緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第66話 最終決戦

 

 オーバードライブの拳が止まる。エリの顔を前にして躊躇した。

 

「ハハ。コイツのことが大切か? せっかく助けたんだもんなあ」

 

 そう、仲間でない者。守るべき者……助けた者。死柄木が化けたのはエリだった。顔も知らない誰かだったら拳を振り抜けたかもしれない。それは所詮、死柄木が化けたものでしかないから。

 ……だが、彼女だけは別だった。顔も知っている、名前も知っている彼女だけは壊せない。

 

「……ッチィ」

 

 だが、そんなものに拘泥するオーバードライブではない。そもそも本人ではないのは分かりきっているのだ。

 がら空きの腹に拳をぶち込んだ。

 

「おお、痛え痛え。だが、踏み潰された弱者は簡単に死んでハイおしまいじゃねえんだよ。それなら俺も楽だったかもしれねえが。ま、お前は甘えだと言うだろうなスピナー」

 

 吹き飛ばされ、『ヤモリ』の個性でビルの外壁に貼り付いた。変身の個性が解ける。拳を止めた分、威力が減じていた。必殺のタイミングを逃した以上、死柄木にとって回復は容易いことだった。

 

「だが、ま――限界かね? 裏社会のチンピラ一人。仲間の力を借りようが、ここまでか。なんつーか、努力も性に合わねえからな。まあ、クズにはよくやった方なんじゃねえか? だから、まあ。これからは二人三脚でやっていこうぜ、先生。本当の脳無の力を見せてやろう」

〈やるんじゃな? 死柄木!〉

 

「やろう」

 

 ワープゲートで天井に行く。何かを取り出す。……それは氏子達磨の脳髄を納めた脳格。この脳無でできた天空要塞フレイヤの制御をするためには一体化する以外になかった。

 そして、それこそが『最終』への最後のピース。死柄木一人では至れない。ゆえに、仲間の力を集め……そして二人で。必要だったのは、唯一無二の7つの『個性』にドクターの優秀な『演算能力』。彼の脳髄を取り込むことで真の終焉へと至る。

 

「これが最後の進化……個性の行きつく果て『個性特異点』。マスターピースの力を見るがいい」

 

 手を掲げる。無造作なまでに適当に『空気を押し出す個性』を放つ。だが、それは今までの彼とは違う。

 マスターピースとなったことで単純に出力が急上昇している。先ほどでもビルくらいなら壊せるほどだったのだ。”その”更に上だ。比較にすらならない、これは――

 

「――これは」

 

 さしものオーバードライブも瞠目する。まともに喰らえば命はない。すさまじいまでの威力が迫る。

 ……とはいえ、今更当たれば粉みじんになる攻撃程度に気後れなどするものか。範囲が広く、威力も高い。ただそれだけだと、ビルを砕きながら一直線に逃れた。

 

「おいおい、自分で自分の城を破壊する気かよ?」

 

 視線を向ける先にはゴーストタウンが広がっている。ダモクレスの装甲を突き破ってしまったのだ。

 

「まあ、お前を殺せるならそれでいい。ダモクレスももう一回作るさ。なんというか、頭の中が晴れ渡った気分だ。全てを理解できるってのはこんな感じか。今なら何でもできるっつーか」

「そうかい」

 

 死柄木が大規模破壊に目を向けた瞬間、オーバードライブは消えた。この戦闘技術があれば音もなく、視界にも捉えられず接近することも容易だ。

 

〈――左から来るぞい!〉

「そっちか」

 

 だが、二人分の感知をすり抜けることはできない。そもそもオーバードライブの武術は人間用。人間の性能を超越した目に耳、さらに熱を視る目やアクティブレーダーまで備えているのだ。人間と言うよりも、もはや要塞に近かった。

 

「なら、真正面から勝負だ!」

 

 そして始まるのは”天井に”足を付けた戦いだ。死柄木の触れれば塵と化す『崩壊』と、オーバードライブの触れれば砕ける『不死殺し』がせめぎ合う。

 両者ともに触れれば終わりのその個性……普通に考えれば同士討ちだが、奇跡的に噛み合うことでせめぎ合いを続けていた。

 ダモクレスは崩壊しながら結晶と化して地上に降り注いでいるが、それは死柄木の野望の終わりを意味しない。なた10万人も犠牲にすればまた作れる。

 

「おい――ふざけろよ。どうなってんだ、とうに死んでなきゃおかしいだろう」

 

