緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第48話 プラネテス大戦の終戦

 

 デッドエンドが哄笑を上げる。

 オーバードライブが奮起する。

 そして、オールマイトが悲しみに瞳を曇らせる。

 

 一撃必殺を持つ三人の争いはまだ続いていた。まず間違いなく短期決戦向けの性能で、短期決戦をしているはずなのに――互いの技量が高すぎて、触れることもできやしない。

 デッドエンドの『衝撃操作』は触れたら身体の中身が弾ける。生きていた麗日は手加減されただけ、当たれば確実な死が待っている。

 しかしオーバードライブの『物質結晶化』とて不死殺しの必殺、衝撃を返したところで全身を結晶化して砕かれる相打ちだ。

 そして、一人オールマイトだけは小賢しい一撃必殺の能力など持っていない。それでも一撃も喰らいたくないのは当然だ。論理も法則も殴り壊すこの男を相手に、衝撃操作があるから無傷で居られるなど油断できるものか。

 

「――飯田に轟か! よくやってくれたぜ!」

 

 そして、真っ先に二体のプラネテスが堕ちたことに気付いたのはオーバードライブ。信じていたからこそ、その大金星により燃える。

 たとえ相打ちだろうが殺すと意気を上げた。そもそも倒した後のことは考えない、ギガースらしい特攻思想は恐怖など置き去りにした。拳は、より鋭く、力強く敵手を抉ろうと迫る。

 

「まったく危険なことをして! だが、後がなくなったなデッドエンド」

 

 そして一方、先生方の犠牲に胸を痛め、生徒たちの大暴走に心を痛めるオールマイトは少しでも早くこの戦いを終わらせるために気炎を吐く。

 師と弟子で思うことは正反対だ。だが、気持ちが同じでなくとも連携はなお深く。繋がり合うように敵を追い詰める。

 

「知ったことか! あいつらがくたばろうと関係ないね。おたくらもそんな小さなことに囚われてんなよ。もっと遊ぼうぜ! こんな楽しい戦いは初めてだ!」

 

 だが、悪童は知ったことかと言わんばかりに笑顔を見せる。英雄との戦いが楽しくてしょうがないらしい。

 鍛え上げられた武に、最強の個性――無敵の能力を持っていても、そいつはただのガキだ。与えられた力をひけらかすだけの底の浅い小物。

 絶対に死なないという覚悟も。絶対に殺すという殺意も。どちらも持ち合わせない行き止まり(デッドエンド)

 

「お前はこれだけ言っても、己が享楽に身を任せるだけかよ! ならば死ぬがいいさ! 何も得られぬまま死んで行け……たった一人ぼっちの悪としてなあ!」

 

 オーバードライブは相変わらず必殺狙いだ。強力な力を持つガキなんぞ殺す以外にない。教え導いてもらえると思うなど、甘ったれにもほどがある。

 刹那に命を賭けると言うならいいだろう。その命、相討ちになろうが殺し尽くすのみ。

 

「さあ、刑務所にぶちこんでお説教をしてやろう」

 

 逆にオールマイトは生かして捕える気だ。衝撃操作持ちの身動きをどう封じるかなど余人には想像もつかないが、オールマイトならやってしまえるのだろう。

 

「はっはァ! いいねえ、本気で相手にしてくれてんのが分かるぜ」

 

 だが、デッドエンドは更なる笑みを浮かべるだけだ。楽しそうに気を研ぎ澄ませ、必殺を交錯する。

 いつ誰が死んでもおかしくないレベルの戦いだ。だが、互いの力が高度すぎて、未だに誰の攻撃もかすりすらしていなかった。

 

「なんだ、殺塵鬼と氷河姫の奴は死んじまったか。言うこと聞かねえ上に役に立たねえ奴らだな」

 

 そして、唐突に現れる死柄木。ワープゲートで現れて、オーバードライブの隙を突く。

 

「邪魔すんなア!」

 

 だが、その一撃をほかならぬデッドエンドが妨害する。

 

「……仲間割れか!?」

「いいや、師匠。こいつらは……!」

 

 とはいえ、何が来るかわからない。師弟は一度引いた。オーバードライブが残した空気弾の土産は顔色一つ変えずに対処された。

 デッドエンドの方は当然だが、死柄木については強くなっている。先の空気弾を対処できるだけの実力はなかったはず。

 

