緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第49話 敵連合の躍進

 

 少し、時間を戻そう。プラネテスの雄英襲撃前、敵連合がどうしていたかというと……金欠に陥って、半ヴィラン集団から略奪を続けていた。

 オールフォーワン亡き今、彼らはただの弱小勢力(チンピラ)だ。死柄木こそハイエンド脳無と同等の力を持っているが、それだけではどうしようもないことがある。

 オールマイトが激怒してやってくるためヒーロー殺しすらできない有様だから、同じヴィランを狙って金品を巻き上げる。

 

 まあ、生きるくらいならばどうにでもなる。が――しかし、このヒーロー社会を崩壊させるためにはどうにも手がない。

 オールマイトが復活した。一人で個性社会を築いた化け物、そして汚れ仕事も厭わないフルメタルギガースなんてものさえ産まれては。(ヴィラン)がこの世の春を体験する時代は遠い。

 ちょっと騒いで終わりの一発屋として終わる以外にないのだ、現状では。ほら、こうして過ごしている不法侵入したボロ屋が現状を示している。

 

「こんな生活、いつまで続けるんだ?」

 

 永遠に筋トレしているスピナーが言う。この状況に忸怩たるものを抱いているのは彼も同じ。ヒーロー殺しと同じように理想に準じたかったのが、今ではこうして弱い者いじめに励む有様だ。

 世直しなど、程遠い。

 

「終わるまでだよ」

 

 死柄木は宙を見てぼけっとしている。今更修行なんてするような性格はしていない。強くなるためならどんなリスクだって受けるが、それ(努力)だけはヒーローらしくてどうにも受け入れられない。

 まあ、努力に頭がイカれたスピナーのことは仲間だから好きにさせておく。薬で頭をぶっ壊して夜も筋トレしていて煩いが、まあそこも我慢する。

 

「なんだ、全員お揃いかよ。律儀に仲間集め勤しんでんのは俺だけか」

 

 などと言いながら荼毘が帰ってきた。手傷を負うほどボケてはないが、しかし成果はないようだ。

 そんなわけで、敵連合はグダりきっていた。

 

「黒霧が回収されて、もう一か月くらいか。修理にしても遅すぎる」

 

 組んだ手に顎を乗せる。

 神野でオーバードライブに致命傷を負わされたのだ。人間なら確実に死んでいたが、脳無はもとは死体。回復させるのに1か月は速いのか遅いのか。

 黒霧を危険視していたオーバードライブはいつでも始末できるチャンスを伺っていた。逃げる瞬間なら、間違った治療がどうだの、仲間割れがどうだの好きに死因を捏造できる。

 実は死んでしまったのか。……それとも、他に何かやっているのか。少なくとも、彼はドクターの元に赴く前に力を手に入れることを約束していた。

 

「お守りの黒霧さんがいなくなって寂しいねえ弔くん。ねえドクターってどんな人なんですか?」

「先生の主治医だよ。用心深い人で、アジトのパソコンでしかコンタクトをとれなかった。脳無の開発と管理もあの人がやってた」

 

「いくら用心深いっつったってよ――アピールしてくれてもいいのにな。仕え先の愛弟子が絶賛放浪中なんだぜ!? しかも、俺だって脳無っつったっていいんだ。8回の改造を重ねた作品なんだぜ、メンテくらいしてくれよな」

 

 寂しいの否定しなかった。弔くんは寂しいのです。なんて言われている。まあ、一か月で何も成果がなくとも、連帯感は生まれたのかもしれない。

 であるならば、これは彼らが真の仲間となるために必要なことだったのかもしれない。

 

「――それで、どうするつもりだ!?」

 

 無限腕立て伏せをやっていたスピナーが立ち上がり、死柄木の胸ぐらをつかむ。

 

「俺はステインに触発されてここまで来た。お前の思想が彼と異なっていることは承知している。……だが、この有様で社会を変えることなどできるのか!?」

 

「だから、黒霧を待つしか――」

 

 ゴゴゴ、と音が聞こえる。地面が揺れる。……根城にしていたボロ屋が崩壊する。全員、即座に屋外に退避する。

 次の瞬間、山のような大男が現れる。

 

「探した――やっと見つけた。おまえがオールフォーワンを継ぐ者か」

 

 凄まじいまでの存在感を放っている。ただでかいだけではない、相応以上の力を兼ね備えていることが分かる。こんなもの、ヒーローがどれだけ集まったところで敵にはならないレベルの力だ。

 

「これが、力か……! 黒霧!」

 

