緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第58話 最終決戦、切島・マグネ編

 

 そして、次に現れたのはマグネ。真っ白で何もない部屋――何も設定していない初期設定の部屋のようなそれこで、切島を指名する。

 障害物も何もない平面であるため、純粋に実力差が勝負を決めるのだが……

 

 マグネもまたプラネテス化も脳無化も行っていない。そして、切島もオーバードライブを相手に覚醒を果たしたが、しかしまだ教師レベルだ。

 そもそもオーバードライブはあの時、殺す気はなかった。プラネテスの本物の殺気と悪意を受けて覚醒した面々とは明確に異なる。

 ……マグネの方を鑑みるに、プッシキャッツとやり合ったことから教師レベルの力を備えているのは分かる。

 ――ゆえに同格。まだ人間レベルの戦いだった。

 

「……おおおおお!」

 

 指名された瞬間、切島は飛び出した。他のメンバーは先に行く。無辜の人々を人質に取られている以上、そこは仕方のないことだった。

 対するマグネは。

 

「あらあら、血気盛んね? もう少しおしゃべりを楽しむ余裕を見せたらどうかしら」

 

 切島の直線的な攻撃は全て見切られ、かわされている。

 切島は殴る・蹴るの単純な攻撃しかできず更に接触したものを破壊することもできやしない。ただ”硬い”だけの個性。

 だから、マグネにとっては窮地ではない。腕力は敵わず、一撃でKOされるほどの腕力――だが、フェイントすらない攻撃をまともに浴びるほどボケてはいない。

 

「……アンタ、強いな。だが、俺は負けねえぞ!」

 

 切島は気合いを吐く。

 自分が劣っていることなど分かりきっている。オーバードライブはもちろん、麗日に轟と飯田。彼らは地獄を見て強くなった。

 同じ人間であることを疑ってしまうような強個性に”進化”した。それに比べれば、殴る蹴るしかできない自分は、なんて”無個性”だと。

 

「強い目ね。あの化け物どもを見て、自分の身体を捨てるのでもなく――努力していつか超えようと思っている」

「――当然だ。俺はアイツらのダチなんだよ。それで、くすぶってられるかよ! 男として! 負けられねえと思った!」

 

 切島の攻撃は全ていなされる。

 だが、合間に来るマグネの攻撃。息が切れた瞬間に拳が急所を抉るが――むしろ痛そうにしているのはマグネの方だった。

 殴った拳の方が痛んでいる。

 

「男として、ね。それは見栄? 世の中には自分よりすごい奴も、偉い奴もたくさんいる。結局、友達が”そう”だったのは偶然でしかない。あなたはオールマイトの弟子ではないし――何かしらの血統を持っているわけでもない。八百万百のような権力も、轟焦凍のようなヒーローの家系もない。……何を夢を見ているの? 現実を見なさい、あなたはただ一人のヒーローの卵でしかないのだから」

 

 マグネの拳は切島の臓腑を抉らない。だが、『硬化』を解けば今も叩き込まれている急所の打撃が致命傷になる。

 さらに――これだ。言葉が心を抉ってくる。

 なるほど、『硬化』を前に攻めあぐねているマグネは弱い。氷河姫も、殺塵鬼も……こんな守りはないも同然だった。しかし、うまい。戦闘巧者とはこういうことだ。

 

「――知ったことか! 親が普通の人で、俺の個性にも特別なものがない。……それがどうした! それで諦めて愚痴でもこぼすのか? 個性が弱い、才能がない。そう嘆いていればいいのか!? そんなもの、恰好悪いだろうが!」

 

 ついに、切島の攻撃がマグネを捉えた。彼女は己の武器、巨大な磁石で受け止めたが初めて有効打が入ったことには違いない。

 マグネはビリビリとしびれる手を振るい、挑む用に問いかける。

 

「なるほどね。あなたみたいな一本筋の通った人は好きよ。誰が何を言おうか、現実がどうであろうか自らの信念を曲げない。どこまでも立ち向かう人間。告白してしまいたいくらいに」

