緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第62話 最終決戦、荼毘、轟

 

 そして、既視感を覚える再現された町。3個目のUSJだった。

 

「よお」

 

 言葉とともに蒼炎が降ってきた。ビルの何棟かが焼かれて崩れ落ちる。凄まじいまでの火力――だが、今やオールマイトレベルの破壊などありふれている。

 そして、ここまで残っているのは精鋭の中でも上澄みに位置する者たち。傷を負うはずもなく飛びのいた。

 

「――」

 

 敵意をみなぎらせる一同に向かって、荼毘は飄々と言葉を繰る。

 

「俺の相手は轟焦凍さ。他は先に行っちまいな」

 

 先ほど攻撃したくせに。なかったかのような面の厚い顔をしている。とはいえ、ここで挑発に乗るようなこともなくオーバードライブ達は先に進む。

 二人で残された轟は自嘲するかのように笑みを見せる。

 

「……他人行儀な呼び名だな。なあ、兄さん?」

 

 皮肉気に言い放った。

 

「へえ、気付いてたのか?」

「父さんはアレで常識的な人間だ。顔が変わったら気付かんだろうよ」

 

「ハハ。確かに、教えてやった時は面白い顔をしていたなあ。……お前にも見せてやりたかったよ、あの顔を」

「フン。じゃあ、父さんを殺したのはお前と言うことになるのか?」

 

「その通り、先に侵入した奴らは全員殺した。エンデヴァーも、焼き尽くして崖の下に落としてやったよ」

「なるほどな。……面白い。じゃあ、兄さんを殺せば父さんを超えたと言う証になるな?」

 

「そうだなあ。……勝てれば、な!」

 

 同時に左腕を掲げる。

 

「「最初で最後の兄弟喧嘩だ!」」

 

 そして炎を放つ。蒼炎と蒼炎がぶつかり合う。だが、それは決して同じ色ではない。荼毘のそれは高温ゆえの炎色反応。……一方で焦凍のそれは現実を破壊する狂気の色。

 

「――悪いが、俺の炎はお前のとは違う」

 

 焦凍の言葉通り、その炎は現実法則など無視して荼毘の炎を壊す。そもそも炎に実体はなく、壊すなどと言う表現は当てはまらないが……-1000°の超常物理に理論は通用しない。

 この世に存在する全てを破壊する異界の炎だ。

 

「……チィ! 消しゴムか何かかよ!」

 

 成す術もなく炎に巻かれた荼毘は飲み込まれる一瞬前に地を砕いて地下に逃れた。言っては何だがこの部屋は急造だ、隙間も脆い箇所もいくらでもある。

 まあ、この場合は荼毘の機転を褒めるべきだろう。戦闘に対する勘というものがずば抜けている。

 

「で、どうするつもりだ――お前の炎じゃ俺には勝てない」

「それはどうかな? 確かに威力と言う点ではどうしようもない。こっちの炎が消されて終わりだろう。……だが、戦場と言うのはそれだけじゃない」

 

 直下、地下から荼毘の炎が噴出する。

 

「――その程度で取れるかよ」

 

 焦凍はすぐさま飛びのいて回避する。

 

「やはりな。打ち消せないんだろう? あらゆるものを破壊する個性……だが、リスクも相応だろう。使えて、2・3発。最初の一撃で俺を殺せなかったのが失敗だったな?」

「試してみるか?」

 

 図星。焦凍のこれは凄まじい力を有する代わりに代償も深い。オーバードライブの不死殺しの代償は四肢だった。では、焦凍の”現実殺し”の代償は――

 

「じゃあ、反撃してみるんだな。いつまでも避けてはいられないぜ」

 

 制限ができた焦凍と違い、荼毘の方は氷河姫の心臓をその身を宿すことで制限から解放された。どこまでも炎は広がり、全てを焼き尽くす。

 コンクリで満たされたビル街は一応の耐火性を備えていたはずだが……

 

「少し、まずいか」

 

 焦凍は回避を続ける。……だが、街そのものが炎に巻かれ始めている。大規模災害だ、多少の火炎への耐性は備えているとはいえ火災旋風には耐えられない。

 

「ハハハハハハハ! どうした!? 手も足も出ないか? そら――逃げ場が無くなっていくぞ」

 

 炎の中で荼毘が笑う。こちらは火炎への完全耐性を得ている。氷河姫の心臓が彼の身体を絶対零度近くに保つ。

 彼を焼き殺すのは不可能だ。

 

「……」

 

 焦凍は何も答えない。

 

「エンデヴァーもそうだった。あいつも俺の隙を狙っていた。とはいえ、結果はお察しだ。今の俺に炎は利かない。奴は体温が上がりすぎたのさ、火に巻かれ、そして俺の炎に焼かれた」

