緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第34話 決戦、オール・フォー・ワン(下)

 

 オールマイトが最後の力を振り絞ってオールフォーワンを打倒したかに見えたその瞬間、奴は復活した。

 地味に意識を失っても死ぬ様に個性で弄っているから、不死の弱点である”殺す”ではなく意識を断つことも意味がない。

 

「――さァ、オールマイト。二回戦を始めようか。ほら、どれだけ覚醒してくれても構わないよ? なんせ君の覚醒は寿命を糧とするんだろう?」

 

 余裕を見せている。

 だが、それもそのはず。こんな不死など、どうすればいいのだ。殺し続けて体力の消耗を狙う……疲れの片鱗も見えないのに?

 そして、何よりも。

 

「ああ、それとも既に打ち止めかな? 先の一撃で残り火を全て使い切ってしまったんじゃあないかな。なら、これからはNo1ヒーローの拷問ショーと行こうかね?」

「――それでも、私は戦う! 力がなくなろうと、何も変わることはない! 私は、オールマイトだ!」

 

 そして、その声に応える者が一人。

 

「その通り。だから、俺は師匠のことを尊敬する。なぜならば」

 

 己の世界に深く入り込む。

 かつて、彼を診た医師は嘘をついた。青山と同じ類のデメリット個性は珍しくてもありえなくはないのだ。

 それは使うだけで我が身を危険に晒す。唯一の武器たる針を使うだけで死に至る蜂のように。

 

〈鏃から半人半馬を蝕む告死。永劫終わらぬ多頭竜(ヒュドラ)の毒が、不死身を捨てろと囁くものの、取るに足りぬわ。片腹痛し〉

 

 そう、オールマイトは毒に侵されてなお立ち続けた。

 呼吸器半壊、消化器全損の傷を負ってもなお平和の象徴であり続けた。

 

〈蹄を鳴らせ、弦を引け、矜持を胸に地平を駆けろ。苦悶と嘆きにこの強弓が朽ち果てるなど有りはしない。なぜならば、耳を澄ませば聞こえてくるのだ───天に轟く雷霆が〉

 

 そう、平和の象徴として声を張り続けてきたあなたが、ただワンフォーオールの残り火を失った程度で絶望するなど思っていない。

 決して朽ちないのだ。

 オールマイトは永遠に。ゆえにこそ。

 

〈約束された誓いを掲げ、邪悪を穿つ矢を放て〉

 

 限界を超え、封印された個性を解き放とう。

 たとえその先に待つのが逃れ得ぬ死であろうとも、あなたの後に続けるのならば悔いはないから。

 

「見るがいい。超新星(Metalnova)───『天光礼賛(O v e r d r i v e)、限界突破の鋼魔弓《S a g i t t a r i u s》!』」

 

 ついに解放された真の個性。旧人類は足指の間接が二本あるなどとカビの生えた論説まで持ち出して騙してきた軛を今、突破する。

 深紅のオーラが彼を覆う。

 

「……おやおや。何かと思えば、進化の失敗作じゃないか。個性黎明期にはよく見たものだよ、デメリットにしかならない個性なんて。いいや、はっきりと言ってしまおうか。それは疾病と呼ぶべきものだよ。だって、ほら。君の肌が崩れ始めてるじゃないか」

 

 そう、我が身を焼くイカロスの様に。彼の個性は敵の前に己を焼いてしまう。崩壊の力は敵に当てないと作用しないのに、遠距離攻撃すらできはしない。

 殴れば、自分の身も削る。だと言うのに。

 

「テメエを殴る! オールフォーワン!」

「まあ、やってみると良い。それでどうにかなると思うのならね」

 

 油断か、敵はその拳を掌で受け止める。

 

「はは。やはり、この程度か。所詮はオールマイトの添え物。やはり劣る……何だと!?」

 

 ビシビシとヒビが走る。紅い宝石状に変化して砕け散り――治らない。

 これこそ出久の本来の個性『強制脆質結晶化』だ。不死さえ穿つ限界突破。物体の有機無機に関わらず、接触した対象を極めて脆い結晶構造へと強制変換する個性。

 ゆえに不死を殺し得る力を秘める。そう、それは不死すら全く異なる結晶体に変質させる。その傷を治癒するためには、再生ではなく”作り変える”異能をもってする以外にない。

