緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第45話 インゲニウム再登場

 

「……まだだ!」

 

 だが、そこに割り込む影が一つ。受け止めたのと引換に刀が砕けるが、腕にまで崩壊が伝播する前に捨てる。

 それこそが援軍。薬物とサイボーグ技術、更にはワンフォーオールの残り火を燃やすことでオールマイトと同等レベルの戦闘能力を発揮する鋼の巨人(フルメタルギガース)

 

「助けに来たぞ、天哉」

 

 その姿こそ。そう、足を義手に替え、機械の鎧を携えて、空になったアンプルを備えた姿こそが今のインゲニウムの姿だった。

 刀を持ち替え、弟を守るために背中を見せている彼は。

 

「……兄さん」

 

 飯田に”絶望”を与えるその姿に他ならなかった。なぜなら、彼は動けないはずだった。その彼がここに来るために改造手術をもってする以外になく……そして、それは”法律違反”だ。

 彼は規律を信じていたのに、尊敬する兄は規律を破ってしまった。どんな事情があろうと関係ない、それは人として守らなくてはいけない一線なのだから。

 政府からの見解は公表されている。致命レベルの増強剤を使ってのヒーロー活動など認められない。すでに彼の免許は返還されているからヒーロー活動が違法だし、そのレベルの薬物はヒーローだろうが使用並びに所持は重罪である。

 

「兄さん。……なんで」

 

 声に出せたのはそれだけだった。立ち上がるため、溶けたエンジンの底から血を噴き出しながらも踏ん張っていたのだが……今はもう、萎えてしまって地に縫い留められたように動かない。

 現実とはどこまでも厳しいものだ。尊敬していた兄が、自分を助けに来てくれた――”法を犯して”まで。そんなものは願ってなかった。

 だが、”そう”までしなければベッドの上の兄がここに来ることもできるはずがなく……

 

「――」

 

 ちらりと後ろを振り返り、インゲニウムは苦笑する。やはり弟には許せないかと苦い気持ちを胸中に仕舞って。そして、敵に向き直る。

 にらみつけ、揚々と言葉を吐く。なぜなら、その姿に見覚えがなくとも振る舞いには精通している。

 

「やはり、お前だったか。……世界を股にかけたトリックスター、ダニエル・フォン・バレンタイン。ある国では悪辣なる王族に反旗を翻し、またある国の紛争では敗北しつつある民族に味方した。戦場に行き、戦場の在り方を説いた」

 

 その名こそ殺塵鬼の前身。死体を元に改造するのが脳無とプラネテスの共通点だ。最新であるオーバードライブを除き、他は全て生き返った死人だった。

 ゆえに歴史があるのは当然だろう。

 人には全て歩んできた人生がある。そして、ダニエルのそれは最も強烈なものの一つだった。世界的に最も人気があるのはオールマイト、だが小国の中には彼をこそ平和の象徴として崇めている地域すらあるくらいだ。

 

「ああ、懐かしいなあ。俺の人生は宝石のように煌めいていたよ。……そう、お前に捕らえられて絞首台に送られるまではな。まさか、故国でもないアメリカで死ぬことになろうとは思ってなかったよ」

 

 だから、大国であるアメリカに殺された。日本はただ、インゲニウムが逮捕したダニエルをそのまま引き渡しただけだ。

 支配者に逆らう民衆など碌なものではない。そもそも天災が起これば、お前のせいだと政府を憎むのが現実の民衆と言うものだ。善良な民? よく使われるフレ-ズだが、実際にはそんな言葉ではくくれないだろう。

 民衆は自分勝手で、一方で政府が大事なのは自らの派閥でしかない。それが現実にして、世界は大国の都合で動くが定めであるならば。ダニエルは、大国にとっては心底都合が悪かったから始末されたとしか言いようがない。

 

「大衆はお前をこう捉えていたな。悪を倒すためなら殺人も辞さないダークヒーローと。お前こそが平和の象徴、悪逆非道の権力者を倒した偉人と見ていた人が確かに居たと知っている。だが、お前はやりすぎたんだよ。自分が何人殺したと思っている? 正直、逮捕した後は俺の手が及ぶ範囲じゃなかったよ」

「そりゃあ、そうだろうよ。中々の人気者だったんだが、救われた人々がデモとか起こしてな。軍隊が出動したらしいぜ、そりゃあ日本じゃないからな。お前だって、俺と同じ人気者だった。戦えなくなった時は大層嘆き悲しまれたものだったろ。……だが、今やどうだ? 金も稼げない厄介者として扱われてるんじゃないのかい」

