緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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※閲覧注意です。残酷な描写があります。
 覚悟してお読みください。




第29話 絶望

 

 合宿所に残って補修を受けている生徒は7名だった。峰田、瀬呂、上鳴、砂藤、麗日、青山、物間だ。

 

 ヴィラン連合が襲撃した直後、イレイザーヘッドは合宿所を1-B教師のブラドキングに任せて自分は外に出た。

 そして、生徒を任された彼はと言うと。

 

「先生! 俺も行きます!」

 

「今は肝試しの時間のはず! 二人で取り残された方々が居るはず! いえ、脅かし役の生徒は一人で孤立した状態で襲撃に会う可能性も考えられます」

 

「いやいや。ヴィランが来たんだぜ? あとなしく隠れてたほうが安全だって。どうせ緑谷も外に居るんだから解決してくれるって」

 

 などと言う生徒の対応に苦慮していた。

 しかも……

 

「相澤先生の戦闘許可は自衛のためだ! 積極的に戦えと言うことではない! ここを守るのが最優先だ!」

 

 戦闘許可が出されたものだから血気盛んな者がうるさい。

 しかも、否定派も恐慌に陥ってギャアギャア騒いでいるものだから。もうしっちゃかめっちゃかで収拾がつかない。

 

「――誰か来た?」

 

「相澤先生?」

 

 しかも、こうして呑気なものだ。ヴィランに襲撃を受けていると言うのに、襲われる側であると言う自覚がまるでない。

 今ここで大量破壊兵器を撃ち込まれても何も不思議はないと言うのに。

 ……まあ、本当にやってもブラドキングが防ぐからやらないが。一つでも勝利を拾えれば勝ちだが、勝算のない賭けをできるほど敵連合は懐が温かくない。

 

「やれやれ、平和ボケ極まるな。それでもヒーローのつもりかよ、卵たち」

「醜い声が外にまで聞こえてきたぞ。黙ることすらできないのか、能無しどもめ」

 

 裏で護衛を担当していたヒーロー三名を惨殺した悪鬼どもが来た。

 まだまだ殺したりない、だから確実に人がいる合宿施設に来た。もはや死柄木に言われた任務など忘れている。

 ここに来ればまだ殺せると、人の匂いを嗅ぎつけた鬼どもが嗤う。

 

「貴様ら……拘束の上、話を聞かせてもらうぞ」

 

 ブラドキングは生徒たちを手で下がらせる。

 ここには爆豪が居ないから、我先にと突っかかっていく奴がいない。自殺志願者が居ないのはいいことだが、それならそれで逃げればいいのだがそこまでは行かない。

 

「自信満々だな。その自信のほどがハリボテでなければいいが」

「……ふん。何をカッコつけたところで劣等種族ではな」

 

 鬼達が惨殺を幕開けようと一歩を進む。

 

「む」

 

「これは」

 

 だが動かない。ブラッドヒーロー〈ブラドキング〉の個性は『操血』、彼は自身の血液を自在に操れる。

 静かに血を落とし、二人の鬼を足下から拘束した。

 雄英の教師であるだけあって実力に間違いはない。そして、敵に気付くことすら許さずに個性を使用できるほどの実力者でもある。

 

「答えてもらうぞ。……連合の企みを」

 

 操血は強力な個性だ。轟のような派手さはないが、ヴィランの制圧にこれ以上はない。

 なぜなら例え増強系の個性であったとしても、血は掴めない。いくらもがこうとも意味はない。それは永遠にまとわりついて離れないのだ。

 彼を敵にするとき、血を流させた時点ですでに敗北は決定している。

 

「だからどうした?」

 

「こんなものでどうにかなると思われるなど侮辱だな。我らは惑星級(プラネテス)、あの人形どもや、まして人間などと一緒にするなよ」

 

 なのに、何の意味もない。

 動きが止まったのが何かの勘違いだったかのように、彼らは悠々と歩を進める。

 

「皆、逃げて!」

 

 呆気にとられる中、麗日が最初に動いた。

 そして、無重力で机を浮かし、敵に向かって叩きつける。だが――

 

 まったく意味がない。

 赤鬼には触れる前に砕け散った。蒼鬼には空中で氷結して停止した。見ることすらなく対処されてしまった。

 

「やっぱり……! 赤い方は13号先生みたいな破壊系の個性、青い方は轟君みたいな氷結系なんや!」

 

 それだけで見抜いた。

 個性談義は緑谷とよくやっている。彼はそれに造形が深いから、色々なことを聞いた。恋する乙女だ、話題についていこうと必死だった。

 それに雄英に居る以上、あればクラスメイトより一歩先に進める知識だった。

 

「なるほど、アイツはちょっと厄介かもしれんぜ。なあ、氷河姫(ピリオド)