 

「――は! 俺の拳なら効くみてえだな!」

「だが、自らの腕を見てみるがいい! たったの一撃で肌が削げ、血がしぶいているじゃないか。その有様で二撃目など放てるものか!」

 

「じゃあ、見せてやるよ!」

「いいや、見る気はないさ。君の自爆を待つ趣味はない」

 

 衝撃波が放たれる瞬間。

 

「出久をやらせはせん! たとえ、もはや指先すらマッスルフォームに変えられずとも! 私が、彼の誇れる師であり続けるために!」

「……邪魔を! だが、共に死ぬがいい!」

 

 放った。二人、瓦礫の中に叩き込む。

 

「やれやれ、オールマイトのあがきもいい加減にしてほしいね。この一撃で殺すつもりだったんだけどな」

 

 ワンフォーオールはやれやれと首を振る。

 

「ねえ――さっさと諦めて死んでくれないかな? しつこいよ、いい加減に」

 

 だが、二人の師弟は。

 

「だってさ、師匠」

「……ふ、分かりきっていることを聞いてくる奴だな」

 

 声を揃えて。

 

「「諦めんよ」」

 

 立ち上がった。

 

「なら、なぶり殺しにするよ。まあ、考えようによっては憎い君をいたぶるのも面白い」

 

 そして、衝撃波を放つ。

 あたりにはヒーローたちの活躍によって要救助者はいない。だが、この戦いに割って入れる者もまたいない。

 放たれた衝撃波が10を数えたころ。

 

「――はは。本当にしつこい。なんでまだ死んでいないのかなあ」

 

 血だらけになりながらも、まだ二人は生きていた。

 だが、ここからの逆転など誰が信じられよう? 土壇場からの逆転、確かに王道だが普通に考えて火事場の馬鹿力が通用するのは一回切だ。

 我が身すら顧みないオーバーロードによる力の増強、ゆえにそれ以上は残っていない。もう絶望的だ。

 テレビを見ている者たちも、画面から目を逸らして涙するしかない。もはや、勝ち目などどこにも残っていないように見えた。

 

「「まだだ」」

 

 二人、まだ立ち上がる。

 なぜなら、声援の声がある。そう、聞こえるのだ。報道を通して応援してくれる人の声が。

 そして、何よりも――

 

 自分を信頼して声を上げてくれるクラスメイトの声。

 同じく拠点襲撃に参加し、近くのテレビから声援をくれる麗日(戦友)の声。

 なによりも、出久を案じて涙しながら、それでも幼き恋心を持って必死に声を張り上げるエリがいる。

 

 誰かのために。そして、”誰か”ではない顔も名前も知っている人のため、オーバードライブは心を力に変えて立ち上がる。

 オールマイトもまた、弟子に負けてはいられないと触発された。

 

「そんなわけあるかよ。戦いはこれからだぞ」

「そうだ。俺たちはまだ戦える」

 

 だが、策もないまま戦っては先の一幕と同じ。近寄ることもできずになぶり殺しが続行される。

 二人ともに接近戦を刊行する。このレベルになればジャンプだって銃弾とそう変わらない速度を誇るが、相手は闇の帝王だ。

 

「では、その強がりをどこまで続けられるか特等席で見せてもらおう……か!」

 

 衝撃波を放つ。その二本から放たれる業は未だ健在。牽制を織り交ぜた無数の本命、そしてその中に隠された暗殺じみた必殺が命を狙う。

 数にして一秒間に数百発。この三者でなければとうに決着はついている。

 

「貴様の傲慢を許さんと言ったぞ! 1000%、『Calolina Smash』!」

 

 オールマイトが加速した。拳がオールフォーワンを捕えた。

 その拳は重く、鋭い。なぜなら。

 

「……馬鹿な。馬鹿な!? それは――マッスルフォームだとォ? 貴様、力はすべて消えたはず!」

 

 そう、もはややせ衰えた姿ではない。必殺の攻撃力を持つ鋼の肉体へと変じた。根性論が見せるやせ我慢などではない本物だ。

 

「貰った!」

 

 腕に二撃目を貰う。これでは衝撃波を放つのに支障が出る。力を抜けば6つに別れてはじけ飛びそうだ。

 

