緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第43話 プラネテス再襲来

 

 学校生活。皆、腹の中に重苦しい感情を仕舞って、薄氷のごとき地雷原の上で平穏を演じる。地雷はどこにでも埋まっていて、さらに敵が来るかもわからない中での生活は相当にストレスフルだ。

 だが、そんな中でも夢のために。理想のヒーローになるために己を磨く生徒たちと先生たちが居た。彼らは逆境の中でも努力を絶やさなかった。

 ……曲がりなりにも雄英を運用できているのは管理すべき生徒が減ったからという裏事情もあるが、重要なのは残った者は覚悟が決まっていたということだ。逆に言えば、ストレスでおかしくなるような生徒はすでに転校してしまった。

 

 オールマイトが居るから安心だと言われるかもしれない。しかし彼は日夜世界を飛び回って、今この瞬間も平和を築いている。

 逆に言えば雄英に居ることは少ないから、あまり安心要素にならないのだ。前回も、オールマイトはいなかった。明らかに敵はオールマイトの留守の隙を狙っている。

 

 だから、誰もが思い描いていた悪夢が再来しようと、パニックにはならなかった。恐慌に陥って暴動になることなく、一様に震えてうずくまっていた。どれだけ肝が座っていたとしても、プラネテスの恐怖は超えられない。精神論の問題ではない。それに立ち向かえるのは、どこかがおかしくなった人間だ。

 

「さて、始めようか。あの日の悪夢の再来を」

 

 悪鬼羅刹が歪んだ笑みを浮かべる。

 

「まるで自分がヒーローみたいな顔をする気持ちの悪い塵どもが。貴様らには氷漬けがお似合いだ」

 

 歪んだ自尊心に依存した姫君が殺意を発露する。

 そして。

 

「クハハハハ! さて、遊ぼうじゃねえか。”平和の礎”様とやらよォ!」

 

 何も目的を持たない悪童がもう一人。敵連合、三人目のプラネテス。お世辞にも制御できているとは言えないが、しかし彼らの本質は邪悪である。

 破壊と殺戮に興じるのなら、ヒーロー社会陥落の一助となる。敵連合はそれを利用するだけだ。

 ただただ刹那に楽しみを見出そうとする享楽的な男は”先”など見ていない。今は強い奴と戦いたいと気炎を燃やしていた。

 

「――貴様らァ!」

 

 雄英の門を守っていた一人のヒーローが吠えた。マスコミ対策、生徒の親族へのアピールに他ならないが、それでも名の通った本物のヒーローだった。

 弱いわけではない。雄英の教師としても活躍できるだけの戦闘能力は持っている。だがしかし、その実力はトップ10とは比較にならず。

 

「お前じゃ駄目だ」

 

 殺塵鬼の爪が閃いた。ヒーローの身体が三つになった。直後、破壊の霧が吹き出し――門そのものまで塵と化した。

 1秒の時間稼ぎすらできなかった。

 

「逃がさんよ、ゴミクズども」

 

 そして、やはり。前と同じように氷の結界が校舎を包み込んでしまった。逃走さえ許されず、そして肌を刺す冷たい冷気は刻一刻と体力を奪う。

 一般生徒では、数時間もすれば危険域に入る。病院にそれだけの人数が収容できるか怪しい上に、10時間も経てば確実に誰かが死に至っているはずだ。

 

「――氷河姫(ピリオド)ォ!」

 

 麗日が吠えた。窓ガラスを砕き足場にして一直線に向かってくる。その超高速移動は一般人では影すらつかめない。

 その上のUFOじみた変則軌道だ。玄人でも成す術がなく引き裂かれるだろう。

 

「お前などお呼びじゃないんだよ。力を見せてやれよ、デッドエンド。譲ってやる、精々派手に吠えたらいいさ」

 

 だが、彼女は興味の欠片も見せない。つまらなそうに視線をふいと逸らした。その姿は迎撃する気すら見られない。

 

「いいぜ、本命の前に前菜を頂いておくのも乙なもんだ」

 

 大笑する悪童、4人目のプラネテスが麗日の前に割り込んだ。完全に軌道を読まれている。玄人どころではない、ヒーロー殺しを遥かに超えるほどの完成度を誇る武術が麗日を補足した。

 

「邪魔をするなァッ!」

 

