緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第35話 仮免試験 ウラビティ無双

 

 出久の失踪は学園中どころか、日本中に影を落とした。しかし、それでも時計の針は進む。そして治安は悪くなるどころか、改善していく一方だった。

 なぜならオールマイトが健在、どころか進化して対(ヴィラン)の究極生物にまで進化してしまったのだから。これまでは活動時間にタイムリミットがあったが、今の彼は睡眠時間すら最小限で済む。

 トゥルーフォームは補給のために、そしてマッスルフォームは悪を裁く神の腕だ。これで治安が良くならなければ嘘だろう。なぜなら、少し規模の大きいことをやらかせば、文字通りにオールマイトが”跳んで”やってくる。

 

 それはそれとして、生徒たちは出久の分が空白となってしまった寮に移り住む。オールマイトを独占するわけにもいかなかったから。

 授業は進み、雄英生は各々が必殺技を編み出した。何人かはそれすら必要ない者が居たが、その彼らも本格的な”個性伸ばし”の鍛錬で強くなった。

 鍛えるための基礎訓練が終わり、本格的に強くなるための修練をこなす。

 

 そして、舞台は仮免試験へ。なお、失踪した出久は特別に仮免を授与されているため、そもそも受ける必要がなかったりする。

 

「――仮免、か。出久が居たら受けたのかね?」

 

 試験会場に出発したバスに揺られ、会場に着いた。立派な建物を見上げた切島が呟いた。バスの中でも会話は少なかった。

 

「出久君は出たがるに決まってるよ」

 

「でも、相澤先生に掛け合って駄目なら諦める方ですわね。あれで、規則は重視する方です。まあ、縛りなど粉砕して行くのがまさにオーバードライブですが」

 

「「「……はぁ」」」

 

 ため息。

 

「君たち! そんな暗い顔をするんじゃない! きっと出久君はこの空のどこかで僕たちのことを見守ってくれている! 雄英生として、そして彼の仲間として恥ずかしい姿を見せる訳にはいかないんだ!」

 

 飯田が叫んだ。

 

「……飯田君。周りに迷惑」

「っむ! これは、すまない。皆さんもすみませんでした!」

 

 ギャラリーに向かって頭を下げる。ここには雄英生だけでなく、他校のヒーロー科も居る。飯田らしいと言うか、まあ――ふふ、とわずかな笑顔が戻った。

 

「まあ、そうだな。あいつが絶望して身投げするなんかあり得ねえ。きっと、どこかで人を救ってる奴だ。戻ってきたときに失望させねえようにしねえとな」

「そやね。目の前の課題に、一生懸命取り組んでいこう!」

 

 出久と関わりが深い人間がカラ元気を出す一方で、一人絡まれている男が居た。轟である。

 

「あんた、エンデヴァーの息子の……!」

 

 そして、そいつはそんなことを言われたら無視できない。正直に言って、今の轟の精神状態は不安定だ。いつでも不安定だが、緑谷のことを気にかけている今は特に。

 こと父を言及される限りは爆豪よりも沸点が低くなってチンピラになる。

 

「誰だ……? この俺のことをエンデヴァーの息子というやつは? ……テメエか」

 

 メンチを切る。

 態度悪く近づき――そして、対する彼も退かない。額を合わせて互いに睨み合う格好になる。

 

「俺、ヒーローって熱血だと思うんですよ。でも、アンタは熱くない。……俺の嫌いな奴っス」

「そうか。俺も嫌いだよ、俺をエンデヴァーの息子と呼ぶ奴は。なあ、おい。何も辛いことはございませんみたいな能天気なツラした奴が、闇を見た人間に敵うと思うなよ」

 

 一触即発。一歩でも間違えればすぐに手が出る。

 

「……やはり冷血にして最悪だな。あんたみたいな人間を見たことはあるっスよ。そして、そんな人間にだけは負けるつもりはないんスよ」

「――へえ。じゃ、試してみるかよ」

 

 二人、臨戦体勢に入り――個性を発動する直前。それぞれの学校の教師が止めた。轟は抵抗しない。

 