「オーバードライブ……! 先生を殺した敵」

 

 彼はオールフォーワンを殺した出久を睨みつける。

 

「は! 死柄木弔か。久しぶりだな、モール以来だ! ……いいや、お前の本名は志村転弧だっけか。なあ、次会うときは何とか言ってたよな、転弧?」

「そんな名前のガキは死んだよ、下らない奴だった。個性を暴走させて家族を殺し、全ての記憶を忘却した心の弱い奴だった。……今の俺は死柄木弔。死を装いとし、無数の骸という名の木を並べ、あの人への弔いとする”先生の弟子”だ」

 

「――君は、助かりたいと思っていないのか……?」

 

 すがるようなオールマイトの声。そいつは恩師の孫だった。志村――関わらないくれと言われたから近づかなかったその名前。

 不幸になったというからには慙愧の念に絶えない。志村転弧を助けるためならば、この身を犠牲とすることもためらわないほど想っているのに。

 ……助かろうとしない人間は助けられない。

 

「志村転弧は死んだと言ったはず。俺はこの下らない社会をぶっ壊す。救いなど要らない、世界を砕くまで俺は止まらない。それを止めるというのなら、殺して見せろよオールマイト。ヒーローの誓いを破ってな」

「……ッ!」

 

 まだ踏ん切りの付かないオールマイトは歯ぎしりする。

 

「なら、見せてみろや。自慢の力とやらを」

 

 だが、オーバードライブはくいくいと指を振って挑発する。師匠の恩師ならば、己にとっても大切な人であることは間違いない。

 ……だからどうした? 悪の道へと堕ちるなら、愛する両親であろうと殺すのみ。迷いなどありはしない。全ては、見知らぬ誰かのために。涙を明日に変えるのだ。

 

「だが駄目だ。今はその時じゃない。悪かったな、次に会うときには殺すってのは嘘だった」

 

 ワープゲートで姿を消した。

 拍子抜けするほどあっさりとした退場だった。追撃はもちろん、追いかけることもできない。やはり、黒霧は厄介に過ぎた。

 

「……チ。いいとこで邪魔が入っちまった。興覚めだ、もう一回会いにくるぜオールマイトにオーバードライブ。次こそ、決着をつけよう」

 

 デッドエンドも同じように姿を消した。

 

 

 

 オールマイトが天を仰ぐ。もうここに敵は居ない。

 けれど。

 

「――何はともあれ、終わったか。……皆、済まない。私の力が足りなかったばかりに」

 

 地面を殴りつける。自らの力が足りなかったばかりにと嘆いて。

 そして、天が割れた。氷河姫の置き土産、氷の結界だ。戦いの終着を示すように、優しい光が舞い落ちる。

 

「おおおおおお!」

 

 さらに天に向かって拳を放つ。氷は粉々に砕かれた。誰かが瓦礫で怪我をすることはない。

 だが、その目には滝のような涙が溢れている。守れなかった、と嘆く涙がオールマイトの瞳から滂沱のごとく落ちる。

 

「まあ、問題ないさ。すぐに救助が始まる。氷の結界が張られてからずっと応急処置を続けている奴らだっているんだ。心配はないさ」

 

 オーバードライブはあっけらかんとしたものだ。そこは他人への思いやりの”やり方の違い”といったものだろう。

 これまでオールマイトの隣に立てる者はいなかった。だが、オーバードライブは改造人間達の首魁、リーダーとして仲間と協力してやってきた。

 ずっと一人だった彼と違い、誰かに託すと言うことができるのだ。

 

 

 

 そして、二人はまっすぐ校長室へ向かう。

 

「……やあ、二人とも。敵は撃退できたようだね?」

 

 鮮やかだった毛並みが黒々と血に染まっている根津校長が居た。

 大人より子供が、そして子供よりネズミの方が寒さに弱いのは当然だろう。寒さへの耐性は脂肪の量で決まる。いくら毛並みを持っていたところで、拳程度のサイズでは氷点下に耐えることなどできやしない。

 だから、こんな手遅れの姿になってしまった。身体のいたるところが壊死している。持ち込んでいた薬物を過剰投与したが、それでも耐えられなかった。

 

「根津……校長? 校長ォ――――!」

 

 オールマイトが土下座するように跪く。その痛々しい姿に涙が止まらない。本当に守るべきは誰よりもこの人だった。

 だって、こんなに弱弱しい。氷河姫の攻撃の余波でこれほどまで死にかけている。

 

