緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第26話 マスキュラー

 

 二人の惑星級(プラネテス)が戯れている前、開闢行動隊が行動を開始したとき……本当に守るべき人間である洸汰は裏山に居た。

 ヴィランは一般人の都合など考慮しない。

 ただ、いつものようにそこで膝を抱えている時に襲撃があったというだけの話。そして、ヒーローであるならば彼を真っ先に守らなければならない。

 そう、卵を見殺しにするのは辛いことだがまだ内々の問題だ。彼が害されることがあれば、組織としての理念の問題になってくる大事である。

 

「――何が起こってるんだ?」

 

 破壊音。爆音の大半は護衛ヒーローのミサイルとガトリングだが、そこかしこで異常事態が起こっている。

 一般人の彼には理解不能、ただこうして見ているだけしかできない。

 慣れているのであれば、せめて身体を伏せるか、上等な選択肢ではどこかに隠れ潜むことだったのだが……一般人には無理な話だ。

 というか、1-Aですらできない人間がいるのに、彼にそれを求めるのは行き過ぎである。

 そして、目立ってしまったのが悪かった。おそらく、運も悪かったのだろう。戦場では、こうして目立った人間からやられていく。

 

「おォ、いたいた」

 

 連続殺人鬼マスキュラーが現れた。

 

「お前、爆豪って野郎を知ってるか?」

 

 出し抜けに聞いてくる。

 見るからに犯罪者、そんな人間に声をかけられても。

 

「あ……ああ……?」

 

 理解不能、対応不能。

 一般人、さらに子供……そんな彼はこんな風に声をかけられて、うろたえるしかできなかった。

 最善なのは後ろも見ずに全力で逃げ出すことなのは言うまでもないが、そんなことを実行できるのはフィクションの中の話だ。

 

「お、知らねえな? 知らねえってことでいいんだな? じゃ、殺すぜ。一応、探せって言われてるから聞かなきゃいけなかったんだ。だが……知らねえなら話は別」

 

 その男は手をかざす。

 大人であってもねじ切り縊り殺すその手は魔性の手。人間であれば、ただ無惨に殺されるしか手はない。

 ……それこそ、ヒーローの中でもトップランカーでなければ無為に殺されるのみ。

 

「……ひ。――ヒィ……」

 

 へなへなと座り込んでしまう。それをつまらないと思ったのか、男はもう少し口を回す。

 

「殺すぜ。なあ、最初はどこがいい? 腕か、足か。どこをねじ切ってやろうか。それとも、頭を派手に握りつぶすのがいいかい? なあ、ガキ。リクエストしてみろよ。お前の死に様だぜェ?」

 

 涙をいっぱいに溜める少年の姿に嗜虐心がうずいたのか。

 

「――おいおい。答えてくれよ、つまらねえなあ。指の一本でも折ったらおしゃべりしてくれる気になるかな?」

 

 男の手が触れる、その瞬間。

 

「獲物をいたぶるか。ただの雑魚だな」

 

 ワンフォーオール100%の一撃が顎に炸裂した。

 出久は隙だらけの相手に態々大声で叫んで防御態勢を整えさせてやるような甘さはない。――洸汰を囮に最高のタイミングで奇襲して見せた。

 結局のところ、大声を上げて無駄に存在をアピールするより、こっちのほうが確実に守れる。相澤先生の好む合理的思考というやつだ。

 

「……ッ! があ!」

 

 全力全開。マスキュラーはしゃにむに最高の力を振るって、自分に攻撃を加えた者に反撃する。

 彼の個性は単純な筋力増強。だが、それは究極域の一つだった。

 ――そう、彼の腕力はワンフォーオール100%など遥かにしのぐ。オールマイトすら敵わないほどの筋力が首を守る。

 先の一撃で気絶しなかったのは、ただ単に”筋力が高い”それだけの理由だったのだから。

 

「おいおい。アレ耐えたのかよ。……師匠でも倒せるタイミングだったんだがな」

 

