緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第36話 仮免試験 VSギャングオルカ

 

 そして二次試験、救助演習が始まる。

 1-Aならびに1-Bの面々は全員クリアしていた。ただし顔合わせもしていないために協力するという話にもならなかったが、爆豪を除いてそれぞれクラスごとでのチームアップを決めた。

 こちらの試験での要点は2点。

 1つは、減点方式。基準の事前開示はなし。

 2つ目は、要救助者を全員避難させた時点で試験終了であること。

 

 ――スタート。

 

「みんな、うちが瓦礫を浮かす。だから救助をお願い。……崩れてくるのもなんとかする」

 

 麗日が飛び出す。

 

「ならば、瀬呂さんは浮いた瓦礫をテープで固定をお願いします。障子さん、口田さんは被災者の探索に集中ください。佐藤さん、切島さんは救護スペースを作るのを手伝ってください。その他の方は――」

 

 八百万が矢継ぎ早に指示を出す。オーバードライブに認められて以降、その方面の力を必死に伸ばした。

 親にすら頼り、様々な人から教えを受け、そしてあらゆる本を読んで精通していったのだ。

 そもそもがリーダーたる資格など、自信満々であれば十分だ。それだけでも人はついてくるのにもかかわらず、自ら生まれ持った才覚を必死に磨いた成果が今発揮される。

 

 1-Aは他の誰よりも早く、迅速に行動する。迷いが人を殺すと知っているから、迷わない。たとえ失敗するとしても、後につなげようという気概がある。

 なにより、失敗は仲間たちがカバーしてくれると信じている。

 

 とはいえ、慣れない分の減点はあるわけだが。

 

 減点を要救助者から言い渡されようと、そこは後で反省すればいい。今は自分のできることを精一杯やって救助していく1-A。

 

 その時、一角が破壊される。そこから出てくるぞろぞろと影が出てくる。

 

「……対敵。全てを処理できるかな?」

 

 つぶやくその姿は人型のシャチだ。ここは水場ではない都市部とはいえ――救いになどなりはしない。

 ヒーローランク10位、『ギャングオルカ』が地上でその真価を発揮できないなどと、それはどんなにか甘い考えか。

 

「敵はウチが倒す! 皆は救助に集中して!」

 

 麗日が疾走する。愚にも付かない思い上がりに見えるかもしれないが、戦力評としては妥当だ。彼女一人だけ、格が違う。

 

「――いや、同情するよ。彼女はいるだけで試験になどならないんだから」

 

 相沢先生が呟いた。

 

「あなたが、敵?」

 

 そして、一秒にも満たない後、麗日はギャングオルカと対峙する。

 ”達”ではない。なぜなら、それを付ける敵の部下たちは気絶している。ただの一瞬で全滅させた。

 

(なんという力……! 拘束用プロテクターなど関係ない。どころか)

 

 壊れかけている。先ほどの攻撃をかわしきれなかった。さすがに意地があるから一撃で沈むなど冗談ではないが、普通に痛い。

 

「ほう。中々骨のある者が居たな。……だが」

 

 ギラリと睨みつける。これは試験、己が弱気なところを見せることなど許されない。そしてもちろん、接近する卵どものことなど分かっている。

 

「死ねやオラァ!」

 

「敵の親玉をここで倒すなんて、熱い展開っスよねえ!」

 

 爆豪、そして夜嵐が畳みかける。が――

 

「単純な突撃でどうにかなると思ったか?」

 

 爆破を最低限のダメージで切り抜け、爆豪を殴り倒す。さらに爆豪に構わずまたもや遠距離攻撃を放とうとしたところに超音波を撃ち込まれてダウンを取られた。

 

「遠距離が行けねえなら、接近戦で殺すまでだァ!」

 

 爆豪が跳ね起きる。が――

 

「私に接近戦に持ち込まれてやられたのをもう忘れたのか? 残念なオツムだな」

 