「はは、少し声を抑えてくれないかな? 今の僕には骨にまで響いてしまうんだ」

 

 おおげさなジェスチャーをしようとするが、右腕をわずかに持ち上げることしかできず諦めたように降ろした。

 いつものHAHAHAという笑い声を出す元気すらない。

 

「校長……! 申し訳ない、私がもう少しちゃんとしていたら」」

 

 オールマイトは子供のように涙を流す。自分の弱さが憎くてたまらない。あのような敵など一蹴できれば、校長がそんな哀れな姿を晒すことなどなかった。

 まあ、どんな攻撃であろうと地に足がついている限り無効化できる上に触っただけで必殺できる能力者など瞬殺できたものではないのだが……

 

「そんなことないさ。君にはいつも助けられてばかりだよ、オールマイト。そんなに卑下するものじゃあ、ない。それに、そろそろ人を頼ることを覚えたらどうだい? 僕の唯一の心残りはそれなんだよ」

「……そんな! そんなこと言わないでください! 私を置いて逝ってしまうなんて。心残りがあるというのなら、私にもう少し時間をください。私はまだまだ教師としては卵、あなたの教えが必要です。あなたに死んでほしくない……!」

 

「我儘を言うものじゃない。僕はもう限界だ。身体を強化するためにクスリを使ったんだけど、身体の至る所で毛細血管が破裂してしまった。それでも指の感覚がなくなってしまってね。なのに今、毛皮を脱ぎたいくらい熱いのさ」

 

 凍傷によって感覚が狂っている。

 指先の感覚がなくなるのも、寒すぎて逆に熱く感じるのも酷い凍傷の症状だ。凍死する者がよく全裸で死んでいるのは、そういうことだ。

 

「そして、まだ悪いことがある。もう字も読めないんだよ。改造によって得られたハイスペックという個性のバランスが崩れてしまった。頭に靄がかかったようだ。もう、坂を転げ落ちるだけなんだよ」

「嫌だ……! 死なないでくれ、校長。お願いだ……」

 

「――校長、後のことは?」

 

 だが、オーバードライブにとって戦友が死ぬなど日常茶飯事に過ぎない。ギガースとはそういう組織だ。

 だから、そういう時の作法は心得ている。慣れるものではないけれど、場数は踏んでいる

 

「そこは大丈夫。もうPCに遺言は打ち込んであるのさ。この後のことも書いてあるよ。だから、もういいんだ。いつかこうなることは分かっていた」

 

 ただでさえ短命なネズミが、無理な改造手術すら受けた。長生きを望むのは都合がよすぎるというものだろう。

 

「そうか。その気持ち、分かるぜ。俺も改造人間だ」

「はは、僕を人間だと言ってくれたのは君が初めてだ。君とオールマイトが居れば平和を築けると信じている。だから、穏やかに逝かせてくれ」

 

「校長ォ!」

「オールマイトもそんなに泣かないでくれよ、逝くに逝けないじゃないか。……見送られるときは、笑顔がいい。なあ……ほら、笑ってくれよ。人を安心させるためにどうすればいいか、君は分かってるはずなんだから……」

 

「ああ……私が、来た」

 

 オールマイトは無理やり笑みを見せる。それは鼻水に塗れた汚い笑顔だったが……

 

「ありがとう。……僕は先に逝かせてもらうよ。思えば……悪い人生じゃなかった……な……」

 

 根津校長はゆっくりと目を閉じた。

 

 これでもはや雄英にも指揮者がいなくなった。確かにオールマイトは象徴だが、政治屋でもなければ指導者でもない。

 ただの一人で平和を築いた悪の轢殺者である。

 組織をまとめあげたオールフォーワンとは違うのだ。悪の指導者であった彼に相当する者がいるとすれば、善側のそれは根津校長と警察に他ならない。

 両輪の片側を失い、雄英がここまで破壊されてはもはや反撃どころではなかった。復興を行わなくてはならない。

 

 一刻も早い組織の再編が必要だ。それはオールマイトにできることではない。

 このままでは、ヒーローのそれぞれが個々に戦うしかない。今ここで敵連合の拠点が判明したとしても近い者から順に突撃していくしかないこの状況。

 そう。この状況は図らずも、敵連合には時間ができたということになる。

 

 

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