緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第42話 幼女とデート

 

 学生は休日を楽しみにするのがテンプレと言うものだろう。もちろん雄英生ならば修行の毎日も楽しむものではあるだろうが……しかし、やはり休日の楽しみと言ったら人一倍だろう。

 まあ、オールフォーワンが死んだこのご時世、教師に休日はないかもしれなかった。全部オールマイトに投げておしまいとはいかない。巨悪が潰れた影響があちこちで出ているのだ。

 しかし、学生の一人である出久にはそれ(休日)があるのだ。

 

「……悪いな、休日に呼び出して」

 

 ゆえに、もちろん相澤もこの後は休日出勤だった。

 

「いいや、むしろこっちからお願いしたいくらいだぜ。……エリちゃんとのデートなんて光栄だ」

 

 恥ずかしそうに隠れている彼女に声をかける。どうにも人慣れしていない野生動物の様で、人目を気にしているようだ。

 まあ、病院の真ん前で微笑ましいラブコメなんぞをやっていれば当然かもしれないが。

 

「……あう。……あの、えっと……」

 

 きょろきょろして、スカートの裾を握りしめる。

 

「ほら」

 

 相澤が前に押しやった。

 

「あの……今日は宜しくね? 出久お兄ちゃん」

「任せとけ」

 

 しゃがみ、目線を合わせて手を握った。

 

「……お兄ちゃん。これ」

 

 黒い皮手袋に包まれた手から伝わってくる感触は冷たく、硬い。それは金属だ、人の体温も、温かみすらもない義手。そして、それは両手と片足も”そう”なのだ。

 

「おっと、悪いな。びっくりさせちまったか?」

「ううん」

 

 ふるふると首を振って、両手でその鋼の手を包み込む。

 

「お兄ちゃんは皆を守ってくれたんだよね? 悪い、悪の親玉をやっつけてくれたの。テレビで言ってた。オールフォーワンって、オールマイトがずっと戦ってきた巨悪だって。……殺されて、当然だって」

「……それは違うさ」

 

 そっと頭を撫でる。

 

「どういうこと?」

「死んで仕方ない人間なんていない。どんな理由があろうとも、人を殺した奴は裁きを受けなきゃいけねえ。これも、罰かもな」

 

「――そんなことない! お兄ちゃんは何も悪いことなんてしてない! それが罰なら、私がなかったことにする! まだ個性はうまく使えないけど、練習する。沢山練習して、お兄ちゃんの身体を治してあげるから……ッ!」

「いや。まだ何も終わってない。せめて、死柄木を……脳無の製造技術をこの世から抹消するのがオールフォーワンを殺した俺の責務と言う奴だろう。その時まで、戦いをやめる訳にはいかねえんだ」

 

「……やだ」

 

 実際、小学生のエリには難しいことが分からない。責務とか意味が分からないし、なんなら製造技術の言葉の意味すら知らない。

 分かるのは、出久が戦いをやめようとしないこと。戦い続ける……どこまでも。なら。

 

「やだよ、お兄ちゃん。そんな、戦いばかりなんて。まるで、戦うことしか知らないみたい。それじゃあ、戦いが終わったとはどうするの?」

 

 戦いが終わった”後”。そんなもの、出久は考えたことがなかった。彼は暴走機関車だ、定められた道をどこまでも爆走する。

 そしてその後など考えない。実際、漠然としたイメージでは増強剤のオーバードーズで死に至るが、個性の使い過ぎで心臓まで砕けるか。どちらにせよ生きているイメージなどなかった。

 だが、それを口にするのは良くないだろう。

 

「……戦いが、終わったら。……か」

「ねえ、お兄ちゃん。戦いしかないなんて、檻の中しか知らなかった頃の私みたいだよ。あの時は希望なんてなかった。生きてく限り、辛いことが続くだけだと思ってた。生きたいなんて思ったことはなかったよ。……お兄ちゃんも、同じなの?」

 

 そうだ、と言えれば楽かもしれないが……さすがのオーバードライブも子供相手にそんなことを言えやしない。

 それが地獄への道だとして、光であるならばそれで良かった。けれど。

 

「そうだな。……戦いが終わったら。か。それなら、パンでも焼いてみるかね」

「パン屋さん?」

 

