緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第5話 USJ(1)

 

 そして、続々と授業が行われ、その事件に遭遇するところまで時間が進む。

 そこは校舎から離れた場所。雄英が所有する幾多の訓練用施設の一つでの授業だ。

 

「以上! ご清聴ありがとうございました」

 

 USJにて、スペースヒーロー『13号』が授業の説明を締めくくる。授業の説明が終わり、これから存分に施設を使った演習を行うはず。だったのだが……

 

「――」

 

 黒い影が迫る。それはヴィランの魔の手。ヒーローを志す子供に、悪意が迫った。

 即座に反応したのはイレイザーヘッド。

 

「一塊になって動くな!」

 

 叫び、生徒を守るように前に出る。

 

「13号‼ 生徒を守れ」

 

 出てきたのは大量のヴィラン達。黒い靄の中から現れる。

 彼はそれらがただのチンピラと看破するが、状況が悪い。それだけなら自分と13号で乗り切れる、だが……最初の一手が全てと思うほど生易しい戦場を駆けてはいない。

 

「13号にイレイザーヘッドですか。先日いただいたカリキュラムでは、オールマイトがここに居るはずなのですが」

 

 黒い靄そのものが韜晦の言葉を利く。

 そいつは物理無効が基本の、ヘドロヴィランと同じく大抵の個性に有利をとれる厄介な相手だ。そして、彼と違って油断も隙もないのだから大敵に違いない。

 

「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのに……オールマイト……平和の象徴……いないなんて……」

 

 最奥の位置にいる男は異様な雰囲気を纏い、何本もの手を文字通りに身に着ける異装の男だった。見るものの背筋を凍らせる狂気が発散される。

 その悼ましい気配に生徒たちが気圧される。

 

「なんだアリャ。もう始まってんの?」と、呑気な声も聞こえるがすでに今は非常事態。油断があれば、誰かが代償を払うことになるだろう。

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

 その本気を感じ取ったのか、イレイザーヘッドは武器をかざし生徒は怯える。

 先生として、そしてヒーローとして命を懸けねばならないと覚悟した。ゆえに、指示を出して後のことを13号に頼む。

 

 だが、彼が思う以上の”馬鹿”の存在が全てを狂わせる。

 

「……なあ、そんなんじゃアンタ……とてもじゃねえが無駄だぞ?」

 

 油断の代償、払ったのはヴィランの方だった。

 手を身に着けた男の腹に出久の手が突き刺さっている。

 

 そう、ヒーローの卵という立場を得た限界突破(オーバードライブ)はもはや誰にも止められない。

 道を切り開くのがオールマイト(平和の象徴)なら、定められた道をあらゆる障害を轢殺して進むのがオーバードライブだ。

 ゆえに手遅れ、もう暴走は止まらない。定められたレールを爆走する。

 

「そうやって長々としゃべるのはいいが、アンタ俺たちを舐めてるだろ? その証拠に俺が居なくても確認もしなかったよな? それとも、ヴィランだと数も数えられないのか? 教えてやろうか、19の次は20なんだぜ」

 

 出久がしたのは全ての視線を避けて、首魁へ攻撃を加えた。ただそれだけだ。

 もっとも、それは不可能に近い難事だが……ここで”使える”のは首魁本人と黒霧のみ。そして、彼らはイレイザーヘッドと13号を警戒しているとなれば、0.1%にも満たないが可能性はできる。

 可能性があるならば、やってやれないことはない。

 

「……死柄木!? 卵風情がやってくれたな。……貴様から殺してやろう! 身の程知らずめ」

「やめとけよ。何かされたら弾みで引き抜いちまうかもしれないぜ?」

 

 出久は呵呵と大笑する。

 今は手が封の代わりだが、引き抜けば栓を抜いたコーラのように大量の血が噴出する。黒霧は動けない。

 

「人質のつもりか? お前、本当にヒーローかよ」

 

 死柄木が忌々し気に睨みつける。

 

「そうだぜ? だから、全員捕まえた後で治してやるよ」

 

「……貴様! 言うに事欠いて!」

「やめろ、黒霧! コイツは本気だ。動けば、本気で殺す目だよ」

 

 まあ、まずもってヒーローのやることではない。

 爆豪でさえ人質を傷つけることなどやらなかった。

 

 だが、その非道は効果的だ。

 首魁を人質にされれば、チンピラの寄せ集めになすすべなどないのだから。つまり、この場は出久が一人で制圧してしまった。

 そして、好機を見逃さない合理的な男が一人。突入し、チンピラを粉砕していく。

 

「……イレイザーヘッドか! 奴らでは足止めにしかならん! これは、どうすれば!?」

 

「慌てんなよ。潰せ脳無」

 

 横に控えた異形が高速で出久を殴り飛ばす。

 

「……強い」

 

 自ら跳んだ、にもかかわらず防御した腕にはヒビが入っている。

 すさまじく強い。

 そう、これはオールマイトに匹敵するほどに。

 

「だが、それなら戦った覚えはあるぞ」

 

