緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
全てのお膳立ては整った。後は最終決戦に向けて進むのみ。
すでに
すさまじい音を立てながら向かっていく。トップヒーローたちが侵入したのが昨日の夜。そして、今は朝だ。
隙を突くなど考えない。全力で敵を打倒するのだ、余計な気遣いなどしている暇はない。
「――誰かのために! 顔も知らない誰かのために!」
「涙を明日に変えるのだ!」
多くのギガース兵が拳を振り上げる。死に向かって大行進する特攻兵の集団に恐怖はない。ただオールマイトのようになるために戦場を駆ける。
チカチカと眼下で光がまたたく。
――攻撃が来る。
それは対空攻撃だ。そこらの民間の家に隠されていた対空砲が火を噴いた。1秒間に100発の銃弾がヘリを撃ち砕く。
地面から攻撃しても当たる可能性は高くないが……それでも当たることはある。
「うおっ!」
「ローターがやられた! 本機は墜落する!」
50も居れば、運の悪い者も出てくる。確率の問題だ、5機くらいは落ちた。空から堕ちて、地面と衝突する。
「まだだ!」
ごぼりと言う不吉な音。注射を受けたそいつの筋肉が膨れ上がる。増強剤による作用が、ワンフォーオールの残り火を大火へと変えるのだ。
そう、これこそが
地上数100mからのダイブ――それはただの増強系の個性では耐えられない。だが、オールマイトの力に、鍛え上げた武力があれば容易に達成できることだ。
なぜなら、改造によって得た力に慢心することはない。努力して、そこから更に鍛え上げて来たのだ。
「こちら劉牙、ヘリが堕ちるも継戦能力に陰り無し! 命令を、ボス!」
ヘリに居るオーバードライブが答える。
「ならば良し! そのまま進め! 地上から制圧し、道を切り開け!」
「「「応!」」」
ヘリには4名が乗っている。4人一組は戦場の最小単位だ。5機分、計20名がそれぞれ集結し、そのまま敵の城へ進軍しようとして。
「「「……」」」
口も利けなくなるような絶望、無数の脳無軍団が表れた。総数にして20万……ヒーローたちにその全貌が分かるわけがないにしろ、目に見えるだけで100は超える。
絶望的な戦いだろう。だが。
「――数か。だが、数さえ揃えば勝てるなどと思い上がるなよ。平和を願い、友と共に立ち向かう男の強さを知るがいい」
それこそがギガースの総意。
絶望など踏み超えた。ギガースは闇の底を見た者たちだ。戦えなくなったヒーローは、社会に切り捨てられる。それは全員が経験済みだ。うまく対応できるようなら最初からギガースになど入らない。
そう、見捨てられてなお……誰かのためにと立ち上がった者達だから。
「そうだ、友よ。数が多い、なにするものぞ。一人頭20も殺せば突破できる! そして100も殺せば城までたどり着くさ」
「ああ、お前の背中は俺が守る。だから、俺の背中は任せたぞ」
「俺たちが4人揃えば、倒せない敵などあるものか!」
4人が、一人の生物のように動く。
『『――WuLuuOOOOOOOO!』』
そのうちの10体の脳無が遠距離攻撃を放つ。マイク『ラウドヴォイス』の劣化――威力不足は数で補った。
その全方位を破壊しつつ進む超音波に、逃げ場はない。
「ならば耐えればいいだけのこと」
根性論を武器にして、ひたすら前に進む。
「そして、乱戦になればその個性、使えはしまい!」
だが、近づけば勝てるようなら最初から脳無など作らない。強力なステータスだけで接近戦でも人間を圧倒する。
鉄で身を守ろうと脳無の前には関係ない。鉄すら握り潰す握力がギガースに反撃する。
「油断するなよ、セン!」
数が数だけに対処できない分は仲間に任せる。
一人では、目の前の敵にしか対抗できないから。4人集まれば、前後左右完璧だ。
「おらあ!」
そして、センと呼ばれた男が刀で脳無を一刀両断にする。ゴムのように斬りにくい体を持っていようと、わずかな再生能力程度を持っていようと――ギガースの磨き抜かれた武とドーピングの前では斬れないものではない。
「さあ、進むぞ! 友たちよ!」
そして、進軍が続く。
