緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第3話 トレーニング

 

 二人は海浜公園に集合していた。

 朝早く、そしてゴミの多いそこに人の姿はない。

 

「じゃ……引っ張ってみようか」

「ぬおおおおお!」

 

 出久はなぜかオールマイトが乗った冷蔵庫を引っ張っていた。ずりずりとわずかずつ動いていく。

 

「お……やるね。まだ器じゃないけど」

「――それは、筋力の話か?」

 

 ずりずり、と少しづつ動かしていく。話をしながらも止まりはしない。わずかづつでも、進んでいく。

 

「もうちょっと全体的な話ね。身体だよ身体、筋力だけじゃなく全体的に鍛えておかないと」

 

 オールマイトはカラカラと笑う。

 明るい見通しが見えてきた。

 

「昨日ネットで調べたらこの海浜公園、何年も前からこの様のようだね。……なぜか一か所にまとめられてるけど」

 

 そう、そこが原作とは違う点。

 とはいえ……まあ、ゴミが目立つからデートスポットにはならないけれど。

 

「――でもね、最近のヒーローは派手さばかり追い求めるけど、ヒーローってのは本来奉仕活動! 地味だなんだの言われても! そこはブレちゃいけないのさ‼」

 

 降り、簡単に冷蔵庫を押しつぶして見せた。

 超パワー、こんなことができる奴は早々いない。それは金属の塊だ。

 

「……オールマイト。これ集めたの、俺なんだけど」

 

 そう、出久は誰かの笑顔のためにヒーローらしくない活動を続けてきた。つまりは地味な奉仕活動を。

 ゆえに、ゴミ拾いくらいはやっている。

 

「なるほど。……いや、これは一本取られたな! 君はすでにヒーローの気構えができてるみたいだ! HAHAHAHAHA」

 

 バンバンと肩を叩く。

 

「よし、私も手伝おう! 伝手で回収業者を呼んであるから! さっき言った場所まで運べば回収してもらえるから!」

 

 仲良くゴミ掃除をした。海岸が奇麗になった。

 絆が深まった気がした。

 

「って、イカん! 説明を忘れてた! トレーニングプランを考えてきたんだよね‼ 私考案『目指せ合格アメリカンドリームプラン』」

 

 マッスルフォームまで使って言った。

 

「ま、でも君なら楽勝かもしれないけどね」

 

 戻った。

 

「いや、やらせてもらう。10ヶ月分のトレーニング……一か月で終わらせてやるぜ」

「あの……オーバーワークすると逆効果だよ?」

 

 そして、出久は2週間で終わらせた。

 

「すさまじいな。土台はできていたとはいえ、君の執念……見せてもらった! さあ、受け取ってくれ、ワンフォーオールを!」

 

 髪を引き抜き、渡した。

 

「これを……?」

 

 出久に変態の気はない。

 尊敬する人の一部だろうと神棚に上げる趣味はない。ましてや食べる趣味など寸毫たりとて持ち合わせない。

 

「喰え」

「分かった……うぐ」

 

 即断だった。さすがに気持ち悪がってえずくが、躊躇はなかった。

 趣味はなくとも必要ならやる、そこは無感情なほど合理的だ。ヒーローよりも軍人の気質が覗くのはこういう場面だった。

 

「私が言うのもなんだけど、そこまで躊躇いがないとは恐れ入ったよ」

「アンタが無駄なことをやるなんて思ってないさ。……ところで思ったんだが、力を譲渡する条件が髪の毛を喰うことなら、髪は厳重に管理しとかなきゃいけないんじゃねえのか? 生えたら切って燃やすか金庫に入れるくらいしたほうがいいと思うんだが」

 

「いや……髪の毛じゃないよ。力を譲渡する条件はDNAを取り入れることさ。血でも皮膚でもなんでもいいんだよ。それで、譲渡する意思がなければ奪われることはない。まあ、無理やり渡すことはできるんだけどね!」

「なるほど。俺の考えが浅はかだったか……」

 

「いいのさ! 分からないことはドンドン聞いてくるといい! というか、そっちのほうが私も安心できるし……」

「……何か、力が溢れてくるような感覚。――これが『ワン・フォー・オール』」

 

「はっや! まあ、今日はゆっくり休んでくれ。なにか身体に異常を感じたらいつでも言うんだよ! マジで! いや、ホントに! ……君、我慢しそうだし」

「男は根性が美徳だが、病気を隠すことがそうとは思わないさ。異常を感じたらしっかり連絡する」

 