 影猫の手が閃いて、真上から押しつぶそうとした刹那。更に伸びる。真正面からの突撃と見せかけて、腕を伸ばして背後からの強襲だ。

 目に頼っていたのでは決して捉えられない。それは筋肉で動いているわけではない。音もなく、前準備もなしに伸びるその手は凶悪に過ぎた。

 が――

 

「応とも、これぞ経絡秘孔───殺人拳の真髄よォ。カカカカッ!」

 

 彼は見もせずに影猫の手をバックハンドで迎撃する。視界を塞いだのなら、背後から強襲するのは当然”読める”。

 あとは敵の殺気を見てタイミングを合わせればいいだけの話だった。偶然ではない、相手の狙いを読み、そして対応できるだけの身体能力が合わさった必然。

 

「けど、このまま押しつぶして――ぐっ!?」

「言わなかったかい? お嬢ちゃん、経絡秘孔の業を見せてやるってな。俺の打撃は、外だろうが中身だろうが自在に破壊しちまうのさ」

 

 悪童が笑う。自分の技術を自慢でもするかのように。

 

「……がはッ!」

 

 麗日が血を吐いた。内臓がのきなみやられている。まるで内臓そのものを殴られたかのような一撃だった。

 敵はただ、影猫の手を叩いただけだ。なのに、やられてしまったのは身体の中身。限界を超えたダメージを不意打ちで叩き込まれて、意識を保つことさえできやしない。

 覚醒の妨害には一撃必殺がよく効くから。

 

 オーバードライブが空気弾を叩き込む。更には麗日を蹴り飛ばして安全圏まで避難させる。

 

「なるほど、テメエか。廃棄されたはずの0ナンバー。原初のプラネテス――名前のない怪物め」

 

 だが、そいつは小動もせずに見返している。空気弾が全くと言っていいほど通用しない。そう、彼こそ”最初”のプラネテス。

 ジン・ヘイゼルが開発途中で放棄した試作品。それを敵連合が完成させた。

 

「今の名前はアスラ・ザ・デッドエンドだ。俺がつけたんだ、カッコいいだろ?」

 

 奴はからからと笑っている。オーバードライブの殺気など意に介していない。これで世界に現存するただ4体のプラネテス全てが揃った。

 

「――師匠! コイツの能力は『衝撃操作』! 触れたら終わりだぞ!」

「なるほどな!」

 

 そして、オールマイトが参戦する。4体目のプラネテス、彼を放置すれば生徒を守る者から殺されてしまう。

 そいつは個人に対しては最強の性能を持つプラネテスだ。放置すれば教師を殺され、そして我が身を守る必要がなくなった殺塵鬼か氷河姫が生徒を虐殺するだろう。

 

「ソイツ等は任せたぞ。気張るがいい、世界を破壊したいと願うならな」

「まあ、精々楽しめや戦闘狂。こっちはこっちで、雄英教師たちを見極めさせてもらうからよ」

 

 氷河姫、殺塵鬼は三人を放置して先に行く。超高範囲殲滅兵器である二人を放置するのも論外だが、コイツラはまだ師弟がいなくても抑え込める。今は、一刻も早くデッドエンドを止めなければ。

 

「……貴様は何を願ってここに居る?」

 

 オールマイトが連撃を繰り出す。1秒間に百連打、ビルすら易々と砕く衝撃が、”触れもせず”。

 前にも見せた拳圧での遠距離攻撃。だが、いかなる論理によってか先のように無差別に破壊を撒き散らしなどしない。

 拳圧はデッドエンドを通り過ぎたところで消え去る。自分の攻撃で顔も知らない誰かが傷つくなどオールマイトが許すはずがない。

 

「何を願うか? そんなもの下らねえ、知らねえ、聞こえねえぞ! 個性社会、ヒーロー社会……世界を築き上げたのがアンタだろう、オールマイト! そんな凄まじい男に挑まざるして、何が男だ!」

 

 大笑しながら誇りを口にする。確かに世界で一番偉い男と言えば、それはオールマイトに他ならないだろう。

 そして、その腕力で社会を築き上げてきたからには、腕自慢なら挑もうと思うのが当然。No1が強すぎて、そんな気概のある男は世界にエンデヴァーただ一人であった時代が長かったのだが――

 

