緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第59話 最終決戦、八百万・トゥワイス編

 

 次に待ち受けていたのはトゥワイス。そこはUSJ(嘘の災害ルーム)を彷彿とさせるビル街だった。

 

「俺の相手はお前だ」

「――いいや違うね、全員相手にしてやるからかかってきやがれ!」

 

 八百万を指し示した。

 一目見ればその精神性に不安定さがあることは見て取れる。言葉で言ったからと、全員でかかれば脳無を街に放たれてしまうだろう。

 やはり、1対1が得策だ。

 

「ええ、承知しました。個性『二倍』、分倍河原 仁――相手させて頂きます」

 

 八百万の強みはその頭脳にある。そもそも『創造』の個性とて地頭の良さがなければ使いこなせない類の能力だ。

 敵連合の個性も、判明している限りは頭に叩き込んである。……そう、表と裏。警察とギガースの情報網から知り得た情報全てを。

 

「なら、個性『二倍』の恐ろしさも知っているな? 思い知れ『無限増殖、悲しき行進(サッドマンパレード)』」

 

 一人が二人に、二人が四人に、四人が八人に。瞬く間に数え切れないほどのトゥワイスが増える。

対人において、数は力だ。例えば格闘戦であれば4人を相手に1人が勝つことはほぼ不可能だろう。……オールマイトと言った例外を除いて。

 そう、八百万は例外にはなりえない。けれど――彼女の力は多数を相手にできる『個性』を有している。彼女は初めから殴り合いに付き合う気などないのだから。

 

「私の実家は権力を持っています。本来なら手に入れられないはずのものでさえ所有できる。例えば、軍でなければ所有も許されない最新式の高性能指向性火薬……こう言った兵器はヒーローでも取り扱いが許されていない」

 

 八百万は無限に増えるトゥワイスを見ても余裕を保っている。それどころか、”これ”以外の本体――オリジナルがどこか別の場所に隠れ潜んでいる可能性まで考えている。

 その全ては余裕だからだ。ただの一人で数百、数千の暴徒を相手にできると知っている。それはギガースの武力ではなく、人類が生み出した叡智の火を持っているから。

 

「ええ、私の『創造』は何でも作り出せる。グラムあたり金の10倍の値段で取引される”モノ”であっても、ノーコストで生み出せる。……このように」

 

 黒色の粒を投げる。厳つい信管など必要ない、ちょっとした衝撃でショートするちゃちい電子回路で十分だ。

 ビルが爆発する。衝撃波が走り、崩れ落ちた。たったの1gでその威力だ。これこそが『創造』をフルに活用する技。

 人を殺し続けてきた人類史が生み出した兵器の業だ。

 

「……」

 

「……」

 

 無数のトゥワイスの増殖がいったん止まる。

 まじまじと目の前の八百万を見ている。……信じられないようだ、まさかあそこまでの威力とは思ってもみなかった。平和な日本で見ることのできる爆薬じゃない。

 そして、巻き込まれたら確実に死んでしまう。

 

「――なるほど」

 

 八百万は笑みを浮かべる。

 

(オリジナルは最初の一体ですわね。小学校の成績ですら、あまり良くなかったのですもの。腹芸は無理、誰かに言われて隠れていたとしても態度に出る)

 

 ここまでの威力では、ヒーローの不殺の誓いを守ることなど到底できない。こんな爆薬、周囲の被害を考える前にヒーロー活動では使えない。

 いくら増えたとことで、オリジナルの一体が巻き込まれれば死ぬ。そして、八百万にコピーと本体の区別はつかないのだ。

 

「負けを認めなさい。あなたを拘束します。……無駄に命を散らすこともないでしょう」

 

 八百万が勝利を宣言する。後で脳無扱いにすれば法律上は人殺しにならない。ゆえに最後の手段は覚悟している。

 だが、それでも言葉で片が付けられるのならと諦めきれない。

 

「――」

 

 この状況、トゥワイスにはどうしようもない。あがく? 近づく前に全て薙ぎ払うだけだろう。ギガースは普通に殺すのだ、ここでヒーローは人殺しをしないと妄信するほど夢見がちではなかった。

 こんなはずではなかった。……林間合宿までの八百万なら数で圧倒できたはずなのだ。 大砲で10人まとめて吹き飛ばされても100人でかかればいい。

 フラッシュバンで何秒か行動不能にされたところで本体が分からない以上、分の悪い運試しに頼るしかない。

 

 覚醒したわけでもないのに、ただの権力だけで馬鹿げた強さを手に入れてしまった八百万。だが、本来の強個性とはそのようなものだろう。

 生まれ持った力、そして血統。どっちが、ではなく両方あるから上に君臨できる。

 

