緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第61話 最終決戦、麗日・スピナー

 

 そして、次に来たのはUSJと似たような場所――要するにMr.コンプレスのそれのコピペだった。

 ……時間がなくてあり合わせなのが見て取れる。それでも敵のホームグラウンドである以上、ヒーロー側に不利なのは間違いがないのだが。多少手落ち感が否めない。

 

「俺の相手はお前だ、ウラビティ」

 

 現れたのはスピナーだ。初めに現れたときの幾多のナイフを縛り付けた大剣もどきは影も形もない。

 そもそも、彼の両手自体がもう”ない”。今の彼はかぎ爪を付けた装甲の義手を付けている。もはや初期の彼などどこにもいない、ヒーロー殺しに憧れてどこまでも強さを追い求める”強欲竜”と化していた。

 ただの名もない蜥蜴ふぜいが、今や全てを奪って自らを改造する竜と成り果てた。

 

「……そう、アナタがうちの相手ね。その手――殺塵鬼のものやね? 脳無か、プラネテスか」

「さあな。まあ、ドクターに改造してもらったから脳無なのかね? まあ、俺は一度も死んでいないし、この両腕の出自も貴様が言ったとおりのものだが」

 

「でも、ここで良いの? うちのことを選んでおいて……高速移動に足場が必要なのは知っとるでしょう?」

「確かにそうだが、俺は殺塵鬼ではないんでね。奴にとってはこのビル群も邪魔なだけだが。……奇遇なことに、俺もこの足場が好都合だったんだ」

 

「へえ。敵の能力を下げるのではなく、自分の得意なフィールドを選んだんやね? ヴィランのくせに、正々堂々なんて見上げた根性ね」

「卑劣な手もヴィランたるもの使っていくべきだが――相手の不得意に惑わされ、自分の持ち味を見失う者に何かが成せるものか」

 

 妙に自信に満ち溢れ、そして堂々と戦うヴィランを前に麗日も思わず笑みを見せる。人殺しを楽しむような輩ばかりが印象に残っているせいか、こういうのは悪い気はしない。

 

「じゃあ、小手調べからやね」

 

 言った瞬間に麗日が消える。自らを無重力にしたその動きはUFOじみて、常人の目に捉えきれるものではない。

 しかも、移動する瞬間にビルの側壁を影猫の手で掴み”砕いて”いる。

 

「――来るがいい。殺塵鬼の腕を手に入れたからと言って、私の方が上と己惚れているわけではない。挑ませてもらうぞ、ウラビティ。鍛錬で得たこの力、どこまで貴様に抗しえるか試させていただく」

 

 スピナーが前方を睨みつける。その瞬間、ビルの破片が散弾銃のように降り注ぐ。しかも、それは四方八方から隙間なく降り注ぐのだ。

 それはもはや処刑に他ならない。無数の瓦礫にその身を打ちのめされて赤いペーストになるだろう。相手が人間であれば。

 

「とりあえず、殺塵鬼と同じことができるか見せてもらう」

「ならば、見せてやろう!」

 

 かぎ爪がビルの破片を叩き落す。そして、その破片は地面に落ちる前に消失する。殺塵鬼の個性は使えている。

 麗日は知らないが、身のこなしが林間合宿とは訳が違う。そもそもこんな飽和攻撃、雄英教師だって対応できないはずなのに。

 

「けれど、出力が弱いね?」

 

 それは様子見に加え、本命のための牽制。殺塵鬼にやれば、かぎ爪を振るわずともその身に何一つ届きはしない。

 本命は密かに根元を削り続けたビル一棟、地面との接続さえ切り離せば『無重力』の対象にできる。

 何十トンもある”それ”を投げつけた。

 殺塵鬼本来の威力ならともかく、スピナーの使うそれは本家に劣る。ゆえに”これ”は『崩壊』では削りきれない。

 

「素晴らしい! 強力な個性に奢らず、策に溺れることもなく――静かに作戦を練り上げ、油断せず実行する。なんと素晴らしいヒーローか! お前なら、ヴィランなど十派一絡げの雑魚なのであろうな!?」

 

 なぜかスピナーは麗日を絶賛しながら。

 迫りくるビルの当たる部分”だけ”を的確に見抜いて砕く。砕く砕く砕く……投げつけられたビルの裏から飛び出し、その先の麗日を狙う。

 

