緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第65話 最終決戦 

 

 そして、オーバードライブは天への階段を颶風のごとく疾走する。

 

「ホーク。そしてベストジーニスト、エッジショット、ミルコ、エンデヴァー」

 

 情報を掴むために命を賭けたヒーローを悼む。彼らの犠牲があったからこそ、今……オーバードライブは間に合った。

 空中要塞ダモクレスと、『崩壊』の個性を乗せたミサイル『フレイヤ』があれば文字通りに世界を破壊することが可能なのだ。主要都市を上から20も壊せば人類の文明は取り戻しのつかないところまで後退する。……死柄木ならそうするはずだ。

 そして、彼の目的はその先だ。人としての尊厳を破壊し、野に返すこと。おそらく人類は自らの『個性』を頼りに獲物を刈る狩猟時代に逆戻りすることだろう。そこまでに犠牲になる人数は人類の5割か? 7割か? いずれにしても、この『個性社会』は崩壊する。

 

「――。――。――。――…………」

 

 散って行った無数の仲間、ギガース達を想う。

 悪を許さないために。そして、オールマイトのように”誰かを助ける”ために命をベットしてこの戦場に来た。

 この戦いが終わればドーピングの副作用によって指の一本すら動かせなくなろうとも……名前も知らない誰かを助けるだけは正しいはずだから。

 例え、それが己と自分より大切な仲間を犠牲にする道であろうとも誇りと信じ、進むからこの地獄で散っていった。

 

「爆豪、切島、八百万、飯田、麗日、轟、相澤。……そして、オールマイト」

 

 そして、共に突入した仲間たち。彼らは死んではいない、それぞれの敵を撃破した。通信はまだ辛うじて生きている。仲間の声は届いている。

 だからこそ誇ろう、勝ち抜いた仲間たちを。実のところ重要なのは死柄木を討ち取れるかであって、その他の勝敗はあまり関係がないのだが。それでも、その事実はオーバードライブの力となる。

 

「さあ……決着を付けよう。ワン・フォー・オール、そしてオール・フォー・ワン。偉大なる師から受け継ぎ、そして自らの道を見つけた者同士だ」

 

 守破離、それは倣う者の段階。師の教えを”守り”、そしてアレンジを加えることで教えを”破る”、ついには師から”離れ”て己の道を見つける。ならば、死柄木もオーバードライブも『離』の段階までたどり着いている。

 扉を蹴り砕き、中に入る。そこは因縁の地であった神野を再現した場所だ。何から何まであの時と同じだ。無論、本物の神野はもう修復が終わっているからこれはレプリカだ。

 

「――待ってたぜ、オーバードライブ」

 

 そして、崩れた場所……オールーフォーワンが破壊したそこを再現した場所であり、彼が散ったその場所で死柄木はポケットに手を突っ込んで空を見上げていた。

 態度が悪い。玉座もなく、ただの荒野にただ一人。世界を破滅させんとする”悪”。だが、死柄木の本性はチンピラに過ぎない。ただの癇癪で世界を破壊するクソガキだ。

 

「ああ。一応聞いておいてやるぜ。投降する気は?」

 

 そして、オーバードライブはヒーローなどという枠に収まらない。悪を倒すため、誰かの涙をぬぐうためなら人を殺すことも厭わない”制御する政府のない”軍人だ。

 

「ねえよ、んなもん。頷いてたらどうするつもりだったんだ?」

「もちろん目線を逸らしたときに殺すが?」

 

「ハハ、そりゃただの罠じゃねえか。せっかくの最終決戦だ、正々堂々と……」

 

 ちらりと目線を横にやった。何の意味もない行動だが、武術を修めないという選択に至った死柄木にそういった”己の隙を潰す”スキルはない。

 獣じみた動きが信条のケンカ殺法、だがそれを補って余りある感と身体能力を身に着けてはいる。緑谷とはどこまでも正反対、そちらは獣の動きなど排した合理主義の殺人技巧だ。

 

「――正々堂々と不意打ちさせてもらう」

 

 ゆえに、そこに必殺の抜き手を放つ。視界にはいない、音は殺した、殺気など飽和しているから起こりを感じ取れるはずもない。どんな個性を持っていようが、感知の外から殺されるにあたっては対処法など何もない。

 芸術的なまでに高めた殺法、それがオーバードライブの武術だった。

 

〈させるかァ!〉

 

 全方向から響く声。明らかに拡声器を通した声だ。そして、下からせりあがった壁が死柄木を守る。

 現実の上野にそんなものがあるはずがない。……そう、ここは敵の城。待ち構えた罠が牙をむく。

 

「――チィ」

 

 そして、オーバードライブは即座に転進する。そこに無数の銃火が降り注いだ。神野を再現した街――それは見せかけに過ぎなかった。ここはオールフォーワンの仇を憎む一心で生み出された”オーバードライブを殺すための”街。 

 であれば、本来存在するはずのない重火器が至る所に設置されているのも当然だろう。おびき寄せ、殺す……それ以外の機能を持たないのだから。

 