「もう一発だ! 『SMASH』!」

 

 オールマイトが顔面を強かに打ち付けるものの、やはり回復する。その左腕の損傷をそのままに。

 

「……そうか! いつまでも混乱したままだと思うなよオールマイト。奪ったな? 一度上げたものを返してもらうなんて、なんたる無様だオールマイトォ!」

 

 拳で撃ち合う。そして抜け目もない、『衝撃反転』で返した。が――威力が弱い。なぜ弱くなったと疑問に思って。

 

「その腕、もらい受ける! 2000%突破! 『S a g i t t a r i u s Smash』!」

 

 オーバードライブの一撃がオールフォーワンの腕を砕く。だが、その瞬間崩れ落ちるオーバードライブの腕。

 使えば最後、自らすら殺す最悪の力。

 

「馬鹿な! この力、先の一撃とは……どういうことだ!」

 

 混乱する。すでにワンフォーオールは返したはずなのにこの威力はどうしたことだと。まるで、それがまだ彼の中にあるみたいではないか。

 

「お前には分からんよ、オールフォーワン。真に託すことを知らぬ貴様には! そして、私たちは更に向こうへ行く! 4000%だ!」

 

 弱くなったかと思えば強くなる。これではワンフォーオールがどちらの手にあるのか分からない。

 弱くなった瞬間を狙って、それは多少効果が出るものの、しかし原理が分からない以上攻めきれない。

 だが、ワンフォーワンは依然一つ。それは確定している。自らの作ったものだ、分からないはずがない。

 

「――そうか、入れ替えているのか! ワンフォーオールを、入れ替えて……!」

 

 瞬間、突き刺さる拳。三度再生するオールフォーワン。

 手品の種は超高速で入れ替わるワンフォーオールだ。DNAさえ取り入れれば、意志一つで相手に渡せる、だから。

 つまりは「まだだ」と言った時には互いの髪を喰っていた。一度オールマイトに返したものをオーバードライブにまた渡して、そしてオールマイトに返すことを繰り返していた。

 

「だが、そうと分かれば話は簡単だ。今、持っているのは君だなオーバードライブ!」

「いいや。私だよ――『SMASH』!」

 

「ぬぐ……! ぬぅぅぅぅ! だが、二つに増えたわけではない! 遠距離攻撃で封殺する!」

 

 超高速の入れ替えの効果はすさまじい。インパクトの瞬間に渡せば、もう二つあるのと変わらない。

 それを覆すならば、無理やりでも攻勢に回るほかない。

 

「――残念だな。オールフォーワン、それだけかと思ったか!? 私は更に覚醒する! そう、10000%すら飛び越えて!!!」

 

 一瞬、トゥルーフォームに戻り携帯食料を喰らう。コスチュームに装備されたそれは被災者を救うためのカロリー爆弾。

 今の彼では消化できないはずのもの。だが、一瞬で噛み砕き飲み下す。

 

「今の私は、すでに昨日の私ではない。ワンフォーオールを何度も繋いだことで、私の身体にも変化が起こったのだ」

 

 そう、それは羽化。

 

「トゥルーフォームで栄養を即座に吸収、マッスルフォームで敵を殲滅する。そう、これが今の私の個性『オールマイト』!」

 

 オールマイト、それはAlmight=全能。彼は今こそ、ヒーロー社会に君臨する象徴として完成する。

 トゥルーフォームは民衆と目線を同じくするための姿であり、凪のような穏やかさを体現する。

 そして、ヴィランを前にすれば怒れる裁きの神としてマッスルフォームを現すのだ。

 

「滅茶苦茶やりゃいいってものじゃないだろうが! オールマイトォ!」

「貴様は刑務所にぶち込んでやると言ったぞ!?」

 

 掟破りの2段覚醒、4万%により4度砕け散るオールフォーワン。そして、再生の隙に凄まじい蹴りが左足を永遠に持っていく。だが、オーバードライブのサジタリウスは相打ちの力。

 彼の左足もまた砕け散る。

 

「最適では止められないか! まったく凄まじいよ、僕にはどうしようもない! だから、もう全てを終わらせることにした! 東京がどうなろうと関係ない。……全て異界に消え去るがいい!」

 

