う。――息子を置いて死んだそのことが。

 

「落ち着いたか?」

「うん。でも、兄ちゃんはなんで……?」

 

 テレビではヒーローの中のヒーローの卵と言われていた。

 なにかしら言葉がおかしい気がするが、あのオールマイトの後継者だ。そういうことにもなるだろう。

 そんな彼がヒーローを悪く言うことに驚いていた。誰よりもオールマイトを尊敬するはずの彼が。

 

「いや、そういうのは身に染みてるからな。……母さんを泣かせちまった。それでも止まることはできないのが俺たちの罪なんだろうな」

「……」

 

 なにも言うことはできなかった。

 だって、こいつは何を言っても止まらないと理解できてしまった。その太陽のごとき熱量が全てを焼き焦がしながらまい進するのだ。

 

「ああ、俺たちは”最悪”だ。大切な人を泣かせて、顔も知らない誰かを助ける。きっと、誰かは褒め称えてくれるだろう。けれど、唯一無二の大切な人は置き去りだ」

 

 それを罪と背負う。

 背負ってなお征くのだから、もう救いがない。だが負けん、勝つのは俺だ――それが光の宿痾なのだ。

 

「……兄ちゃん」

「だが、勝つのは俺だ」

 

 やはり言い切った。

 ゆえに、この会話に意味はない。オーバードライブは一貫してオーバードライブだ。そして、洸汰は初めて理解者を得たがそれだけ。

 それは何も未来につながっていない。敵も、ヒーローも、この社会も憎いことには違いがない。

 だけど、分かってくれる人がいると心に余裕ができた。救われた気がした。彼がヒーローになる未来は間違ってもこないだろうけど、それでも……一歩を踏み出そうと思えるようになった。

 

「じゃあな、あまり遅くまでほっつき歩いてんじゃねえぞ」

「兄ちゃんもね」

 

「ハハハ! これは一本取られたな」

 

 出久は笑ってごまかしながら下に降りて行った。門限を守る気など欠片もなかった。

 

 

 そして。

 

「よ、かっちゃん。合宿だってのに、やってんなあ」

 

 正拳突きの練習をしていた爆豪に声をかける。

 彼は傲慢であっても努力家だ。オールマイトに教わって以来、一日もサボることなくその鍛錬を続けていた。

 

「ああ!? なんだ、クソデク! やんのか、コラ!」

「落ち着けよ、ここでやり合ったら相澤先生に見つかって強制送還だ、それはお前さんだって勘弁願いたいだろう?」

 

「ッチ! なら邪魔すんな! 4995! 4996!」

 

 鍛錬に戻った。

 

「なら、俺もやらせてもらうぜ! 俺とお前はいわば兄弟弟子だな!」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねェ――」

 

「1‼,2!,3!,4!,5!,6!,7!,8!,9!,10!……」

「って、はええ! くそ、負けてたまるか! 4997!」

 

 没頭していく。

 二人、揃って同じ型を練習する。それはどことなく微笑ましい兄弟弟子の修行風景だった。

 

「10000!」

「8324! くそ、負けたか……!?」

 

 殺すような目で睨みつける爆豪。だが、出久は何も構わずに――

 

「10000!、10001!、10002!、10003!……」

 

 万を超えてもまだだと言わんばかりに続けていく。

 

「この……! なら、テメエと同じだけやってやるよ!」

 

 結局、爆豪は朝になって倒れているところを回収された。

 

 





 爆豪君は原作と同レベルの強さなので、まだ弱いです。飯田君や切島君は原作緑谷君と同様、べきべき腕とか足とかへし折りながら戦うので爆発力はある、と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。