電力が集中する場所――そこが最も守りが厚い。一度侵入を許した以上は隠すことは無駄と、開き直って大量の脳無を配備している。
そいつらの相手はギガースの役目だ。雑魚に体力を使うわけにはいかない9名はヘリの中で息をひそめる。
「……皆、よくやってくれた」
オールマイトが一歩を踏み出す。
「大田 勇二、尾原 正登、卓 勝昭、日生 功雄、天原 謹也……」
作戦に参加した全員の名を覚えている。否、覚えたのではない。元ヒーローだ、最初から名前も顔も知っている。
できれば、暖かい世界で生きていてほしかった。こんな、血なまぐさい戦場で果てて良い人たちではなかった。
だからこそ、胸に刻もう。
「君たちのことを忘れない。お前たちのおかげで、今――私たちはここにいる! 私は皆を背負って進む!」
マッスルフォーム。拳を振りかぶり、力を貯める。
「そして教えてやろう、
その絶大なる力を撃ち放つ。もはや手加減なし。確実に人が死ぬような威力が城を崩壊させるのに、誰一人死人は出ないという理不尽。
というか、なぜ強化もなくその力が出せる? 確実にプラネテス以上の出力だった。
「私たちが来た!」
全ての理不尽を超克して悪を倒す
前進する。
「――こっちか!」
そして、すぐさま身をひるがえしてどこかへと向かってしまった。
「……オールマイト!?」
残りの8人の中にも驚く声が上がるが。
「いやいや。そんなに慌てることはないと思うよ。たぶん、デッドエンドを見つけたんじゃないかな。あいつはうちでも制御できないし」
からかうような調子の声が四方から響く。これはマイクによる遠距離通信だ。そこかしこに埋め込まれている。
「Mr.コンプレスか! どこにいる!?」
「隠れる気はないさ。上がっておいで、俺はそこにいる」
そして、崩壊した階段を駆けのぼり――玩具箱の中に出た。異常に巨大なけん玉、1mほどのアイスクリーム模型、色とりどりのボールetcetc
それは頭のおかしくなるような光景だった。Mr.コンプレスは空中につられたリングにぶら下がっている。
「――さて、説明と行こうか」
と、離れた箇所に着地した。
「1対1だよ。正義はよってたかって悪を殴るのがお仕事かもしれないけどさ。……それではあんまりだろう。だから、うちのリーダーはこんなゲームを用意した」
パチリと指を鳴らすのと同時、後方の扉が開いた。
「今はギガースの連中が脳無と戦っているようだが、こちらのゲームに乗らない場合は脳無どもを周辺地域に進軍させる。まあ、ハイエンドがいないから倒しきれるかもしれないが……それでもどれくらいの被害が出るかな?」
くつくつと、仮面の奥で笑い声を漏らした。
「――いいぜ、1対1が好みなら俺が相手してやるよ。みんな、さっさと行きな」
やはりオーバードライブが最も好戦的だ。1対1と言いながら、敵連合全員を相手にする気かもしれない。
一人一分で倒せば支障もない。
「おっと、そうはいかない。お相手もこっちが指定させてもらう。俺の相手は――爆豪クン! 君だ」
指さした。
「ああ、死にてェなら相手してやるよォ!」
爆豪はボキボキと指を鳴らす。
顔にはハッキリと不満が書いてある。それはそうだろう、Mrコンプレスは弱い類に入る。
あのプラネテスを相手にするようなプレッシャーがない。弱いから、覚醒できない爆豪を相手にしようと――安い思惑が透けて見える。
「よし、じゃあ頼んだ」
オーバードライブはためらわず出口に向かう。少々歪な信頼関係は健在だった。
もしかしたらMrコンプレスもまたプラネテス化しているかもしれない。あの弱弱しい気配は擬態かもしれない。
だからどうした、爆豪ならば勝てると信頼している。
他の面々も、爆豪が殺気を込めて睨みつけたことにより先に行った。
「……爆豪。がんばれよ!」
切島だけは扉を出る直前に振り返って声をかけた。爆豪は舌打ちを返した。
「やれやれ、行ったか」
敵は安心したかのような息を吐く。やはり、そう。弱い奴を相手にしたかった。オーバードライブはもちろん、麗日に轟、飯田とプラネテスと対抗できる面子と戦うなんてたまらない。
「あんだ? テメエ、ずいぶんと舐め腐った態度じゃねえか」