 ニタリと笑みを浮かべる。叩きのめして配下にしろということだろう。ならばやってやろうと、身体をばねのように縮こまらせ、己が身体を射出する。……その一瞬前。

 

「俺はオールフォーワンに全てを捧げる。さァ、後継……その価値お前にあるのか見せてくれ」

「は? ふざけんなよ、テメエこそ俺の役に立つかどうかを見せてみやがれ」

 

 戦闘が始まる。

 大男、ギガントマキアが地を砕く。ただの膂力でそれを実現する。砕けた地面が散弾銃になって敵連合を襲う。

 

「……チ」

 

 死柄木が舌打ちする。散弾と化した地面を、腕を伸ばして全て塵に変える。伸びる腕と崩壊の合わせ技、だがそれは……かばわないといけないほど弱いメンバーが居るということであり。

 

「主よ、なぜだァァアアアア。彼は……弱すぎる!」

 

 嘆き、涙する敵が死柄木の目の前にまで来ていた。弱いメンバーを抱えるのは、それこそ弱点に他ならないのだ。

 そいつらを守るために隙ができる。殴られた。

 

「困ってるようじゃな。死柄木よ」

 

 ギガントマキアが持っていたラジオから声が届く。

 

「ドクター」

「お友達も揃っとるようじゃな、元気かね?」

 

「ああ、ただ……一秒後にはミンチかもな」

 

 そして、またギガントマキアが動く。圧倒的に過ぎるパワーはただ動くだけでも驚異的だ。

 まともに受けては、本当にミンチになってしまう。特にトガやトゥワイスあたりが危ない。脳無化の改造を受けた死柄木とは違う。

 

 だが、まあ――

 

「「「俺がこの身を賭して奴を食い止める。だから、皆――俺の屍を越えて生きてくれェ」」」

 

 サッドマンパレード。無数のトゥワイスがギガントマキアにしがみついた。

 多勢に無勢のこの状況であるはずが、まったくもって安心できない。100人以上のトゥワイスが蚊でも散らすように壊される。

 

「お、悪いね」

 

「ありがとうございます。この恩は忘れません、1分くらいは」

 

 戦闘力の弱いメンバーは次々に退避していく。

 

「いいか、テメエら。テメエらは分身だ! だから死んでもオリジナルには問題ねえ。安心し特攻しろ!」

 

 などと言いながらオリジナルのトゥワイスも、荼毘に首筋を掴まれ、猫のように持っていかれる。

 

「受け入れたいのに、だめだオールフォーワン。俺にはこいつ受け入れられない」

 

 ギガントマキアはまだ嘆く。その、こちらを脅威とも見ていない態度に死柄木はブチ切れる。

 

「なんだってんだよ……!」

「そいつはギガントマキア、かつてボディガードとしてオールフォーワンを支えた男じゃ。彼が最も信頼する人間の一人。尋常ならざる耐久力を持ち、複数個性に改造なしで適応しておる。敗北を予期し、隠した。自身がどうなろうとも夢を追う意思を終わらせぬためじゃ」

 

「そんな優しープレゼントには見えねえんだが気のせいか」

 

 荼毘が炎を放つ。だが、まるで効いた様子はない。幾人ものヴィランを葬ってきたその炎がまるでそよ風だ。

 

「良い目じゃ荼毘よ、その通り! ギガントマキアは忠誠心が強すぎるあまり絶望しておる! かつての主と死柄木の落差に」

「気に入ってもらえるよう頑張ろうってか」

 

「それは無理じゃ、どれ――」

「もういい、ドクター。そいつは先生が信頼する先生の駒だ。……なら、解体して素材にしてもいいんだろう? アレは俺の仲間じゃない」

 

 ギガントマキアの背後の地面から手が伸びる。

 地面を掘り進み、背後から全てを崩壊させる手がギガントマキアに到達する。

 

「子供の土遊びか?」

 

 そいつが反応する。隙など突けていなかった。崩壊を利用して音もなく掘り進んだとしても、気配は隠せない。

 背後を取るなんて、戦場では基本中の基本。しかも、多対一なのだから警戒しない理由がない。策以前の、当然の警戒だ。

 

「嬉しかったか? 相手の策を予想し、潰す――これほど楽しいことはないよなあ」

 

 だが、死柄木……彼の求める強さはずる賢さでもなく、ましてや隙を伺ってちまちまと相手を倒すことでもなく。

 

「……っなに!?」

 