 ギャングオルカはカウンターで爆豪の腹に拳を埋める。オールマイトが教えた正拳突きを繰り出すも無駄だった。

 突きくらい完璧にできるのは前提なのだ。そこから先がなければトップには通用しない。このように、裏を取られて負けるだけ。

 

「さて、彼ももう起き上がれないようだ。――で、君はなぜ立ち向かう?」

「アンタ、ヴィランっぽい見た目ヒーローランキングのNo.3様だろう? いいよなあ、どんなものでも、頂点に近いってのはさあ」

 

 轟も到着した。大氷壁は使わない、強い奴が相手だと自ら隙を晒すだけだ。いざというときのエスケープ用に取っておく。

 

「どう判断を下していいのか。まあ、いい――貴様の力を見せてみろ」

「舐めるな。……別にお前を倒しても構わねえんだろうが」

 

 こちらの体術は爆豪よりもう少しだけ実戦流だ。ゆえに、多少なりともギャングオルカに喰いついていけるが、しかしこれではジリ貧だ。

 カウンターを取られて必殺されることはないが、有効打は当たらずダメージが溜まっていく。地力で負けているのは歴然だった。

 

「どうした? 貴様の切り札を見せてみろ」

「見せてやるよ!」

 

 全力全開の氷を蹴りとともに叩き込んだ。後がないが、しかしこれが通じなければどうしようもない。ギャングオルカは吹き飛んで氷壁に閉じ込められた。

 

「で、次は?」

 

 軽々と氷壁を砕き、脱出する。次などなかった。轟は悔しさに歯をかみしめる。闇を見たとか言っても所詮はこの程度、プロの前ではただの足止め。とどめどころか、ダメージもない。

 一発屋なのは自覚して直したが、しかしそれで通用するようになるわけでもない。それが彼の課題だった。

 

「――それで、お前は手出ししなかったが」

「うん。うちはちょっと違うから。……一緒には、戦えんよ」

 

 黙って見ていた麗日が言う。彼女は彼らが到着するなり、後ろに跳んで観戦していた。

 

「傲慢だな。ならば、遊んでやろう……来るがいい」

「そうやね。遊んでちょうだいな、シャチさん?」

 

 その場から消える。否、ギャングオルカの眼には見えている。宙に浮く小石、砂を足場に散々跳ね跳ぶ UFOのような動きを。

 その動きは変則的過ぎて捉えられない。どう考えても内臓がイカれるレベルの動きなのに。

 

「くだらん。目にもとまらぬなら――全方位を攻撃するまでのこと!」

 

 先ほど見せた超音波。周囲全てを蹂躙するその一撃はかわせない。

 

「でも、この程度なら耐えられるよ」

 

 影猫の手が伸びる。

 

「……っな!?」

 

 予想外、まさかこれほど耐久力が高いとは。しかも早すぎる。相手が悪いことなど、開幕の一撃で十分承知していたのだが。

 本当に、とっととヒーローとして活躍させろと言いたいくらいには強いのだ。実際、サイドキックたちはハンデなど関係なく即殺されてしまった。

 だから、これは油断ではなく純粋な実力差。麗日お茶子を前に、拘束用プロテクタを付けたギャングオルカでは相手にならない。

 

「遊んでくれるなら、耐えてね?」

 

 爪がひらめいた。

 

「――っがああああああ!」

 

 ただのそれだけでギャングオルカはずたずたになって壁にたたきつけられる。そして、その壁をぶちぬいて更に向こうの壁に埋まる。

 

「どうかな? シャチさんはお疲れ?」

「まさか。これからが本当の戦いだ」

 

 まぎれもない戦意を乗せて応える。これが試験などと言うことはとうに忘れた。この小生意気で強い新人ヒーローに灸を据えてやろうと、ギャングオルカが動く。

 ……拘束用プロテクタは先の一撃で全損した。だが、鍛え上げたこの身体はまだ動く。言っては悪いがプロテクタは試験で使う使い捨てだ、実はあまり耐久力が高くない。

 

