緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第32話 オールフォーワン参戦

 

 そして、ヴィラン本拠地に舞台を移す。

 敵連合は順調に爆豪をさらったはいいものの、まあこの男が仲間になれなんて言葉に頷くわけがない。何にでも噛みつかなければ気の済まない男だ。

 嘘だろうと屈したことを録音できれば社会崩壊の最後の一刺しになったかもしれないが……それも失敗した。言ってさえくれればマスコミが勝手に面白可笑しく編集してくれただろうに。

 もっとも――それがダメならば脳無に改造するまでだ。重要なのは世間がどう思うか。そう、例え洗脳どころか物理的に脳をいじくりまわしたところで、世間が彼の意志でヴィランに下ったと思えばそれでいい。

 彼の意志の真実など、誰も気にかけない。ただ、それっぽい事実のつながりがあればそれで必要にして十分。

 あとは、世間とやらが悪い方向に考えてくれる。人はみんな、”批判する”ことが大好きだから。

 

「ゆえの速攻! さあ、ヴィランども――」

 

「覚悟しろ」

 

 だからこそ、1日2日が致命傷。どこまで行っても速すぎることはない。

 両脇の壁を殴り壊しながらの特攻をしかけるオールマイトとオーバードライブ。二枚看板は厚く、敵にとってはどこまでも絶望的だ。

 壁は破砕と同時に散弾銃に変貌する。敵連合側も万全なら対処できても、襲撃時の反撃で受けた傷が癒えていない。

 

「……馬鹿な!」

 

「なぜ、ここにオールマイトが……ッ!」

 

 驚愕する他ない。そもそもにして未だ翌日の夜。ヴィランの襲撃が夜で、このヒーローの襲撃も夜だから実質1日しか回復の時間がない。

 襲撃があることを”予測する”時間すら足りなかった。

 そんな有様で、まだ治療も碌に済んでいないのだ。よってトゥワイス、スピナー、マグネが戦闘不能のまま。

 

 一番状態が悪いのはスピナーだ。トゥワイスとマグネは安静にしていれば回復するが……彼に至っては生きているのが不思議な状態でさえある。

 頭のおかしな訓練は本当に三日坊主で終わってしまった。今は座っていても意識が朦朧としている。

 負傷の影響で熱病のようにうなされているが、精神力で座って形だけでも話を聞いている。当然、飛ぶ瓦礫に頭を直撃されそうになるがマグネが彼を抱きしめ、守る。

 

 荼毘もまた即座に迎撃できるほど回復していない。そしてトガヒミコとMr.コンプレスは壁を砕いた時の破片で戦闘不能だ。

 戦闘能として見るなら、この二人はまだ普通のプロヒーローの同じレベルだ。

 つまり、”動ける”のは実質的に死柄木弔と黒霧の二人のみ。

 

「HAHAHAHAH。もう逃げられんぞ、敵連合。何故ってェ?」

 

「――俺たちが来た!」

 

 本来、守勢側が不利だ。城攻めには3倍の戦力差が必要とされるなんて言葉があるから勘違いされがちだが、現代において守るは不利だ。

 なぜなら、100回やって1回でも打ち破れれば即ち勝利。しかも、時間も場所も選びたい放題とまでくれば。

 いくら彼らが実力者であろうと、24時間警戒し続けることはできないのだから攻撃する側が有利だなんて言うまでもなかった。

 

「……オールマイトォ! させるものか! せっかくここまで築き上げてきたんだよ、お前に! 勝つために!」

 

 当然、死柄木だって無防備に一撃を受けている。

 本来なら一撃で意識を刈り取れるだけの威力があったが、そこは計算違い。8度の改造を経ている分だけ力を込めたが、足りなかった。

 奴は手を伸ばしてくる。個性『崩壊』の力を宿したその手を。

 

「いいや、終わりだ」

 

 一瞬で両腕をへし折った。油断も慈悲もない、これこそが本気のオールマイト。あの爆豪と轟を相手にした試験の時とはまるで違う。

 なにをしても腕力で潰される、敵にとっての絶対の絶望だ。

 

