緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第46話 氷河姫の過去

 

 そして、氷河姫。彼女のメッキはすでに剥げている。慎重に見えた行動も、全てはオールマイトを恐れていたのみ。彼女の真実は一つ。ただただ小物であるだけだ、強力な個性を与えられただけの殺したがりの死人である。

 一度死に、そして生き返った彼女は危険を冒さず、己が嗜虐心を満たすだけために破壊を撒く小心者。だが、やはり凍らせるだけでは味気ない。その手で殺してこそ、やりがいもあると言うものだろう。

 ……どこまでも彼女は小物だった。だが、ここでは小物こそが恐ろしい。強力な力を持ち、そして小物であるがゆえにオールマイトから逃げることに何も躊躇いがない。

 小物だからこそ、逃げる自分の心からも目を逸らし、懲りるということも知らない残虐に興じる災禍――プラネテス。

 

「――戦闘狂め。英雄殺しの先鋒はお前に譲ってやる。だから、死ねよゴミクズども。その醜い死骸を晒せ。貴様らの死は無為だ、誰も助けられずに死んでいけ」

 

 だから、こんなことを言っている。オールマイトは恐ろしいが、その口先だけは立派なもの、弱い人間にはどこまでも強く出ることができるのだ。

 氷河姫の一撃で、迎撃に出た教師は瀕死に陥った。そして、運の悪い一人……ミッドナイトが心臓を素手で貫かれ、一瞬で氷漬けにされた後で砕かれた。

 

「さあ、次は誰だろうな?」

 

 うめき声を上げることしかできない教師たち。

 同僚を殺された憎しみ、生徒を守らねばと言う心。理由は揃っていたが、しかしそれは身体を奮い立たせる力にはならない。

 凍り付き、氷点下にまで達した体温はとっくに限界を迎えていた。

 ――想いを力に変えて現実を凌駕できるのは特別で、そして”異常”な英雄(オールマイト)だけだ。

 

「死ぬのはテメエだァ! 『ハウザ―インパクト』ォ!」

 

 生徒の方も守られるだけではない。最も血気に逸るもの、爆豪がいきなり必殺技を叩き込む。

 ……牽制では威力が低すぎる。ならば、必殺技をもってするしか方法がない。呆れるほどの実力差を理解してなお、爆豪は死ねよと叫ぶ。

 

「うるさいな、花火ならよそでやれ」

 

 氷河姫が爆破の一撃を凍らせてしまう。これが厳然とした実力差。

 そもそもにして爆豪の必殺技は、氷河姫の牽制より威力が下だ。これも、氷河姫にとっては全方位に撒き散らすことのできる範囲技の一つに過ぎない。

 何発でも打てるし、なんなら常時発動もできる。それだと教師共がくたばってつまらないから、やらないだけだ。

 

「誰も殺させねえ! 俺が守る!」

 

「ゴミクズと油断してると足下すくわれるぞ。塵でも3分の魂くらいは持ってんだよ」

 

 切島、そして轟が後に続いた。厳然とした実力差を理解しながら挑むことは愚かだ。もう少し現実を見れるヒーローの卵たちは今、一般生徒達を救助している。

 やることはたくさんあるのだ。それこそ、乾布摩擦でもして体温を上げなければ危うい生徒など1クラスに一人や二人は転がっている。特に脂肪の薄い女子辺りはかなり危ない。救助演習に使う毛布を配るだけでも、後の後遺症がかなり違ってくるのだ。

 

 とはいえ、このプラネテスをどうにかしないことには順番に殺されていくだけなのは間違いがなく――つまり、力がなければどうしようもない。

 教師たちに迫ることのできる力を二人は持っている。だが、先で見たように教師レベルの力など、ここではゴミのようなものでしかなかった。それを理解しつつもなお、二人は接近して必殺の一撃を叩き込もうと走った。

 

「わめくな、塵ども。吠えるなよ、雑魚が粋がったところでかわいくもなんともないのだから」

 

 腕を振った。

 

「だから、無為に死ね。何も成すこともできず、そこで氷像となるがいい」

 

 ただそれだけで凍り付く。接近戦を挑ませてすらもらえない。個性の出力が違いすぎれば、雄英の中での序列など何も関係がない。

 平等にハエのように叩き潰されるのみ。

 

「は! 口ほどにもねえな! だが、俺は違ェぞ。テメエを潰すのはこの俺だ!」

 

 爆豪は必殺で駄目ならと、隙を狙う。

 常に爆破を続ければ氷結させられることもないとの目論見で、超至近距離から必殺技を放つため、空を飛び疾走する。

 

「――黙れ、ガキが。現実を見ろよ」

 

 その爆発ごと凍ってしまう。必殺技が通じなかったのだから、通常技など無いに等しい。逃げる以外にできることはなかったのだが、それを認められるような安い自尊心を持っていなかった。

 

「さて、一人づつ殺してやろう。ハエを一つづつ叩いても虚しいだけだが、しかしその分世界がきれいになるのは事実だからな」

 

 サディスティックな笑みを仮面の下に浮かべる氷河姫。どうやら雑魚をいたぶることが何よりも楽しくて仕方ないらしい。

 弱い奴を相手に、我が最強だと偉ぶる――本当の最強に挑む気概などないくせに。

 

