緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
「よく帰ってきた、出久」
オールマイトが出久のことをがっしりと抱きしめた。非情になりきれないオールマイトのこと、彼のことを間違っていると思いながらも処断することはできない。
オールフォーワンを殺したこと、それは犯罪行為だと思うのだが、それを詰問する言葉が出てこない。
「ああ、ただいま」
しかし、出久も間違ったことをしていないと思っている。平行線だ、正義が一つでないと信じているからこそ恩師と自分の考えが違うことを受け入れられる。
そんな一幕を挟みつつ、出久は会議室へと連れて来られた。
「悪いね、オールマイトは私情を挟むので遠慮してもらったんだ」
根津校長が言う。オールマイトは敵連合捜索チームから外されている。死柄木が彼の恩師の孫であったと言う事実、甘い彼では支障が出ると言うことだ。
そして、甘いことは先も証明されてしまった。本来なら出久は
「いいや、分かるぜ。あの人は甘すぎる。……ま、そこが魅力でもあるんだが」
オールマイトは最終決戦を前に親友に向かって腹パン決めてお前ではついてこられない、と言うような人物だ。
お前を殺した罪を背負って俺は進む、と剣を振り下ろすことなど望むべくもない。オーバードライブならば”そこまでやる”のだが。
「――それを、尋問相手に分かられてしまうのも問題なんだけどね」
根津校長はコーヒーを片手にため息を吐く。一番やりたくないタイプの相手だ。こちらの背景を見透かしてくる。
……実際、義手を作るときに裏に潜って色々な情報を得たのだろう。そして、その繋がりは途切れていない。
下手な真似はできない。政治的な駆け引きにおいて劣るとは思わないが、しかしオーバー―ドライブのほうが情報を多く持っている。
「ま、アンタらに分かるように言えば
「……ッ!」
校長が息を呑む。教師の中には分かっていない顔をしている者も多いが――有名なアングラヒーローだ。
証拠がないが、ヴィラン的行為をやっているという噂も聞く危険人物の類である。実のところ、エンデヴァーは態度はどうあれ模範的な人間だ。……少なくとも、彼らに比べたなら。
ラダマンテュスは一般人相手の人体実験、そしてアストレアはヴィランの殺害と、単に証拠が見つかっていないだけで警察も捜査しているほどだ。とてつもないビッグネームで、ここで出てくるのに違和感がない。
彼らはオールフォーワンを殺した所業に共感し、従っても不思議はない。あのステインに倣うヴィラン達のように。
「……まだるっこしい。無駄に時間をかけるのも馬鹿馬鹿しい。指の一本でも折れば吐く。ヒーローを甘く見るなよ」
相澤が睨みつける。……が。
「おいおい、悲しいね。生徒のことを全然理解してないぞ。残ってるのは5本ぽっちだが、それで吐くような奴と思うかい?」
そう、5本だ。両手の指と左足は義手で数に含まれない。再生したわけではないのだから。
「……」
相澤はふい、と目をそらした。
オーバードライブを相手に拷問は無意味だ。彼らは知らないが、強化手術の時も無理を言って麻酔なしでやってもらったのに。
「そもそも、オールマイトが居ても役に立たないかもしれないが……それでも要らないことはなかったんじゃないか? 俺なら力づくでここを出れる」
「――試してみるか?」
相澤と出久が睨み合う。他の教師は動揺する者、さすがに生徒に舐められるわけにはいかないと気丈に振舞う者に分かれる。
だが、出久の言っていることは真実だ。
オーバードライブの力をもってすれば強行突破も可能。そして、ラダマンテュスとアストレアの権力があれば――ヴィランとして指名手配することもできない。
「まあまあ、落ち着きなよ。コーヒーでもどうかな?」
だが、根津校長は落ち着き払っている。実のところ、一番危険なのは彼だ。直接戦闘能力がなく、一番偉い彼を人質に取れば何だってできる。
とはいえ、出久はやらないと見透かしているからこんな風にふるまえる。全ては計算づくだった。
「校長、教師が生徒に舐められるわけにゃいかんのですがね」
「そりゃしょうがない。覚醒の二つや三つするか、もしくは腕の一本でも鋼に変えてから出直しな。でなけりゃ、俺には勝てねえよ」
出久は豪快に笑う。一人なのに、まったく気圧されていない。生徒にあるまじき傲岸だが、事実だ。
「そうか。……ならば覚醒の方でやってやるよ」
相澤の目はなお暗く。闇色の炎が燃え盛っている。それは――
「お前を倒せないようでは、”彼”を救うのは難しい……か?」
「オーバードライブ! 貴様、どこまで知っている!?」
椅子を蹴倒し、出久の胸ぐらをつかむ。
