緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
「じゃあ、次は緑谷と1-Aな。1-Bはよく見ておけ……悪い手本だ」
相澤がそんなことを言う。
まあ、実際にそれ以外に言いようがないのだが。予想される試合展開から言って、轟と爆豪はブッパで参考にならないし、そこから一歩踏み出すであろう飯田と切島はプルスウルトラを掃き違えている。
身体に滅茶苦茶な負担をかけて、本来できないことを無理にやるのは褒められたことではない……が――
本人が学ばない限り意味はない。
できれば、学んでほしいところだ。しかし一番の悪い手本は鋼の義手を付けてはしゃいでいる。本来は四肢を失うなど、引退案件でしかなかったはずなのに。
これから始まるのは先の戦い以上の蹂躙劇。
1-Aは、先の戦いで至る所が引き裂かれた学校を拠点にする。幸先の悪いことこの上ない。
試合が開始される。まずは――
「さあ、調子乗らせてもらうぜえ! 『New Hampsher SMASH』!」
期末試験の時のオールマイトと同じだ。拳圧があらゆる建物を破壊し尽くしながら迫りゆく。
校舎そのものを破壊するような一撃は、受けてしまえば大半のメンバーが脱落する。
「――テメエが初手でそれ出すのは読めてんだよ! 『ハウザーインパクト』ォ!」
爆豪は始まる前からキレ散らかし、BOMBOMと手の中で爆破しまくっていた。ゆえに彼も初手から必殺技だ。
スタートする前から準備するのは間違いなく減点だが、しかしこうしなければ開幕の一撃で全滅していた。
「はっはァ! やっぱり防ぐかよ! その意気だぜ! まだまだ行くぜェ」
だが、はた迷惑に他人を信頼する彼のこと。何の疑いもなく、この一撃を誰かが防ぐとクラスの皆を信頼していた。
ゆえに連続で拳圧を叩き込む。先の一撃が通っていたら本当に死人が出かねない行為を平然と実行する。
「なにもせずに終わるとかダッセエこと、やってられるかよ。無様に寝っ転がってるだけかと思ったか、オラア!」
そして、轟が大氷壁を張る。強度はそれほどでもないものの、無限に供給を続ければ辛うじて拮抗できる。そして、爆豪と二分して対処する範囲を狭めたなら。
――綱渡りであろうとも、曲がりなりとも戦いにすることは可能だった。
これが、相澤の予想した試合展開。圧倒的な暴虐を前に、必殺技でもって消えかけの松明を守るような真似を強いられる。
では、残りのメンバーが横から近づけばいいと思うかもしれないが、それは不可能だ。あくまで彼らが守れているのは正面のごく狭い範囲に過ぎない。
1-A全員が身を隠すことはできるものの、今も校舎は削られ続けている。そして、すでに隣は平原だ。叩き潰されて更地になった。
「クハハハハハ! 義腕は絶好調、やっぱりいい腕してやがるぜあの爺さんは!」
言葉の通りいくつも打ち放つオーバードライブ。これはもう、そもそも彼と遠距離戦をするという発想自体が間違っているとしか言えない。
この状況、隠れて近づこうにも轟と爆豪の後ろから離れれば即座にジエンド。そして耐えたとしても今は平原になるまで壊されつくされて隠れる場所はどこにもない。
授業? と疑問符がつくが、まあここまで来れば相澤先生に文句を言っても仕方がない。
「負けるかよ! テメエにだけは負けてたまるか! 俺は、絶対に勝つ! 勝つんだ!」
叫ぶ爆豪の両腕は血が滴っている。必殺技は本来連発するものではない。だが、今の状況――必殺技を限界を超えて使い続けなければ立っていることさえできないのだ。
爆炎への耐性こそ持っていれど、許容限度を超えた熱と爆発が皮を焼き剥がし、肉を焼く。それでも、と戦いを続ける。もう、負けたくはないから。
「どうせすぐに諦めると思ってんだろ……? 俺みたいな根性なしはさァ!?」
そして、轟。こちらも許容限度を超えた氷結の使用で身体全てがボロボロだ。唇は蒼白を通り越して紫色へ。
身体は震えて局所地震でも起こっているかのようにガタガタと振動する。明らかにマズイ状態だが、それでも止めたら敗北が決定する以上は続けるしかない。
「――いいや。おまえ達なら失敗なんてしないさ。……だが、更に向こうへ行かないと意味がねえだろう」
聞こえた声は横から。
必殺技を連発し続けなければならない。そんな、キツイを通り越して身体を破壊しようとしているしか思えないような拷問でも、オーバードライブは更なる覚醒を求める。
このまま削り殺すのではなく、敵の本拠地にまで一瞬で到達した。
……求めるレベルが高すぎる。
誰も居なくなる、と言われたほどの理想の高さは人を殺す。この無茶にも、もっともっとと言うのだから。
「……な!?」
「テメ――」
首に手刀を入れ、意識を落とす。
「さァ、死にたい奴からかかってこい」
手をクイと動かす。明らかに挑発していた。
1体16のこの状況――しかし、圧倒しているのは明らかに1の側だった。
「それは僕だ!」
「俺も居るぜ!」