「この力を全力で振るえることって、そうないの。オールマイト先生も相手してくれないし」

「ならば、存分に相手してやろうか。だが、多少の痛みは覚悟してもらうぞ」

 

「いいよ。そんなの慣れて……ううん、何でもないよ。始めよう」

 

 実際、オールマイトはこれを使うのにいい顔をしていない。負傷を根性で乗り越えて、進化する――同じことをやっているが、激痛が走るのであれば使用は止めるべきとの立場を崩さなかった。

 

「今更かも知れんが、演じようか。……来いよ、ヒーロー。俺は、ステインの意思を継ぎヒーローを皆殺しにする(ヴィラン)『ギャングオルカ』だ」

「ヒーロー『ウラビティ』、敵はうちが全て止めてあげるんよ」

 

 そして、他の誰も介入できない戦いが始まる。

 

「おおおおおお!」

 

 ギャングオルカが叫ぶ。超音波が乱舞し、そして鍛え上げられた腕力が瓦礫ごと敵を打ち砕く。

 

「……はぁぁぁぁ!」

 

 だが麗日も負けたものではない。超音波はまともに喰らわなければ意識は持っていかれない。全方位であるといくらかは喰らうが、弱まっている分そこは耐える。

 そして、影猫の手が反撃する。

 

 出来上がるのは誰も生存できない絶殺領域だ。巻き込まれた瓦礫が爪によって8分割され、腕力によって砕かれ超音波によって砂と化す。

 麗日のほうは視力で捉えるのが不可能なほど早く、しかも影猫の手が縦横無尽に暴れるから、何重もの影が重なってギャングオルカを喰らおうとしているように見える。

 

 だが、ギャングオルカだって負けていない。

 超音波を放ちながらも、やみくもにぶん殴っているわけではない。その腕が振るわれるたびに麗日が止まる。

 振るうだけでも激痛が走る影猫の手は痛覚の塊だ。殴られるたびに心が砕けそうになるほどの痛みが走る。

 

 だが、逆にギャングオルカが楽という訳ではない。無残に切り裂かれた肌は熱を発している。水をかければいいというわけではない。皮膚を肉ごと抉り取られている。強力な力の前には、弱点など関係がない。ただ引き裂き破壊するだけだ。

 

「面白い! この私を越えようと言うのなら! 相応の覚悟をしてもらおうか!」

「あは! いいよ、うちはオーバードライブの隣に立つ! No2になるんや」

 

 それは同時に彼がオールマイトを超えるという宣言だが、しかし。

 

「ならば、もう一度覚醒するがいい! この私を越えられないようでは、エンデヴァーを倒すなど夢のまた夢!」

「じゃあ――覚醒するまでや!」

 

 速い。超高速で目まぐるしく動いていく。ギャングオルカが昇りつめたのはシャチだからなどという馬鹿らしい理由ではない。

 人外の筋力、そして人間にはない第二の攻撃手段〈超音波〉。二つを極めた異形種の頂点だ。超能力などではなく、極めた基本性能による力こそが真髄。

 であれば、さらにそこから突破(プルスウルトラ)した1~9位を相手取るのであれば、彼を超える以外にない。

 

「まだ。……まだァ!」

 

 麗日は加速する。すでに全力は出し切っている。なのに、まだ速くなる。それこそが、オールマイトが行ってきた覚醒。

 壁を超えるという、異常性。

 そこには、寿命という明確な対価があるはずだが――

 

〈試験終了! そこまでです。参加者は全員戦闘を中止してください! 特にギャングオルカとウラビティ!〉

 

 試験終了の鐘が鳴った。

 

 なお、爆豪・轟・夜嵐の三名は補講となった。戦闘に挑んだ者が失格になった形だが、もちろん他にも失格は居た。

 

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