緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第38話 戻ってきたオーバードライブ

 

 誰もが言葉を失う中、麗日が出久に近づく。

 助けてくれた、それは確かだろうが今のオーバードライブはヴィランと遜色ない存在だ。

 オールフォーワンを殺した上に出奔した。それに知られていないことだが、ワンフォーオールを持ち逃げした形となっている。

 

「本当に出久君なんやね? やっと……戻ってきてくれたんやね?」

 

 麗日は傷だらけで血を流しつつ、とことこと近寄っていく。けれど、傷が深すぎてふらりと意識が落ちる。

 ――倒れる。

 

「よくやった、麗日」

 

 受け止められた。

 出久の胸に顔を埋めて、彼女は涙を流す。

 

「どこかに行ったりしない?」

 

「ああ、俺はここに居る」

 

 チラリと4人を見ると、その男たちは頷いて跳んだ。来たヘリに飛び乗り、そして去って行く。

 出久はここに残る気はあるが、雄英に全面降伏する気はない。警察も、裏や表からの影響力を駆使してやり込めてしまうだろう。実際、今の雄英も警察も大きな権力は持っていない。

 

「……緑谷。さすがに事情聴取もなしにお前を開放するわけにはいかない。その腕と足の出所と、失踪していたときの話を聞かせてもらおうか」

 

 相澤が立ちふさがる。逃げるのならば相手をすると言いたげだが、相沢の体はすでに限界を迎えている。倒れていないのは、ただのやせ我慢だ。

 実際、視線が不意にあちらこちらに飛んでいる。

 戦えば幼児でも勝てそうな有様だが、しかしどうなったとしても貴様を捕えるとの覚悟は本物だ。そうなれば、本当に相沢が死にかねない。

 

「行かねえよ、麗日にそう言っちまったからな」

 

 オーバードライブはどこまでも本気で生きるからこそ、相澤との決闘は殺すところまで行きついていくのは当然だ。

 だが、今はその時ではない。オーバードライブとヒーローたちは決定的には決裂していない……まだ。

 

「ああ、携帯貸してくれねえか? 母さんに連絡も取れなかったんだ」

「……」

 

 相沢が自分の携帯を投げてくる。麗日を抱きかかえたまま、話をする。泣かれてしまったのを深く胸に刻みつつ、だが顧みることはない。

 罪と背負うが、しかしそれで己が生き様を変えるようなことはできない不器用な男だ。

 

 緊張感からか、気絶する生徒が続出する。とはいえ、1-Aはある程度経験があるため耐性ができていた。

 彼らは出久の周りを取り囲む。

 

「――本当に、君なのか?」

 

 飯田が口火を切る。

 

「ああ、ちゃんと足も生えてる。片方は機械だが、片方は親から貰った自慢の肉体だぜ」

 

 失踪した以前と何も変わらない。依然と同様、自信満々。だが、それは裏を返せば四肢を失うほどの経験をして何も反省していないということでもある。

 

「分かっているのか!? 君が本当に出久ならば、俺は君を殴らなくてはならない。君は、皆に迷惑をかけた! 本当に自覚があるのか!?」

「――自覚している。だが、俺の(サガ)はどうにもならん。それは当然の落とし前という奴だろうよ。……だから殴れよ、天哉」

 

 その瞳は揺らがない。間違っていると知りながら、どこまでも進んでいく光の意思。飯田は”それは違う”と思う。

 揺らがない、立ち止まらないというのはカッコよくても、それではいけないのだ。反省して、改めて、臨機応変に変えていかなくては。

 

「八百万。悪い、ちょっと頼む」

 

 だが、出久はどこまでも限界突破だった。出久は気を失った麗日を八百万に任せて向き直る。

 その瞳はどこまでも前だけを見つめていた。

 

「分からず屋が」

「ああ、殴られてもわかんないんだよ俺は。だが、だからといって殴られずになあなあで済ませていいことでもないだろう。……また、母さんを泣かせちまった」

 

「――ッ!」

「ぐぅっ」

 

 殴った。出久は防御も受け身もせずに倒れ伏せる。

 

「それが、本当に正しいことなわけがないだろう!? あの時、君はオールマイトの隣で戦って四肢を失った! 君は皆の心配と引換に姿を消して、その物騒な義手を得た!」

 

