緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
原作通りに爆豪と轟、そして夜嵐と言った面々が補講を受けつつも、時間はどんどん過ぎていく。……出久のいない時間が過ぎていく。
1-Aはインターンを受け、さらに実力をつけていく。もっとも、それでもオーバーホールと戦った時の彼にも及ばないのだが、そこはそれ。
それで諦めるくらいならとっくに雄英から去っている。
――彼に恥じないよう、と必死で力を付けている。
そして、楽しみも忘れてはならない。文化祭でのダンスもしっかりやった。そこはどうしようもなく後悔する点だろう。実際、それを知って悔し涙を流したのだから。
だが、忘れてはならない。光がある限り、悪は不滅だということを。
オールマイトが復活した。そして世界は平和になった。めでたしめでたしで終わればそれで良かったのだが、それでも悪を貫くとなれば相応の覚悟が要る。
そして、その”相応”を成すのならば強くなれる。
それこそただのプロヒーローではどうしようもないくらいに強すぎるのだ、今暴れる敵は。その”筆頭”、最悪の殲滅兵器が動き出す。
「――さァ、見せてもらおうか。オールマイト復活などと浮かれ、自らの存在意義を忘れているならばヒーローなど不要に過ぎんのだから」
殺塵鬼――カーネイジ。
「下らんな。全て、塵だ。その醜さはすでに罪とさえ言える、この私が裁いてやろう」
氷河姫――ピリオド。二人の悪鬼が雄英学園に侵攻する。……しかも、丁度オールマイトが出かけているこの時に。
「「「させん!」」」
オールマイト健在、なれど敵連合も健在なればこそ学園側も油断しない。彼が忙しくて常駐できないことなど知っている。だから、防衛のためにヒーローを配置していた。
教師にそれまでさせるなんて流石にオーバーワークが過ぎるだろう。敵も殺す気でやっているから、教師業との二足の草鞋では相手できない。
ゆえの脳無を”壊す”ためのアングラヒーローの雇用だ。彼らは殺傷手段と言う点にかけては、教師などよりもよほど優れた手腕を持っている。
「ぬるいな、その程度の殺意で何を殺すつもりだ? 落第だよ」
だが、何も通じない。殺塵鬼にはその本領たる個性を使わせることもできず、傷一つつけられない。そもそもの基礎的な防御力が高すぎた。
これこそ脳無の天元突破、死体を元に作った改造人間――を基に機械化して更に強化した
「わざわざ受けてやるなど優しいな、カーネイジよ。だが、私は奴ほど甘くはないぞ。ヒーローども」
氷河姫が手をかざす。一瞬で全てが凍りついてしまった。ヒーローの命ごと、学園全体に張り巡らされた防壁を凍らせて砕いたのだ。
二人の鬼が歩を進める。殺戮のために。
そして、逃げ場はない。凍らせて砕いたついでに氷の結界を張った。防壁があった場所の外側、氷の壁が天すら塞いで逃げ道を潰す。
誰も動けない。殺戮兵器の殺意を受け止めるには――生徒では、否。プロヒーローですらも挑もうなどという命知らずはできない。
奴らは強すぎた。
このままでは赤子の手をひねるように惨殺劇が起こる。雄英高校に居る人々全てが血と肉の赤い染みに成り果てる。
――オールマイトは間に合わない。
「いいや、させんよ。このうちが、そんなことをさせない。……たとえ、命に代えても」
麗日が降りる。
林間合宿のときに拷問で脳を壊され、そして光に覚醒した。ならば、死地であろうとも迷いはない。誰かを助けるために己の命をかけるのだ。
「まったく、生徒を戦わせるなどと恥ずかしいことだな。だが、それ以外に合理的な選択がないようだ」
相沢が隣に立つ。奇抜な格好に騙されてわかりづらいが、彼もまたオールマイトと同レベルで”頭のおかしな”人物だ。
必ず倒すと気炎を上げた。状況が見えていないわけではない。十中八九無駄死にだとわかったうえでそうしている。
「なるほどな。相手はアンタらかい? だが、止められるかな」
「愚問だな。たかが人間に我らを止められるかよ、思い上がるな」
戦いが始まる。
「――はああああああ!」
影猫の手が縦横無尽にひらめいて、張り巡らされた氷を砕きながら氷河姫に迫る。それは強力だ、攻撃力だけならギャングオルカのそれでさえ遥かにしのぐことは仮免試験で示した。