 とはいえ、死に体の反撃を喰らう彼ではない。普通に下がって回避した。ついでに保護対象も確保しておく。

 

「――じっとしてろ、守ってやる。……俺が来た」

 

 そして、こう言うのだ。

 

「……兄ちゃん」

 

 何か訳の分からない感情が胸を占める。

 これが他の人間であれば、敵わないくせに馬鹿なことを、とでも言えたかもしれないが。彼なら勝ってしまうかも、とも思うし。そして、オーバードライブは勝てない相手にも立ち向かってしまうと言う予感もある。

 まあ、やはり意味が分からなくて、彼はただ言われたままにそこに居るだけだ。

 

「俺はオーバードライブだ。名前くらい聞かせてくれよ、ヴィラン連合?」

「――さすがヒーロー志望者って感じだな、どこにでも現れて正義面しやがるいいぜ。で、オーバードライブだったか。聞いたぜ、お前は率先して殺しとけってお達しだ。本気の義眼()でやってやる」

 

 最初から本気だ。

 そうでなければ、すぐに取られると理解した。

 

「――ッ!?」

 

 本気を出したマスキュラーのスピードは凄まじい。

 よくゲームでは筋力が強いキャラのスピードが鈍いなんてことがあるが、それはあくまでゲームである。

 現実では、筋力こそが速度を生み出す。つまり、オールマイトよりも速く力強い。

 

「はっはァ! どうしたどうした!? こんなもんかよ、やっぱヒーローなんてのはわらわら集まってくるだけのくそ雑魚じゃねえか!」

「……っぐ。……ぬぐ……!」

 

 拳の乱打。武術をかじっているのか、一つ気を抜けば急所を抉られる。

 出久は拳をさばくのに精一杯。かろうじて急所を避け、防御するも刻一刻とダメージは蓄積する。

 

「はは、そういえば。爆豪ってガキはどこにいる? 一応仕事はしなくちゃあ……よ! 答えは知らないでいいか? いいな? よしじゃあ遊ぼう! くは。ハハハハハ!」

 

 乱打乱打乱打。出久は振り回される。

 頬が裂け、血が流れる。

 

「はっはは‼ 血だ! いいぜ、これだよ。楽しいや! なんだっけ!? 俺が雑魚だってか? オッカシイぜ、おまえ‼ だって、お前、俺に全然手が出せてねえもん」

 

 出久に見るも痛々しい痣が刻まれていく。

 

「俺の個性は筋肉増強。皮下に収まんねえ程の筋繊維で底上げされる速さ! 力! 何が言いてぇかって! 自慢だよ! つまり、おまえは俺の――完全な劣等型だ」

 

 殴り飛ばした。

 斜面にぶつかり、それにとどまらずぶち砕いて埋まってしまう。それこそ、もう絶望的としか言いようのない。

 もはや、立ち上がれるかどうかすら……

 

「わかるか俺の気持ち‼? 笑えて仕方ねえよ。ヒーローならガキを助けるもんだろお? どうやって!? 実現不可のきれいごとのたまってんじゃねえよ! 自分に正直に生きようぜ!」

 

 歩を進める。それは出久に止めを刺すために。

 

「……あ」

 

 そして、洸汰が何かを言う、直前。

 

「く……来るな。来るんじゃない……!」

 

 出久はそんなことを言ってしまう。

 

「やだよ、行くね。俄然。俺ァただ暴れてえだけだ。ハネ伸ばして個性ぶっ放せれば何でもいいんだ。じゃあ、殺すぜ?」

 

 うずくまる出久に全力で拳を振り下ろした。

 

「――いいや。勝つのは俺だ。言ったよな? 獲物を前に舌なめずりは三流だって」

 

 その拳を掴んだ。

 絶体絶命からの覚醒……に見せかけた単なるステージ移動だ。

 洸汰との距離が近すぎた。全力での打ち合いに巻き込まれたらただでは済まないから、こうして殴り飛ばしてもらった。

 