 個性特異点と化した死柄木は強力だ。なんならダモクレスなどなくてもパンチ一発で大陸を沈めることも可能だ。

 だからこそ、おかしいと言っている。スペックとして見れば100分の1にも満たないオーバードライブが生きていること。例え攻撃を読もうがかわせないはずだし、なんなら余波で死に至る。100m先に居ても鋼すら砕く余波が襲ってきているのだ。死んでいないのは道理に反している。

 

「は! 俺がいつ個性に頼ったよ? 漢の武器は気合いと根性! そして、拳だと相場は決まってるんだよ!」

 

 論理とすら呼べない暴論でオーバードライブは理不尽を刊行する。すでに6回は壁を破っていた。

 覚醒を繰り返すことで辛うじて戦いと呼べる域にまでたどり着いたが、何より理不尽なのはそれで死んでいないことだろう。条理すら覆す生き汚さだ。

 

「チ――この化け物が! いい加減にしろ!」

「いいや、まだだ! まだ、まだ、まだ……! まだ終わらん。誰かの明日を守るため、涙を明日に変えるのだ!」

 

 覚醒、覚醒、覚醒――これで23回を数えた。しかし、そこで異変が起きる。歯車が狂い始める。異音が鳴る。

 ――これは、オーバードライブが第1世代だからこその不具合だ。コンセプトは壊れない槍、つまりは耐久性に優れた義肢だ。だからこそ絶対に壊れないはずだった。

 しかし、それが光の亡者に対応しきれていない。……原作(オリジナル)では、クリストファー・ヴァルゼライドという前例が居た。彼の身体も自らの力に耐えきれなかった。つまり経験だ、前例となるデータがない以上は前例をなぞる。

 世界が異なるとは言え、同じ結末を辿る。そして、オーバードライブには宿縁(ヴェンデッタ)宿敵(カグツチ)もいない。一人だから、恒星(スフィア)になることもできずここで散る。

 

「限界だな。これで分かっただろう? プラネテスは、先生の作った脳無には敵わない」

 

 プラネテスと脳無。別の着眼点から始まった人体の改造・強化技術。互いに研究し合い、応用しながらも高め合ってきた。

 違法技術の最果てとも言えるが……軍配は脳無の方に上がった。

 

「それがどうした? 武器の差で勝とうなんて、初めから思っちゃいないんだよ!」

 

 だが、オーバードライブは砕けかけた拳を握りしめる。それでも勝つ、と瞳が言っている。

 

「いいや、強い武器を持った方が勝つ。それが現実だ」

 

 全てを焼き尽くす炎がオーバードライブを撃墜した。ダモクレスの残骸が空中で完全に蒸発する。――墜落した彼は満身創痍だ。

 

「――ぐ。まだ……まだだ……ッ!?」

 

 それでも立ち上がろうとして、大地を踏みしめる足がないことに気付く。生身の右足以外が砕けていた。

 そして、右足もまた動くような状態ではない。最新鋭の違法技術を使用した義手が砕かれても生身が残っているなど理不尽だが、それが光の亡者と言うものだ。

 それでも、ダメージが深すぎて立ち上がるのに時間がかかる。

 

「どうやら仲間が後ろについてるアンタより……仲間と一緒に戦う俺の方が強かったらしいな」

 

 死柄木がチェックメイトをかける。彼は仲間の個性を優先して使っているだけで、それ以外の個性も大量に持っている。

 とはいえ実際の強さにはそれほど関係がない。初期の轟焦凍無双が単なる『出力の高さ』であったように、重要なのはそれだけだ。そして、死柄木の出力はもはや水爆すらも上回る。

 

「いいや。だが、そうだな。……仲間と一緒に戦うこと。ボスだなんだと浮かれ、何も分かってなかったのは俺だったらしい」

 

 オーバードライブは観念したかのように目を伏せる。いかに光の亡者であろうと失った手足を生やすことはできない。

 このデータを持ち帰ることができれば、あるいは更なる覚醒にも耐えうるプラネテスを作り出すことができるかもしれないが……今の彼の四肢は砕け散っている。

 

「だから、今は頼もう。皆……俺と一緒に戦ってくれ」

 

 人に頼ること、全てを自分で抱えてどこまでも突き進むのが光の宿痾。ギガースはそれを克服したかのように見えて、実態は自分のエゴを通しているだけだ。そもそも、動けなくなった仲間を手榴弾代わりにしておいて、何が一緒に戦うだ。

