緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第56話 世界の終わり

 

 泥花市壊滅から1週間が経とうとしていた。情報はやはり混迷としている。エンデヴァーとホークスが先走ったことにより、市民のほとんどが死んでいる”かもしれない”ことは分かったが……確定されてはいない。

 そもそも市民が救助対象かどうかさえ定かではない。しかし、脳無の反撃を受けたからには敵連合が”何か”をやっていることだけは確実だ。詳細は何一つ分からないのに、悪いことが起きていることだけは判明しているなんて、どんな最悪だ。

 政府もヒーローも、やりようがなかった。もう一度潜入を試みれば脳無による無差別破壊がもう一度起きることは確実だから、打つ手がない。そもそも、打つ手があってもメンバーを揃えられない。

 

 だが、オーバードライブは違う。バレなければ問題ないと、違法(イリーガル)に踏み込んだ改造人間だ。裏から手を回すことくらいはできる。

 よって、とある酒場に皆が呼び出されていた。メンバーは以下の7名。

 

 呼び出した張本人のオーバードライブ。

 そして1-Aの轟、飯田、切島、八百万、爆豪の5名。

 加えて相澤。

 トリを飾るのはオールマイトだ。

 

 なにやら身内で集まっただけに見えるが、仕方ない――オールマイトが平和を築いた半面、しかしオールマイト以外の実力者が育たなかった。

 かろうじて戦いについてこられるのはトップ10の上位だけだが……

 

「悪いな。残ったトップ10にも声をかけたんだが来てくれなかった」

 

 オーバードライブは牛乳を飲んでいる。どうやらオールマイトがいるから遠慮しているらしい。

 皆の前に置かれたものも、アルコールは入っていない。

 

「――どういうことだ? エンデヴァーはもちろん、他にも敵連合襲撃に乗るヒーローは居るだろう」

 

 オールマイトがいぶかしむ。

 それはおかしいのだ。エンデヴァーにホークス、その他も大人しくしろと言われて素直に待っている奴らではない。反抗作戦があるならイの一番に乗ってくるはずなのに。

 

「いいや。もう居なくなってたのさ、オールマイト。やっぱり情報を遮断されてたな」

 

 彼を失うことを恐れた政府の仕業だ。聞けば、真っ先に飛び出していきかねない。

 自分を守る最後の盾は決して手放さない。作戦に派遣などしてたまるものか。政治家としてはありきたりな発想だろう。

 そして、それは情報を与えないのが一番早い。警察以外の情報源など、根津校長しかいなかった。

 

「なんだと……?」

 

 オーバードライブは不敵な笑みを浮かべ、懐から再生機を取り出す。

 

「ここにホークスの遺言がある」

 

 起動する。

 

「……聞こえているかい? まあ、録音だから答えは帰ってこないんだけどさ」

 

 かすれた声。致命傷を受けているのが分かる。敵本拠地のただ中でなくとも、生きて帰れる望みはない。

 それでも、ホークスには希望がある。後に続く者たちが自分の死を無駄にしないと信じているからこそ、絶望はしない。

 

「なんだかんだめっちゃしゃべるのが遺言ぽいけど、ここは俺らしくぱっぱとやりますかね。……死柄木の目的は世界の破滅。敵連合は『天空要塞ダモクレス』と死柄木の個性を搭載した爆弾『フレイヤ』でもって各国の主要都市を破壊する気だ」

 

 ごぼごぼと水音が響く。折れた骨が肺に突き刺さっているのかもしれない。息も絶え絶えで、話をするのも苦しそうだ。

 それでもホークスは、後に託すために残された時間を使う。

 

「ダモクレスは脳無でできた城だ。姿を隠し、空を飛び、転移さえする。おそらく、空に飛び立ったが最後、捉えることもできないだろう。ミサイルで撃ち落とそうとかは考えない方がいい」

 

 それは究極の兵器と言っていいだろう。元が脳無だから、一時的に活動限界を迎えるにしろ隠れていれば回復する。

 補給の必要がなく、そして最大の隙である地上に降りるときが存在しない。

 核ミサイルなど何発も残っていないが、何百発あろうとダモクレスの前には意味がないだろう。

 

「あとはフレイヤか。まあ、こっちは知らん。だが、あながち冗談でもないのだろうな実験データを見た、あれをブラフと考えるほど頭はめでたくない。まあ、政治屋連中はそんなことはありえないと言うかもしれないが」

 

 フレイヤ。これは敵連合なりの『核ミサイル』なのだろう。土地に後遺症は残らないが、別に地球再生を考えるような連中でもない。

 死柄木の力を世界各所で使いまくるための”答え”に過ぎない。別に核ミサイルが100発手に入るのならそっちでも良かった。

 それは最悪に過ぎた。ただの愚連隊が、本当に世界を終焉に導けるだけの大量破壊兵器を手にしてしまう。ため息をついて。

 