 

「そんなことはないさ。俺の家族は優しいからな」

 

 そう、そんなことはない。そんな薄情者は彼の家族に居なかった。それは彼の人徳と呼べるものだろう。

 人は互いに影響されて生きているものだから、彼の善良さはそのまま周囲の人間にも通じる。ヒーローじゃなくなったからと掌を返されたりはしない。例えばエンデヴァーあたりとは違うのだ。

 しかし、家族はそうでも……現実は違う。

 

「だが、心当たりがないとは言わせない。なぜなら、ヒーロー殺しに殺されかけたお前はベッドの上でしか生きられない。治療費が出ていく一方で、アンタに収入なんてもうないだろ?」

 

 そう、収入がない。ヒーローは歩合制、戦えなくなったからにはもう入るものなど何もないのだ。

 

「そんなことはないさ。身体を壊したらヒーローはそのままホームレスだなんて、夢がないにもほどがあるだろ? 保険はけっこう充実してるんだよ」

「知ってるぜ、オールマイト基金から引退者に寄付が出ているが……それはオールマイトに寄生しているだけじゃねえか。なあ、オールマイトから恵んでもらって生きる日々は楽しいかい?」

 

 保険……だが補償には財源が要るのが当然だ。どこかから出なければ、出るものもない。だから、誰かが出していると言う話になるのだが、それはオールマイトだった。あの冷たい世間が税金を投入などするわけがない。

 平和の象徴、この世界を築いた立役者なのだ。千人や二千人程度を養えるだけの金はある。使う当てのない金だから、ポンと出してしまった。

 

「だからここに来た。この命、無為にするより――ここでお前を倒すために捧げると誓った」

 

 だから命を捨てに来た。ギガースは命を捨てた修羅の集団、死を前提とした特攻兵。明日など見ない、ただ一度誰かを救えるのなら命など要らない。

 この戦いで死ぬことを納得して、ゆえにこそ命を燃やし尽くして戦う狂戦士。

 

「ハッハッハ! 報われねえなあ。生きてるより死んだ方がマシってか。皆のために頑張って、真面目に生きて来て……最期がそれかよ!」

「だとしても、俺は満足だ。こんな俺を誇りと言ってくれた弟がいるのだから! そして、命の使い方を語りつくした友が居る!」

 

 ギガースの強みは集団戦。オールマイト並みのパワーが完璧な連携を成して襲ってくるのが神髄だ。

 一人や二人死のうと相打ちを狙ってくる狂人どもが大挙して押し寄せる。

 

「「「応よ。皆まで言うな、我が友よ。同じ気持ちだ、地獄まで共に行こう!」」」

 

 5人の命知らずの仲間たちが、ともに殺塵鬼に立ち向かうのだ。

 

「だが、それでは届かない。最初から命を捨てるつもりで、それで何かが成せるものかよ」

 

 崩壊のオーラが揺らめく。そのただの一撃で瀕死の域にまで追い込まれてしまった。

 いかにオールマイト並みのパワーがあろうと相手はプラネテス。それだけで勝てるほど甘くはない。

 

「捨てるのではない、預けるんだ! 友だからこそ、信頼して後を任せて逝ける!」

 

「そうだ! これは自暴自棄などではない、未来を切り開くため――これが自ら選び取った未来!」

 

 腕が、足が崩れるのも構わずに攻撃する二人。殺塵鬼の力は近づけば近づくほど凶悪になる。

 そして、そんな手足では有効打など与えられない。

 

「だが、気合いだけで何とかなるのはオールマイトだけだぞ」

 

 武器が崩れた。ならばとばかりに拳を叩きつける。叩きつけた拳が砕ける。手が裂け、腕が割れて……そして崩壊のオーラで腕そのものが消える。

 

「「後は任せた!」」

 

 轟、と炎が漏れる。けたたましい音とともに自爆する。

 

「――任されたぞ、友よ!」

 

「俺たちもすぐに逝くぞ!」

 

 背面を自爆。自ら肉を削り、加速を得る。USJに現れた脳無を参考にした加速法。言ってしまえば肉体と言う燃料が切れるまでの使い捨てロケットだ。

 武術を習得した上でのそれは凶悪。予想もできない角度で、凄まじい速度の必殺が飛んでくる。

 

「チィ! これだから、光狂いは。命を粗末にするなァ!」

 