「下らんな。あの時のガキめ、私には敵わんとなぜわからん。だが丁度いいぞ、あの時貴様が私にやったように、顔の皮を剥がしてやる」
だが……砕かれた氷から、更に氷華が成長する。触れれば終わる氷が、その生息域を更に広げるのだ。
それこそ殺戮の最終兵器。最大効率で人を殺し、なおかつ誰もが逃げられない。突破口があるとすれば、短期決戦で勝負を決めることだが。しかし、氷河姫は素手でUSJの脳無すら引き裂ける膂力があるから接近しても簡単には行かない。
一方、相沢。彼はというと。
「おおおおお!」
拘束具が乱舞して殺塵鬼に向かう。ほとんどは紅いオーラに塵と砕かれたが、わずかに敵にまで到達する。が――
「おいおい、先生よ。はっちゃけすぎだろう、それは。大体、俺のカーネイジに隙などない。四方八方から攻撃しても意味がないぜ」
そう、紅いオーラに隙間などない。周囲を隙間なく覆っている、効果から逃れるにはそれこそ地下から攻撃する以外にないが。
だが、地下からの攻撃手段など相澤にはない。それに普通に地下から攻撃したところで、
目ざといコイツは跳んでかわすだけだ。
氷壁で逃げ場がふさがれている以上、ただのじり貧。どうすれば勝てるか、ではなく何秒持つかでしかない。
「それはどうかな!?」
棒手裏剣を放つ。そいつの個性は聞いている、だから対策を練った。全てを塵と化すオーラは無効化できない。たとえイレイザーヘッドの個性でもそれは消せないのだ。
だから、棒手裏剣。面積が多ければそれだけ塵と化す速さが増すだけだ。ゆえに高速で棒を打ち出すのだ。塵と砕かれるなら、その前に相手に到達すればいい。
「……ぐおお! なんてな、こんな脆い棒じゃウサギも殺せないぜ」
あろうことか、痛がる振りをしておどけて見せる。敵とすら見ていない。――知るものは誰もが恐れるアングラヒーローである彼を、子供扱いだ。
「「だからって、負けるわけにはいかないんだ!」」
二人、意地を叫ぶ。
が――結局は理不尽な実力差の前にはどうしようもない。ただ、蹂躙される。
「ああああああ!」
麗日は無数の氷に貫かれた。
「フハハハハハ! おい、意識を失ってくれるなよ! そうなれば後ろの生徒たちから殺していくだけだがな。……虫けらみたいな標本にした後は、じっくりと貴様の顔を剥がしてやるぞ」
そして、標本のように樹氷に磔にされて動けない。
「……っぐぅ!」
イレイザーヘッドは無造作に地面に叩きつけられた。全身の骨がバラバラになる衝撃。アバラの一本は折れたかもしれないが、手足は折れていない。なぜなら。
「ハハハ。どうしたい? お得意の覚醒はないのかな。それとも、あれはオールマイトの系譜に限るという話かな」
殺塵鬼が足を踏み下ろして腕を折り砕く。
「さあ、醜い悲鳴を聞かせてくれ」
「さあ、覚醒とやらを見せてくれ」
これより始まるは
――学園を絶望の闇が覆う。
もはやヒーローは破れた。オールマイトは来ない。そう、全て終わりだ。だって、この世界に頼れるものなどオールマイトのほかに居ないのだから。
「いいや。”まだだ”」
降ってくる声。瞬間。絶望の象徴、氷の天蓋が砕かれる。
「……その、声」
「その姿……」
そう、復活したオーバードライブが現れた。その手に鋼の義腕と義肢を携えて。
詠唱する。神野での覚醒の結果、取り戻した個性はすでにこの手に。自らの腕と足を砕いたその個性だが、恐れることなど何一つない。
手にした力を十全に発揮するのみ。
『おお、遥かに煌めく天頂神よ。星座となるには早すぎる、まだ戦えと言ってくれるのか。
ならば我が身は全身全霊、すべてを懸けて応えるのみ』
そう、オールマイトはまだ戦っている。ならば、自分も応えないわけにはいかないだろう。
なにより、彼がその場に居て、自分がテレビで見ているなど我慢がならないと思うから。今この場に彼は居ないが、しかしどこかで戦っているのは知っている。
『爛れた血肉は切除した、鋼の四肢を取り付ける。穢れた血潮は総じて無用、燃える油と入れ替えようぞ』
ゆえに砕けた四肢は取り替えた。
プラネテスを生んだ元、脳無製造技術に組み合わされたサイバネティクス技術。機械化し、強化するという考えを生み出した大本はオールフォーワン傘下などではない。