「ハハハ! だって、そうだろう! 奴ら全員、化け物じゃないか。なんだよ、個性を変化させるって気持ち悪いな。物理法則から外れた奴らを相手になんかしたくねえんだよ、こっちは。だって人間だからさ。お薬打ってないし、変なもの埋め込んでもないのよ」
くるくると手に持ったステッキを回す。挑発するように笑って見せた。
「……ふざけた野郎だ。俺があいつらより弱いってか?」
「いや、当たり前のこと聞いてくるじゃん。君、体育祭で大言壮語吐いて結局オーバードライブには勝てなかった奴だろ? じゃあ、分かってると思うんだよねえ。ああいうのには勝てないよ。無理無理――常識って奴を考えてくれってんだよ。な?」
「な? じゃねェ。アイツが常識を蹴っ飛ばすってんなら、俺だってそんなものは焼き潰して進むまでだ。テメエの決めた常識を、俺に押し付けるんじゃねえよ!」
爆豪は個性を使用する。戦闘開始……相手を一々待つなどありえない。そして、いついかなるときも思考はクレバーだ。
(ここは奴の用意したステージだ。罠も何もかもより取り見取りと考えていいな。玩具箱みてえな部屋もカモフラージュ。できる限りぶっ壊した方がいい)
滅茶苦茶な広範囲爆撃を開始した。
「うおっ! 滅茶苦茶するなあ、君! 親に他人の物を壊しちゃいけませんって習わなかったのか!?」
「舐めんな! こちとら拳骨喰らっても直す気なんざサラサラねえ!」
「うわあ! 君だって滅茶苦茶だよ!」
コンプレスは逃げ惑う。しかし、抜け目のない彼は逃げ惑う一動作に紛れて小さなボールを飛ばす。
「は! やっぱテメエの個性は大したことがねえな! 圧縮する個性――応用力も、そして人間に使用すれば殺傷力も十分! 爆薬でも仕込めば遠距離戦だって行ける。……こんなふうに! 分かってりゃやりようがあるんだよ!」
転がってきたボールから手榴弾が出現する。しかし、攻撃を読んでいた爆豪は爆風でもろともに遠くへ吹っ飛ばすだけだ。
体力は使うが、個性訓練は重ねてきた。これでへばるほど軟ではない。
「ははは! 実は相性悪かったとか? 俺、実は頭よくねえんだ。中卒だから!」
ボールには重量がない。それはどんな重いものでも運べると言う利点だが、爆風に逆らって爆豪のところまで飛ばせない欠点でもある。
だが、手品師である以上、コンプレスの方にもやりようもある。
「――は! じゃなきゃヴィランなんざやってねえだろ」
馬鹿にするような爆豪の上に、岩石が降り注いだ。
手榴弾で意識を下に持ってきた上で、上空から攻撃する。手品師として、すさまじいとも言える計略だ。手際は流々、並みでは何が起きたかもわからず落石に頭を潰される。
だが、爆豪は更にその上を行く。
「上から降ってくるっつーのは経験があるんだ。テメエ、体育祭見てなかったな? 落ちるだけだから実は俺に当たるのが少ねえんだよ。だから、対処は一発で済む。……『APショット』」
最小限の負担で攻撃を突破した。
「……んな!?」
さすがにそこまでとは思わなかったMr.コンプレスは動揺して――
「テメエの力はそんなに便利なものじゃねえだろう。重さを無効化するなんて、流通の概念が変わるぜ。黒霧の『ワープゲート』は本当に世界を変えてしまえる。それができないのは……単にショボイんだ、少ししか運べない。さっきのだって多少逸らそうが関係がないだけの物量があれば俺を殺せてた」
「――知った口を!」
コンプレスは激昂する。それは真実。
例えば、そこそこの収入があって家庭を持っていればそんなものにはならないだろう。守るだけの価値があるものを何一つ持ってないから堕ちるのだ。無敵の人とはそういうこと。
自分だけの価値を持てるようになるだけの環境がない。
「そして、すぐに頭が血に上る。一時の感情に任せて愚かな真似をする。終わりだ『ハウザーインパクト』」
極大の爆発が手榴弾を投げ込もうとして振りかぶったコンプレスを呑み込み、全てを蹂躙した。
挑発、そして必殺技を撃つタイミングは完ぺきだった。
「おのれ。貴様だけは許さんぞ。……爆豪勝己ィ!」
焼けただれた体でスイッチを押した。部屋全体に仕掛けられた爆薬が作動する。部屋そのものが倒壊する。
――コンプレス本人も使うつもりのなかった最終手段、自爆だ。爆豪も崩壊に巻き込まれる。