飯田、そして切島が踊りかかる。
「だが、弱い力じゃ意味がない」
ただの一振りで弾き飛ばされてしまう。今のオーバードライブの力なら、拳を固める必要すらなかった。
「……蛙吹さん!」
八百万が閃光弾を渡す。……彼女が最も冷静だ。
さらに佐藤、障子、尾白、芦戸が接近戦を挑む。
「ケロ。あなたがどんなに強くても、生理的反応までは変わらない。人間である以上、音と光には反応するわ」
そう、ヒーローとしては最も相応しく、そして実際的である彼女。人間である以上は、その爆音と光で身体を丸め、さらにはまぶたを閉じていようと数秒間は失明を免れないのだ。
「――それはどうかな?」
だが、オーバードライブは改造人間だ。生理的反応なんて克服している。
ならば光により目が潰されようと。
「空気の流れを読めばいいだけの話だ」
見えないままで4人を叩き伏せた。あとはカモ狩り、この状況では手遅れ、もはや連携もできやしない。苦し紛れに上鳴が周囲を巻き込んで雷を放とうと、耳郎が音による衝撃波を放とうとも……オーバードライブには痛痒すら与えない。
「――おかしいな。なぜ宣言がない」
いぶかしる。
「それは、まだ俺たちが生きてるからだよ」
影が二つ。
「……へえ。お前らは場外までぶっ飛ばしたと思ったんだが」
切島、飯田が満身創痍の身体を引きづって現れる。リカバリーガールを呼ぶレベルの傷であろうとも。
「がんばってひっかかったんだよ。……ここまで戻ってくるのに苦労したぜ」
「これで終わりなど、思ってくれるなよ」
意気は十分。実力差は天地だが、諦めない心だけで立ち向かってくる。
「いいぜ、来いよ」
瓦礫の上から見下ろす。まるで魔王に挑む勇者のような姿だ。しかも、周囲には勇者の仲間の屍(生きている)が転がっているのだ。
「「行くぞォ!」」
だから勇者として限界を超えて駆動する。
最大ではオーバードライブに抗しえない。ならば、それ以上を出し続けるまでだった。だが、魔王として振舞う出久に余裕があることは事実。……否、明らかに遊ばれている。
限界を超えてなお、彼と互角にまでは至らない。
――何度も何度も突撃を仕掛けるも、あっさりと破られてしまう。そこで意識を奪わずにただ放り投げているのだから、手加減されているのは間違いがない。
「どうしても勝てないなら、限界を突破してやる! 漢の武器はド根性しかねえだろうが! なあ、おい。常識的に考えてェ! 勇気と漢気で、全てぶち破ってやる! 『天津羽々切・日緋色金』」
「……ならば、限界すらも超えるまで! リミットすらぶち破れ我が個性。『レシプロブレイズ・ハイペリオン』!」
だから、一段向こうへ。
無敵に思えるオーバードライブだが、その実同年齢にしてクラスメイト。彼ができるならば、俺もとは……子供の残酷な勘違いだが。
しかし、その残酷な勘違いを個性因子が実現する。
「――面白い。来るがいい、卵ども」
そして、もちろんオーバードライブは最上段で受けて立つ。
切島が地面を踏み砕きながら走る。今までにない速度、力――もはや増強系と見間違うような強化率。
「だが、慣れてないな」
その攻撃をいなす。
オーバードライブの掌が当たるたびに激痛を発するが、それは自業自得の自爆に他ならない。
その自殺行為とすら呼べる進化に身体がついて行っていないのだ。無理やり進化した身体は風船だ、針の一刺しで破裂する。
「――ほら、もっと進化してみろ。でなければ、俺には届かないぞ」
「ならば、さらなる領域に上がるまで! 俺の根性はまだ尽きちゃいねえぞ!」
進化の代償に寿命を捧げながらもその飛翔は止まらない。はるか古の、ヤマタノオロチを倒した十束剣=アメノハバキリと同様に――己の身を犠牲に敵を討つ。
「まだだ、と君はあのとき言った。だから僕も言おう! まだだ! と。……僕はまだ進化するぞ。君に追いつくまで」
リミットオーバー、オーバーロード。6気筒型の超小型エンジンがうなりを上げ、溶け落ちる。……己の身の矮小さを顧みず、力を力をと求め続けた結果がこれだ。
過剰な力が排気筒を溶かし――また生える。溶けては生えの繰り返し。もちろん、飯田の個性に熱耐性など存在しない。爆豪とは違うのだ。
足を焦げ溶かす拷問、この世でもっとも苦しい死に方は焼死だなどと言われるが。
「君に追いつくにはこれだけしてもまだ足りない。まだまだまだ――もっとだ! 限界を超え、焼滅すらも乗り越えて駆動しろ、我が『エンジン』」
それが生み出すは音速突破。音速を突破した証の傷を体中に刻まれながらも飯田はまだ止まらない。
「――やれば、できるじゃねえか」
拳と蹴りがオーバードライブにめり込んだ。わずかに残った校舎の残骸すらも崩壊させつつ、彼に一撃を入れた。
砂埃が収まった後には。
「だからこそ、俺も負けてはいられないと痛感した」
不穏な光が見える。……オーバードライブが起き上がる。
「勝つのは俺だ。『Calolina Smash』」
無情にして絶対の一撃が二人の意識を刈り取った。