緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
ワン・フォー・オール150%という暴挙を前に、出久の身体は停止した。
心臓の鼓動が止まるほどのダメージだが、未だに生きている。だが限界だ、覚醒の代償にもはや指の一本も動かせない。
「うっせえな。だが、生かしておくのも気分が悪い。踏みつぶせ脳無」
その会話。一秒にも満たないそれが致命的だった。
くしくも、黒霧の言葉通りになる。
「させんよ」
拳の一撃が脳無を殴り飛ばす。
弟子の窮地に師匠が駆けつけた。
「私が来た!」
オールマイトが宣言する。
「行こうぜ、師匠。一緒にあいつをぶっ飛ばしてやる!」
だが、そこで止まらないのがオーバードライブ。
血を吐きながらも止まりはしない。動かせないはずの身体を強引に動かした。
「まったく、相変わらず困った奴だな。だが、君の頑固さは良く知っている! やろうぜ、出久!」
「ああ!」
二人、並ぶ。
「ああ――。うざってえ。うざってえんだよ。どこまで俺をイラつかせりゃ気が済むんだよ。もういいや、脳無。どっちも殺しちまえ」
「余裕だな、俺のことを忘れてないか」
チンピラの始末を終えたイレイザーヘッドが敵首魁に踊りかかる。
脳無は出久が引き受けていた。黒霧は生徒を散らすのに集中していた。だから、これくらいはやらないと立つ瀬がない。
「忘れていないとも、貴様の相手は私がする」
銃声。ワープゲートと銃を組み合わせた戦法だ。
今更銃に遅れを取るような鍛え方をしていないイレイザーヘッドだが、ワープと合わせられると厄介だ。
だが、向こうも視線に引っかかれば止まる。黒霧の持久戦をしたい思惑もあり、泥沼の消耗戦へ突入していく。
ゆえに、師弟二人は脳無に集中できる。
「合わせろ、出久」
「ダブル――」
「「CAOLINA SMASH!」」
のけぞった。だが脳無の反撃が来る。それを危なげなくかわしつつ、師弟は敵への対抗手段を練る。
「マジで全然効いてないな!」
「だが、二人でならノックバックできる! あいつの個性はショック吸収だ」
「なら、吸収できないような攻撃をすればいい! 左腕を狙うぞ!」
「……っ応とも!」
敵は力が強く、打撃も効かない。だが、遅い。
コンビネーション攻撃は容易に届く。ならば選択肢はいくらでもある。
「いや、狙いを大声で叫ぶって馬鹿じゃねえの? 来るとこ狙えよ」
「「CAOLINA SMASH!」」
挟み込むような一撃が――左足を貫いた。
ショック吸収は、後ろにダメージを逃す作用も何割かは含まれている。両側から挟みこめばその何割かは無効化できる。
「……は? ヒーローが嘘つくんじゃねえよ、左腕じゃねえのか」
「HAHAHA、ヒーローでも暗号くらい使うさ」
オールマイトは突撃の前に自分の左足を叩いた。それが合図。
筋トレに必死だった原作とは違い、確かに師弟の絆を紡いでいるのだからそれくらいはできる。
「うぜえ。うぜえうぜえうぜえ。やっちまえ、脳無! いつまで寝てやがる、このデクの棒が!」
キレた。
「おいおい、かわいそうなこと言うもんじゃないよ。足が一本ないのに、立ち上がるなんてことできるわけないだろう?」
「……あ? 誰がそいつの個性が一つだなんて言ったよ。脳無はお前の100%にも耐えられるように設計された超高性能サンドバック人間さ」
そして、死柄木はふいとあさっての方向へと視線を逸らす。そちらを見れば、助けようとやってきた生徒たち。
「そら、お前の大事な生徒たちがやってきたぞ」
そして、脳無が動き出す。
足は再生した。再生能力はいつだって強力だ、それもパワーと両立しているとあっては止められない。
かわせば、後ろの生徒が標的となる。その勇気はむしろ無謀に他ならない。
「「っぐ!」」
二人そろって壁に。吹き飛ばされる。
だが、追撃はできない。駆けつけてきた轟が、氷壁によって道を閉ざす。そして残りの二人。爆豪がオールマイトを、切島が出久を受け止めた。
無謀を通したのだ、土壇場で固まってただ足手まといになることなどない。
「助けてくれたのはありがたいが、皆下がりなさい」
だが、オールマイトがその三人を止める。
「テメエ、オールマイトォ! デクが良くて俺がダメたあどういう了見で……!」
「オールマイト。多分、向こうのリーダーが皆を狙うと思う。戦ってもらうしかない」
出久が言う。冷徹なまでの観察眼は状況を見誤らない。
「だが……!」
生徒が戦うのは認められない……が、そうも言ってられない状況に歯ぎしりする。
「勝己、切島、轟。今からおまえたちが立ち向かうのは手負いの虎だ。決して舐めるな、体力を奪い狡猾に勝て」
出久はそれだけを言い残し、自分は脳無に突撃する。
