緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第31話 新生ウラビティ

 

 その後、麗日と出久は病院に緊急搬送され、夜に目を覚ます。

 そもそも彼らは意志で限界を突破し、個性が身体を凌駕したものだった。つまりは医療の領域外の話だから手の施しようがない。

 そんなどうしようもない二人は同じ病室に突っ込まれていた。他の毒ガスの被害者は、揃って同じ病室に居る。

 

 ――そして、同じタイミングで目を覚ました二人は爆豪が連れ去られたことを聞く。

 幸いにも、取り返しのつかない後遺症を負った者もいない。まあ、それは麗日を除いてだが。

 そして、結局どうなるのかと言うと。

 

「良く集まってくれた」

 

 警察の直正が、とある一室に集めた彼ら。

 トップヒーロー勢ぞろいの中に、出久と麗日が居た。麗日については議論があったのだが――結局は本人の意志、そして新たに発現した『影猫の手』があればトップヒーローレベルの力があると言うことで認められた。

 結局、11位以下のヒーローでは脳無のハイエンドを超えた惑星級(プラネテス)を前にしては犬死になのだ。

 

「今回の事件はヒーロー社会崩壊のきっかけにもなり得る。総力を持って解決に当たらねば」

 

 警察がヒーローたちに話しかける。

 ――そう、社会の崩壊は簡単に訪れる。間違った言い方をすれば、社会の平穏などオールマイトの頭のおかしい強さによる暴力で抑圧しているだけだ。

 暴動のタネはどこにでも転がっている。

 オールマイトさえいなくなれば、即座に着火する。いいや、着火はしている。これは、火種を踏み潰すことをどれだけ”続けられるか”という戦い。

 

「生徒の一人が仕掛けた発信機では、アジトは複数あると考えられる」

 

 それこそ、この言葉が証拠。人体実験施設が複数ある。それは平穏が見かけ上でしかない証拠だ。なぜなら、人は正義が好きだから。

 そして他人をよく見ているから、怪しい施設など本来は存続できない。人体実験をするのなら、うるさくなるし電力の使用量も、水も……いくらでも気付く切っ掛けはある。

 実際、警察は一日も経たずに調べ尽くしていたから、隠し切れたなんてことがあるわけがない。つまり、人々はそれを知っていたのだ。知りながら、黙っていた。

 

「我々の調べで拉致被害者が今いる場所が分かっている。主戦力をそちらに投入し被害者の奪還を最優先とする」

 

 ほら、証拠が続々と出てくる。

 半日でアジトを調べられるなら、なぜ調べなかった? 他の仕事で忙しかったのか? まあ、もう結論は出ているのだろうが……そう、”忙しかった”のだ。

 

「同時にアジトと考えられる場所を制圧し、完全に退路を断ち一網打尽にする」

 

 人質が敵連合に付けば社会が崩壊する。きっと、そんな社会の終焉ばかり切羽詰まって捜査しているから人質を取られるまで動かないのだ。

 だからこそ手慣れている。実際、後手後手になっているがこれが一番速いのかもしれない。だって、人は切羽詰まらないと動かない。

 協力して動くなら、後がない状態でないと誰も動かないと言うのは悲しい現実かもしれない。そんな案件が多数存在していれば、自転車操業にもなると言うものだ。

 

「今回はスピード勝負だ! 敵に何もさせるな!」

 

 そもそもヒーローと警察の間に連携はない。というか、ヒーロー達にも実力の格差がありすぎてまともに”共に戦う”など出来はしない。

 実力を高めるために自己流を見つけ出したが最後、他人と組めば邪魔になる。だから、真の意味で人と協力できるのは1年坊のときだけだ。そんな状態で敵の反撃に対抗できるわけがないから一撃で決める。何もさせるな、というより――何かさせたら全てが終わるヒーロー側の事情。

 

「先ほどの会見、敵を欺くよう根津校長のみ協力要請しておいた。さも難航中がのように装ってもらっている。あの発言を受け――その日に突入されるとは思うまい!」

 

 この切羽詰まったらやる、を繰り返す組織を他人がどう見るか。

 ケツに火がつかないとやる気の出ない怠惰な奴らと思うだろう。要するに舐め腐るのだ。ゆえに、そう……彼の言う通りに今日突入されるとは思わない。

 だって、警察は”ヴィラン受取係”の無能だから。

 

「意趣返ししてやれ、さァ反撃の時だ!」

 

 その言葉に拍手はない。

 

「流れを覆せ‼ ヒーロー‼」

 

 ヒーローたちはそれぞれでもって、己が気持ちを高ぶらせる。

 社会を破壊せんとし、王手をかけた敵連合を潰すため。

 

 そして、麗日は出久に声をかける。

 

「……出久君」

「どうした、麗日? まあ、気落ちするなよ。お前が向かう工場だって奴らの本拠地ではないにしろ、気を抜けば誰かが死んでもおかしくない重要で困難な任務だぜ」

 