「何をそっちから来てくれてんだよ、ラスボス。これじゃあ、序盤でゲームが終わっちまうだろうが。……なあ、黒霧ィ! 脳無あるだけ持ってこい!」

「――すみません。死柄木弔、それが所定の位置にない……っが!?」

 

 オーバードライブにかろうじて対処している黒霧は、会話の隙を突かれて腹を抉られる。

 そう、これは同時襲撃。持ってこれる脳無など残っているはずがない。

 たとえ死柄木が使えることで工場が増えていても、取りこぼしなどない。

 

「だからって、負けてたまるかよ!」

 

 折れた腕を修復、オールマイトに向かうが――その腕が伸びる。碌に体術など使えないためにオールマイト相手では5指を触れさせることなど、夢のまた夢だから足りない分は個性の増設で補う。

 さらに。

 

「『装甲化』に『毒棘』、伸びた腕は狙わせねえ。そして『引力』! こいつは対象を引き寄せる。さらにはUSJの脳無と同じ『衝撃吸収』まであれば、テメエに勝てないはずははネエんだよ!」

 

 だからこそ会得した新たな個性。個性は簡単に人の努力を上回る。体術などなくても伸びる腕は変幻自在、どのようにも伸びる腕は予測不可能。

 例えヒーローであろうと、なすすべもなくその5指に囚われることだろう。

 

「君らは舐めすぎた。少年の魂を。警察のたゆまぬ捜査を。そして、我々の怒りを!」

 

 だが、オールマイトには通じない。

 変幻自在? 物理法則を超越した夢幻の軌道? 触れれば死ぬ毒の茨? そんなもの、いくら相手にしてきたと思っている。

 たゆまぬ努力が、そして幾多の戦闘経験が見切れぬはずのないそれを完全に捉えることを可能とする。

 目にもとまらぬ10連撃が指の一本一本を個別に砕いた。

 

「おいたが過ぎたな。ここで終わりだ、死柄木弔!」

「……終わりだと? ふざけるな……始まったばかりだ。正義、平和……あやふやなものでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊すためにィ!」

 

 睨みつける。

 修復が始まったが、遅々として治らない。治癒にはいくつかタイプがある。死柄木のそれは、骨が粉砕されて肉の中に入り込むと排出する必要があって治りが遅くなってしまうタイプだ。

 その状態では指ごと斬り落とした方が再生が速いのだが、何かを握る手を砕かれてしまっては。

 

「仲間も集まり始めた。ふざけるな、ここからなんだよ!」

 

 絶望的だ。だが、それでもと死柄木は叫ぶ。

 

 

 そして、黒霧はと言うと。

 

「さァ、テメエは俺とだ。付き合ってもらうぜえ! 『New Hampher Smash』!」

 

 オーバードライブとの交戦。さらには四方八方滅茶苦茶に技を放ってくる。本来なら転移を用いて相手の技を返せるから狙いどころなのだが……

 

「正気ですか!? オールマイトにも当たりますよ。それに、こちらには人質が!」

「師匠に俺の攻撃が通用するわけねえだろうが! そして、人質ィ? 誰だよ、そいつは。俺にはヒーローが2人いるようにしか見えねえなあ!」

 

 そう、オールマイトと爆豪が。爆豪も立派なヒーロー、対処はできると信じている。多分根性と気合いで何とかしてくれるだろうというはた迷惑な信頼だ。

 無茶苦茶に放ってくるせいで彼にもあたるが、敵連合の負傷者にも当然当たる。すでに制圧済の者まで更にダメージを与える確信犯だ。

 その無差別攻撃のかいあって、唯一動ける荼毘も仲間を守るので精一杯。そして、回復しきっていない5人も、荼毘のサポートがあっても回避と防御に全力を使わないと潰される。

 ここでも、たったの一人で戦場をコントロールしていた。

 

「ぐぅ……!」

 

「さすがに、それはやりすぎなのですよ出久君」

 

 怪我の軽いトガヒミコが動いた。が――

 

「逸んなよ、おとなしく寝ておいた方が身のためだぜ」

 

 目にもとまらぬ古豪、グラントリノが蹴り伏せた。

 オーバードライブの乱舞する拳の威力など全て回避する。打ちまくっているだけの攻撃に当たってやるほど老いてはいない。

 