 ゆえにワンフォーオール100%を開陳する。

 出久は原作とはまったく異なる思想のもとに訓練を経験している。原作のそれをブートキャンプとするなら、出久のそれは言わばリハビリ。

 全ては個性を身体になじませるために。それでも、現在の完成度では使うたびに腕が折れるはずだった。

 

「……来い。いいや、否。――こちらから行くぞ!」

 

 理不尽の体現こそが主人公の証ならば。

 壁は何度でも超えて見せよう。なぜなら、隣には頼りになる相棒(イレイザーヘッド)が。そして、信頼できるヒーロー13号が控えている。

 後ろには守るべきクラスメイトがいるのだ。

 ゆえに。

 

「勝つのは俺だ」

 

 覚醒する。この場で100%を完成させた。

 個性因子はすでに受け継いだ。ならば意志の力でもって覚醒し、身体を改革するのみ。

 身体と言う器が悲鳴を上げ、内側から崩壊しかけて激痛という危険信号を放つがそこはそれ。

 ……根性で我慢すればいい。

 

「――ヒヒ。あいつ、俺のハラワタ取って行きやがった。これから俺はどうやってウンコすればいいんだ? あいつ、許せねえ。脳無、やっちまえ! そのガキ引き裂いてバラまいちまえ!」

 

 血を吐きながら目を血走らせて首魁が叫ぶ。

 まるで子供だ。だが、大量に出血しながら人を呪うその姿は、なるほどヴィランにふさわしい。

 

「……し、死柄木。早く治療を」

「ああ、んなもんどうだっていいんだよ。アイツがくたばる姿が見れりゃそれでいい。お前もさっさと役目を果たせよ」

 

「御意」

 

 黒霧が消えた。

 そして、死柄木は一人嗤う。

 

「さあ、どうする小さいヒーロー君! そいつは対平和の象徴改人『脳無』。オールマイト並みの力! そしてショック吸収! そいつのダメージを与えたいのなら肉をゆっくり抉り取るのが効果的だが。……さて、どうするかな!? 無様な死に様を見せてくれよ」

 

 そして、出久は。

 

「決まってる。この拳で道を切り開くだけだ。……おおおおお!」

 

 止まらない。

 できることはそれだけだと、ワンフォーオールのパワーを拳に込めて叩きつける。

 

「」

 

 ラッシュラッシュラッシュ。一秒間に何十発と互いに打ち込むデッドヒート。

 衝撃吸収が奇跡的にかみ合うことで自爆ダメージはない。だが……

 

「っが! まだ、まだァァァァァァァァァァ!」

 

 だが、ここではラッシュのダメージこそが深刻だ。

 脳無の一撃一撃が出久の骨を折り砕いていく。オールマイト並みのパワーは伊達ではない。一瞬で病院送りのダメージが。1秒ごとに積み重なる。

 

「緑谷、ダメだ! 俺と代われ! そいつは俺が相手をする!」

 

 イレイザーヘッドが叫ぶ。

 生徒を戦わせるとか以前に、とっくにダメージは危険域だ。倒れないほうがおかしいのだ。

 拷問に対する訓練を受けた軍人でもないのに。ヒーローでも倒れるダメージだ、それは。

 けれど、イレイザーヘッドは多数のヴィランを前に、そちらを先に相手にするしかない。言葉とは裏腹にスイッチなどできやしない。

 

「いいや、相澤先生はそっちのヴィランを抑えてくれ! 逃がせば、皆の方に向かってしまう!」

 

 歯ぎしりし、目の前の敵達に集中する。

 この状況、入れ替わりたいからといって容易にさせてくれない。しかも、イレイザーヘッドの能力が脳無には効かないのだ。

 

「誰かのために。顔も知らない誰かのために。……誰かの明日を守るため」

 

 それでも出久は倒れない。

 そう、精神性はとっくに完成している。あとは肉体だ。オールマイトと同じ力でも、脆弱な肉体では発揮できるパワーに差がある。

 いかに意志力で個性因子を覚醒させたと言えど、彼には届かない。

 

「勝つのは俺だ」

 

 静かな宣言。

 込められた太陽のごとき熱量に、意思なき人形は動きを止める。

 心がなくなろうとも、壊れかけた本能が危険を察知した。

 

「永遠なるは人の意思。だからこそ」

 

 覚醒する。

 心が肉体を変容させる。莫大なまでの熱量が個性因子すら掌握し、その肉体を進化に導く。

 もとより死を乗り越えた先に、進化を遂げるのが個性因子ならば。

 

「DETROIT SMASH」

 

 ワンフォーオール150%、ダメージを受けた肉体には致命的なまでの反動が来ようがもはや構わぬと撃ち放った。

 

「――なん……だと?」

 

 その一撃は天井を打ち砕くに終わる。黒霧のワープゲートが攻撃をそらしてしまったのだ。

 

「こいつは危険だ、死柄木。早くとどめを! 間に合わなくなる!」

 

 覚醒は空振りし、一転最大の危機に陥った。

 

 

 




 主人公系ラスボスは窮地に陥ると気合いで強くなるから手におえない。
 ソシャゲで言うと、「このキャラは攻撃を受けたときHP10%で耐える。この効果が発動したとき全ての能力値を1.5倍する。 ※なお、この効果は何度でも発動するものとする。」みたいなインチキがある。

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