緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第33話 決戦、オール・フォー・ワン(上)

 

 爆豪は混乱の中にあった。と言うか、滅茶苦茶に放ったオーバードライブの攻撃が効いている。出久は彼にかまわずぶっ放して、当然ながら彼にも当たった。

 ヴィランも、彼まで守る様な余裕があるわけがない。

 

「――全ては君の為にある」

 

 死柄木に手を差し伸べるオールフォーワン。そこに上空から超高速で弾丸のように飛来してくる影が一つ。

 

「全て返してもらうぞ。オールフォーワン」

「また僕を殺すか。オールマイト」

 

 速度を十分に乗せて打ち込んだ拳は受け止められた。弾かれたように両者が距離を取る。

 そう、レベルが違う。これこそが闇の帝王、オールフォーワン。

 

「バーからここまで5km余り……僕が脳無を送り、優に30秒は経過しての登場。”衰えた”ねオールマイト」

「貴様こそ、何だその工業地帯のようなマスクは!? 大分無理してるんじゃあないのか?」

 

 変わり果てた姿で再開した宿敵同士。

 悪の方は、顔面そのものがない。マスクに覆われているその顔は、呼吸すら怪しい。

 善の方は、姿こそ全盛期と同様。だが、その筋肉は力んで膨らませているだけのニセ筋だ。

 

「5年前と同じ過ちは繰り返さん。……爆豪少年を取り返す。そして貴様は今度こそ刑務所にブチ込む! 貴様の操る敵連合諸共な!」

 

 オールマイトが走る。

 

「それは……やることが多くて大変だな。お互いに!」

 

 オールフォーワンは片腕を上げる。見る間に肥大化した。マスキュラーと同じ、纏うことで筋力を増強する個性だ。

 そして、オールマイトが近寄る前に空気弾を叩き込んだ。

 

 ――すさまじい威力。ただの余波で街が崩壊していく。その、中心点となってしまったのだから、例えオールマイトと言えども。

 爆豪が彼の名を叫ぶ。

 

「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ。だから、ここは逃げろ弔。あの子を連れて。――黒霧、皆を逃がすんだ。悪いね、僕のは作りたてで出来ないんだ」

 

 気絶した彼の個性を棘を指して強制的に使う。ワープゲートが開く。

 

「さあ行け」

 

 だが、オールマイトが来る。

 

「逃がさん!」

 

 戦いが始まる。最強格の二人は、互いが邪魔になって人質に干渉できない。

 

 そして敵連合。殆ど負傷で戦力外になっているとは言え、改造強化した死柄木だけでも、爆豪にとっては絶望的な相手に違いない。

 このままではなすすべもなく囚われ、ワープゲートの向こう側へ連れ去られてしまう。

 

「――させるかよ。やろうぜ、かっちゃん!」

 

 墜落するように落ちてきた拳が死柄木を弾き飛ばす。

 

「ふざけんな。寝言は寝て死ね。……全員、ぶっ殺してやらあ!」

 

 吠えた。

 

「そこをどけ! 俺は、先生を助けなきゃ――」

 

 死柄木が必死に追いすがる。だが。

 

「ヴィランが情を理由にするなよ。慣れないことをしても弱くなるだけだぞ?」

 

 オーバードライブに容赦はない。再生がある? ならば四肢をねじ切り石を詰め込んでやろう。そうすればもう、再生はできない。

 オーバーホールとの戦いを通じ、更なる進化を経たオーバードライブは死柄木では敵わない。

 虎の子のプラネテス、奴らは制御できない。この場に現れないのは例えオールフォーワンでも強制できないからだ。

 無理に連れてきたとしても、無為な大虐殺を続けるだけで役に立たない戦力外だ。

 

「……それでも! 俺は!」

「ヴィランにも誰かのために戦うことがあると、学ばせてもらった。その意志と力は尊いものだ。……だが殺す」

 

 オーバードライブの拳が死柄木の心臓を貫いた。

 

「それでは殺せんと、証明したはずだぜ!」

 

 だが、両椀がひらめく。まだ死んでいない、尊敬する先生を助けるために。かつて救ってもらった恩を返すために。

 死柄木弔は不退転の覚悟で敵に向かう。

 

「だが、脳はどうかな。……単純なプログラムが埋め込まれただけの脳無と違い、人間の脳は複雑だろう。記憶障害、性格の変異と、頭の中だけは完全には再生できないんじゃないのか?」

 