「……俺にそっちのケはねえよ」

 

 不審なものを感じた切島は攻めあぐねる。なにか、ドラゴンの尾でも踏んづけてしまったような。

 

「そして、私はお前みたいな人間が大嫌い。いいわよね? ヴィランなんだから、矛盾していても」

 

 おもむろに胸から錠剤を取り出した。

 

「男、女……そんな差別、反吐が出る。私はずっと押さえつけられていた。私はスカートが履きたかったのに、それは駄目なことだと殴られた。ママは煙草を吸う人だったわ。だから、私はもうスカートを履けない」

 

 切島の猛攻によって袖やズボンが引き裂かれていた。切り裂かれてできた隙間から覗く足に、無数の煙草が押し付けられた痕があるのを見て取ると切島は顔を歪める。

 

「誕生日プレゼントはいつも野球のバットとか、バスケットボールだとか興味もないものだった。私が子供のころはまだ趣味としてスポーツが残ってたのよ。いつもいつも男らしくしなさい、とか世間に顔向けできないことはするなと言っていた」

「……」

 

 切島は黙るしかない。親から殴られた経験もない恵まれた人間が、何を言えるだろう。

 

「父や母はいつも生きにくそうにしていた。煙草だって、家でしか吸っていなかった。とてもとても外面ばかり気にして、世間にどう思われるか――彼らの人生はどれだけだった」

 

「けれど、悪いことは連続するものね。両親は続けざまに解雇された。今は安定してきたかもしれないけど、当時の経済は不安定だったの。リストラはよくあることだったわ。転職すればいいと思うでしょ? でも、彼らにとってそれは耐えられないことだったみたい。……二人で自殺したわ、貯金はあったのに」

 

 苦悩、それは切島にはないものだ。

 確かに悩みはあったし、苦しいことだってあった。けれど、そんな――心が歪んでしまうような理不尽なんて体験したこともなく。

 

「だから、私は規則が嫌い。倫理が憎い。ルールなんて、無くなってしまえばいいと思ってた。だから連合に居るのよ。死柄木弔、彼ならばやってくれる。誰もが仕方ないと思っていた『ルール』をぶっ壊してくれる!」

 

 錠剤を噛み砕いた。

 筋肉が肥大する、威圧感が増大する。……それは敵連合なりの”オールマイト化”。自らを強化するギガースの所業。

 

「そのために、あなたを倒す! それが私の生きる意味だと信じるから!」

 

 個性『磁力』を使用、切島を引き寄せる。人に磁力を付加するマグネの個性、自身には使えない欠点をアイテムで補う。

 相手の加速すら利用して、増大した筋力の一撃を叩き込んだ。そして彼女は人の殺し方を知っている。頭を殴れば、人は死ぬ。

 そして、そのアイテムはまがうことなく鉄である。

 

「――ッガ。……ギィ!」

 

 だが、鉄でぶん殴られた切島の頭は『硬化』により鉄以上の硬さを持っている。見た目上は石だが、それは個性による産物だ。

 何度も不可能を乗り越えて、鍛え上げている。ゆえに鉄など、逆に砕いてしまえる。

 

「まあ――そうよね! 努力も、工夫も……生まれ持った力で覆すのがヒーローと知っているもの!」

 

 それが、”オールマイト”以外の普通のヒーローと言うものだ。トップの影すら踏めない雑多なヒーローたちは、生まれ持った強個性だけで暴れるヴィランを倒している。

 

「だから、それも予想済。頑丈な身体に産んでもらったんでしょう? きちんと食べさせてもらっているのでしょう? きちんと殺すまでやってあげる」

 

 マグネは更に猛攻をかける。切島は敵のアイテムを破壊したと言えど、頭を打たれているのは間違いない。

 頭が砕かれずとも脳震盪を起こしている。

 

「私はあなたを倒し、この既成観念に縛られた世の中を破壊する!」

 

 何度も急所を打つことにより、逆にマグネの手が破壊される。鉄以上の硬度を手加減なしでぶん殴ればそうなる。

 だが、硬い相手の殺し方のレシピはすでにできている。

 

「かは――ッ!? なんだ、目が……?」

 

 視界がゆれる。地面もゆれる。立ってられないのに、敵の攻撃が倒れることを許してくれない。

 頭痛がする、吐き気がする。

 

(あれ……? なんで、俺はここにいるんだっけ……?)