「分かった。分かりましたよ、先生。大人しくしときます。試験のときも妨害するような真似はしませんよ。……だから、そんなに見つめないでくださいよ」

 

 悪意のある言い方である。

 彼の言う”闇”とはネットの闇であるのだが――徐々に染まりかけているのかもしれなかった。良くも悪くも天然である。

 解放されると、何事もなかったかのようにそいつの隣を通り抜ける。

 

「――邪魔するなら潰す」

 

 それだけを囁いて。

 

 

 そして、試験会場に移動。試験がスタートする。

 概要は主に3点。

 1つ、試験場となるフィールドには様々な地形が用意されている。

 2つ、受験者は3つのターゲットを身体に取り付ける。

 3つ、支給されるボールは6個。3つ当てられると脱落、3つ目に当てた人が得点で、2点以上で合格。

 

 会場の横では引率の教師たちが見学している。そこで、相澤先生に一人の女が話しかける。

 

「1年坊に試験を受けさせるって、ずいぶんと残酷なことをするのね。……教えていないんでしょう? 恒例の雄英潰しを」

「――それに関しては正直済まないことをしたと思っている。あいつまで例外には出来なかったからな。化け物と自分を比べて落ち込むことは非合理の極みだが……まあ、生徒たち本人にとってそういう問題ではないと理解している。文脈上の理解でしかないかもしれないが」

 

「……イレイザーヘッド? なにを言っているの?」

「まあ、見ていろ。理解できるさ、うちには化け物が二人居たということを。そして、本当に哀れに思うよ。彼女と一緒に試験を受ける羽目になった、不幸な他校生を。越えられない壁など、本当は見せるべきではないのにな」

 

「――ッ!」

 

 会場に散らばった受験生たちがただ一点を目指して動く。これが恒例の雄英潰しだ。個性と顔が知られてる、何より潰す先として明確に共通認識が取れている彼らを優先的に狙うのは……周囲に気を使いながら生きる人間という生物には当然のことだった。

 人数にして200人分を超える個性とボールが乱舞して、集合していた1-A生徒を襲う。だが、その攻撃は全てが無意味どころか本人たちにとって有害ですらあったのだ。

 

 なぜなら、麗日の黒猫の手が全て跳ね返してしまった。

 

 いや、これはもうどうしようもない実力差だろう。まるで生徒の集団に一人だけプロが混ざってしまったかのような違和感。

 更に言えば、個性が違っている。ただ”伸ばしただけ”の同一の個性なのだが、あれだけ強力になっていればもはや別物だ。

 それに、異形系の要素はあれど戦闘に使えるだけの強度ですらなかったはずなのに。

 

 たった一人だけ、実力がまるで別次元だ。次の瞬間、彼女の名前が呼ばれて合格者用の待合室に通された。

 

「――あれだけボールを撃ち返せば、二人くらいはと言うことね。まったく、末恐ろしい子。あれで、犠牲者? 一番傷が重かった子? あの子ですら病院送りにされるって、じゃあ……あなたたちの林間学校ってどんな地獄だったのよ」

「さてな。だが、間違っていることが一つあるぞ。麗日は適当に返していない。……証拠に、落ちた二人以外のターゲットは点灯していないだろう。おそらくは気遣いのつもりだろうな」

 

「は? そんな馬鹿な。あの速度で、しかも全てのボールをコントロールしたって言うの? そんな、プロでも出来やしないこと」

 

 同じような手で夜嵐が突破したが、彼は適当にぶつけただけだ。100名を超える脱落者は、ミキサーにしてボールを乱反射したからに過ぎない。

 あの数のボールをコントロールなどしていられない。

 

「アイツにはできるんだろ。自分の目で見たことを信じないのは非合理だぞ」

「――なんて、なんて恐ろしい子……!」

 

 そして、彼女はあんな強い子を自分で育てたくないな、と思った。きっと、出久を育てている多くの雄英教師はそう思っていることを。

 