「は? なんで? お前じゃ俺の拳は受け止められないんじゃなかったのかよ。だって、さっきまであんなに弱かったのに……」

 

 だが、マスキュラーとしても散々ぶちのめした相手に今更逃げ出す訳にはいかない。混乱の中、とりあえず全力で殴る他に選択肢はない。

 

「おおおおお!」

 

 だが、そんな悪あがきはオーバードライブには通用しない。

 カウンター、敵の膂力すら利用して芯に衝撃を通す。武術としての完成度はかじっただけのマスキュラーなどより遥かに上を行っている。

 

「お! がっ! おお! ぐがっ! うぐっ!」

 

 オールマイトとステータスで比べてあらゆる面で勝利する? それは事実だろう。だが、それがどうした?

 彼が平和の象徴を張っている理由は短距離走で一番早いからでも、腕相撲が一番強いからでもない。

 相手の拳を逸らし、いなし――そして打たれる先に急所に叩き込めばなんてことはない。ステータス差など関係なく、どれほど努力したかが勝敗を決めるのだ。

 

「……は! 喧嘩自慢か? だが、その程度なら乱波の方が強かったぜえ!」

 

 マスキュラーは誰だそいつ、と思うものの何も手が出せない。

 もう打たれるのを筋肉の鎧で耐えるだけだ。かばおうと思っても、するりと入り込んで急所を穿つ。とてつもなく痛い。

 

「そう、だ! ガキ! ガキを人質に!」

 

 反転する。その最中にも首筋、脛に痛打を食らう。が、耐える。そうすれば痛みから逃れられると信じて。

 

「ガキィ! 俺を助けろ! 人質になれよォ!」

 

 そいつに手を出そうとして。

 

「おいおい、お前から俺を弾き飛ばしてくれたんじゃねえか。……無視して行ってくれんなよ、寂しいじゃねェか」

 

 喉元を潰した。

 

「げぼっ。ぐ……も、もう。やめ……こう……しゃ。する、から……やめ……」

 

 降参するからもうやめて。殴らないで。――つまり言いたいのはそういうことで、出久にもそれは分かっているけども。

 

「何を言ってるかわからねえが、まあ多分あれだろう。人質を諦めてねえんだよな? なら、仕方ねえよな」

「ち……ちがっ……!」

 

 マスキュラーは声が出ない。

 すでに喉は潰されている。

 

「悪いが、今の状況でお前を生かしてはおけねえんでな」

 

 慈悲も何もない。

 腕を折り、足を折った。ただただ行動不能にするために非道を働いた。

 彼を拘束できる縄など用意できない。ゆえに、関節を破壊して動けないようにするしかなかった。

 

 ――そして。

 

「よお、ヒーロー様。羨ましいよなあ、皆の憧れだぜ。……なあ、なにか言ってくれよ。オールマイトの後継者様よォ」

 

 火傷を纏う継ぎ接ぎの男、敵連合から新たな敵――荼毘が現れた。

 言葉と共に炎熱が降ってくる。それを通せば森林ごと焼きつぶされる。

 

「じゃあ、お前もなればいい。努力しようぜ?」

 

 ゆえに出久は一撃で炎を消し飛ばした。

 

「……なるほど。オールマイトの弟子、伊達では」

「言っておくが、俺は誰であろうと本気だぜ?」

 

 次の瞬間、右腕が余裕な顔をする荼毘の胸を抉る。

 だが……

 

「やはり強敵……! だが、覚えておけ。いくら相手が強かろうと、尽きぬ悪意さえあれば弱者が強者を打倒することもある」

 

 ニタリと嗤う。そして、泥のように崩れ落ちる。そして、一つ言い残す。

 

「――諦めなければ、夢は必ず叶うんだ」

 

 泥の中に沈んだ。

 それは倒すために必要なダメージを一撃で与えたということだ。マスキュラーが降参してなお足を折ったように、敵に対する慈悲などオーバードライブは持ち合わせない。

 