 

 全てが靄の向こうに消えていく。何も分からず、ただ防衛反応に任せて個性を切らない。けれど、何もかもかどうでもよくなって……

 

(もう終わりに……何を終わりにするんだっけか……?)

 

 切島の個性が解ける。

 

 これがマグネの編み出した切島の殺し方。砕けないなら、頭に何度も衝撃を与えて揺らしてやればいい。

 後遺症は免れないし、個性が解けたら首の首でも踏み折ってやればいい。

 殴れば殴るほど自身の手は砕けていくが、そこはそれ。根性出せばよいことだろう。

 

「さようなら。あなたの一本気を貫く姿勢は嫌いじゃなかったわ。……けれど、それは所詮”社会にとって都合の良い捨て駒だ”から認められているに過ぎないのよ」

 

 喉に抜き手を入れる。息を断ってやれば、もう個性を発動することはできないだろう。

 

「いいや、まだだ」

 

 そう、”まだだ”。例え、全てを忘却したとしても――憧れた男の言葉は忘れない。オーバードライブなら、この状況でも立ち上がる。

 ならば自分も……倒れて良いはずがないだろう。

 

「――ッ!?」

 

 その抜き手に、個性もない頭突きをかました。マグネが押し殺した悲鳴を上げる。すでに手はぶっ壊れている。

 へし折れた指がひしゃげたのだ、そりゃ痛い。

 

「例えこれが馬鹿な真似でも! 損をするだけだったとしても! 俺は――男だから! 漢らしい生き方して何が悪い!?」

 

 切島が個性も使わず殴り返す。技術も何もないテレフォンパンチだ。だが、今のマグネにはよく利く。

 壊れた拳が痛んでまともに歩くことも難しいのだ。

 

「男だから? 女だから? ――生き方を強制されて苦しむ人の気持ちはあなたには分からない!」

 

 それでもマグネは逃げない。ただただ漢らしさを貫くこの男に対して、真正面から殴り返す。

 個性も何もない泥臭い殴り合い……だが、二人とも本気だ。

 

「苦しくても、やせ我慢するんだよ! それが男だ!」

「成長するために苦しめと? そんなもの、言ってる奴が苦しむ姿を見たいだけじゃない。それで成長などしない、苦しむ姿を見れなかったそいつが後で嫌がらせをするだけの話。そんな奴らが居なかったら初めから苦労する必要などなかった」

 

「斜に構えて斜めから見る俺は格好いいって? 苦しいことだってあるさ、それが男の人生だ!」

「オールマイトが痛みに苦しむ? 違うでしょう、アレらはそもそも痛いことを苦しいことなどと思っていない。化け物がいて、お前もそうなれって? 馬鹿げているにもほどがある」

 

「それでも、俺は! 諦めない!」

 

 そして、泥臭い殴り合いの果て。立っているのは切島だった。

 諦めた者が、諦めない人間に勝てるはずがない。自分を変えられずに誰かにすがって世界を変えようとした者と、誰かに憧れて自分を変えていった者の戦いは苦行を良しとする方が勝った。

 

「勝ったぜ。……俺も、行くぜ。オーバードライブ……」

 

 最終決戦の場へ向かうため、這いずっていく。

 

 





 なお、マグネの過去はねつ造しました。多分、ヴィランだから悲しい過去や虐待の一つや二つくらいは受けていると思います。
 トランスジェンダーと言うことで、おそらく色々な差別とか受けていたんでしょう。その辺はスピナーと似通っているんじゃないでしょうか。


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