「……ここは地獄だ。どうか、あなただけでも生き延びてほしかった。――エンデヴァー」

 

 カツカツと足音が聞こえて来る。無論、録音に入っている音だ。今更どうしようもないとはいえ、生徒たちは身構えてしまう。

 ――最悪を想像して。

 

「おや、お前か。運が悪いね、俺も」

 

 さが、その最悪を前にしたホークスはあっさりしたものだ。まるで友達のように気軽に敵へと声を投げかける。

 

「人生ってのはそんなもんさ。だが、頑張れば道は切り開ける。……俺はヒーロー殺しの姿を見てそう思った」

 

 一瞬、誰もが分からなかった。この声は『スピナー』、林間合宿で現れたときにはプッシーキャッツにボコボコにされ、最後にはオーバードライブに一撃で意識を刈られた奴だ。

 雑魚と言って良かっただろう。

 だが、今や大物に相応しいだけの威厳をその声だけでも感じ取れる。

 

「あれ見てそう思うって、おたく相当歪んでるよ」

「そう言ってくれるなよ。努力は素晴らしい。”それ”はただの落伍者を、世界に己が思想を主張できるようにした。ここにこうして、感化された者が居るのは変えようのない事実だ」

 

 そして、吐き出されるは滅茶苦茶な根性論だ。まあ、努力が素晴らしいとは雄英生ならば賛同できることだろうが。……これは度が過ぎていた。まるで神様のように話している。

 

「……あ、そ。悪いけど、この話って時間稼ぎなんだよね」

 

 その瞬間、死角からそれぞれ10の羽根が急所を狙う。一人だけでも道連れにするために、ホークスは殺すことをためらわない。

 ここで敵連合の一画を墜とす。死にかけの命一つと引換と考えたら安いもの。

 

「……は! 以前の俺ならば何もわからずに殺されていたな! だが、今は違う! 貴様も、たゆまぬ努力あってこその、その強さだろう!?」

 

 手甲に付いたかぎ爪で全て斬り払った。

 特別なことはしていない。ただ、耳で方向を読み、目で見て、腕を振ってかぎ爪を当てた。誰にでもできることを超高次元で行っているに過ぎない。

 それは修練によってヒーロー殺しすらも超えた格闘技術。ただの凡才が、努力する天才を超えた瞬間だった。

 

「おおおおお!」

 

 ホークスが叫ぶ。わずかに残った命。ろうそくが燃え落ちる時のように燦然と輝かせんと気迫を込める。羽根を集め、剣と化し――敵に突き立てる。

 

「俺の注意が貴様から逸れた瞬間を狙ったか! さすがの戦略。そして、死にかけと言えど死力を振り絞ったその力、すごいな!」

 

 掌で受け止めた。食い込んでいるが、それ以上は刺さらない。……殺塵鬼の遺骸から奪ったその両腕は貫けない。

 

「まいったね、コリャ」

「貴様は尊敬に値する。ゆえにここで死ね。心配するな、死体を辱めなどしない」

 

 斬った。しかし、傷跡がおかしい。……ぼろぼろと崩壊していく。

 

「これは……殺塵鬼の……?」

 

 そう、殺塵鬼の個性。ありえないスピナーの『個性』、それが指し示すことは。

 

「そうか。お前も……改造を……」

「逝くがいい、強き者よ。その遺骸を踏み越え、俺は更に強くなるのだ! ハハハハハハ――」

 

 『崩壊』の個性がホークスを塵へ還した。

 

 

 

 オーバードライブは再生を止める。

 

「こういうことだ。ホークス。そしてエンデヴァー、ベストジーニスト、エッジショット、ミルコはおそらく既に死んでいる」

 

 ガタリ、と皆が席を立つ。

 

「そんな……彼らも……? まさか」

 

 オールマイトが先に感づいた。皆、血気盛んな者たちだ。先に殴り込みをかけても不思議はないほどに。そして、実際にそうしていた。

 

「そのまさか、さ。泥花市10万の市民を脳無化されてはヒーローサイドに勝ち目はない。ゆえに、最後の希望をかけて潜入し敵首魁を狙った」

 

 ガツンと相澤が机を蹴った。面白くなさそうな顔をしている。

 

「――隠し事があるだろう? お前のことだからな」

「まあ、確かにその作戦を提案したのはうち(ギガース)だが……作戦を起こしたのも実行したのも審判者(ラダマンチュス)の方で、俺は関係ないんだがな」

 

 聞いてたら俺も行ってたし、と本人はあっけらかんとしたものだ。

 先にあげた五人とは別にフルメタルギガース4人一組の8組分も潜入作戦に赴いた。それでも、目的は達成できなかったのだけど。

 