 当たり前の話だ。

 努力した人間と産まれの良い人間、どちらが偉いか議論は百出だが……現実では両方を兼ね備えた人間が山ほどいて、その中でしのぎを削っている。

 恵まれた人間が、凡人では真似できないほど努力をする。そして、山ほどいる中で一握りの運を持つ人間だけがたどり着ける境地。

 

「……負け?」

 

 トゥワイスがいくら馬鹿であろうと、八百万が強いことは分かる。あの威力、まとめてかかったところで消し炭になるのが関の山だ。

 勝ち筋などどこにもない。

 ……それでも。

 

「ふざけんな! いつもお前らはそうやって上から俺たちのことを叩き潰すんだ! 俺たちは虫けらじゃねえ! 俺はすごくねえが、俺の仲間は凄いってところを見せてやる!」

 

 以前のトゥワイスなら諦めていた。

 だが、今のトゥワイスは仲間が居る。あのゴミ溜めの中で一人だった時とは違うのだ。彼らのために、諦めていいわけがないだろう。

 

「そうですか。……では、まとめて叩き潰して差し上げます」

 

 八百万は火薬を創造する。……投げる。それは、ビルを破壊したのと同じ爆薬。本体に当たれば死んでしまうのに、ためらいもない。

 八百万はギガースとしてここに来ている。敵を殺すのは覚悟済で、ここ泥花市での死は『すでに脳無化されていたから罪には問われない』ことにする準備は整っていた。

 

「燃やせば関係ないだろ」

 

 コピー荼毘が仲間ごと燃やす。火薬に火気は厳禁と思うかもしれないが、最新兵器になるほど物質として安定する。

 水に浸そうが爆発するそれは、逆に言えば燃えても誘爆しない。燃やしても、使えなくなるだけだった。

 そう、”トゥワイスにはどうしようない”。けれど、仲間が力をくれる。今だって、別に化学ではない。ただ荼毘ならどうにかしてくれると思って増やしただけだった。

 

「なるほど。……けれど、それだけとお思いですか?」

 

 火薬を囮に創造したフラッシュバンを投げる。そう、燃やされて使えなくなるなら、燃やされると誘爆するものを創造すればいい。

 どこまでも合理的に、敵の手を潰していける手数が『創造』だ。

 

「正気か? 耳当てが間に合う位置じゃ――」

 

 音と光が爆発する。その中で八百万だけが一人動く。……こちらは個性の関係ない最新兵器、通信機能を仕込んだコンタクトは一定以上の光量を感知すると黒くなる。そして、耳の中に仕込んだ通信機がフラッシュバンの音を打ち消す逆異相の音波を出す。

 

「――これで終わりです。申し訳ありませんが、確実に殺します」

 

 密集した場所に向けて、爆弾を放る。

 コピーの群れは行動不能に陥った、もはや手はない。オリジナルはそこに居る。コピーとまとめて爆殺する。

 

「クソがァァァァァァァ!」

 

 叫び声は衝撃波の中に消えた。

 

「人を殺す……やらなければいけなかったと分かっていても、これは――」

 

 顔を歪める。彼女は正直者だ、ゆえに人を殺したと言うことを素直に受け止める。胸中に苦いものが広がる。勝利した爽快感など微塵もなかった。

 

「ふざけんな! 認めるか! 俺はクズかもしれねえが、トガちゃんも皆も虫けらみたいに殺されていい奴らじゃない。悪い奴でも、俺には優しくしてくれたんだ。……だから!」

 

 溶けかけたトゥワイスが突進する。すでに致命傷だ、熱波は肌を焼き尽くし、衝撃波は内臓を完全に破壊した。

 既に身体は死んでいて、終幕までの時間を気合いを引き延ばしているに過ぎない。それでも『二倍』で作った身体を突進させる。

 

「――馬鹿な! そんな身体で個性を発動できるはずが……!」

 

 八百万は一瞬だけ躊躇った。人を殺すと言う感触、まだ相手は生きていたが……アレをもう一度味わうことを嫌がった。

 その一瞬が命取り、小さなナイフが八百万の身体に刺さる。

 

「……ぐ! あ――誰か、助け……」

 

 反撃することも忘れ、どこかに向かって手を伸ばして――

 

「……」

 

 トゥワイスが崩れ落ちた。

 

「え……? 助かった?」

 

 ナイフは内臓にまでは届いていない。血は流れ出ているが、止血すれば問題ないだろう。結局、敵の最後っ屁は金に飽かせた防弾・防刃スーツの前にくじかれた。

 

「――まったく、最後まで」

 

 その続きは言えない。勝負は最初から最後まで産まれの差が決めた。トゥワイスの『二倍』も、最新式の火薬を手に入れられれば同じ使い方ができた。

 どこまでも――苦い結果だった。

 

 





 原作の八百万さんはあまり活躍していませんね。建物への被害とヴィラン殺しとタブーさえ破れば最強クラスの個性だと思うのですが……

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