 突然の激昂。殺塵鬼の恐るべき全力が放たれる。

 

『死が満ちる、死を満たせ、死を杯へと注ぐのだ。野獣の如き蹂躙だけがこの身を至福へ誘うのだ。城壁の破壊者は、泰平をこそ打ち砕く』

 

 それは戦神。かなうものなき戦争の支配者。

 

『永遠たれ、凶兆たる災禍の紅よ。神々の弾劾さえ我が悦びを裁くに能わず』

 

 まさに人類に対する脅威。

 殺すことだけに特化した殲滅兵器にして、人類絶滅機関。いつの世も、最先端の技術は人殺しにのためにこそ使われる。

 ーー発動する。

 

超新星(Metalnova)───義なく仁なく偽りなく、死虐に殉じる戦神(D i s a s t e r C a r n a g e)!』

 

 ただの一撃が、加速する二人を叩き潰した。その二人を守るのは最高峰のヒーローアイテム、国際条約すら無視した最高の鎧だったはずなのに。

 自爆する暇すらなかった。炎が漏れることもなく、完全に崩壊して塵すら残らない。

 

「――そう来るだろうと思っていた。お前の本音は知っているんだよ、逮捕したのが俺だから。殺したいだけなんだろう? だから、自殺されると殺せなくて激昂する」

「ああ、ああ! その通りさ! 秩序も誇りも知らねえなァッ! 死んでくれ、死んでくれ、とにもかくにも……死んでくれ! ただひたすらに殺して(バラ)して(こわ)したいんだよ。だからあんたは邪魔なんだ、もっと自由に殺らせてくれやァッ! クハハハハァァッッ────!」

 

 全力を出した影響か。殺塵鬼の本性が姿を現した。そう、聖戦も資格もすべては口から出まかせ。世間が好みそうなお題目を言っていただけだった。

 何かの信念を持っていれば人殺しも許される。それが大衆と言うものだ。中身が何もなくとも、黙っていれば分からない。

 ただただ人を殺したいがゆえに、悪役をも辞さない覚悟を持つ男を演じていた。

 殺したい、殺したい、殺したい。人を殺せれば何でもいい。これこそが個性を十全以上に発揮できる真の姿であり――

 

「あの時は殺さなかった。だが、今度こそ殺す」

 

 隙に他ならない。インゲニウムはただ一瞬に全てをかけて眼前を睨みつける。

 奴の攻撃の前に生き残ることを考えても無駄だ。超広範囲攻撃、かつ一瞬でも受けたらそこから崩れ落ちて塵も残らない。

 個性の威力が違いすぎる。ならばこそ、逆襲を。

 

「やってみろォッ!」

 

 殺人鬼は全力でもって攻撃を撃ち放つ。ただ殺したいだけだから、何も工夫もなくただ最大で撃ち放つだけだった。トリックスターであった時はともかく、今はただ一つの殺塵鬼。

 恐ろしかった絡め手も使うことなく、ただ殺せればいいだけの殺りく兵器だ。

 

「――」

 

 ならば、やりようもある。本来、隙の出来るはずのない個性。だが、敵は人、改造されようが生き返されようが人間には変わりない。ならばフェイントと視線で誘導し、更には瘴気の薄い場所に腕を突っ込んで絶対のはずの壁を破る。

 そうすることで無理やり隙を作り出す。

 腕が瘴気に侵されてなお、殺人鬼の胸に刀を突き立てた。むろん、本来であれば一瞬で崩れていた。成功させたのはインゲニウムの戦闘センス。

 

「人間なら死んでたな。やはり、殺すのは俺なんだよ。クハ。クハハハ――」

 

 だが、プラネテスである彼を倒すのには足りない。彼の強固な外骨格を貫いたが、核にまでは至らない。

 すさまじく厳つい見た目、胸筋と呼べるのかは知らないが分厚い装甲が彼を守った。

 

「兄さァ―――――ん!」

 

 飯田が涙する。いかに法を犯したとはいえ尊敬する兄だ。死んでくれと願うはずがない。そんな大切な人が、髪の一本すら残さず消滅したのだから涙が溢れて止まらない。

 

「さて、お前も殺すか。安心しろよ、家族みんな俺の手で殺してやるから寂しくないぜ? 皆仲間さ、俺が殺すからな」

 

 殺塵鬼がその爪を天哉に向ける。

 

「……まだだ」

 