「……いや、悪いがアンタ以上のことは知らない。俺も多少は警察の内部資料が見れるんでね」
残された黒霧の血と一部の臓器から、雄英卒業生のDNAが検出されたこと。そして、その彼は相澤と同期であることは知っている。
アストレアならそれくらい把握している。そして、出久もそれを教えてもらった。
「ただ、言えることは――改造手術は不可逆だ。元に戻す手段は存在しない。そして脳に手を加えられていた場合になるとだな、人格に面影すらない場合は手の施しようがねえんだコリャ」
黒霧個人についての情報は、資料で見た以上の知識ではない。しかし、プラネテス製造技術と脳無製造技術は密接に繋がっている。技術的観点からならば、少しは分かることもある。
出久自身も歪ではあるがプラネテス、そのノウハウについては知っている。
「なら、あいつは……! 白雲はもう……! どうなんだ、出久!」
「初めに会ったときに気付かない程度に人格が変容していたら、人格の復帰は難しいだろうと言わざるを得ない。要は物理的に破壊されたハードディスクの中身を再生することはできねえって話だな」
締め上げられながらも、出久は淡々と話している。
「~~~ッ!」
相沢は腕を挙げ、拳を握りしめ。
「悪かった。八つ当たりだな、これは」
拳を開き、出久を降ろした。
「いいや、想像するしかないが相当な苦しみだろうと言うことは分かるさ。俺は責めやしねえよ。……取り戻したいんだろ? 頑張ってくれや」
「……もちろんだ」
むっつりと黙り込んでしまう。
「ま、生きてりゃちょっと心が不安定になるような辛いこともある。見逃してやってくれや、先生方」
被害者本人がいけしゃあしゃあと言う。
「……ま、君がそう言ってくれるならありがたく見なかったことにさせてもらうよ。で、本題なんだけど」
根津校長が引き継ぐ。まあ、問題がセンシティブ過ぎて見なかったことにしたいのだ。
「ようやくか。答えられることなら答えるぜ。だが、答えられないことに関しては黙秘権を使わせてもらう」
「では、君の身体を改造した人間を教えてもらおうか?」
「黙秘だ」
「義手を作った人間と、改造した人間は同じ人かな?」
「そいつも黙秘だな」
「……プラネテスと脳無の関係は?」
「黙秘――と言いたいが、それだと変な回答に受け取られるかもしれねえから少しだけな。プラネテスは『個性』の兵器運用を目的とする。逆に、脳無というのは人間の『可能性の拡張』を目的としているな。プラネテスは兵器分野の観点から開発されているのに対し、脳無はむしろ医療分野が開発の発端になっている。両立できないこともないが、基本的には別系統の技術だよ」
明らかに両方の深いところまで知っている。こっちはラダマンテュスの領分だ。USJの脳無、そして神野で手に入れた脳無を解体し調査したことで多くのことが分かっている。
本来、学生に知られていいことではないのは言うまでもないが。
「ほうほう。……それはつまり、外科手術と投薬治療の違いのようなものかな。ジャンル違いとはいえど、領分が近いからお互いに流用もできる。君はプラネテスのほうが詳しいんだろ? プラネテスが個性運用兵器とするなら、あの二人が二人一組での運用を前提にしたしたものであるか。君の見解を聞きたいな」
周囲の教師でさえチンプンカンプンなそれを根津校長は素早く把握する。
頭がいいこともあるが、基本的に改造人間自体がタブーである。それでは、”どう”改造するかまで考えることはできないから思考の盲点となっている。
自らが実験の被検体である彼だからこそ、話についていける。
「俺の見解だと、あいつらは単体で運用するべきだな。恐らく氷河姫や殺塵鬼は単騎による広域制圧をコンセプトとしているはずだ。その意味では、二人一組で使うのは製造目的に反してる。そこらへんはあれだ、個性を発揮するために人格をインストールする必要があったからこその失敗だろうな。製作目的としてはそれこそ、旧世紀で言う”核”に他ならないさ。……つまるところ、国連の常任理事国様になるための切符だな」
「なるほど、大量破壊兵器を持っていれば世界の王様になれるということは否定できない事実だね。実例は君が言ったとおりだし。……ただ、完全にコントロールできればという条件がつくよね。例えば核であっても0.00000001%の確率で勝手に爆発なんかしてごらんよ。まともに運用できるわけないよね」
そして、プラネテスは勝手に起爆するのだ。まあ、氷河姫と殺塵鬼のことに限るが。しかしそいつらがそうなら他もそうだろう、は普通に判断基準になる。
「基本、個性と人格は密接に関係する。欠点だな、駄目なら取り替えればいいが通用しない。だから――まともに運用出来ていないのかもしれない。敵連合を世界の王様になっていないのはそこらへんが理由かもな。ま、オールマイトが居る以上は好き勝手できんだろうが」