 全てを暴虐の顎に放り込み粉砕する、唯一無二の『崩壊』。今は策こそ弄したが、本来は圧倒的なステータスで叩き潰すのが持ち味だ。

 ゆえに正面突破。後ろをとった腕を囮に、もう片方の手で真正面から叩き潰す。

 

「じゃあな、ギガントマキア。首から下はちゃんと役立ててやるから安心して死ね」

 

 顔を掴む。そのまま個性を発動させながら地面にたたきつけた。

 

「――オオオオオオオオ!」

 

 咆哮。まぎれもなく苦しんでいる……が――

 

「き……さ……まァ!」

 

 自らの顔面を剥がし、地面に叩きつける。これこそが個性『崩壊』の弱点。雑魚ならばともかく、自ら皮膚を削ぐ覚悟さえあれば、それは一撃必殺足りえない。

 まだ対応できる範疇の個性で、最強には程遠い。

 

「これは……マズいんじゃないのか、死柄木」

 

 かろうじて戦闘パーティに加わってスピナーが言う。さすがに1か月も経てば三日坊主と馬鹿にすることはできない。

 増強系と見間違うかのような力強さ、もう彼は雑魚ではない。ここで、論外と外に追いやられない程度には力をつけていた。

 

「……ハ。なら、心臓を塵にしてやるよ。カオナシじゃなくて、穴空き脳無だ」

「あのデカブツ、顔面剥がされて怒っているな。でかいの来るぞ」

 

「上等だ。叩き返してや――」

 

 そのとき、カチッと言う音が響く。そいつが首から下げているラジオだ。

 

「……マキア」

 

 激昂したギガントマキアがその力を解き放とうとした瞬間、その録音音声が響いた。彼は動きを止め、ラジオを身をすりよせる。

 猫のような姿だが、彼のような巨大で恐ろし気な体躯でそれをやられても……正直、ヒくだけである。

 

「これで落ち着いたじゃろう?」

「なんだよ、コイツもいい素材になりそうじゃねえか。邪魔すんなよ」

 

「仮にも師の仲間を、そう簡単に死体にするもんじゃない。ふむ……少々待っとれ。よいせ……」

 

 皆の口から黒い泥が溢れる。それは、神野の時と同じ瞬間移動だ。黒霧とは違うワープ能力。

 そして、視界が暗転する。次の瞬間、目の前にあったのは無数の脳無。しかも、雑魚の兵隊ではない。

 本物の、強力な異能を秘めた異形たち。

 

 そして、離れたところに一人の男が眠っている。脳無とは趣が違うが、しかし氷河姫や殺塵鬼といったプラネテスともどこか違う。

 ――ネームプレートにはデッドエンド(行き止まり)、とだけ書かれていた。

 

「さてと、少し話そうか」

「……ドクター、頼みがあって探してた。金と脳無が欲しい」

 

「まるで小遣いを強請る孫じゃな、ほっほっほ! 髪が伸びたな、死柄木よ、お父さんたちは元気にしておるかね」

「ああ」

 

 親しげに会話している死柄木とドクターの傍ら、メンバーの一人が逆光になっていて見えないドクターの顔を覗こうとする。

 

「来るな!」

 

 ギュン、と凄まじい勢いで椅子が後退した。

 

「ほっほ。すまんな、不用意に近づくな。いいな? 近寄るときはいつ何時もワシからじゃ。破ればすぐに元居た場所に帰しあいつにミンチにしてもらう」

 

 話が進まねえ、と荼毘がぼやく。

 

「所在地を知られたくないので転送にて招かせてもらった。死柄木以外は初めましてか? どこかで会っているかもな」

 

「オールフォーワンの側近、氏子達磨じゃ。今、適当に付けた名じゃ」

 

「わしの命も、この子らも。すべては偉大なるオールフォーワンに捧げたもの。おまえは今までそのおこぼれに預かっているたに過ぎない。嫌っとるわけじゃない。ワシの為じゃよ。全てを捧げるに値するかどうか見極めたいのじゃ」

 

「――何も為していない。二十歳やそこらの社会の塵が。ワシに何を見せてくれるんじゃ? 死柄木弔」

 

 ここが正念場。答えを間違えれば全てが無に帰す。

 だからといって、自らの思いと異なる言葉を言いつくろってもすぐにばれる。幼少からの知り合いだ、それだけの付き合いはある。

 

「――俺は、誰も助けてくれなかった。記憶がないのは先生も知ってるだろうが、それだけはずっと鉛みたいに心の中に残ってる。多分、失った記憶から来るものなんだろう」

 

