緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

41 / 70
第40話 クラス対抗戦 1-BVSウラビティ

 

 そして、次のイベントはクラス対抗戦だ。まあ、修行に良いかと問われると――そこは、くじ引きでなくとも戦力差が発生しそうで良い影響がなさそうだが。

 それこそ、チームアップした奴が強ければ勝てると言う”悪い教育”になりそうだ。

 しかしまあ、生徒同士を競わせるというのはありがちなやり方ではある。個性教育なんて手探りが当たり前で、マニュアルも何も戦い方は自分で見つけるものだから、これが教育か? と疑問を抱くのもしょうがない。……正解がない中でやっている。まあ、それでもこ4れは失敗よりという意見はあるだろうが。

 

 ――そこにトッププロを当てなければ勝負にならない二人が居なければ、多少はマシに見えたのに。

 

「と、いうわけでクラス対抗戦をやるぞ」

 

 という相沢の言葉にクラスメイト達が湧く。とはいえ、出久はもちろんウラビティの実力もプラネテス襲撃により知れ渡っている。

 ……勝負は彼ら二人が相手に入っていない”運”が必須条件という、クソゲーだと呟く者もちらほらと見える。実際に歓声は例年よりも小さい。

 

「お前らこう思ってんだろ? トップ二人が相手だとどうしようもないとか、仲間に居れば何もしなくていいとか」

 

 相沢が嫌らしい笑みを見せる。

 

「――というわけで、こんな対戦カードを用意してみました」

 

 プラカードを掲げる。

 第1戦、1-B VS ウラビティ

 第2戦、1-A VS オーバードライブ

 

「もちろん、この二人はクラスの方には含まれないから。どっちのクラスも勝つ気で挑め。倒した方が勝利だぞ」

 

 もちろん、二クラスともが勝利する場合もあるだろうが。しかしこんなことを言い出すからには、どちらかが勝てる可能性ですら低いということを意味している。

 まあ、普通に考えてどちらも個人の方が勝利するだろう。それだけの実力差があることは歴然だった。

 

「じゃ、1-Bと麗日は用意しろ。他は観戦な」

 

 と、いうわけで始まった。

 ステージは学校を中心とした街。1-Bは学校に立てこもり、麗日はそれを襲撃するという状況設定だ。

 ……誰もがトラウマになっているプラネテス襲撃事件の再現だった。

 

 スタートの笛が鳴る。

 

「――じゃあ、見せてもらう。うちは1-Bの人たちの個性、知らんから……どうとでも対応できるようにやらせてもらうよ」 

 

 麗日のスタート地点は知られている。学校正面だ、そこも再現の範囲内。

 彼女はひらりとビル頂上まで飛び上がり、影猫の手でビルの縁石を掴む。あっけなく崩れ、大小の礫と化す。――投げた。

 石投げは戦国時代から広く行われてきた戦争行為。子供っぽいかもしれないが、当たれば痛いでは済まない。

 ……投げるのは、猫よりも猿の領域かもしれないが。

 

「うおおおおおお!」

 

「予想はしてたけど、これはやばいね!」

 

 1-Bは対応に大わらわ。当たりどころが悪ければ死んでしまうのだ。だが、当たれば死など現場では当たり前。どうにかこうにか対応していく。

 遠距離攻撃持ちは必死に礫をたたき落とし、塩崎茨の茨が学校を覆い隠すことで対応が漏れた礫を防御する。

 

 1対20、であるのに20の側が防衛に回っている。悲しいほど、実力に差がある証明だ。

 

「――それだと、負けてしまうよ?」

 

 麗日は容赦なくそれを続ける。全力でないと抗えないほどの攻撃を、涼しい顔で続行する。『コピー』の物間寧人までも単純な遠距離攻撃役として駆り出している状況だ。

 だが、中々終わりが来ない。誰か一人でも失敗すれば終わり……ならば、誰も失敗しなければいいという正論を実行できるのは何も光の系譜に限った話ではない。

 この程度の綱渡り、1時間や2時間は耐えて見せよう。そうでなければ、ヒーローの卵でさえ名乗れない。

 