 殺塵鬼の顎が跳ねあがった。その直後に気付く、自分は蹴られたのだと。余りにも早すぎる、更には炎熱が伝わってくる。

 プラネテスの装甲に熱を与えるとはとてつもない熱量。たかが小火(ぼや)ではこうはならない。

 

「チィ。……だが、直線的な動きなら捉えられる!」

「いいや。さすがの僕も学んださ、世界には救えない屑がいることを。そんな相手に正攻法を説いてもどうしようもないということを。もはや、貴様に己が身を顧みろとは言わない」

 

 一直線ではない。自らの身体を左右に振るそれはまるで雷の軌道だった。しかも、炎まで纏っている。暴走する力が溢れ出したそれは、まつで人など簡単に消し炭に変えてしまう雷だった。

 

「邪悪なるもの一切よ、ただ安らかに息絶えろ。『レシプロブレイズ・ケラウノス』!」

 

 それこそは悪を轢き潰し、轍に変える絶滅光。

 法をこそ最上と信じた飯田は、今ここでその信念を捨てた。生まれ変わった彼の個性は凶悪なまでに進化する。

 許されぬ悪を殺すため、蝋翼の身で太陽に近づく。

 

「だが、俺を殺すまでには至らない! 義なく仁なく偽りなく、死虐に殉じる戦神は、貴様など相手にしないんだよ!」

 

 殺人鬼は身をひるがえす。己の身体を崩壊のオーラで守りながら、ネズミのように情けなく逃げ出して――そして、一般生徒を殺そうと狙うのだ。

 そう、彼に誇りなどない。

 自分を倒す程の実力者など相手にしたくない。オールマイトからひたすら逃げ回っていた彼だ。覚醒した飯田から逃げることに躊躇いなどない。

 

「……まだ、威力が足りないのか! ――兄さん……ッ!」

 

 嘆く。

 蹴った自分の方がダメージを負っている気がする。覚醒の代償だ、ここまで大がかりな身体の変革、20になるまで生きられるかも怪しいものだ。

 それでも、殺塵鬼を倒すには至らないのだから。

 

「ハハハハハ! 真面目子ちゃんぶっても楽しいことなんざねえぜ。どうせ贅肉だらけの醜男に殴られたら激怒するのに、見目麗しい美少女に蹴られたら満更でもないのだろうさ。なら、人生楽しんだもの勝ちなんだよォ!」

「……このどうしようもないクズが! いや……そうか、そういうことか。兄さん、ありがとう」

 

 逆転の一手を見つけた飯田は殺塵鬼の目の前に降り立つ。

 死んでいった兄の意志を引き継いで、最悪の敵を討ち倒すのだ。

 

「この一撃に全てを込める。耐え切れば、貴様の勝ちだ」

「そうか。なら、受け止めてやるよ。これで終いだ、テメエら兄弟との因縁はな」

 

 だが、これ以上の覚醒など都合のいいことは起こらない。

 先と同じでは殺塵鬼の装甲を砕き命を断つには至らない。生きてさえいれば、殺塵鬼はどこまでも殺戮を繰り広げるだろう。

 自分は生きていられるとの目論見をもって、殺塵鬼は最後の一騎打ちを受ける。

 

「「――行くぞォ!」」

 

 飯田は真正面から最高速で。

 対する殺塵鬼はと言うと……地を蹴り、別の方向へ逃げ出した。

 

「……んなもん、付き合うわけねえだろうさ!」

「だと、思ってたさ!」

 

 雷のように曲がる。そして、狙い撃つは。

 

「そこは……『インゲニウム』の――」

 

 兄が突き立てた刀。心臓=コアにまで届かなかったそれが……

 

「僕の。……いいや、僕と兄さんの勝利だ」

 

 弟の蹴りによって押し込まれる。威力の足りないはずのそれだが、折れた刀を押し込むのには十分すぎる。コアを砕いた。

 

「……これが俺の終わりか。神様……良い殺戮でした」

 

 ついに、殺塵鬼の目から光が失われる。

 もう二度と、この殺りく兵器が立ち上がることはない。

 

 

 






 裏話。
 インゲニウムに接触したのはアストレアです。彼女はギガース参加時にプラネテスが元々死体だったことを聞いているので、調べはついていました。
 死体が紛失した犯罪者を探せば改造元の予想はつくし、警察の極秘資料に誰が捕まえたかは載っています。後はアストレアの伝手で身体を改造、ギガースの監視網から雄英襲撃を知りました。

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