「……そうか。ま、頼むよ。ちゃんと休むといい――今日くらいは」

「なんのことだよ、オールマイト」

 

 そういう出久の目には隠しきれない隈ができていた。

 10か月分の鍛錬を2週間でショートカット、そんな無茶を通すため睡眠時間を確保することなどできなかった。

 もともとが学業との両立を考えたメニュー。素人用に考えたメニューを経験者がやるにしろ、例えばマラソンを20倍の速度で終わらせるのは物理的に無理があるのだ。

 

「でも……そういうの、キライじゃないよ!」

 

 ぐ、と親指を立てた。

 

「あ、でも時間は頂戴。こんな短時間で終わらせちゃうとは思わなかった。……イヤ、マジで」

 

 そして、次の日。

 

「さて、まずはワンフォーオールの制御から行こうか」

「――応」

 

 そして、オールマイトの元で存分に訓練を行った。

 ゆえに完成度は原作とは別物だ。そちらでは両者に師弟といった情はあまりなかった。それは、トレーニングの指導者を師とは呼べないからだろう。

 拳の握り方から立ち回りまで教わったのはイレイザーヘッドだから、むしろそちらのほうが師と呼ぶにふさわしかった。

 だが、ここでは前提が違う。

 

 9か月と2週間、個性の使い方と戦い方を教わった。 

 ゆえに、オールマイトこそが師匠だ。その期間は師と仰ぎ、絆をつなぐのに十分だった。

 

 

 受験、当日。

 

「どけデク! 俺の前に立つな、殺すぞ!」

 

 爆豪だ。彼は殺気立っていて、周りの生徒が引いているほどだ。モーセのごとく、人の海が割れる。

 

「よ、おはよう。かっちゃん」

「てめえ、なれなれしいんだよ! 何様のつもりだ、無個性が!」

 

「あ、俺個性発現したから。増強系だ、二人で合格しようぜ」

 

 ビ、と親指を上げた。

 

「ああ!? 受かるのは俺一人だ、てめえは落ちろや!」

 

 怒鳴った。

 

「おいおい、枠の心配をするほどお前はみみっちくないだろ? 目指してんのはNo1、そうじゃないのかよ」

「当たり前だ、このクソデク!」

 

「よっし、お互い頑張ろうぜ」

「ぶっこ――」

 

 爆豪が振り向いた瞬間、出久はもうそこにはいない。

 

「……とおりゃあ!」

 

 豪快なダイビング、誰かがお守りを落とした、それを放っておけず、飛び出した。見事にキャッチする、だが本人は地に堕ちる。

 

「大丈夫?」

 

 が、出久は落ちなかった。浮いている。

 個性の作用……

 

「私の個性。ごめんね勝手に。でも転んじゃったら、縁起悪いもんね」

 

 一人の少女が助けてくれた。

 助けた相手はお礼を言ってくれた。二人で手を振り返して。

 

「ナイスコンビネーション!」

 

 出久は片手を上げる。

 

「ナイスコンビネーション!」

 

 パアン、と手を打ち合わせた。おかしくなって、二人で笑いあう。

 

「と、こうして遅刻させちゃ悪いな。助かったぜ、あんたの合格を祈ってる」

「ありがと。私もあなたの合格を祈ってる。お互い頑張ろう」

 

 

 

 そして筆記試験がつつがなく終了した。次に実技試験を受けるために受験生が別の場所へ集合させられた。

 

「今日は俺のライブにようこそー‼ エヴィバディセイヘイ‼」

 

 その言葉を皮切りに説明が始まる。

 出久はおとなしく聞いていた。そして飯田は少しうざったい独特の口調で質問を飛ばしていた。

 

(――なるほど。ここで質問しておくのも得点の一つかもな)

 

 などと思った。

 そして会場へ。試験開始前独特の緊張感と弛緩した独特の気配だ。何かを待つ、そんな雰囲気の中。

 

「はいすたーとー」

 

 気が抜けた声が響いた。

 緊張した雰囲気でこれは中々反応できない。が……

 

「なら、行かせてもらうぜ」

 

 出久はその瞬間にスタートを切る。

 オールマイトの鍛錬の賜物。異常について目ざとくなければ現場では使い物にならない。

 それこそ、スピーカーで増幅された特有な音を聞き逃すようではヒーローはやっていけない。

 通信手段として原始的で、もっとも手軽なそれを聞き逃しては誰かを助けることなどできないから。

 

「見つけた!」

 