「お前一人に負ける1-Bじゃないぞ! ウラビティ!」

 

 3人、姿を現した。

 横から観戦していたら、「戦力の逐次投入は愚かだ」みたいな分かったようなことを言い出す輩が居るかもしれないが……それは前提を掃き違えている。

 どこの誰が初手で拠点を放棄するのだ。机上では名案かもしれないが、基本的に後で困るから拠点放棄はない。

 普通は守るし、守らなければ減点だ。そこを踏まえた上で、拠点を守り切ることはできないと見て全力攻撃に出れるのは……それこそ漫画の中の名将だけだろう。

 

「――でも、三人でどうにかなると思っとる?」

 

 敵対した3人は初めて本気の彼女の前に立ち、圧倒的な畏怖が身体を巡るのを感じる。普段と戦闘時では顔つきが変わるのは当然、とはいえ……これは流石に恐ろしい。

 実力差を身体が理解して、勝手に身体が震えあがる。だが、それを踏み越えてこその雄英生だ。

 プルスウルトラできないなら、ここに居る意味はない。

 

「できるできないじゃない――”する”んだ! 行くぞ、回原、泡瀬ェ!」

 

 叫んだのは拳藤。

 『大拳』拳藤に『回旋』回原、そして『溶接』の泡瀬。言っては悪いが、拠点防衛のためにはそれほど役に立たない個性ばかり。

 必死に戦力を捻出したのが見て取れる。

 

「じゃあ、うちの影猫の手を受けてみる?」

 

 その影のように薄っぺらな黒い手が閃く。プラネテスにすら対抗できる一撃は、凡百のヒーローなど十派一絡げに叩きのめす。

 そして、ここに居るのはヒーローの卵。ゆえに、一筋の勝ち目すらなかった。

 

「なァめるゥなァアアアア!」

 

 巨大化した手で受け止める。そんな普通の一手では影猫の手の前に意味はない。やはり吹き飛ばされるだけ。

 無重力により、踏ん張りすら効かずに場外へ叩き出されるのだ。そして、その後誰かに助けてもらわねば致命傷を負いかねない。

 なにせ、ここはビル10階の屋上だから。

 

「お前の能力は知っている‼ だから、やってやれないことは――ない!」

 

 ゆえに、『溶接』で屋上のコンクリそのものに己を直接縫い留める。無重力で踏ん張りがきかないならば、他の個性でカバーすればいい。

 だが、それだけだと踏ん張りが効きすぎて衝撃が逃げずに拳藤の全身が砕かれてしまう。なにせ、物理的に天井と足をくっつけている。

 

「俺はただの数合わせだよ! だけど、やってやらああ!」

 

 だから、三人で力を合わせるのだ。策はそこまで、後は気合いと根性で受け止める。これを止めなければ後がないのだから。

 

「――へえ」

 

 ウラビティが呟く。

 動きが止まった。彼らは見事に受け止めて見せた。

 

「でも、パワー負けは殺塵鬼で経験しとる。影猫の手は掴めんよ?」

 

 にゅるりと音がしそうな動きで、止められたまま動き出す。伸縮自在の影猫の手は溶接されたところで動きが止まらない。

 受け止められた、ならば伸縮自在で背後から再強襲するだけだった。

 

「……油断したな? その隙、この俺が穿つ」

 

 3人とは別の声。これは。

 

「4人目、やと? どこに!?」

 

 ”こう”なって以来、麗日の耳は良くなっている。無重力とは関係ないが、猫の、獣人の要素が彼女には混ざっている。

 だから、聴覚や瞬発力の強化と言った恩恵も受けている。

 なのに、捕え損ねた。つまり、それは”音もなく”近づいて来たということに他ならない。

 

「我は陰に潜む闇の住人。影の支配者――貴様の”黒”を支配する」

 