ジン・ヘイゼルという名もなき男が開発したその技術。出久は国家機密である脳無製造技術を携えて、彼を訪ね力を得た。
そして、”彼は一人ではない”。後ろに四人の仲間がいる。
「さあ――行くぞ野郎ども。誰かのために、顔も知らない誰かのために。誰かのために頑張れるなら、誰もがオールマイトになれるんだ」
「「「「その通り。我ら今こそ
ごぼり、と不吉な音が響く。
瞬間、注入される薬剤。機械と変じた五体が、轟と駆動する。それは、肉体の軛すらも突破して強力な力を発現する。
『御許へ召され星座に列するその時まで。さあ戦友よ、}
そして、それを解き放つ。
「ワン・フォー・オール、ver『
そして、4人の気配が強くなる。そう、それこそオールマイトのその域まで。機械化による強化に薬物強化を重ね掛け。それだけではない。
ワン・フォー・オールの真髄は受け継がれていくその性質にこそある。オールマイトは本体がなくとも残り火でもって個性を行使していた事例もある。
わずか一瞬受け渡したところで、長年の土台があった彼とは比べ物にはならなかった。だが、残り火未満でも種火程度にはなる。
――そうなのだ、種火でも残るならば後は人工的に燃え盛る火にまで拡張させてやればいい。それこそ個性強化薬なんてものは裏でもありふれている。
例えばオーバーホールの組の人間も使っていた。ならば、出久の側だって使えないはずがない。
「――人々の安寧を打ち壊す悪鬼ども。ここで散るがいい!」
刀を携えた一人が殺塵鬼に向かう。それだけでも改造の強力さがわかる。麗日並みのスピードを完全にコントロール下においている。それはオールマイトの動きを思わせる。
「ヴィランども、貴様らは人々の幸せを打ち砕く! それが、私は許せない!」
ガントレットを付けた一人が氷河姫に向かう。拳の軌跡が氷を打ち砕く。轟のそれとは強度の違うそれを、なんの抵抗もなく空気を叩いただけで一切合切を砕いてしまう。それはオールマイトの拳を思い起こさせる。
「だが、悲しいな。無意味だ」
「オールマイトで真に恐ろしいのは覚醒だ。ただ腕力だけをまねても意味がないぞ」
簡単に砕く。ただ攻撃を相殺しただけではない。刀の人は腕ごと塵に返された。ガントレットの男は腕ごと凍らされて砕かれた。
そして、確実に命を奪う二の矢が放たれる。
「「――行けよ、戦友」」
死すら覚悟した二人が笑みを浮かべた。全て覚悟済み、奴らを倒すためならば犠牲になることもいとわない。
なぜなら、仲間を信じているから。
「応ともよ! お前たちの屍を踏み越えて!」
「その遺志は俺たちが受け継ぐ!」
残りの仲間、二つの拳が疾駆する。
そう、自分が死んでもその隙を仲間が突いて倒してくれると信じている。悪鬼を打倒するために使われるなら、この命は無駄ではないのだ。
死んでしまう? そんなことは知っている。誰かを助けるためならば、この命を捨てても惜しくないと、他ならぬオールマイトに誓ったのだ。
彼が居るのだから、後を託して自分は逝こうと思えたからこうしている。
「……ち。コイツ等オールマイトの同類か」
「なら、試す価値もないか」
彼らは撃ち合わない。……簡単に引いてしまった。とりあえず、死を覚悟した二人も無事ではあるが。
いくらオールマイト並みであろうと、ステータスは五分を下回る。本気で逃走されたら、追いつけない。
「行くぞ殺塵鬼」
「ああ、腕一本取られちまったしなあ。まったく、やってくれるぜオーバードライブ」
言われた出久は笑みを浮かべて返す。
「クハハハハハ! 戦ってるんだ。不意打ち狙いは当然だろうさ。ま、ここで逃げられたら追ってはいけんがね」
サジタリウスの力は殺塵鬼の腕の断面を覆っていた。この個性には回復能力の阻害の力がある。回復能力があったとしても、研究所に戻らなければどうしようもない。
「ふん」
「じゃあな、長い付き合いになりそうだ」
悪鬼二人は姿を消した。
ここで追っていたら、むしろ積極的に被害を出しながら逃走していた。全力の逃走に移ったからこそ、悪鬼は人を殺せないしヒーローは追撃できない。
恒例のあれ。
オールマイト「言ってないんだけど。……休んで?」