 個性『ワールドゲート』。どうしようもない最悪にして災害。それはただ別の世界への道を作るだけの個性。

 そう、それとオールフォーワンは何も関係がない。ただ、名状しがたき昏い闇が世界を浸食するだけだ。それを一言で言えばスライムだ。スライムでできた惑星が、彼の開いた一点を通って地球そのものを喰らい潰すのだ。

 

「――貴様にはもう何もさせん! 100万%……『TERRA SMASH』!!」

 

 しかし滅殺する。ダイナマイト、いや核の何万発分になるのか……計算するのも恐ろしい。それは惑星規模の敵を相手にするということ。星そのものを滅ぼし尽くす偉業。

 

「馬鹿な……世界一つを、殴り壊した……?」

 

 力を使い果たしたオールフォーワンとオールマイトは行動できない。

 そして、まだオーバードライブが残っている。

 

「これで終わりだ、悪の帝王〈オール・フォー・ワン〉。この一撃を命に刻め『LUNA SMASH』!」

 

 胸に拳を突き入れ、身体が木っ端みじんに砕け散り――オールフォーワンの頭部が舞う。

 

「……馬鹿な」

 

 そして、力を振るうごとに熟練度が上がるのも当然だ。敵の胴体を粉砕してなお、オーバードライブの右腕はまだ形を残している。

 とはいえ、これも計算の内とオールフォーワンは嗤う。

 

「……はは。負けたか。だが、弔はまだ残っている。全てはこれからだ。僕はこれから捕まるが、牢獄の中で楽しく見させてもらうよ? そう、人間に君が救う価値なんかないのさ。人の醜さに涙しろオールマイト。フフ、フハハハハハハハ――」

 

 嗤う。

 嗤う、哂う、笑う。敗者が勝者に向かい、お前が報われることはないのだと嘲笑う。

 

「いいや、お前に未来などない」

 

 オーバードライブが冷たく言い放った。オールフォーワンの目の色が変わる。

 その冷たい殺意を理解した。

 

「待て! お前は殺す気か!? ヒーローの禁忌を侵す気か? 嫌だ、やめてくれ。僕はまだ死にたくない。オールマイトの苦しむ様をもっともっと見ていたいんだ! だから死にたくないィ!」

 

「それに、オーバ-ドライブ。お前は分かっているのか? 使えば、残った右腕までが砕け散るんだぞ! まだ左足だって残っているじゃないか。2本あれば君ならヒーローになれる! けれど、さすがに1本だけじゃ無理だろう? よく考えるんだ! それは右腕を犠牲にしてまでするほどのものか!?」

 

「だから、やめてくれェ。僕はおとなしく刑務所に入るから!!」

 

 すさまじいまでの命乞い。だが、ここでそれができるからこそここまで生き残ってきたのだろう。

 ただ単に強いだけでは生き残れない。生き汚さを併せ持つからこそ恐ろしいものはある。

 

「お前は邪悪だ。生かしておいてはいけない奴だ」

 

 だが、オーバードライブの声に震えはない。ただ決定事項を告げているのみ。

 お前はここで死ぬのだと。

 

「――出久。やめ……!」

 

 オールマイトも止めようとする。だが、無茶がここに来て効いてきた。手を伸ばすことしか出来ない。

 それではオーバードライブは止められない。

 

「お前はきっと、誰かのことを救ってきたんだと思う。悪の道でしか生きられない人はきっといるさ。信念なき相手に、世界を相手にすることはできないと思うから。お前は殺されても仕方ない”悪い奴”なんかじゃないと自戒している。そう、どんな理由があったって、殺すことを正当化してはならないんだよ」

 

 目を伏せる。それは良いことでは決してないのだろう。悪い奴を倒してめでたしめでたしなんてものは御伽噺。

 悪の役目を担う者にも大切な人が居て、誰かを救って来たのだろうから。

 

「……だが殺す」

 

 その頭を握りつぶした。結晶化して、砕けて……二度と再生しない。そして、出久の右腕もまた砕け散った。

 このとき、オールマイトとその弟子は決定的に決裂した。

 

 病院に搬送されたその夜、彼は姿を消した。

 





殺人に対する考え方は師弟で違います。
オールマイト:誰も死なせない
オーバードライブ:敵は殺す(法律上、多少は譲歩する)
個人的には考え方の違いはあっても正誤はないと思います。
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