〈逃がすかァ〉

 

 重火器がオーバードライブを追う。それは人間用ではなく、大昔の対空砲だ。鋼に穴を穿つために作られたそれは速く、強い。

 ヒトを殺すためなら6mmか7mmで事が足りる。だが、それは12.7mmの弾――戦闘機さえも墜とせる。こいつらはオーバードライブのことを人間だなどと思っていない。

 

「そんな玩具で俺を殺れると思うなよ!」

 

 だが、オーバードライブは全て叩き落す。さらに置き土産に、拳圧で土台ごと薙ぎ払った。それは端的に言うなら現代の『個性社会』すらも外れた力だ。人を殺しかねない力を持っているから制御しなければならない――ならば、鋼すら砕く力は? 言うまでもなく、個性とはそれほどの力ではない。 

 本来、この個性社会ではサブマシンガンの一つでもあれば殺せるのがスタンダードなヒーローというものだ。重機関銃で殺せないとしたら、それはファンタジー(オールマイト)に値する。だが、すでに彼らはそこに踏み込んでいる。

 悪を殺す理不尽の権化が、当然のように現代兵器すらも凌駕する。誰かが対空砲を操縦していたのなら諸共に撃破されたはずだが。

 

〈……フン! やはり兵器ではダメか。まあ、オールマイトもそうだったしな。驚くことじゃないわい〉

「そういうことだ。俺の援護に徹してくれよ、ドクター……!」

 

 街の至る所にある拡声器から響く声は変わらず。そして、死柄木が突っ込んできた。

 オーバードライブの殺意が変わる。例え死のうと必ず殺す。名前も知らない誰かのために、我が身を犠牲としてもこの男を殺すと決意した。

 そう、不死すら殺すサジタリウスの力が発露する。

 

〈天昇せよ、我が守護星───鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため〉

 

〈鏃から半人半馬を蝕む告死。永劫終わらぬ多頭竜(ヒュドラ)の毒が、不死身を捨てろと囁くものの、取るに足りぬわ。片腹痛し〉

 

〈蹄を鳴らせ、弦を引け、矜持を胸に地平を駆けろ。苦悶と嘆きにこの強弓が朽ち果てるなど有りはしない。なぜならば、耳を澄ませば聞こえてくるのだ───天に轟く雷霆が〉

 

超新星(Metalnova)───『天光礼賛、限界突破の鋼魔弓』(O v e r d r i v e S a g i t t a r i u s)!〉

 

 ここに神殺しの力が開陳される。四肢を鋼と化した今ならば、一撃と引換に腕を要求されることもない。

 そして、この力は回復を許さない。

 死柄木が自己再生個性の一つも持っていないなどありえない。それは首魁こそが持つべき力のため、兵隊が持っている以上はボスも持っているのが当然だ。なの、だが……せっかく用意してもらったそれだが、オーバードライブの前では無意味と化す。

 

「そいつは知ってる。……だから、これだ」

「――ッ!?」

 

 オーバードライブの疾走が止まる。後ろに弾き飛ばされるような圧力によって強制的に止められた。……しかし、風圧ではない。頭の中にある個性でこれにもっとも近いものが。

 

「こいつはマグネの『磁石』……?」

 

 だが、オールフォーワンの力は簒奪の個性。仲間の個性を使うなど不可能なはずだ、それには仲間を殺さなければならないのだから。

 まあ、簒奪=死ではないがヴィランとしては死んだも同然だろう。

 

「ああ。お前らが倒してくれたおかげでな」

「なるほど。そういうことかよ。……奪ったな? テメエ」

 

 だが、この最終決戦――負けたのなら奪ってもいいと、そういうことだ。オリジナルが現場から離れたここに居ても、倒れた人間から奪うのであればどうにでもなる。

 わざわざ天空の城に陣取った理由がこれだ。最終決戦の前に全ての決着を終わらせておきたかった。仲間の能力を奪うために。

 

「奪うなんて言うなよ。俺は皆と一緒に戦う。それだけだ。……顔も知らない奴を皆と言うお前には分からないだろうがな」

「仲間のために戦う心なら俺も持ってるさ」

 

「顔も知らない誰かを救うためなら死んでもいい仲間だろ? 負け犬なりの安い絆ってやつを見せてやろうぜ――なあ、Mr.コンプレス」

 

 足を止めたオーバードライブに球を投げつける。それもオーバードライブは知っている。『圧縮』の個性、ならば中身は衝撃かナイフか。

 

「そうさ! 俺たちは顔も知らない誰かのために命をかける! たとえ命を散らそうと、戦友が必ず己の死を役に立たせてくれると信じるから戦えるんだ!」

 

 オーバードライブは磁石の力すら利用して低空飛行で後ろに下がる。彼の脚力ならば爆炎からも逃れられる。はずが――

 

「――素晴らしい絆だな、糞喰らえだ。俺たちは俺たちのために戦うぞ? 助けてくれる奴なんていなかったからな」

「じゃ、助けてもらえなかった分だけ誰かを助ければいい。そういうもんだろ? 誰かを憎んでも自分が苦しいだけだ」

 