 そして、スタートダッシュを決めたから敵を見つけるのも早い。

 

「ワン・フォー・オール発動」

 

 出久は出力制限などできていない。オールマイトにその必要性がなかったから、思いつきもしないのだ。

 だから、取った手段は原作とは別。二人で頭を悩ませて、そして訓練した。

 100%を出しても砕けないように。2週間でできた急造品の筋力と違い、体幹は長年の努力のたまものだから簡単に壊れたりしない。

 そして、本を片手で鍛えた空手に、オールマイトの指導が加わった武術を乗せれば。

 

「Little Lock SMASH!」

 

 リスクなしでの100%を実現した。もっとも、威力としては10%にも劣る空気弾だ。

 壁よりプリンを、プリンより空気を、より柔らかいものを殴った方がダメージが少ないのは道理だろう。

 そして、耐久力が高いのは拳より足だ。空気を殴りつけるより、蹴りつけたほうが更にダメージは少ない。

 もっともそれでは威力は出ない。オールマイトとは比べるのもおこがましく、武器でも使えばそのほうが威力が出るかもしれない。

 それでもそのロボットを粉々に砕くには十分だった。

 

「柔い、脆い……でかいだけの虚仮おどしだな」

 

 ならば、個性を使わずとも素手で十分。

 脆い箇所はすでに分かった。後は敵を倒すだけ。足をへし折ってしまえばそれでポイントだ。何も難しいことはない。

 調子よく何体も壊していく。

 そして、試験は終盤に差し掛かる。

 

 ――BOOOOOM!

 

 圧倒的脅威が現れた。

 ビルより大きい鋼鉄の威容は、ただそれだけで戦意をくじく。さらに倒したとてポイントにならないとあっては、戦う意味すらないのだ。

 試験に参加した皆は逃げていく。それを横目に。

 

「少しは面白くなってきやがった。見掛け倒しじゃねえよなあ!?」

 

 先ほど使った遠距離攻撃をもう一度。

 敵はわずかに傾き、そして……こちらを見た。効いてない。

 

「――いいぜ、来いよ。乗り越えてこその壁だろう。更に向こうへ(プルスウルトラ)を心に決めたのなら、倒すべきは強敵に違いない。……ッ!? あいつは」

 

「いったぁ」

 

 足を瓦礫に挟まれて動けなくなった少女。

 彼女は入試前にハイタッチをしただけの仲だ。名前は知らない。でも。

 

「助けるのが漢ってもんだよなあ!」

「――え?」

 

 迫る絶望、鋼鉄の足。

 ビルすら超える巨大なそれが天から降ってくる。

 それは死を連想させるに十分な恐怖。……動けない

 

「おおおおおお!」

 

 出久が受け止める。

 鋼鉄の足、何十kg……否、何百kgもあるそれを支える。誰かのために。顔はまあ知っているが、知り合いとすら呼べない彼女を守るため。

 

「あなたは……なんで!? どうして、そこまで」

「誰かが泣いてる。漢が命を張るにゃ、それで理由は十分だろうが!?」

 

 毛細血管が弾ける。内出血で真っ青になっていく。

 どれだけ痛いのか、普通に暮らしていた少女には想像もできない。

 

「――そうだ、人を助けるのがヒーローじゃないか!」

 

 一度逃げた飯田が戻ってきた。

 

「ありがとう! 君が気付かせてくれた! 僕が目指すヒーローは自分のために戦う人間なんかじゃない。……誰かのために立ち上がるんだ!」

 

 二人で支え、そして。

 

「……助けられて、それで終わりなんて冗談じゃない。私だって、ヒーロー目指してるんや!」

 

 個性『無重力』……ロボットの重量が一瞬だけ0になる。

 彼女は個性を使用して自由になった、だからと言って逃げ出すなんて嫌だから二人とともに強敵へと立ち向かった。

 

「「「おおおおお!」」」

 

 押し上げる。一瞬の好機を逃さず、全力で。

 0Pロボはたまらず転がる。地に堕ちる。

 ――倒れ伏した。

 

「終了~!」

 

 試験が終わった。

 

 




 ワンフォーオールの譲渡設定は劇場版からです。受け渡しは一瞬で完了、何をやりたいかはトリニティをやったことがある人なら気付くかもしれません。
 そして、試験は楽勝です。原作での筋トレ時間の殆どをオールマイトとの訓練とコミュに費やしました。
 なお、原作と同じところは豪快に飛ばしていくスタイル。
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