「この攻撃、確かにUSJの時の私ではなすすべもなく実体に攻撃を受けていたな……! だが、今の私には強化された反射神経と眼がある! なめるなよ、ヒーロー!!」

 

 そして、強くなったのは死柄木だけでなく黒霧も。ヴィランらしく、努力しないで力を得た。

 もっとも、強化手術はリスクも苦痛も伴うよほど苦しい方法だが。それでも、その甲斐ががあって、今……こうしてオーバードライブの攻撃を避けている。

 

「っは! 好きなだけ強くなりゃいいさ! 改造が卑怯だなんて言わねえよ! だが……勝つのは俺だァ」

 

 オーバードライブ&グラントリノと黒霧の超高速戦闘だ。瞬間移動じみた歩法と、本物の瞬間移動が狭い屋内で連続する。

 結果は局所的な嵐だ。壁こそ砕くのを避けているものの、ガラスの破片に木の破片……もはや歩いただけでダメージを喰らう地雷原に成り果てた。

 

「さて、さっさと降参しておいた方が本当に身のためだぜ? この兄ちゃん、本当にアンタを狙っとるからな」

 

 黒霧は喰らっていたら腹の中身がぶちまけられるほどの威力をかろうじてワープゲートでかわす。

 手加減なし、どころか。

 

「オーバードライブ……! 貴様、私を殺す気でやっているのか!?」

「まさか、テメエは脳無だと確定してねえからな。許可証がねえんだ。……だからこそ、殺す気でやってるなんざ口が裂けても言えねェなあア!」

 

「なんだ、その政治家みたいな言い分は! ッ!? 脳無を? すみません。死柄木弔、それが所定の位置にない……っが!?」

 

 死柄木の言葉に一瞬意識を取られた瞬間にいいものを喰らう。

 動きが止まる。

 

「油断はしない。確実に殺――お前を捕える」

 

 オーバードライブの目が殺意に怪しく光る。

 その、瞬間……

 

「さすがに、それは困ってしまうなあ」

 

 謎の声が響いた。その瞬間に敵連合全員が、黒い何かを吐いた。

 

「爆豪少年‼ No!!」

 

 それは木を失って倒れ伏す爆豪にも。オールマイトは彼を救うため、飛び出し――しかしどうしようもない。

 超パワーでは、それに何も対抗できない。

 

「――」

 

 そして、オーバードライブは冷たい目で信念を実行する。依然、彼の最大のターゲットは黒霧だ。

 こんなことをせずとも世界を壊せる個性。それで成り果てるのは悪が支配するどころではない、暴力だけが連続する世紀末だろうが――それだけに生かしてはおけないと考えている。

 この逃亡こそ、オーバードライブが望んでいた状態。ここで、逃がしそうになるくらいなら殺すと……大義名分はここに立った。

 

「……」

 

 言質を取られる訳にはいかないから無言で殺意を解き放った。

 残った黒霧の血と臓物が床を濡らす。確実に致命傷の手ごたえだった。

 

 だが、まだ終わってはいない。謎の声の主が戦線を継続する。

 大量の脳無が現れる。数は8体。そして、外にも現れる。見事に状況をひっくり返された。オールマイトも助けられなかったことに慟哭している。

 

「まだだ!」

 

 オーバードライブが血に濡れた拳を握り、叫ぶ。

 

「これは黒霧のワープゲートじゃない! これが黒霧の下位互換ならば、まだ見失ってはいない! 他拠点に向かったヒーローに連絡を! 大師匠! エッジショット! シンリンカムイ! この場を頼みます。外にはエンデヴァーが居るから警官たちも問題ない!」

 

 そして、連絡がつかないところが一つ。

 

「ベストジーニストがやられた! おそらくオールフォーワンだ。この状況ではそれ以外に考えられない」

 

 敵の位置が分かった。

 

「――奴がそこに居るのか。ならば」

 

 オールマイトの目に炎が灯る。

 

「師匠! 行こうぜ、長年の因縁を清算しよう」

「ああ! 行くぞ!」

 

 二人、流星のように飛び出していった。

 

 

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