「ならば、お前が相手してやればいいだろう殺塵鬼(カーネイジ)。とはいえ、わざわざ寄り分けるのも面倒だな」

 

 二人の鬼は麗日に標的を定める。

 

「待て! 生徒に手は出させん! まずはこの俺を超えてもらおうか!?」

 

 ブラドキングが迫る。

 遠距離で拘束できないのなら、接近戦で片を付けるだけだ。拳を握る。彼に隙はない、接近戦もプロレベルで修めている。

 

「生徒を守る、ね? その程度で何を守れるんだか」

 

 カーネイジが腕を振るう。

 武術も何もない大雑把な一撃。だが、それはオールマイトすら超える一撃だ。USJの脳無もステータスなら彼を超えてきた。当然、この惑星級も。

 

「っがは!」

 

 一撃で壁に叩きつけられ、そして壁は威力に耐えられない。ブラドキングは外にまで飛んで行った。

 

「やはりダメだな。この程度では守るどころか聖戦へ列する資格すらない。貴様らはどうだ? なあ、卵ども」

 

 カーネイジがジロリと見渡すと、皆が背筋を凍らせた。

 

「っひ! ヒィィィィィィィィィィ!?」

 

 かさかさとゴキブリみたいに這いずって逃げていく峰田。あいにくとその匍匐前進はロッカーに阻まれる。

 普通に考えれば分かるが、出口は扉か窓だ。だが、恐慌をきたした峰田はロッカーをがりがりとひっかくだけだ。

 

「無理だ。無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ! なんでおいらは雄英なんかに入っちまったんだよ! 分不相応だって分かってたじゃねえか。こんな思いまでしてヒーローなんかになりたくねえよお! 死にたくねえ! 助けて母ちゃあん!」

 

 無様な声を上げる。

 だが、明確な死を前に立ち向かう者がどれだけ居るのだろう。だから、それ(オールマイト)は、きっとヒーローより前に異端者だった。

 どれだけ情けなくても……同じ経験をした者であれば、誰が峰田を詰れるだろうか。

 

「ハハハ。おいおい、どこに逃げようと言うんだ。というか、俺たちは扉の側に居るんだから窓から出ればいいのによ」

「……理解に耐えん。醜い有様だな、不快極まる。死ねよ、劣等」

 

 だが、それを阻む者が居る。

 

「させん! 生徒はこの私が守る!」

 

 血が破滅の力を阻む。

 文字通りに壁だ。ブラドキングが個性を全開にして大切な生徒たちを守る。例え、自身に血が一滴たりとも残らなくても守って見せると言う強い意志が輝いた。

 オールマイトを上回る一撃を受けて、指の一本すら動かせずともその意思に狂いはない。

 

「――ふん。醜いあがきを私に見せるなよ。……全て凍れ」

 

 氷河姫がその秘めたる個性を解放する。ただ無造作に個性を振るっただけ。ただそれだけで、言葉通りに全てが氷に閉ざされる。

 

「……」

 

 そして、全てが終わった。

 誰一人、個性で争う術もなくただただ彼女が個性を発動しただけでジエンドだ。ブラドキングは限界を超えた力ごと凍結させられ、かろうじて息を残す状態。

 他の生徒も酷いものだ。

 血の壁も意味がなく、酷い凍傷に侵される。誰一人、個性を使えるような状況でもなく……そして意識を保っていられもしない。

 

「――まだや」

 

 だが、一人立ち上がる者が居る。光の意思が感染した者、麗日。

 

「例え、どれだけ敵が強大でもオーバードライブなら決して諦めない。……最後に必ず勝つ!」

 

 ふらふらと、しかし強いまなざしで立ち上がった。

 意志が身体を凌駕する。冷気に曝され動けなくなった身体を無理やり動かした。

 

「おいおい、動いちまったぜ。お前さんの力も案外その程度なのかい?」

「ふざけるな! あのような小娘一匹くらい殺すのは訳ないに決まっているだろう! ただの偶然、まぐれに決まっている!」

 

 氷河姫は激高する。

 思い通りにならなければすぐに激昂する。傲岸不遜で余裕があるように見えて、中身のおつむはUSJ襲撃時の死柄木と同レベルだ。

 

「――今度こそ死ぬがいい!」

 

 腕を振り、冷気を叩きつけるが。

 

「舐めるな!」

 

 跳んだ。自身に無重力を使用して飛び上がることで冷気を回避、そしてそのまま天井を跳ね回る。

 

「ふん。それで目くらましのつもりか? 小賢しく跳ねまわったところで、この部屋そのものを凍結させれば関係のないことだ!」

 

 避けようのない全体攻撃を放とうとする。

 麗日一人ならガラスでもぶち破って外に逃げられるかもしれないが、その場合他の生徒は全滅だ。

 

「それを待ってたんよ、お馬鹿さん。G・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)……『鋼砕き』」

 