 胸倉をつかんで引き起こす。

 

「誰がそこまでしろと言った!? 確かに君の助力のおかげでオールマイトは勝てたのかもしれない。だが、学生()にやらせるくらいなら自分がやると言っていたヒーロー達を知っているのか! あの時、彼らは手を出せなかったのを後悔している。いや、もしかしたら君が居なかったら代わりにオールマイトの隣に立てていたかもしれない。君を犠牲にするくらいなら、我が身を賭してでも、と言ってくれていたんだぞ」

 

 叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。

 

「そして、挙句の果てに失踪だ。なんで誰にも言ってくれなかった! それは確かに強い力なのだろう。確かにリカバリーガール先生や校長達も君の新たな個性を封印しかねんからな、他の誰かを頼りたくなるのも仕方ないかもしれない。……でも、君は何も相談してくれなかったじゃないか! 話してくれよ! 俺は、君の友達にはなれなかったのか……?」

 

 泣き崩れてしまった。ダメージを負っているのは出久なのに、飯田の方がよほど痛そうな顔をしている。

 

「……天哉。お前は、本当にいい奴だな」

 

 肩に手を置く。

 

「緑谷君。僕は――」

 

「だが、駄目だ。勝つのは俺だ」

 

 言い切った。ここで、決定的な事態が起きていたら切り伏せて通っていたかもしれない。たとえ親友だろうと、光の亡者は止められない。

 後悔もするし、慙愧の念もある。本当に自分と言うやつが嫌となったとしても、その罪を背負っていく宿痾だ。

 

「……え?」

「天哉。お前が本当に俺を止めるのならば、俺はお前を倒して行く。誰かのために、名前も知らない誰かのために。俺は親友すら切り捨てられる最悪な人間なんだよ」

 

「馬鹿な。では、俺の説得は……」

「効いたよ。だが、聞かん。間違っているのは俺で、正しいのはお前なのだろう。だが、お前の理論では誰かが泣くのは止められん。間違っているのは互いに同じ、ならばこそ負けられん」

 

 だからこそ、と殴られてできた痣を誇るように掲げる。

 

「――この一発は俺の愚かしさとして覚えておく」

 

 ふい、と顔をそむけた。そして、別の誰かへと水を向ける。

 

「なあ、かっちゃん。お前は俺を殴らないのか?」

「……アア!? ふざけんじゃねえよ、誰がテメエを心配するかよ。それにな、殴り返してこねえんだろ、ンなもん意味がねえよ。実力でテメエをぶちのめす、それまで首洗ってまっとけや片足野郎が」

 

 吐き捨て、去って行く。まあ、1-A面々と一緒にここまで来たのが何とも出久を心配しているようでなんとも微笑ましいが。

 しかし、爆豪には慣れ合うつもりなどなかった。

 

「焦凍はどうだ?」

「……俺は、人のことをどうかと言えるほど偉くねえよ。だが、お前が無事でよかった」

 

 照れたのか、ふいと顔をそむけてしまった。

 

「鋭次郎は?」

「天哉が俺の分も殴ってくれたよ。だから、俺はもう一つのやることだ」

 

 切島が差し出してきた腕を組む。

 男同士でよくやるアレだ。

 

「よく帰ってきたな、出久」

「応よ」

 

 それだけで十分だと、後ろに下がった。そして、八百万のことを押し出す。

 

「後は八百万か。俺を殴るか?」

「ええと。それは遠慮しておきますわ。あの……えっと……」

 

 もじもじしている。顔も赤い。

 

「どうした? 熱でもあんのか? 麗日と一緒にリカバリーガール先生に診てもらうか」

 

 歩いて行って、ひょいと抱きかかえる。

 歓声が上がる。左に麗日、右に八百万をお姫様抱っこだ。

 

「お前も診てもらっとけ、緑谷。その後は職員会議だ」

「……いや、アンタも診てもらえよ相澤先生」

 

「時間がもったいない。非合理だ」

「アンタも来るんだよ、ほら緑谷その二人を運んでおいで」

 

 リカバリーガールが現れた。相沢の耳をひっつかんで連れていく。

 

「了解だ」

 

 その指示には文句も言わずに従った。

 

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