 彼の身体には傷跡もあって、そして機械の手だから皮手袋は脱げないのだ。歴戦の風格すら漂う彼にはどこか不釣り合いだ。

 ……なにせ、パンだ。しかも日本人なら米がソウルフードと言うものだろう。けれど、小麦袋を担ぐ姿は似合うような気がして、エリは笑ってしまう。

 

「おかしいか?」

「ううん、そんなことない。素敵だと思う。なら、その時までに私はお兄ちゃんを治せるように、個性を練習するね」

 

「あまり無理するなよ」

「えへへ。じゃあ、あまり速く倒しすぎないでね。……ええと、ヴィラン連合って言うの?」

 

「そんなこと、初めて言われたよ」

「我儘を言うことはお兄ちゃんが教えてくれたんだから、お兄ちゃんが責任取って」

 

「やれやれ。仕方ないな、じゃあパン屋を開いたら看板娘になってもらうぜ?」

「看板娘? えへへ! いいな、お兄ちゃんと一緒にパン屋さん。とても、楽しみ。お料理の練習もするね」

 

「そりゃあいい。なんせ俺は料理の一つもできねえダメ男だからな」

「ふふ。じゃあ、たくさん頑張らないと。練習しないとね」

 

「――ああ、頑張るのはいいことだ。ま、その前にエリちゃんは女の子なんだから服の一つや二つは持っておかないとな」

「あう。……えと、今日は宜しくお願いします?」

 

 ぺこりと頭を下げた。

 

「お前ら仲いいな。ま、お前なら安心して任せられる。俺は仕事で忙しいんでね、子守りは頼む」

「任せとけ。ま、これも役得ってもんかね」

 

 何も言わないが、エリの問題はほとんど解決されている。彼女は個性抹消弾の弾薬――その核だった。

 個性社会を変えうる脅威ではあるが……しかし、原作よりも早期に解決されたために情報が殆ど広まっていない。

 そして、今やすでに噂すら立ち消えているも同然だった。

 

 ここからが相澤が知らないこと。流通した弾薬も、被験者の方も”処理済”だ。それがアストレアのやり口、どうせ使用者も犯罪者紛いなのだから消すことに躊躇いはない。

 全ては闇へと葬り去った。オーバードライブはそういうところでは義理堅いし、できないことは他人に頼む。

 

「……さ、行こうぜエリちゃん。おっさんはほっといて、二人きりでデートって奴だ」

「デ……デート。私、そんなの初めて。……お兄ちゃん、優しくしてね?」

 

「ああ、とびきり優しくしてやるさ」

 

 ちなみに、相澤から財布を押し付けられているが返した。こういうのは男が奢るのが粋と言うものだろう。

 実際、出久は中々に稼いでいた。そこもアストレアの手腕である。帰ってくるまでに試運転として色々やらかしていたから、その分の対価は貰っている。

 

「――お兄ちゃん、手を握ってくれる?」

「ああ、行こうぜ」

 

 そして、電車に揺られてショッピングモールへ。まあ、何はともあれ服だ。持っているのが病院服と、相澤が2秒で選んできたサイズが合っているだけのキャラプリントトレーナーでは盛り上がるものも盛り上がらない。

 

「……わあ、たくさん」

 

 ぽかん、と口を開けている。

 箱入り、というより牢屋暮らしの子供には刺激が強すぎるようで、あれは何これは何と聞くことすらできずに眺めていた。

 

「考えて見りゃ、俺のセンスはどうにもな。多分鋭次郎の奴も俺と同レベルだと思うが、女の子の服なんて選びようもねえわな。さて、どうするかね」

「お……お兄ちゃん」

 

 服のすそを握りしめてくる。可愛らしいしぐさだ。とはいえ、ここでやられても、だ。出久としてもそもそも店がたくさんでどこに入っていいのかすらわからない。

 が……涙目で見つめてくるものだから、どうにかしなくてはならないだろうと気合いを入れる。

 

「そこの店に入るか」

 

 もう、とりあえず最初に女の子らしい服が飾ってあった店に入る。

 そこはちょっとした高級店で、値札を見ればお察しで。しかも、それ以外は殆ど大人用であったのだが。

 

「なにかお探しですか?」

 

 店員がすぐにやってきた。

 

「この子に合うのを見繕ってくれ」

「あの……えと」

 