 ゆえに先制の一撃を顔面に叩き込んだ。

 師は鋼でも砕いて見せると豪語していたが、麗日はそこまでの域には至っていない。それでも、人間相手なら顔面が陥没するほどの威力だった。

 

「……貴様」

 

 だが、プラネテスには通じない。

 鋼でも砕ける? 究極の戦略兵器が、鋼程度の強度しかないわけがないだろう。もっと、ずっと硬くてしなやかだ。

 

「貴様、旧時代の……愚かな猿のくせに。劣等種の分際で、この私の顔に触れたな!?」

 

 激高する。

 どうやら氷河姫のプライドを刺激したらしい。こういうタイプは怒らせると歯止めが利かない。

 マズい状況だ、とてつもなく。

 

「そんな。なんで効かんの?」

 

 それでダメージが与えられないならもう駄目だった。あれが最強の一撃だったのだ。それでも倒せない。

 となれば、倒れている皆を助けられない。救う手段がないのだ。絶望して目に影がよぎる。だが、それでもまだ浅い。本物の絶望はこの程度ではなかった。

 

「ふざけるな! ふざけるなよ、クズが!」

 

 氷河姫が麗日の手を掴み、その身体を床へと叩きつけた。

 遠慮も呵責もない子供がぬいぐるみにやるようなそれは、人体に過大な損傷を与える。

 

「あぐっ!」

 

 ヤバイ音がした。確実に後遺症が残る落とし方だ。だが氷河姫は止まらない。

 

「私を殴った悪い腕はこれか!? これか!? ええ、答えろよ! ゴミクズめ、汚らわしい手で私に触れるなど、死すら生温い大罪と知るがいい」

 

 激昂したまま、何度も麗日の左腕を踏みつける。

 最初の一撃で骨が粉砕された。次の一撃で砕かれた骨が筋肉をズタズタに引き裂いた。次の次の次の一撃で、腕がタコのようにべろべろになっていく。

 

「っぎ! あああああああああ!」

 

 気を失うほどの痛みなのに、更なる激痛が麗日を現実へと引き戻す。気絶すら許してくれない苦痛で涙が溢れてしまう。

 しかし、氷河姫は執拗に血と皮と平らになった肉を踏み躙り続ける。

 

「おのれ、おのれ……おのれェ!」

 

 そして、二度と原型を取り戻せないくらいにまで破壊したら満足したのか、今度は麗日の顔を掴み上げる。

 

「……うあ」

 

 その目は熱病に侵されたかのように泳いでいる。

 激痛によるショックでいつ死亡してもおかしくない状態だ。そして、とめどない出血で命の火が消えかけようとしている。

 

「そういえば、お前はヒーロー志望だったな。……では、こうしてやろう」

 

 氷河姫は無事な右腕の方を見る。

 その先には肉球がついている。それは個性発動のキーとなるパーツ。それを失えば二度と個性が発動できなくなってしまう。

 そう、人は足を失えば走れなくなる。失った足は二度と戻ってこないのだ。それは個性も同じ。

 

「――ッ!? だめ……やめて!」

 

 朦朧とした意識の中で、それだけはと懇願する。

 それがなくなってしまったら、もう彼とは並べない。彼は絶対にヒーローになる、そういう人だ。

 だから、一緒にヒーローになりたいと……そう思ったのに。

 

「ああ、見れば見るほど醜い部位だ。こんなものは、斬り落としてしまった方がいい。ありがたく思えよ、痛みはない」

「やめてえええええええ!」

 

 ぐちゃぐちゃになって左腕の発熱が全身に伝わって、苦痛でどうにかなりそうで……もう自分の身体がどうなっているのかさえ分からない。 

 けれど、右手……その指先だけが妙に寒い。

 

「くく、見ているがいい。……自らの未来が腐り落ちていく様を!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 熱い。寒い。苦しい。冷たい。あらゆる種類の痛苦だけが詰め込まれた身体の中で、右手だけが感覚がない。

 霜が降る、目の前で肉球が紫色になっていく。

 それは授業で習った。チアノーゼ反応だ、雪山で遭難して凍傷にかかった時にそうなる。

 

「いや。……いやあ! やめて!! お願いだから。謝るから! 何でもするから!」

「ふん、下等生物の望みをなぜ聞かねばならない」

 

 みるみるどす黒い色に変化する。手遅れの典型的な症状。……もう、こうなれば斬り落とす以外に手段がない。

 でなければ、全身に毒素が回って死んでしまう。

 

「……うわあああああああ!」

 

 だが、氷河姫によるそれは少し違う。

 ただ、肉球だけが腐り落ちた。そして、同時に麗日も無個性へと転落した。もはや走れない。

 失った五体は取り返しがつかないのだ。

 

「あああああああああ!」

 

 苦痛に満ちた叫び声。

 その美しい音楽に氷河姫は酔い痴れる。

 

 

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