 

 荼毘は嬉しそうにエンデヴァーのことを嗤う。

 

「なあ、奴の人生は何だったんだろうな? 必死に努力して、オールマイトのようになれると夢を見て――だが、なれたのは死体くらいさ。何も掴むこともできず、家族はバラバラ。焦凍、お前に未来はなく……そして、他の家族の将来も閉ざされた。精神病患者が一人、犯罪者が一人、襲われ心を壊された者が一人、そして醜聞でどこにも行けない教師が一人さ」

 

 とてもとても楽しそうに、自分たち家族の末路を嘲笑っている。エンデヴァー=父によって将来を閉ざされた者たちだ。

 そんな兄に、焦凍は冷笑を向ける。

 

「なあ、兄さん。あんた、実は父さんのこと大好きだろ?」

「……」

 

 一瞬呆気にとられた。

 

「俺がエンデヴァーのことが好きだと? ふざけるなァ!」

 

 激昂にかられ、最大規模で炎を放つ。

 

「なんだ、案外もろいな。本当のことを言われたのがショックだったかい?」

 

 考えなしの必殺技など、殺す絶好の機会でしかない。焦凍は虎の子の炎を放つ。

 

「――チィッ!」

 

 だが、経験か何かか。完全に不意打ちが決まったはずなのに……反応した。切り札の一撃は避けられた。

 

「――」

「一瞬ヒヤリとしたが、これで終わりだ! あの時のエンデヴァーと同じだ焦凍! 貴様にはもう戦いを続けるだけの力はない!」

 

「ガハッ!」

 

 焦凍が血を吐く。命を削る力……2回が限界だった。現実すら破壊する力は、己すらも破壊する。

 この有様では三度目は使えない。

 

「さあ、死ぬがいい。炎の中で果てろ」

 

 個性を使えない。ああ、それは絶体絶命だろう。もはや打つ手は何もない。力を失ったヒーローはヴィランに殺されるのが定め。

 だとしたら。

 

「いいや。それは違う」

 

 焦凍が駆ける。個性を使わずヴィランを倒すのはヒーローではない。それは……悪の敵(ギガース)だ。

 

「……な、速い!?」

 

 明らかに身体能力の桁が先ほどまでとは違う。見れば、先ほどまで焦凍のいた場所には空のアンプルが一つ。

 

「俺は俺の生きた証を残す。強者を殺し、骸を踏み――勲章にする。結局、俺たち家族は自分自身のためにしか戦えないんだ」

 

 炎に焼かれて火傷を負ってもなお進む。

 

「ぐぅっ……!」

 

 接近戦、余りに速い動きに殴られ、蹴られて壁に叩きつけられる。だが、それは外見とは裏腹に無抵抗を意味しない。

 荼毘に触れれば一瞬で凍り付く。殴った拳の皮も、蹴った足の皮も凍らされ剥がされて血を流している。

 けれど、焦凍はそれがどうしたとばかりに止まらない。

 

「ふざけるなよ、プラネテスの技術に応用したドーピングなら知っている。ならば俺とて脳無の力を使うまで!」

 

 荼毘は接近戦に怯まない。炎を撒き散らしながら、全て砕けよと言わんばかりに拳を振るう。

 

「お前も殺してやるよ、焦凍ォ!」

「そうか。だが、勝つのは俺だ」

 

 荼毘の拳はそらされて、焦凍の拳は急所を抉る。心臓を叩き、目を抉り、指を手を足を破壊する。

 それは職業軍人と喧嘩屋の違い。喧嘩屋は危険に対する嗅覚に優れ、型にはまらない発想ができるが――それ以外は職業軍人に及ぶべくもない。

 そもそも素人同士が殴り合って何が得られる? 焦凍は効率的に、人を殺せる方法を叩き込まれ、そして、殺されないやり方も学んでいる。

 殴り合いをすれば、このように一方的に叩きのめす。荼毘の喧嘩殺法など、覚悟を決めた軍人の前では無意味だ。

 

 だが、焦凍とて無傷ではない。撒き散らされる炎で深い火傷を負っている。その上、荼毘の体温は絶対零度。殴れば芯にまで冷気が伝わってくる。

 ダメージは避けようがない。

 

「「おおおおおおお!」」

 

 その、泥試合のような殴り合いの果てに先に倒れたのは荼毘だった。

 

「……は。勝ったのは俺だぜ」

 

 焦凍はそう言うが、血に塗れた四肢はもはや動かせず――立ったまま歩くこともできずに空を見上げていた。

 

 

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