「個性か」

 

 そして、それを見てもなお冷酷。

 炎熱とは別の個性、敵は最低でも二人組だと分かった。

 

「――兄ちゃん」

 

 洸汰が怯えた声を出すが、出久は彼の頭を撫でてやって駆けだした。

 

「お前はここに居ろ。必ず、俺が勝つ」

 

 流星のように駆けた。着弾点、荼毘は反撃すら許されずにその脳髄ごと蹴り砕かれて泥と化す。

 そして、もう一人。

 

 二人組の片割れトゥワイスの個性『2倍』がまったく追いついちゃいない。差し向けてはたどり着く前に殺される。

 そして、焦りすぎて気付いていないが……増やす拠点をオーバードライブに見抜かれるわけには決していかない。

 さすがに荼毘はごまかすために一直線に向かわずに遠回りして襲ってくるが。しかし、やはり殲滅のスピードが早すぎる。

 

 よって、10人目の荼毘を殺した際には出久にはもう拠点を見抜いていた。

 もちろん、拠点とは言葉の上だけで何の変哲もない林の中の一か所だ。だが、分かってしまったのなら。

 

「――そこに居るな。Colorad Smash!」

 

 拳でぶちぬいた。

 まさに爆撃だ。ミサイルのような一撃が木々をなぎ倒し、クレーターを作った。

 

「……これが、オーバードライブ。オールマイトの後継者か!」

 

「あが。痛てェ……なんだこりゃ」

 

 二人、立ち上がれもしない。

 ただの一撃で制圧されてしまった。これでも一流の悪のつもりだった。けれど、全てを無に帰す一撃が全てを奪った。

 

「……はは。足が折れてやがる。もうお前だけでも逃げろよ、トゥワイス。こんなんでも、殿くらいはしてやるさ」

 

 荼毘が立ち上がった。だが、もう歩けない。器用に左足だけで立ち上がっても、折れてぶらんと揺れる右足では。

 

「は?」

「生き残れ。どうせ、偽物なんだよ……俺も」

 

 その言葉に衝撃を受けた。彼がどのような気持ちでそれを言ったにせよ、それはずっと考えていたことだった。

 ”自分はコピーかもしれない”そんな考えがずっと頭から離れなかった。自分のコピーどもを侍らせて王様気分で居たら反乱に会ってしまった。そのコピーもみんな殺し合って消えた。

 でも、もしかしたらあの時死んでいたのは本物で……自分はコピーかもしれないという考えが離れなくて、頭がおかしくなってしまった。だが。

 

「あは。はは――ゴホッ! ガハッ! 痛えな。痛いよ。……なら、俺が本物だ」

 

 二本の足で立ち上がる。血の泡を吹きながら、なお。

 自分を守るといってくれた大切な仲間を守るために。肋骨が折れて肺に突き刺さっている。呼吸ができない、目の前が真っ赤だ。

 ――それこそが、自らがオリジナルだという証明。

 

「自分はいいから生き残れって? 馬鹿言ってんなよ、俺たちは仲間だろ。……だから、助けてやるぜ」

 

 すう、と腕を上げる。

 そこから生み出されるは。

 

「「行こうぜトゥワイス!!皆殺しの時間だぜ!!」」

 

 彼のコピー。それが、数珠状につながりあって鼠算式に膨れ上がる。見る見るうちに百体まで膨れ上がり、まだまだ増える。

 

「――ならば、押し通るのみ」

 

 しかし、オーバードライブも一歩も引かず。躊躇なく踏み込み、殲滅を開始する。

 

「「「「は。いくらテメエが強かろうと数で圧殺してやるよ!」」」」

 

 無限のトゥワイスが吠えた。

 

 





 原作、あれマスキュラーが目覚めてれば誰か死んでましたね。
 まあ、原作出久君はなんで動けるの? ゾンビ? って感じでしたからとどめをさせずとも仕方のないことではあったのでしょうが。


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