「なるほど。やはり貴様らの差し金か。あの我の強いトップヒーローどもに協力して潜入作戦などできはしまい。黒幕が居るはずだと思った」

 

 ふん、と鼻を鳴らし――それきり、相澤はふいと顔を背ける。

 

「この情報は政府にも渡っている。ホークスは公安の関係者だからな、彼はしっかり仕事をして奴らの目的を教えてくれた」

「――その目的とは?」

 

 マッスルフォームのオールマイトが問う。意気は十分。もう政府が止めようと関係がない。オールフォーワンの残党、必ず叩き潰すと拳を鳴らした。

 

「世界の終わり。死柄木の個性は街を滅ぼすだけの威力がある。……そいつをミサイルに加工、各国の主要都市に撃ち込めば地獄絵図ができあがるには十分だ」

「前世界の妄想『古代核戦争説』を現実にしようと言うのか……!」

 

 古代核戦争説、それは古き時代を教える叙事詩における『世界を滅ぼした災厄』が核によるものだったという説。

 『マハーバーラタ』をはじめ、古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』、『リグ・ヴェーダ』の火球、熱線、衝撃波……至る所で言及されるその終焉は、核の及ぼす作用と類似しすぎている、という妄想だ。

 

「まさにそいつだな。死柄木のそれはクリーンな核だ。全世界で争いが起こり、最終的には生き残った人類には文明を維持する力すら残らないだろう」

 

 そう、最古の文明メソポタミアより前の……人類の感知しえない超古代文明のように滅び去る。

 まあ、超古代文明など証拠もない妄想に過ぎないのだが。しかし、その妄想を現実に変えようとするなら笑えない。

 

「――そううまく行くのかよ。ヒーローは邪魔するし、一人の個性だけで全世界の都市全てを破壊するなんて普通に考えて不可能だろ」

 

 爆豪が茶々を入れる。なぜか、今では彼が一番常識的だ。

 

「恐らく、奴は脳無の最終段階に行っている。個性進化がたどり着く最終、『個性特異点』――だとすりゃ、計算上は十分に可能な範囲だな」

「馬鹿げてやがんな。物理法則も何もあったもんじゃねえ」

 

 それきり爆豪は口を閉じる。

 

「こちらの勝利条件は死柄木の身柄を拘束することということになるのでしょうか?」

 

 八百万が手を上げる。

 

「……ま、それが可能ならな。生死は問わん。この事態だ、何が起ころうと後で真実は捻じ曲げられる。真実ってのは、政府に都合のいいことを言うんだよ。全ては人類生存のため。奴を倒さねば顔も知らない誰かが死ぬ……確実に」

 

「そんな、そんな大切なことを学生の私たちに……?」

 

「――」

 

 席を立ったオールマイトは扉に手をかける。

 

「座っていてくれ、オールマイト。これはアンタが一人ですべてを解決すれば済む問題じゃない」

「しかし!」

 

 彼はいつも一人で解決してきた。だが、今回だけは一人で解決できるような事態でもなく――総力が必要だ。

 この日本の全てを使って、敵連合を倒さねば未来はない。

 

「退きたいなら止めはしない。口止めもしない。一刻も早く、奴らがヒーローたちの遺体を脳無へと改造する前に決戦を行う必要がある」

 

 だが、オーバードライブは辞退する自由を与える。そもそも、戦う気のない人間など邪魔なだけだ。

 そう言うやつは仲間を道連れに死んでいく。

 

「……トップヒーロー達がやって駄目だったんだろ? ――そんなこと、俺たちにできるのかよ」

「切島。出来る出来ないの話じゃないな。……やるんだよ。少なくとも、俺は一人でもやる」

 

 オーバードライブの意志は固い。それは硬直と同義だが、しかし切島は仲間を見捨てられるような性格はしていない。

 

「お前だけ一人で行かせるなんかできねえよ。俺も行くさ。怖いけど、でも――ここで逃げたら後悔するから」

「切島さん。……私も行きます!」

 

 そして、一人が手を上げたら続くのが人間と言うもの。それに、呼ばれたのは信じられたからだ。

 ならば、その信頼に応えると言うのが仲間だろう。

 

「俺も行くぜ。力を証明するには十分な舞台だ」

 

 轟が歪んだ笑みを見せる。

 

「糞が! 置いて行きやがったら殺す!」

 

 なぜか爆豪が切れている。

 

「うちも行くよ」

 

「もちろん、僕も参加する」

 

 麗日、飯田。

 

「あなたも来るでしょう? 相澤先生。自らの望みのために」

「無論だ」

 

 意志は纏まった。ならば、後は。

 

「行くぞ。出陣だ」

 

 決戦に向かって駒を進めるのみ。

 

 

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