 怖いならやめておけ、という言葉を出久は吐かない。

 恐怖も苦痛も理解できる。だが、理解した上でそれを覚醒の原動力にしかできない彼は完全にずれている。

 よって、怖いから逃げるなんて発想することすら不可能だ。

 

「うん、うちを入れてくれただけでも感謝しとるよ。少しだけ、出久君と話をしておきたかったの」

「そうか。まあ、俺でよければいくらでも話をしてやるぜ? 帰ってきた後でもな」

 

「……うん。うん、帰った後でまた話してくれる?」

「当然だ」

 

「ありがと。そう言ってくれるから、うちは行けるよ。オールマイト先生と一緒に頑張って」

「応よ」

 

 拳を打ち合わせた。

 

「――ウラビティ!」

 

 声がかかる。ドラグーンヒーロー『リューキュー』、彼女も工場襲撃の任についた。

 裏話となるが、彼女がここに居る理由は”工場が増えているから”という理由だ。プラネテスだけではない、量も質も……原作と比べて圧倒する。

 

「あんたの話は聞いてる。その左腕、頼りにさせてもらうよ」

 

 ゆえに、もう一人のミルコとともに出撃するのだ。

 地獄の経験はただの一晩で麗日を戦士へと変えた。今の彼女を見れば一年坊と馬鹿にする者はいない。

 その10分もない戦いが歴戦へと変貌させた。

 

「すみません、我儘を聞いてもらえますか?」

 

 だから、トップヒーローを前にしてこんな科白まで吐ける。

 実力、さらに地獄を経験した者の強さだ。

 

「へえ、言ってみな?」

 

 ミルコは面白そうに唇の端を上げた。

 

「私が先に突っ込んで、脳無を全て引き裂きます」

 

 気負いもせずにそう言った。

 

「そいつは一人で十分だって意味かい?」

「いいえ、うちには経験がありません。きっと、サポートに回ったところで何もできません。……だから」

 

「そいつは……」

 

 難しい、とリューキューが言いかける。

 ヒーロー社会の問題だ。目立った者が名声と金を得るから、サイドキックでもない限りそれはない。

 サポートは出張り損になるから、3人で同時襲撃以外の選択肢がないのだ。制度上。

 

「いいぜ、やりな」

 

 だが、ミルコはそう言った。にやりと笑って続ける。

 

「惚れた男にいい所見せてやりたいんだろ? 気張んなよ」

「ッな!? そ、そないなこと……」

 

「――まあ、そういうことならしょうがないわね」

「……リューキューさん!?」

 

「はは。まあ、この業界……女ヒーローだと家庭を持てなかったりは珍しい話じゃないから。後悔しないようにした方がいい」

「なんだ、押し倒しちまえば話は早いのに」

 

「……お、押し倒――」

「ミルコ! 学生に言う言葉じゃないだろ、それは!」

 

「HAHAHAHA!」

 

 ひらひらと手を振る彼女を二人で追いかける。

 そして、襲撃へ。

 

「――向こうの建物ですね」

 

 襲撃対象から1km離れた場所に麗日は居る。人通りのある通路だ、周りには騒がれているが……通行人にはそれなりにバレる適当な変装をしている。コスチュームの上から上着をひっかぶっているだけだ。

 だが、よほど厳重な警備を――それも人手を使っていなければ、まず見つかっていないと思っていいだろう。

 

「ああ、合図を待て。同時襲撃だ」

「……はい」

 

 油断せずに向こう側を視界の端に捉えながら人ごみの様子を観察する。

 視界の真ん中に捉えた場合、人に気付かれることがある。相手は建物だが、監視カメラでの監視がないとも限らない。 

 だが、視界に捉えているだけでは見られていることにも気付けない。

 

〈作戦開始!〉

 

 耳に付けた通信機から声が響く。

 同時、麗日は上着を打ち捨て……一直線に飛翔する。否、飛翔と同レベル、かつ直角に曲がる複雑な軌道を”壁を蹴る”ことで実現する。

 しかも、壊すどころか足跡すら残さない。

 いかにミルコであってもこれに追いつけるかどうか。

 

「行こう、私の左腕『影猫の手』。苦痛も、負傷も……全て乗り越えるんや。彼のように」

 

 影のように薄っぺらな手が、戯画的な変形すらして扉を引き裂いた。

 ただの廃工場に見えたそれは、実のところ高度なシステムを搭載した最新鋭の”脳無生産工場”だ。扉だって、複合金属の堅牢なそれ。警察隊では開けるのを諦めて壁を破壊するたようなそれ。

 引き裂いた瞬間、発狂したかのように警報が鳴り響く。

 ――脳無が動き出す。

 

「させんよ」

 

 それらが外に出れば、ただの中堅ヒーローが壁になっても一般市民ごと虐殺されるだけだ。

 彼らが”生きてはいない”ことは法律上でもう決着がついている。……殺して楽にしてやらなければいけないだろう。

 だからこそ八つ裂きにする。ただの一秒で、起動した脳無も、まだカプセルで眠る脳無も……26体を殲滅した。

 

「――」

 

 そして、二階に向けて腕を振るう。その一撃は天井を砕き、脳無どもを引きずり出し……しかし、地面に叩きつけることはない。

 ――空中でゆっくりと落ちてきている。

 無重力の個性の作用だった。

 

「ごめんね。おやすみ」

 

 そして空中で散花する血の飛沫。二階にいた14体の脳無が現世から解放された。

 すさまじいまでの戦闘能力だった。……だが。

 

「まだ甘いところがあるね」

 

 ミルコが隣に並び、床に向かって思いきり足を踏み下ろす!