 そして、オーバードライブは頭の中をかき回すために手を伸ばす。

 頭蓋を砕き、中にある脳髄を引き吊り出してぐちゃぐちゃに踏み砕いて、土と塵とを混ぜたペーストにしてしまおう。

 それがどんなに凄惨な行為だろうと、彼は”やる”。

 

 戦況は絶望的。己とオールマイトはそうでないにしても、敵連合としては敗北の局面だ。オールフォーワンが韜晦する。

 

「――終わりだな。君たちの戦力が我々を上回っていた。油断でもなければ、運の有無でもない。純粋な実力だ、悔しいね」

 

 策とかいうあやふやなものですらない。

 あちらとこちらを比べて、純粋に数も力も劣っていた。ただ、それだけの話だったから。

 

「弔、君は戦いを続けろ」

 

 個性強制発動の力を行使し、マグネの個性を発動。死柄木の頭蓋を砕いて汚いスープにされる前に、ワープゲートの中に全員を叩き込んでしまった。

 

「あとは、お前だけだぜ。なんか出て来たポッと出の偉そうな野郎がよお。ぶっ殺してやるぜ」

「ああ、そうだな。それと悪いな、かっちゃん。……飛んでいけェ!」

 

 オーバードライブが爆豪をぶん投げて強引にバトルフィールドから叩き出した。

 文句を言う暇すらなかった。

 

「これからが本当の勝負だ」

「言うじゃないか、卵の分際で」

 

 また、オールフォーワンが片手を掲げる。

 

「そして、オールマイト。貴様はかつてその拳で僕らの仲間を次々と潰し回り、お前は平和の象徴と謳われた。――僕らの犠牲の上に成り立つその景色、さぞやいい眺めだろう?」

 

 いかに威力があろうと、この二人に大ぶりの攻撃は通じない。当然、避けることは容易なわけだが……

 

「やらせん、『DETROIT SMASH』!」

 

 威力が肝だ。こんなものを撃たれたら街が滅茶苦茶になってしまう。たとえ強引であろうと打ち消すしかない。

 だが、オーバードライブはどこかに飛ばされる。オールマイトでさえ限界を突破しなければ前に立つことすらできない相手。

 No1以外は立つことすら許されない戦場だ。

 

「心置きなく戦わせないよ。ヒーローは多いよなあ、守るものが」

 

 次弾が来る。

 

「黙れ!」

 

 オールマイトが機先を制す。貯める前にその腕を掴む。

 

「貴様はそうやって人を弄ぶ! 壊し! 奪い! つけ入り支配する! 日々暮らす方々を! 理不尽が嘲り笑う! 私はそれが! 許せない!!」

 

 顔面に拳を叩き込んだ。

 

「いやに感情的じゃないか。同じようなセリフを前にも聞いたな。先代、志村菜奈から。――実にみっともないあの有様、どこから話そうか」

 

 だが、ダメージが入った様子はない。オールフォーワンがまたあの個性を使う。全てを巻き込みながら粉砕する遠距離攻撃は、外れた方が街を破壊する分だけ厄介だ。

 

「悪の言葉など聞かん」

 

 オールフォーワンの反撃をオーバードライブが蹴って上方向へとそらす。だが、余波だけで弾き飛ばされてしまった。

 悠々と敵が立ち上がる。

 

「君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだぜ? だから君には可能な限り醜く惨たらしく死んでほしいんだ! まずは怪我を押して通し続けた、その矜持を奪う」

 

 また同じ攻撃が来る。距離が離れているだけに止められない。そして後ろに人が居るために、よけることさえ許されない。

 

「みじめな姿を世間に曝せ、平和の象徴」

 

 粉塵がおさまった時、その姿は露になる。

 痩せ細り、隆々とした筋肉など見る影もなく衰えたその姿。

 

「なんだ、あのガイコツ」

 

 ヘリを通した報道を見ている誰かが言った。

 

「貧相なトップヒーローだ。恥じるなよ、それがトゥルーフォームなんだろう!?」

 

 だが、どこまで衰えようとその苛烈な意思は衰えない。燃える瞳が敵を射貫く。

 

「身体が朽ち衰えても、その姿を晒されようと。私の心は依然平和の象徴‼! 一欠片として奪るものじゃあない!」

 

 オールフォーワンも嘆息する。

 

「素晴らしい。まいった、強情で聞かん坊なこともを忘れてた。じゃあこれも、かな」

 

 決定的な言葉を吐く。

 

「死柄木弔は志村奈々の孫だよ。な、僕のやりそうなことだろ?」

 