 彼らが持っていた黒いボールペンに4人目が隠れていた。そんなもの普通は見逃す、作戦勝ちと言った奴だ。

 更に言えば、抑えに来たのが3名と発言したのも含め、拳藤がいくつもミスリードを仕込んでいた。

 

「まさか! 手を……!」

 

 手が動かない。それは入った”黒”を支配する個性。黒色の対象物に限り、万能に近い力を発揮するその個性。

 

「そして、私たちはアンタを舐めない! 隙ができたこの瞬間に確実に倒す!」

 

 足の溶接解除、3人で襲い掛かる。これが策の全貌。ただの一瞬でも受け止めれば黒色が、影猫の手に入り込んで支配できる。

 そのまま操った影猫の手でウラビティ自身を場外まで叩き出せれば良かったのだが、抵抗にあっているのも想定内。だからこそ、チェックメイトを打つ。

 

「凄いね。影に入る個性、それに私の左手を受け止める根性も。……さすが雄英生やんね。だからこそ、負けんよ」

 

 麗日が消える。

 そう、彼女の強力さは影猫の手だけではない。自らを無重力にしてUFOじみた軌道を実現する。

 こうなればもう、視力強化でも持ってこなければ捉えきれない。

 

「――だとしても! 私たちは諦めない!」

「「やっちまえ!」」

 

 己の身を盾にする男二人が叫ぶ。相手の攻撃を耐えて、拳藤の『巨拳』の一撃で辺りの一切合切を吹き飛ばす気だ。

 どれほどの機動力があったところで、全てを攻撃範囲に捉えれば関係がない。

 

「――ッこれは!?」

「協力、絆……魔王はそういうものに倒される運命にある」

 

 そして、影猫の手が地面を掴む。黒色の抵抗だった。

 

「ぶっ飛べえエエエエエエエ!」

 

 拳藤の手が振りぬかれる。全てをかけた全力全開の一撃だ。

 

「強いね、あなたたちは。でも――」

 

 しかし、麗日はそれを”右”腕で受け止めていた。左腕、影猫の手ばかりを注意していたが、彼女は全身が普通ではない。

 合宿所の悪夢を経て進化したのだ。ゆえに。

 

「うちの方が強い」

 

 自ら影猫の手を殴る。黒色が叩き出された、白目を回している。本人はそれ以上に痛いだろうに。

 

「ただ……一本取られたね」

 

 後は影猫の手で三人まとめて一撃を喰らわせるだけで終わった。撃退は完了した。

 だが、時間を取られた。1-Bの行動を封じていた礫を無効化する砦を用意されてしまった。『サイズ』、『ツル』、『セメダイン』と学校を砦に改造するための個性は揃っている。

 あそこまで堅牢に守られると、ただの礫ではどうしようない。こうなっては。

 

「――なら、次はこっちから行こうかな」

 

 行動を開始する。

 そこからほんの数秒で学校にまで到達する。そしてターゲットを絞る。彼らはどうせ纏まっていても互いが邪魔になるからと、バラバラに散っている。

 

「え?」

 

 個性『ビースト』の獅子獣が一瞬でやられた。強化された聴覚と嗅覚で敵を発見する――という役割だが、反応する以上のスピードで倒されたら意味がない。

 が、こちらに向かってくる足音がある。

 

「バレたね。通信手段があるんだ……あの4人、捨ててたね」

 

 果たして、最後っ屁と言えるのか。彼らは通信手段を持ってこないことで麗日を騙した。常に連絡を取り合っていれば、やられた者を特定することでどこに敵が現れたか分かる。

 ここまで早く場所を特定されるとは、麗日は思っていなかった。

 

「見つけたぞ!  やれ、小守」

「りょーかい。さあ生えろや生えろ、キノコで世界を魅了しろー!」

 

 円場の『空気凝固』で隙の無い盾で守り、そして小守の『キノコ』で全方位無差別攻撃を行う。

 キノコは気管に生やすことで相手を完全封殺できる。かなりエグイ手だが、この状況で使うことに躊躇はない。

 