 

月堕蹴(ルナフォール)

 

 彼女もトップヒーローの一人、負けてられないとばかりに蹴り技を繰り出した。

 床が爆砕する。

 天井と床、どちらが硬いと言う質問に答えれば、それは床の方だ。基本、建物は上部の重さを支える必要があるだけ下の方が丈夫になっていく。

 それを、このミルコは麗日がやった以上に粉々にぶち砕いて見せた。

 

「――はは。いいねえ、テメエらが隠し玉ってやつかい」

 

 そこには6体の上級脳無が居た。USJと同クラスのそれ。より価値のあるものは地下に隠すのが当然だろう?

 なぜ分かったかと言えば、ものものしいカプセルにでかでかとプレートが貼りつけてあるからだ。獲物を見つけた兎が凶悪な笑みを浮かべる。

 

「でも、己の意志も持てん奴にうちは負けん」

 

 麗日も当然降りてくる。一階がなくなったから当然だ。そして逃げる気もない。

 カプセルを破砕して向かってくる脳無達を睨みつける。

 

「いいこと言った!」

 

 ミルコが持ち前の瞬発力を活かして駆ける。

 

「――Aaa……」

 

 大口を開ける脳無は『ラウドヴォイス』を解き放とうとしている。プレゼント・マイクから汎用性をなくしてひたすら範囲と攻撃力を上げたそれ。

 そいつの攻撃を許せば、半径100mの生命は無惨に死に絶え、1km以内であれば鼓膜が破れ後遺症が残る。

 

月頭鋏(ルナティアラ)!」

 

 足で頭を挟み、首をひねり殺した。

 あくまで脳無は人を基本としている。再生能力持ちでなければ首の骨を折れば殺せるのだ。

 

「GUrururu」

 

「Ruaooooo」

 

 意味の取れない言葉を吐きながら、斧を持つ双子が駆ける。

 それぞれ頭の片側が欠けている。顔面そのものが、”二人で一人”。見ていると頭がおかしくなりそうだ。

 上級『シザーズ・レフト』と『シザーズ・ライト』が完全なコンビネーションで仕掛けてくる。

 この二人はオールマイト級の腕力を持つ上に、”二人同時に倒さなければ”全ての傷が回復する。

 

「……は! このアタシを殺したきゃ、この十倍は持ってこい! 『踵月輪(ルナリング)』」

 

 二人、同時に回し蹴りで頭を蹴り砕いた。

 期せず、殺害条件を満たしたが……何のことはない。この完全なコンビネーションを崩すなら、二人同時に殺るのが楽だっただけのこと。

 

「そっちも終わりましたか? ミルコさん」

 

 麗日が声をかけた。

 親しい者(出久)の幻像を作り攻撃を仕掛けてきた『ドッペルゲンガー』、犬の爪と素早さを併せ持つ『シェパード』、予知じみた精密予測を可能とする『ハイスペック』の三人をこともなげに下して見せた。

 『影猫の手』は変幻自在かつ伸縮自由の攻撃だ。偽物などに動揺することもなく、そして犬の速さを上回り、予知など意味がないように空間を制圧した。

 

「……ふ」

 

 ミルコは、この実力に空恐ろしいものを感じてなお――

 

「あっはっは! アンタ、やるねえ! ちょっとウチん所に来なよ、あの根性ねじ曲がった坊主と一緒に鍛えてやる!」

 

 バンバン背中を叩く。

 

「あはは。ありがとうございます。その時はお願いします」

 

 横で見ていたリューキューだが、むやみやたらと突っ込むばかりが能ではない。彼女は見逃しがないように待機していた。

 このご時世、あまり理解されないのが辛いところだが。

 

「好きな子と同じところに行った方がいいんじゃないかしら……?」

 

 半分独り言で突っ込んだ。

 

「いや。グラントリノは普通のヒーローとちょっと違うって言ってたから、多分やってないんじゃないかと……って、違う! なんてこと言わせるんですか!?」

 

 怒った顔は年頃の少女らしかった。

 

 





 なお、本SSでは強かった敵が味方になった瞬間に弱くなったり、覚醒で一時的に強化されたらCパートで強さが戻ってるなんてことはありません。
 前話で覚醒した彼女は覚醒したままです。


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