「いや、褒められても気持ち悪いんやけど。……でも、引っかかったね?」

 

 その先に居たのも策。何も考えずにそこに居残ったわけではない。影猫の手による迎撃態勢は整っている。

 本物の殺塵鬼に伍するそれが、不意を打って伸びる。

 

「そうか、なるほど! 遠距離攻撃に頼り切ることなく、通じなかったら即座に接近戦に切り替えたか。油断しないだけでなく、果断かつ柔軟――どこまでも俺を魅せてくれる。……そんなお前だからこそ、俺は勝ちたいと思うのだ!」

 

 スピナーは真正面から挑んだ。

 もっとも、それは馬鹿正直を意味しない。このビルが生えたフィールドは麗日だけでなくスピナーにも都合がいいのだから。

 ゆえに瓦礫を蹴って空中を走る三次元移動は習得済だ。でなければ、縦横無尽に伸びる影猫の手と戦うことはできない。

 

「面白い! 真正面から、真っ向勝負やね!」

「ああ! 味合わせてくれ、お前の力を!」

 

 衝突する。三次元軌道と三次元軌道がぶつかり、余波がビルを破壊していく。しかも、舞い上がった瓦礫を足場にして、さらに激しく衝突していく。

 空中戦の様相だ。しかも、互いに瓦礫を蹴りつける変則軌道をするものだから、空を飛ぶよりもよほど激しくぶつかり合う。

 

 ……スピナーは凡人だった。改造で強力な個性を得ても、使いこなせるようになれなどしない。あの殺塵鬼とは違うのだ。

 だからこそ、スピナーは誰でも使える武術を磨き上げた。もはや以前の彼ではない。今や、憧れのヒーロー殺しよりも強くなった。

 

 一方で麗日の使う『影猫の手』は、重量もなく骨もないために柔軟に伸縮する。ありていに言ってチートである。

 普通に訓練で実力を伸ばした者にとっては裏切りにも等しいだろう。そして、その上で”努力を欠かさない”。流々とひらめくその腕はビルを丸ごと解体しながらスピナーに迫る。

 

「アハハハハハハ!」

「おおおおおおお!」

 

 麗日は楽しそうに影猫の手を振るう。釣り合うだけの実力がある人間はそう居ない、そしてその実力ある人間も個性を使うだけで寿命を減らしたりする。

 逆にスピナーは必死だ。影猫の手に喰らい付くため、命を削る勢いで戦っている。

 

「楽しいね。うちとここまでやり合えるのは、トップヒーローにもそう居らんよ」

「この力、個性任せではない努力と研鑽を感じる。やはり貴様こそ俺の斃すべき素晴らしきヒーローだ。お前を倒したその時こそ、俺は努力が実ったと実感できる。そしてオールマイトに挑むのだ!」

 

 だが、ここに来てスピナーが対応し始める。 

 影猫の手は予備動作どころか音もなく迫り、縦横無尽に伸びてどこから攻撃してくるかもわからない。

 だが、それだけだ。

 手は一つ、そしてそれは消えはしない。ただ速いだけで、しかも麗日の目線を見れば攻撃の瞬間が分かる。

 勝利の方向が見えれば、あとはやるだけだ。それは正論だが、愚にもつかない妄想、現実にそんなことなどできはしない。だが、オールマイトやオーバードライブなら”やる”。ならば、自分も――とスピナーは叫ぶ。

 

「でも……負ける気がないのはうちも同じ!」

「ならば良し。勝つ気のない者に勝っても意味がない!」

 

 爪と爪がぶつかり合って痛んでいくのは麗日の方だ。操り切れないとはいえ『崩壊』の力は健在だ。

 影猫の手がわずかづつ削れてきている。とはいえ、それが一撃でもまともに当たればスピナーは文字通りにちぎれる。死を間近に感じながらも、死合の中で笑みを浮かべる。

 

「このままじゃ勝てない。……ならば、覚醒するまで」

 

 削り合いで勝てるなど麗日は奢らない。人間とは絶望的な状況の中でも牙を磨き上げるものだと、1-Bとの戦いで学んだ。

 力と速度が一段上がる。光狂いの性質、己の寿命を対価に”決して負けない”。顔も知らない誰かのために必ず勝つのだ。

 