「嘘だな。お前の目はひたすら武の頂点を目指す者のそれではないぞ。それに、私を殺しても成れるのは世界を砕く悪竜くらいのものだ」

 

 オールマイトは欺瞞を喝破する。ひたすら享楽的で、自分の楽しみを全てに優先させる悪童かと思いきや、笑っているのは口元だけだ。

 本心から楽しそうにしているわけでもない。終わった次の瞬間にはつまらなそうな顔をするのが目に見える。

 

「悪竜か! いいねえ、化け物ならばそれで上等! 挑ませてもらうぜ平和の象徴様!」

 

 デッドエンドは拳を固め打ち放つ。『衝撃操作』の個性、氷河姫と殺塵鬼を究極の殺戮効率を求めた兵器とすれば、デッドエンドはオールマイトですら殺せる究極の暗殺兵器だ。

 暴力など関係ない、服の端にでも触れさえすれば衝撃を伝え脳髄を”弾けさせる”ことさえ可能。さすがにオールマイトでも脳をかき回せば死ぬだろう。

 

「――愚かな。ならば、その根性を刑務所で叩き直してもらうがいい!」

 

 ゆえに展開されるのは手を握れる距離での遠距離戦だ。話をしているのに、拳をかわし合っているはずなのに徹底的に噛み合わない。

 デッドエンドの拳も、オールマイトの拳圧も敵にかすりすらしない。

 

「俺を忘れんなよ、寂しいじゃねえか!」

 

 そして、オーバードライブの拳もまた走る。彼の能力もまた一撃必殺。オールフォーワンを殺すのに5回も必要だったのは、それが彼が世界を裏から支配する巨悪に相応しい実力を持っていたからだ。

 今では改造を受けて強化されている。触れれば人間一人分の質量くらいは簡単に結晶に変えられるのだ。

 

「いいねえ、師弟の絆か! 潰しがいがあるってもんだ!」

 

 同士討ち覚悟のオーバードライブの一撃を華麗にかわし、一撃を返すがやはり避けられる。

 デッドエンドとしては同士討ちも面白ければOKだが、敵にやられるのは面白くない。ゆえに狙うは自分だけが立っている完全勝利だ。

 

「それに、あの二人はいいのかい? 今頃、お楽しみだと思うんだがな」

 

 デッドエンドは揺さぶりをかける。卑劣な手、それも楽しければOKだろう。平和の象徴を相手にするのだ、自分の業に絶対の自負を抱いていても利用できるものは利用する。

 平和の象徴様だ、そんな手を使わなければ勝てないほどに強くなくてはむしろ拍子抜けする。とはいえ、そんな心配は微塵もない、こんな手が通じるとも思っていない。

 

「下らん! 私は先生方と生徒達を信じている! 私が居なくても守るべき生徒たちを易々と殺させてくれると思うなよ!」

「その通り、俺たちがお前をここに留め続ければ――その間に誰かがあの二人を倒す。お前たちと違って、こっちには頼れる仲間が他にもいるんだよ!」

 

 全員が一撃必殺を持っているがゆえに、超至近距離で何一つ攻撃を交錯させない。攻撃がかち合う音もなく、ただ空振りの音が響くだけだ。

 指の一本すらも触れ合わない異質な戦いはまだ続く。

 

 オールマイトとオーバードライブ。この世界で最強と言える二人を相手にできるデッドエンドの個性は最強に類する。オールマイトのような「その人だからしょうがない」ではなく、穴のない衝撃操作と抜け目のない観察眼が合わさった究極兵器。

 そう、地に足さえ着けていれば衝撃を別の場所に逃がしてしまえる。オールマイトの一撃すら通じないのなら、他の誰でも倒すことは不可能だろう。

 エンデヴァーの炎なら、と言われるかもしれないがそれですら無理やり捻じ曲げてしまうことが可能だ。熱・冷気・音響に電撃、特殊攻撃であれば通じるものですらない。

 

  ゆえに、これは精神力の勝負。たった一瞬、刹那に集中力が切れればその時が決着の時(デッドエンド)

 それは身体より心を削る戦いだった。

 

 戦いはまだまだ続いていく。そしてその背後では氷河姫と殺塵鬼を相手にした残酷劇(グランギニョル)が幕を開けた。

 

 

 

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