 人見知りだ、裾を掴みながら出久の後ろに隠れてしまう。

 

「かしこまりました。では、いくつか試して見ると良いと思います」

 

 それで、プチファッションショーが開催される。

 

「あの……これ、どうかな?」

 

 恥ずかしそうにくるりと回って見せた。1着目は清楚なブラウスとスカートだ。白と黒のコントラストが可愛らしい。

 

「次は、これ? あの、似合ってるのかな……?」

 

 2着目は少し攻めているデザインだ。赤を主体とした少々パンクなファッション。耳郎あたりが喜びそうな格好だ。

 現代の若者風に慣れていないのか、チャラチャラした飾り付けを不思議そうに弄っている。

 

「えと……選んでくれたのはこれで最後です。あの……これ、ちょっと好き……かも」

 

 照れたように見せてくれたのは白のブラウスと赤いスカート。あつらえたかのように似合っている。

 

「ああ、いいと思うぜ。じゃ、着ていた服は包んでもらうか」

 

 そして、次だ。女の買い物は長いと決まっているものだが、しかしエリは何も知らないからどうしようもない。

 

「えと……次は、どこに?」

「まあ、俺もあまり楽しみ方を知らねえんだがな。お、そうだ。おもちゃでも見に行くか? 多分魔法少女とかそういうのがあると思うが」

 

「ヤ。子供扱いしないで」

 

 頬を膨らませてしまった。

 

「悪い悪い。そうだな、クラスメイトに音楽好きな奴が居てな? そいつがCDには掘り出し物があるとかなんとか。なんでもダウンロードして聞くよりも良いとか言ってた」

「ええと、CD屋さん? じゃあ、行く?」

 

「ま、行ってみようぜ」

 

 そして、CD屋に行くと。

 

「あいつには悪いがネットで聞くのとあんま変わらねえな。音の違いも分からねえし、まあ上手いんだろうが歌はただの歌だな」

「ううん……私の好きな曲、どこ?」

 

「なんていうやつ?」

「あの……えっと……刀を使って……鬼を倒す……アレ。えと……」

 

「ああ、アレか。有名だし、あるんじゃないか?」

 

 そんなこんなでCDを購入し。モールのフードコートでジャンクフードを堪能し、カラオケに行った。

 二人、そもそも歌詞すらおぼつかなかったけど、それでも楽しかった。

 

「お兄ちゃん、今日は楽しかったよ。ありがとう」

「俺も楽しかったぜ、エリちゃん。こんな俺で良ければまた呼んでくれや」

 

「うん。呼んでいいなら」

「――じゃあな」

 

 背を向ける。

 

「待って。お兄ちゃん、私はずっと暗闇が続くと思ってた。苦しいだけで、ずっと何もなくて……それだけの日々が続くと信じてた。でも、そこから助けてくれたのはお兄ちゃんだよ。だから、死なないで。私は、お兄ちゃんがまたどこかに行きそうで」

 

 思わず、裾を掴んでしまった。

 重傷を負った彼は一度失踪している。またそんなことがあるかもしれないと、背中を見てそう思った。

 

「そんなことは……」

 

「じゃあ、”また”って言って? もう一度、私に会って? 私は――お兄ちゃんに救われたんだから。お兄ちゃんが救われないなんて……そんなの嫌」

「仕方ねえな」

 

 ふ、と笑う。子供は鋭い。そして、理屈も何もなく感情を叩きつけてくるのだから始末に負えない。

 根津校長であればバックを警戒して話もしないし、オールマイトであれば世論を持ち出して丸め込める。

 だが、こうされてしまうとお手上げだ。

 

「俺は、お前にもう一度会うために死なない。約束する。これでいいか?」

 

 目的のためなら死も恐れない。オーバードライブの率いる決死隊はそういうものだ。だが、彼女にここまで言われては死ぬわけにも行かなくなってしまった。

 

「うん、約束だよ。破ったら、泣いちゃうからね?」

「まったく、勘弁してくれや。もう――」

 

 こうして、見事にやりこめられた休日となった。

 

 





 卒業までにルートを確定しないと自動的にエリちゃんルートへ行くことが確定されました。
 その他のルートは①麗日、②八百万ですね。
 麗日は身体が壊れているので遠慮気味、八百万の方はいまいちアピールしきれていない状況となります。

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