 地下に仕込まれた電磁石の力が反転する。先がN極なら、今はS極。つまり、爆発に突っ込むように身体を操作される。

 マグネのそれはそこまで強力な力ではなかったが――上野の各所に仕込まれた電磁石がオーバードライブの身体を逃さない。個性を強化できないのなら、アイテムの方を強化すればいい。

 

「は。ふざけんなよ、正論は要らねえ。認められたいわけじゃない。ただ恨みを晴らしたいだけだ。……何も得られなくともかまわない」

「ふざけんな。それで何が得られると言う? 誰かの笑顔を守れりゃそれで十分だろうが。苦しい思いをしても、誰かの笑顔を見れば報われるだろうが!」

 

 オーバードライブは判断を誤らない。敵が新しいアイテムを出してきたのなら、そこはそれ。予知などできずとも、一つづつ丁寧に対処していけばいい。

 突っ込んで、弾かれて……引き寄せられたなら逆らわずにまた突っ込む。引き寄せられる勢いを加算して攻勢に出た。さらに地を砕いて目くらましを。コンプレスの個性は地を砕いた勢いで弾き飛ばした。

 破壊すれば破壊しただけ敵のアイテムが減る。この偽物の上野そのものが奴らの武器だ。

 

「――だから、報われたいとも思ってないんだって。やっぱりヒーローってのはイカれてるよ。なあ、荼毘?」

 

 死柄木は敵の姿が見えなくなった瞬間に炎を放った。出力任せだが、面制圧はオーバードライブの戦闘技術を無効化するのに適している。この戦闘技術ならば点での攻撃など簡単にいなされるから。相手にするときの対処法をよくわかっている。

 だが、それでも。どんな策を用いたとしても「やってやれないことはない」という根性論で突破する。ならば、死柄木としてはチェックメイトを打ち続けれるだけだ。100回やって100回殺せる策を、10も用意すれば殺し切れるはずだと慢心している。

 

「男なら、前に進めや馬鹿野郎! 後ろ向きな破滅思考――甘ったれてんじゃねえぞ!」

 

 覚醒。炎を殴って壊した。殺し切れる完璧なタイミングだったのにも関わらず。というか、不死殺しの力は非実体を壊すなどできないはずだったのに。

 

「おいおい、耳に痛いこと言ってくれるぜ。まさに正論だ、俺たちはそれで打ちのめされてきたんだよなあ。家も食べ物も親に貰った奴らが、俺らに家がないのは努力しなかったからだとかほざくんだ。聞き覚えがありすぎて殺意が湧いてくるぜ。……なあ、トゥワイス」

 

 『二倍』で己を増やした。めくらまし、だが――

 

「今更、偽物ごときに踏み入れられる領域じゃねえよ」

 

 オーバードライブの拳圧により無と帰する。この二人は攻防の間に無数の牽制を交わしている。遠くに仕掛けられた砲台から迫撃砲も降ってくるが、そんなものはおまけでしかない。彼らが近づけばビルが粉みじんとなり、崩れ落ちる前に塵と化す。

 そんな状況で、骨折すれば泥と化す程度の分身など一秒も持たない。力を持つだけの雑魚が何人いようが、極まった力の前では何の意味もなかった。

 

「――チ。なんだコイツ。象が二秒で死ぬ毒を散布してるのになんてことない顔してるぞ、冗談かよ。俺は『解毒』の個性を使ってるってのに」

「毒があるなら息止めるだろ。普通に考えて」

 

「いや、無酸素で活動してんのかよ。この正論の化け物が……」

「んで、チェックメイトだ!」

 

 『二倍』を作ったことにより、逆に死柄木に隙ができた。生まれ持った個性ではない、使うためにはいくらか集中が必要で……オーバードライブにとってはその隙を突くのは容易いことだ。

 

「――お前がな」

 

 『ワープゲート』。オーバードライブの突撃に合わせて断頭台を用意した。『二倍』はただの囮、自ら隙を晒し断頭台に誘いこんだ。

 

「そんなもんは殴って壊す! 小賢しい小細工でどうにかなると思うなよ! 俺には仲間がついている。背中にゃ守るべき人々の重みを背負ってんだ」

 

 殴り壊す。ワープゲート本体にも実体があるのだから、あとは吸収されない方向に拳圧を飛ばせばいいだけだ。こんなものではまだ覚醒する必要すらない。

 

「下でくたばってる奴らだろ? 階段壊しちゃ助けにも来れねえな。――俺は仲間を頼らせてもらうぜ。助けてくれよ、トガ」

 

 変身――だが、その判断は愚かだ。オーバードライブは仲間を信じている。仲間の誰に変身したとしてもかまわず心臓をぶち抜く。

 信じるからこそ、甘えは不要だ。

 ……そう、仲間ならば。

 

「――ッ!?」

 

 オーバードライブの拳が止まる。

 

 

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