「結局は彼頼みか。いや、君もいるのか。……詳しくはないだろうけど、脳無について聞かせてくれるかな。ご承知の通りで、助けたい人が居るんだ。あるいは脳無にプラネテス手術をすることで人格が戻ってきたりとか期待したいなあ」
「プラネテス化の手術で残るのは未練だよ。そいつを本人と言っていいのかすら分からないさ。正直、脳無については概要くらいしか知らないが……あれは個性特異点の対策として産まれたと言う側面があるから人格はオプションパーツなんだよ。プラネテスだったら必須となるがね。個性をDNAの付属物として見ている以上、人格を残す必然性は低いんだよな。そして、脳もハードディスクも同じ、一度壊れたら復活しないのは言ったとおりだ」
「――そうか。君の見解では、今人格が残っていない以上はサルベージは無理だと言うことだね。だが、ヒーローは奇跡を起こすのがお仕事さ。君の話は参考になったが、我々は諦めない。必ず彼を救って見せる」
「ああ。ヒーローの輝きを見せてくれ。楽しみにしてるし、何だったら力も貸す。決意があるならプラネテス化の手術の渡りもつけるさ」
「それは遠慮しておくよ」
そこで話は終わった。結局のところ、雄英は世界で一番有名な学校で、影響力もあるのかもしれないが――オーバードライブに手は出せない。
彼が作った
「――話が終わったのなら、あのワンフォーオールについても聞かせてもらう」
オールマイトが扉の前に立っていた。見慣れたトゥルーフォーム。もう、隠す必要はないから。
背を向ける。ついてこいと言うことらしい。
「校長に言って、ここを貸してもらった」
来たのは校長室。オールマイト自らコーヒーを入れてくれる。
砂糖は二つ、ミルクはなし。いつものやつと言ったものだ。実際、コーヒータイムなら何度もして慣れたものだ。
ここまで険悪な雰囲気ではなかったが。
「この会話は録音される。いいね?」
「いいさ。だが、話して良かったのか」
「言わないのは不誠実だからね」
「――師匠らしいな」
少し、笑う。気安い雰囲気が戻ってきた。
「あの、ワン・フォー・オールの使い方はなんだ?」
「……分かったか」
「何かしらの薬品を使っていたと言うことは、見ていたらわかる。……だが、あれは個性増強薬だろう? 種類を問わずご禁制になっている代物だ」
「そうでもない。あれはまだ禁止リストに上がってないからな」
「新薬、と言うわけか。……だが、禁止リストに上がってなければ合法というわけではないぞ。あんな効果が強い薬品、ただそれだけで法に引っかかる。副作用も酷いはずだ。あんなもので、残り火を強引に大火に変えてしまって」
「そう、それがフルメタルギガ―スの真実。全員がワン・フォー・オールを使う
「――分かっているはずだ!」
オールマイトが机を叩く。
「あれだけ無理な増強、確実に命を削る! 一回か二回……ただそれだけでもう戦えない身体になる! 日常生活すら危うくなるんだぞ! それを――」
「全員、覚悟済みだ」
だが、出久は動じない。
目に宿る烈火のごとき光は、彼もその一員なのだと強く感じさせる。リーダーだから、オリジナルを持っていて一番うまく扱えるから、ただそれだけの理由で長生きしているだけで――彼も同類だ。
ただの一回か二回、誰かを助けるために命を捨てる命知らず。……戦傷兵。
「……君とともに戦った人間ね、4人全員の顔を見たことがあったよ。みんな、戦えなくなって引退したはずだったのヒーローだった」
「ヒーローは引退者が多い。怪我で多くの者が表舞台から消えていく。……だが、あなたは戦い続けた。ならば俺も、と思う元ヒーローだって居る」
「私は……そんなことを押し付けるために戦い続けたのではない! 誰かが傷つかなくていいように。傷ついた君たちが安心して暮らせるようにと、怪我を押して戦い続けたはずだったのに……ッ!」
「あなたは素晴らしいヒーローだ。だから、憧れた。あなたのように、誇れる自分になるために戦う。……あなたのように」
「――ッ!」
訳の分からない感情がオールマイトの中にうごめく。
「悪いな。本当は、あなたがそんなことを望んでいないのは知っている。だが、力はある。覚悟もある。ならば、後は進むのみ」
胸に手を当てる。
「
出久は部屋を出ていく。
「……そうか」
目を伏せた。
オールマイト、復活したはずなのにハードモード。
まあ、シルヴァリオシリーズから危険な技術を導入したからしょうがないね。しかも、トゥワイスがトラウマ克服しているからマッドサイエンティストを複製して大量の脳無を作れるからね。