 そんな姿を見せられた1-Aは、先に合格した彼女に負けていられないと奮起する。共に協力し、戦場を走り――孤立した敵をポイントに変えた。そも、彼らは実戦に対する心構えが違う。

 

 どんなに将来は犯罪者と戦うと真剣に考えていたとしても、実際にその場に立ち会い自らが傷つかなければその本当のところは分からない。

 ゆえに覚悟が違う。傷付けられ、傷付ける覚悟をした雄英生は卵の殻を割った。でなけば、毒ガスに巻かれたトラウマを抱えてヒーローを諦める他なかった。

 ここにいる彼らはまさに試練を乗り越えた熟練兵だ。初陣すら迎えていない訓練兵に、1年や2年程度先輩だからと負けてはいられないのだ。

 

「うちには、一人強すぎる男が居た」

 

 相澤が呟いた。

 

「オーバードライブね。神野でのあの戦い、両腕と左足を失っていなかったら、エンデヴァーを押しのけてNo2になっていたかもしれないと噂されている”あの”。……今は行方不明と聞いているけど」

「奴の思惑は知れん。だが、おそらく何かをしているはずだ。……奴はもはやオールマイトの思惑すら外れたところで動いている。師に倣い、そして師から離れ独自の路線を歩いているんだよ。そんな男が間近に居るんだ。奮起するしかない」

 

「同期に凄い奴がいる……か。それは不幸ね。人間、どうしたって他人と比べてしまうものだもの。無茶しないといいけど」

「それは無理だな。期末試験でも無理する奴が居た。あいつらは卒業まで持たんかもな。旧時代、がんばりすぎて選手生命を絶たれた者が続出したという”甲子園”のように」

 

「――そう、心配ね。彼女、ちゃんと見てあげて」

「もちろんだ。あの腕だって、本来は犯罪者に蹴り潰されたものが、なぜか”ああ”なっているに過ぎんからな。本人は隠そうとしているが、あの腕を振るう度に激痛が走っているようだ」

 

「いや、止めなさいよ」

「本人の意思だ。それを他人がどうこう言うのは非合理的だ」

 

 なお、肉倉は一切爆豪に触れることもできずに爆豪に気絶させられた。

 個性『精肉』、自らが揉んだ他者の肉体を肉塊に変化させられる。これで血でもばらまければSANチェックを要求されるだろうが、さすがにそこまではしない。だが、触れられればそれで終わりの、恐ろしい個性だが――”そんなものはありふれている”。

 

 ゆえに、体さばきを鍛えそもそも当たらないようにすればいい。

 光の亡者お得意の正論だ。それができれば苦労はないとも言うが、どこまでも努力した上で気合いでハードルを乗り越えていくのが彼らであるのならば。

 爆豪としてはこれ以上、出久に後れを取るわけにはいかないのだから奮起した。まあ、追い付けるわけもない以上はとても残酷なことだが。

 

 そして、地味に1-Bも全員がクリアしていた。

 実際、強すぎる麗日、個性がボール奪取に相性が良かった夜嵐イナサ、ついでにそこそこ強くて他から頭一つ抜けていた爆豪に轟。こいつらが突破するのは戦闘能力を見る試験だから当然として。

 基本的に協力した方が有利になるよう試験が作られている。ゆえに学校ごとにクリア者が別れているのも当然と言えよう。

 フェアではないかもしれないが、しかし仮免を取ってほしいのはすぐに協力態勢を敷ける者達。極論、各校のNo1がそれぞれ合格してしまっては困るのだ。各個撃破されると言うと少し違うが、しかしそういうことだ。

 

 そんなわけで100名、仲良しグループの数グループが選出される結果となった。

 

 





 こんなこと言ってもアレですが、相性とかそんなものは作中の登場人物は考えないのでしょうかね? 仮免も2次試験はボールに関する個性だらけになってもおかしくなかった気がします。もしくは夜嵐系統。
 ちなみに雄英だって、あの入学試験では機械をショートさせられる電気系ばっかになりそうなものですが。

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