「まったく、君はこれだから。……後でお説教だ! 行くぞ!」
オールマイトが後から追いかける。
だが、正直に言って消化試合だ。
なぜなら、種は全て割れている。そして、他の敵は仲間が相手をしている。ならば、負ける理由などどこにもない。
「出久。奴の個性は超再生――ならば、再生には限りがある! 流動して負傷を無効化する個性と違い、足を一本再生すればそれだけ体力を使う。畳みかけるぞ!」
「ああ。――行くぜ、オールマイト」
くすりと笑う。まさか、行くぜなどと言われるとは思わなかった。跳ねっ返りの弟子だが、こういうのも悪くない。
「こうか!?」
「いいや、こうだ! 柔らかいものを殴るときは拳を固め、抉り込むように‼」
「じゃあ、こうか!」
「GOOD‼ なら、次はこう打ってみようか! ついてこれるか!?」
「ついて行くさ! どこまでもォ!」
抉り、潰す。
ショック吸収でも吸収しきれない攻撃が脳無の体力を削る。もはや生物として痛みも感じない有様でも、これはゲームではない。
エネルギーの総量というものは決まっている。
「相手が強いからと自棄になるな! 穿つべきは敵の隙だ!」
「……こうか?」
「こうだ!」
加速的に連携を増していく師弟。
もはや敵の攻撃はかすりもしない。
「」
抉り、壊し、引き裂いて……しかし脳無は何度も再生する。何度も何度も何度も。そして。
がくり、と膝をついた。
「……倒した、か?」
「待て、出久! こいつは、まだ――」
爆散した。
新しい個性、死柄木が知っているのは確かに三つだけだった。つまり、これは。
「4つ目か。いよいよ黒幕の存在があからさまになってきたようだ」
「冷静だな、出久。怪我は?」
「問題ない」
「そうか。……私も、問題ない」
二人とも強がりだ。
酷い火傷を負っている。それでも、立ち上がる。
「『爆破』だけど――」
「爆豪少年とは一線を画す威力。だが、あれは己の血肉そのものを燃料と化している」
警戒する。が。
「」
筋肉を吹き飛ばしての加速は追いきれない。避けれない。
オールマイトに直撃した。
「舐めるなァ!」
出久が反撃するが、敵はそこにはいない。……速すぎる。
「」
反応すらできずに殴られた。オールマイトの隣に埋まる。
これが真の鬼札。オールマイトと同等の筋力に、この加速。もはや手が付けられない。こんなもの、ヒーローですら相手をしきれない。
ゲームとして評価するなら、エンデヴァーすらも容易に上回るこの火力。ただのステータスで測るならオールマイトですら勝てる点はない。
「――出久。……逃げろ」
だが、それでもオールマイトは戦う。
せめて、弟子の一人を守るために。ダメージが足に来ている。もはや戦える状態ではないのに。
だが、出久の方が深刻だ。
これまでに蓄積したダメージ、降り積もった無茶がある。過労死、腎不全、ショック死と死因には事欠かない有様だ。
死んでいないことが医学にケンカを売っている。
「私は、こいつを足止めする」
「」
脳無が立ち上がったままで動けないオールマイトを見つめる。
腕を振り上げ、止まる。
「……まだだ」
死んだはずの出久が立ち上がる。
「」
信じられないものを見た、とでもいうような顔えおした。脳無にはまともな思考能力など残されていないはずなのに。
「勝つのは、俺たちだ」
出久のその目は勝利以外、何も見据えていない。脳無は本能でその目に恐怖した。
「そうだ。平和の象徴が負けるわけにはいかない。……つくづく君は大切なことを思い出させてくれる子だ」
オールマイトは苦笑して拳を握りしめる。
「」
理解不可能な脅威が二つ。その恐れを前に脳無が初めて構えた。
恐怖が本能を呼び覚まし、ノーガードに耐えられなくなった。このありえない二人を前にしては、奇跡の一つや二つでは足りない。
「「ワン・フォー・オール170%」」
そう、この二人は限界を突破する。追い詰められたなら、限界をぶち破るのがヒーローであるならば。
「」
脳無は背中をまとめて爆破。身体を軽くしつつ、最高速で迎え撃つ。
本来はその衝撃に自身が耐えられないから封じられていたはずの必殺。音の壁を容易に突破して、一息で最高速に到達する。
「「PLUS ULTRA」」
過去最高すらも容易に踏み越えて、二人のヒーローは拳を放つ。最大を超える自壊すらも砕き、勝利を得た。
少し前、死柄木は。
「なんだ、なんだこれは?」
足元が崩れていくかのような喪失感を味わっていた。
目の前が真っ暗になっていく。まるでゲームオーバーの画面を見ているかのようだ。
はらわたを引き摺り出され、大量に出血したダメージが効いている。
さらには、計画まで完全に台無しだ。
本来は脳無を正面に、そして黒霧による奇襲でオールマイトを殺すはずだった。ダメ押しに自分まで居るのだ。
だが、今やどうだ?