「ハハ! 凄まじいな、やはりオールマイトの眷属はモノがちがう。命を削る修行を経て、そして身体をも削り力を得たお前の力は本物だ。……だが、この俺とてあらゆる努力を行い、払えるものは全て悪魔に売り払った! 偽物だろうだろうと、掴んだ力は真実だ! それでもなお……届かん高みまで駆け上がるとはな!?」

 

 言葉とは裏腹にスピナーは嬉しそうだ。影猫の手に振り回され、切り裂かれ――しかし急所は守る。

 自らの血に濡れてもなお、彼の目に諦めはない。諦めなければ、夢は叶うと信じている。絶対に倒せないはずの強き敵も打ち破ることができると信仰しているのだ。

 

「油断はせん。このまま倒し切る」

「……ならば、こちらも覚醒するまでのこと!」

 

 錠剤を噛み砕く。スピナーもまたギアを一段上げる。だが、こちらのそれは文字通りに命を対価にするそれ。過剰なドーピングによる一次的な身体能力の上昇。

 一歩間違えば血を吐いてそのまま死ぬだろう。

 

「そんなことをして、次に戦えなくなるよ」

「それがどうした。俺は高い壁を超えるためにあらゆる手段を使う! そして、あらゆる努力の果てに次なる強敵と戦う! 努力は素晴らしい! 努力すれば、夢は必ず叶うと信じている!」

 

 だが、スピナーは己の末路を理解してもなおやめない。

 副作用により身体がボロボロになり、四肢が腐り落ちたとしても――次なる強敵に挑むためにリハビリすればいい。

 四肢が欠けても、脳無となり補えばいいのだから。

 

「そう、凄いね。夢は叶うと思っとるんやね」

 

 目を伏せる。彼女の夢は叶わない。今更ヒーロー免許を使って両親の建設会社を手伝うなど無理があるだろう。

 夢を諦めた人間だからこそ、その言葉は効く。麗日の顔に影がよぎる。

 

「そうさ。夢は必ず叶う。叶うのだ。諦めさえしなければ、絶対に! 俺はどこまでも努力し、証明して見せる。例えクズだろうが、やればできるのだと――何も知ろうとしない人間どもに思い知らせてやる」

 

 個性の出力が上がる。影猫の手を切り裂いていく。……『崩壊』の力で破壊される。

 この瞬間、スピナーは麗日を上回った。個性の強度で言えば、スピナーは麗日の10分の1にも満たなかった。

 そもそも殺塵鬼と比べるまでもないほどに弱体化していた。まったく操れていなかったはずのそれが今や花開いた。

 自爆と等しきそれは自らの身体をもぐずぐずに溶かしつつ、余波だけでビルどころか地盤ごと崩していく。

 

「――ごめんね、その夢は叶わない」

 

 だが、麗日の目に恐怖はない。相手が強くなった。凄まじい個性で、このまま殺されてしまう。……そんなものは経験済だ。

 個性の出力で上回った? オーバードライブならそれでも殺すぞ。ならば自分もできないはずがないと思い込め。

 既に腕まで崩れ落ちた影猫の手を捨てて、逆の手でスピナーの心臓を貫いた。

 

「……まだだ!」

 

 彼は心臓を貫かれたまま、逆に麗日を抱きしめ殺そうとする。そう、スピナーの心臓は……

 

「二つあるんやね?」

 

 二個目の心臓、殺塵鬼から移植したそれを抉り出す。

 

「崩壊のオーラはそこから溢れ出とったよ? 最高率を出したことがなかったんやね? うちはオールマイトに1回だけ相手してもらっとったから限界は見とる。……きっと、うちらの違いはそれだけや」

 

 機械の心臓を握り潰した。スピナーの身体がガクリと崩れ落ちる。

 だが、麗日の身体ももはや限界だ。影猫の手を砕かれてしまった。そして、もう片方の手も心臓の発するオーラでズタズタになっていた。

 

「夢、かあ。ねえ、デク君……うちの夢って何だったかなあ?」

 

 何も書かれていない真っ白な天井を見上げ、呟いた。

 

 

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