「――誰かを守れる、いい個性だね。でも」

 

 影猫の手が空気の壁を砕く。複数枚あろうが全て砕いて、彼と守る彼女を叩く。

 

「もう少し、硬くできるように努力した方がいい」

 

 更に別の方向へ駆け出そうとする。その瞬間――

 

「……え?」

 

 多数の個性が乱舞する。それは仮免試験を思わせる光景。最初の選抜メンバーに遠距離攻撃持ちは入らない。

 だから、残っている者はそれを持っている。

 さらには作戦も連携も何もなかったあの時とは違う。1-Bの全力攻撃だ、隙間はないし油断もない。

 

「――あの時より厄介でも、それでも負けるうちではないよ」

 

 そう、アレより厄介だ。だが、あの時は簡単にできてしまった。

 ならば、この状況もやってやれないはずはない。

 

「にゃ!?」

 

 足が地面に沈みこんだ。機動が阻害される。一歩目が踏み出せなければ瞬発力など無駄だ。ただ棒立ちになって、全ての攻撃を受けてしまう。

 

「ものごとは柔軟にね。君相手だと囲うまでに何人か犠牲になることは予想できた。でも、これなら逃げられないんじゃないかな」

 

 骨抜の『柔化』を地面に作用させた。

 絶妙のタイミングでの戦場操作、襲撃された時点で使っていたら見抜かれていた。使う瞬間はこの一時を除いてこれ以上はない。

 

「――さあ、君の負けだ。さすがに20人を相手にするのは厳しかったみたいだな!? これで終わりだよ、ウラビティ!」

 

「全ては君の傲慢が招いたことさ。僕たちは君の個性を知っていて、君は知らなかった。せめて骨抜の個性だけでも調べていたらこの状況にはならなかっただろうね。どういう気分だい!? 見下していた相手にやりこめられた気分はさァ!」

 

 骨抜の一手が全てを決めた。

 もとよりとてつもない動きをする麗日のこと、学校への襲撃を許した時点で策など弄する余地はない。

 始めに当たる人は頑張って交戦時間を伸ばして、後は皆で集まって叩くだけという拙い作戦以外だと実行すら怪しい。

 

 だが、多勢に無勢だからこそこの状況を作れた。総勢8本のホーン砲が彼女を狙い、ダブルインパクトを付加した人間大サイズのナットが縦横無尽の動きで降り注ぐ三位一体のコンビネーション、さらには駄目押しに〈ズガガガガ〉と言うビルさえ破壊する吹き出しが迫りくる。そしてその全てを、取影が指示を飛ばして制御する。

 更には念には念を入れて、周囲を完全に茨が包囲していて逃げ場もない。

 しかも、仮に切り抜けたところで近接を得手とする者はまだ残っている。

 

 未だ12対1、そうならないための事前準備がモノを言うのは当然の話だった。勝負は戦う前からついているとよく言うものだろう。

 だが――

 

「まだだ」

 

 絶望的なこの状況。策がどうの以前に、20対1なんて、そもそも勝つより逃げる方を考える方が建設的だ。ショッカーの戦闘員でも相手にしているわけではないのだ。

 なのだが――麗日の目に諦めはない。

 あの地獄でそんな”機能”は壊れてしまった。ならば、後は。

 

「勝つのはうちや」

 

 足を取られた。動けない。

 ……ならば、動かず勝つまでの話。

 

「――馬鹿な」

 

 誰かが言ったその言葉。

 わずか一瞬で全てが影猫の手に叩き伏せられた。ただの力技で全てが叩き伏せられる。一瞬で放った16連撃が全ての攻撃を切り裂いた。

 ――金色の眼が怪しく輝く。

 

「「「うわあああああ!」」」

 

 さらに重ねられた12連撃が全員を戦闘不能にまで追い込む。圧倒的な力による暴虐がここにあった。

 努力も、決意も――たかが人の所業と笑い飛ばすがごとき、地獄から生まれたその力。

 

「勝者、麗日お茶子」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。