「……まだだ」

 

 氷結から立ち上がった者が一人。

 

「なるほど、氷の力を持っているがゆえに耐性があったか。だが、そんな幸運で粋がるなよ。一つづつ狩ってやろうと手加減したからに他ならん」

 

 それは轟だった。

 状況は絶望的だ。誰もが諦めろと言うだろう。無駄な苦しみを伸ばして何になると。勝利の可能性など、わずかたりともあり得ないのだから。

 

「――確かにな。俺なんかじゃお前は倒せねえかもな。だが、それがくたばってる理由になるかよ……!」

 

 身体を震わせて、個性も殆ど発揮できないような状況で――それでも立つ。無駄? 勝てない? ちゃんちゃらおかしい、知ったことか。

 倒れ伏し、そのまま止めを刺されるなんてカッコ悪いんだよ、と意地を張る。死ぬなら前のめり、そうだろうが。

 

「ハハハ、お前は身の程と言うやつが良くわかっているな。……父親と違って」

 

 そして、氷河姫はそんな彼の姿を嘲笑うのだ。態々苦しい真似をする阿呆。苦しいのが偉いことだと勘違いして茨の道を嬉々として進む救い難い愚か者。見ているだけで笑えて来る、と。

 

「……何だと?」

「お前の父親は滑稽だよ、痛々しいにもほどがある。なぜあんな馬鹿馬鹿しい真似ができるんだ? No1ヒーローになるなどと言っているのは、あの男くらいの者だろう。オールマイトが復活した今、どんな顔をしているものやら。あの男が昇り詰めるチャンスなど、No1の引退くらいしかなかったのにな」

 

 そんな馬鹿の最先端がエンデヴァーだ。努力することが尊い? 社会、もしくは会社に身を捧げることがカッコいい? 自己満足に他ならん。

 誰かのために頑張ったとして、周囲はそんなお前を自分勝手としか見ないのだと。

 エンデヴァーとて、オールマイトを超えられると言う度し難い妄想で妻子を犠牲にして働き続ける自分勝手なワーカホリックでしかない。誰もが、彼のことを自分のことしか考えないヒーロー失格と言う。

 

「……黙れ」

 

 だが、エンデヴァーのことを嫌っているはずの轟が、その言葉を許せない。かばうと言うことではない、確かにオールマイトを超えられると思うのは馬鹿馬鹿しいだろう。それで自分たち家族を犠牲にしたのだろう。

 だが、No1になることは自らも夢見たことだから。父を許せはしなくとも、全てを賭けたエンデヴァーを嗤うことだけは許容できない。

 

「どうした? お前は父が嫌いなのだろう。なら、一緒に嗤ってやればいい。オールマイトが居る以上、貴様がNo1になれる日は絶対に来ない。奴を超えようとすることそのものが無意味な努力だ――とな」

「俺はエンデヴァーを憎んでいる。あいつを父と思ったことはない。……だが、奴の信念は本物だ! 馬鹿にするな! 奴は本気で――家族を生贄にして、オールマイトを超えようとしていた。教えてやるよ、オールマイトが復活した時の奴の顔。安心して、俺の見たこともない笑みを浮かべていたんだよ」

 

「――はあ? 馬鹿じゃないのか。それとも現実を理解できる頭も持っていないのか。あの程度の器でオールマイトに迫れるものかよ。無駄な努力、実の息子に恨まれてまで実も結ばん無駄な真似を。教えてやるよ、本当に救われない奴と言うのは……エンデヴァーのように自らの経験すら糧にできぬ愚者を言うのだ」

「その口を閉じろ。エンデヴァーのことを知った口で叩くなァ!」

 

 轟が蹴りを放つ。

 だが、激昂を力に変えられるものなどごくわずかだ。怒りで狂った足下は用意に軌道を予測できる。そして、震える轟の足は速くもない。

 

「……は。そんな腰の入っていない蹴りで」

 

 しかし、氷河姫はその足を掴む。じわじわと凍り付いていく。いたぶって殺す気だ。一瞬で心臓まで凍らせることもできるはずなのに。

 

「っぐ! こンのォォォォ!」

 

 轟は全力で氷結の力を放つ。掴まれているとはいえ、条件は五分。触れている以上、冷気の力で攻撃できる。

 

「弱弱しい抵抗だな。貴様の身体、震えているぞ。多少の冷気の耐性くらいはあるようだが、自ら発する冷気に耐えられなくなった時が個性の限界の時だ。そうだろう? もう限界が近いんじゃないか」

 

 もっとも、個性出力で言えば轟のそれは氷河姫の100分の1にも及ばないのだけれど。

 

「まだ行けるんだよ。テメエをぶち殺すときまで、弱めたりなんかしねえ」

 

 そう言う轟の唇は真っ青になっている。もう限界を迎えていることは明らかだ。弱弱しい力で、精一杯に抵抗しても……氷河姫の腕に霜一つ降りることはない。

 

「弱めない? それは面白い冗談だ。敗北宣言のつもりかな。この程度の冷気で私が凍るとでも?」

「――」

 

 視界がぶれる。意識が朦朧とする。なぜだか身体が熱く感じる。……身体のセンサーがおかしくなってきているのだ。本格的に死の足音が聞こえてきた。

 

 

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