雑魚はほぼ捕まった。
オールマイトにとどめを刺すはずの黒霧はイレイザーヘッドを足止めするのが精一杯。
そして、脳無はオールマイトともう一人によって完全に抑え込まれている。
……持久戦なら勝てるはず。というのが計画の裏の”裏”。脳無を囮にした
だが、この様ではそれも怪しい。というか、死柄木自身に出血によるタイムリミットがある。持久戦は、むしろこちらが不利に傾く。
もう目の前が暗くなってきた。
「もういいや。ゲームオーバーだ、だけどな。平和の象徴、その矜持だけは奪っていく」
助けに来た生徒三人。
来た理由などムカつく英雄志願に決まっている。ならば、それを殺して間違いだと知らしめてやろう。
「馬鹿が! 3対1で様子見なんて、するわきゃねえだろうが! くたばりやがれえ!」
爆豪が対出久戦で見せた大爆発を放つ。雑魚どもを相手に身体は温まっている。
もちろんオールマイトの方向は確認済み。クレバーな思考が敵の最も嫌がる策をはじき出す。
つまり、全力ぶっぱを連続で畳みかける。
「――しのげたとしても、体力を削られて氷に捕まるだけだ」
そして、隙ができれば即座に轟が氷で封殺する。これこそが数の暴力。
多数をもって一人を打ち砕く。必殺技を二人で交互に放てば、すでに傷つき衰えた敵など何するものか。
それ以前に、死柄木の個性『崩壊』では大爆発すら逃れ切れない。爆発は砕けない、そしてどうにかできるだけの実戦経験すらもない。
準備してきたはずが、出久に全てをぶち壊された。気分よく話していたところに腹に手を突っ込まれ、オールマイトも殺せない。
「ふざけんな」
だから、それだけは認められないと暗い炎を燃やすのだ。
覚悟が個性を進化させるのなら、敵がそれをやれないとは誰が決めたのか。
「俺は! 世界を壊す! この、腐った社会を!」
ゆえに。
「砕けろ、世界! 壊れろ社会! そのために俺のすべてを捧げてやる!」
”炎を砕いた”。
この土壇場で、非実体すらも砕くまでに異能が成長した。
「なら、手負いの獣は遠距離から鞭で打ち付けるだけだ」
轟きは全てを氷に閉ざすため動きを止め、全力の氷結を振り絞る。だが――
「その程度で止まるかア!」
血を吐きながらも、死柄木は止まらない。凍った場所を、己の皮膚ごと剥がして砕きながら迫りゆく。
その様はまるで悪鬼。喧嘩ではなく、命の取り合い。
「……俺が! 俺がやるんだよ!」
切島が決死の覚悟で前に出た。
自分はなんて情けないこと。任侠にあこがれた彼だからこそ、素直に出久と自身を比べ恥じた。
爆豪と真っ向から勝負したその姿。そしてヴィランを恐れず喉元にナイフを突きつけたその雄姿。
だからこそ、あの背中に一歩でも近づきたいと思うのだ。ここで逃げだら二度と追いすがることすらできないと思ったからこそ。
「俺は今度こそ、誰かの盾に――ッ!」
怯え、震え……されど下がらない。今度こそ。
「ああ、気持ち悪い。なら、お前が死ね」
触れる。けれど、恐ろしい崩壊は起こらない。
イレイザーヘッドが黒霧との戦いの最中、守っている。個性は無効化された。しかも、無効化されているのは器用に死柄木のみ。
「平和を。……平和を砕く!」
赤に染まる身体から、さらに自身の血により赤に染まる。
個性なしの手と硬化の腕では、傷つくのは普通の手の方だ。元々傷だらけの手が恐ろしいほどの力を込められ、されど石は砕けず自壊する。
「オールマイト。……オールマイトォ」
その目に射すくめられ、恐怖する。二人とも動けない。死すらも覚悟した、その瞬間に。
「限界だ! 撤退します、死柄木。ここで我々すら落ちるわけにはいかない!」
その敵は黒霧の手に抱かれ、ワープゲートの中へ落ちていく。満身創痍の敵に逃げられる、にも関わらず二人は心の底から助かったと安堵した。
「壊してやる! 壊してやる! 絶対だ! 全てを……この手で!」
最後まで恨み言を叫びながらも敵は去った。
そして、皆は救助を受ける。応援の到着、それをもって黒霧は作戦続行を不可能と判断した。
オールマイトの真の姿はバレかけることなく秘匿され。師弟の手によりぶっ飛ばされた脳無は警官隊の手により収容された。
主人公が盛りすぎな気がしますが、限界突破さんはこれくらいでは足りない気も。ワンサイドゲームは描いていてつまらないので、敵味方共に盛っていくスタイルで行きます。