 だから、心に浮かんだ言葉をそのまま口にする。

 支離滅裂かもしれないが、人間の心とはそういうものだろう? この時ばかりは虚飾なんてかなぐり捨てて、本当の言葉を口にする。

 

「そんな俺を、先生は助けてくれた。……なあ、先生。ヒーロー社会の崩壊? 裏の支配者に成り上がる? そんなことじゃこの鉛は消えやしない。だから、全部壊してやる。あんたに、世にも美しい地平線を見せてやるよ」

 

 言い切った。

 

「まるで子供のような絵空事! 真顔で何を言うかと思ったら。良いじゃろう、力を貸そう! (ヴィラン)とは戯言を実践する者のことじゃ!」

 

 笑う。それで、吹っ掛けたのだとわかる。最初から力は貸す気だった。だが、どういう答えを聞かせてくれるか興味があっただけだ。

 

 裏で私の好きなものも壊すの? 仲間の望みは別腹さ。などという会話が仲間内でかわされたりもしたが。しかし、本番はここから。

 求めるのは慈悲ではなく、力を合わせること。主の遺言、力を貸すには十分な理由だがしかしそれは主従のそれよりは下等だ。ゆえに。

 

「なあ、憎くはないか?」

 

 今度は死柄木から悪魔の勧誘を行う。見知っているのはお互い様。ある程度なら心も読める。

 

「……む?」

「俺は憎い。先生を殺したオールマイトが、そしてオーバードライブが憎い。全てを壊しても、奴らが残っていれば何も意味がないんだ」

 

「ほっほっほ! 心配するでない、その為の(ハイエンド)は用意した! お前のための力も準備中。まずは8度の改造の結果をその身に慣らし、そして最終へと――」

「そんなもので奴らを殺せると思うのか? 先生は十全に準備した。それでも殺されたんだ、オーバードライブに」

 

「オーバードライブ……! 憎たらしい名前だ! 奴は復活し、フルメタルギガ―スなんてものを組織したらしい」

「そいつらも草の根分けて刈り尽くす。だが、奴に対抗するには十全じゃ駄目なんだ。奴らはどこまで周到に準備した作戦も、気合いと根性でぶち破ってくる化け物だ。物理法則なんか通じないんだよ」

 

「――ならば、どうするね?」

「強い力が必要だ。あんたの考える最終なんて軽くぶち抜くような」

 

「ほほほほほ! これはこれは、本当に面白いことを言うガキだ。ならば、見せてみよ。貴様が求める終点を見せてくれれば、このワシが全霊をかけてそこまで押し上げてやろう」

「決まりだ、とっとと元の場所に戻せ。俄然やる気が湧いてきた。まずはレベル30で熟練度上げで、レベル100になるための準備ってルートだな」

 

 久しく見せなかったゲーム思想。だが、フラグを積み上げ達成まで一段ずつ積み上げると言う点ではゲームも現実も等しい。

 死柄木が背を向ける。

 

「そうだ、ドクター。あんたにちょっとした頼みがあるんだが」

 

 スピナーが言う。この男は碌なことを考えていない。食事なんてものはカロリーメイトで数秒で済ます、睡眠なんて人生の無駄はクスリを使って省いた。

 なら、後は性欲だろう。林間学校襲撃での女の色香に惑わされたあの屈辱、もはやなびかぬように切り落とすのみ。

 色恋なんぞにうつつを抜かすような時間など、短い人生には余っていないから。

 

「俺は手伝わねーぞ、リーダーは勝手にやってくれ」

 

 荼毘はひらひらと手を振る。

 死柄木でさえ1か月の集団生活で丸くなったのに、この男だけは独自路線を貫いている。

 

「いいや、スピナーと荼毘だったか。お前たちには少しやってもらうことがある。氷河姫と殺塵鬼が倒された今、戦力が足らんのでな」

「いい仲間ができそうなんだよ。そっちに時間を使いたい」

 

「ならば、ワシも少し手を貸そう。お前にはぜひとも協力してもらいたいことがある」

 

 スピナーと荼毘はその場に残る。

 そして、残りのメンバーはギガントマキアとの再戦へ。避難していたメンバーもだ。最低限の実力はつけてもらわないと話にならない。

 

「よう、未来の王様がご帰還だ」

 

 ワープゲートから現れた先、すでにギガントマキアは拳を固めていた。

 

「王とは、畏怖され求められる者。強い者だ」

 

 戦闘開始。地獄の戦闘訓練が始まる。戦わなければ強くなれないのは敵もヒーローも同じこと。

 

 

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