 オールマイトは絶句する。瞳の奥に燃え盛っていた炎は、今やどこにもない。それだけの衝撃だった。

 尊敬する師の血縁であれば、それは自分の家族も同様だろう。許されるならばお年玉でもあげていたかもしれないが、そこは師の想いを尊重して関わらなかった。

 ――ヒーローの諸々に巻き込みたくないから関わらないと言う師の選択。それは誰にも責められるはずのないものだったが。

 彼がヴィランになっていたこと、天国の師にはどう説明すればいい? 関わらないでくれと言われていたことなど言い訳にならない。

 自分は生きているのだから、何かをどうにかできたはずだったのに。

 

「き……さ……ま……!」

 

 オールマイトに残ったのは、ただ憎悪に燃える暗い瞳。その状況を作った黒幕が憎くてたまらない。

 ……そして、それを許した愚かな自分を殺してやりたくてたまらない。

 

「やはり……楽しいな! 一欠片でも奪えただろうか」

 

 そして、オールフォーワンは愉快気に皮肉をこねくり回すのだ。

 

「~~~~おおおお――――ッ!」

 

 慟哭の声。なんてことをしてしまったのかと、他ならぬ自らの愚かさに向けて怨嗟を吐く。

 

「……救けて」

 

 守り続けてきた人の言葉が響いた。瓦礫から這い出すこともできず、オールマイトの背中をずっと見ていた彼女。

 そう、彼女を守らねばと思い出す。

 

「ああ……多いよ。ヒーローは守るものが多いんだよオールフォーワン。だから、負けないんだよ」

 

 歪なマッスルフォームを発揮する。左腕だけのそれ。

 だが、オールフォーワンとて死の淵からの覚醒はほかならぬオールマイトのそれを見てきた。それでかつては負けたのだ、ゆえに。

 

「確実に殺す為、掛け合わせられる最高・最適の個性達で君を殴る」

 

 静かな声。

 地獄のように煮詰まった怨嗟が逆に、沸点すらも飛び越えて静まり返る。今のオールマイトが残りカスであることを確信した。

 吹かずとも消え行く弱弱しい光ならば、砕いてしまおう。復讐のために。

 

「オールマイト‼ 負けるな!」

 

「これくらいしかできることはないが――」

 

「あなたの勝利を願わせてくれ」

 

 他のヒーローたちがオールマイトの背中を押す。取り残された人々を救助していく。これで、心置きなく戦える。

 信頼に足るヒーローたちが後ろを守ってくれている。

 

「君の弟子。ここに立つ実力すらもないのに来てしまって。まるで制御できていない。先生としても、君の負けだ」

 

 拳と拳が衝突する。

 パワー勝負、ですらない。『衝撃反転』、この期に及んでもオールフォーワンは策を仕込んでいた。

 オールマイトの腕から血が滴る。

 

「ならば、一つ教えてやろう。確かに私は教師として貴様に負けるかもしれんが――出久は、死柄木を上回る”生徒”だ!」

 

 教師と生徒、教えられるのは生徒の特権ではない。ほかならぬその生徒に教師が教わるからこそ、二人で前に行けるのだ。

 だから、オールマイトも策を使う。

 

「そこまで醜くあらがっていたとは」

「彼を育てるまで、私はまだ死ねんのだ!」

 

 敵の虚を突くため、打ち合った逆の手を使った。だが、それでは。

 

「浅い」

 

 オールフォーワンもそれに倣う。だが、虚を突く速攻のための浅い一撃などではない。真の必殺を存分に貯め、敵の命を刈り取らんと狙う。

 

「そりゃあ、腰が入ってなかったからな。『UNITED STATES OF SMASH』!!!!」

 

 顔面に叩き込んだ。完全に意識を刈り取る一撃だった。

 

「――」

 

 オールフォーワンはたまらず倒れ込み……結晶のように砕け散った。

 

「……なんだと!?」

 

 オールマイトが驚いたのもつかの間。二秒後にそれが起こる。

 

「やはり覚醒したか。君は一体どうなっているんだい? なんで死にかけると強くなるのか、僕にはとんと分からない」

 

 復活した。戦闘前と寸分たがわぬ姿。それこそ全盛期に戻りはしなかったのは救いだったが。

 

「何度でも覚醒するといい。僕はその度に何度でも生き返ろう。君は絶望と恥辱の中、あらゆる苦痛を味わいつくした末に死ぬのだよ」

 

 言い放った。

 

 

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