 だから、これが本当に人を頼ると言うこと。ただ、”どうにかしてくれ”と願うこと。命を託すと言うことではなく、信じて頼ること。

 

「「「「当然だ!」」」」

 

 そして、頼んだからには帰ってくるのが当然だ。なぜなら、絆を繋いでいる。そこには確かに育んだ信頼があるのだから。

 

「一人では何も成せない。俺は確かに悟りを得た。だから、今がある。……個性特異点突破」

 

 立ち上がる。足がないのならば、仲間の足を借りればいい。それが答えだ。一人で無理なら二人で、二人で無理なら三人で。三人で無理なら四人で。

 ――それこそが、本当の無限の力と理解したから。

 

「行くぞ、悪党。ここで貴様の命を断つ。……『ワン・フォー・オール ver.Calling(コーリング) Sphere(スフィア) bringer(ブリンガー)』!」

 

 仲間と共に戦うための個性。それが本当のワン・フォー・オールだった。一人は皆のために。……そして、皆は一人のために。その無限の循環こそが奇跡を生む。足が砕けても、仲間の足を借りて立つ。

 

「仲間の力を奪ったか? だが、落伍者の絆の深さに適うものか」

 

 オーバードライブの姿が消える。足からエンジンの煙がたなびいた。

 

「いいや。お前のとは違うさ。なぜなら、これは借りているわけでも、ましてや奪ったわけでもない。一緒に戦ってんだよ、だから――」

 

「「正義を外れた者よ、ただ安らかに砕け散れ、『レシプロブレイズ・ケラウノス』」

 

 飯田の声と唱和する。ともに戦っているのだ。オールフォーワンの個性簒奪とは違うのだ。一方的に奪うも消すもない、”協力”こそが真骨頂。

 

「は――それなら、俺たちの絆も見せてやろうぜMr.コンプレス」

 

 半径1kmほどを『圧縮』した。が――

 

「言ってるだろ? 俺たちは一緒に戦ってる。ただ個性を振り回すだけのお前とは違うんだよ」

 

 コピー能力というのは実はそんなに強くない。それで強くなれるのは、機関銃を出せば話が終わるような、低レベルのファンタジーに限るのだ。

 それから上のレベルであれば、自らの特異性の全てを把握するのは当然の話だ。効果範囲の把握、コントロールもできないなら大陸を吹き飛ばせる力もゴミクズだ。ただ照準している間に潰せばいい、もしくは人質でも置いて使わせないだけでいい。

 よって誰かの能力を借りると言うのは容易い話ではない。経験まで複製した上でなお、使用者とは違う己の身体能力に合わせるというハードルがある。いっぱいあれば強い? そんなものより銃と数の方が強いのは当然の話だ。

 ――そして、スフィアブリンガーは全ての用件を満たす、コピー能力を超えた共有能力。

 

「馬鹿な……!」

 

 凄まじい蹴りが死柄木を飛ばした。島国程度なら”蹴り飛ばせる”レベルの破壊力。現状、耐えうる物質など現実に存在しない。

 それに耐えられるのだから、マスターピースの力は伊達ではない。少なくとも、核爆弾を直撃させた程度では倒せないと言うことだ。

 

〈――馬鹿な。速すぎる! 予測が追い付かん。まずいぞ、死柄木!〉

「先生はアイツの予測に集中してくれ。他は俺がやる」

 

 死柄木が集中する。想像を超える化け物が覚醒したと理解した。もはや抗うのは自分だと刻み込み、それでも殺すと決意を新たにする。

 

「悠長だな? 例え予知できようが関係ないほどの戦力で叩きのめす――それが脳無マスターピースのコンセプトじゃなかったのかい。それじゃ何もできずに壊されちまうぜ。なあ……行くぜ、焦凍」

 

「「全て砕けろ……『冷気反転・超越物理』」」

 

 現実を侵食する-1000℃の炎が全てを砕く。そもそも物理現象には存在しえない温度の前に、耐えられる物質などありはしない。

 個性の産物であろうと関係ない。それは現実を焼く蒼い炎だ。

 

「――ッチ、腕が砕けた。だが、間に合ったぜ」

〈修復は任せろ。来るぞ、死柄木!〉

 

 ワープゲートで避難した。避け損ねた左腕もすぐに治る。不死殺しでないため、回復は可能だ。

 

「なら、貴様の反応速度すら超えるまでだ。なあ、麗日」

「うん。あなたとなら、どこまでも行ける」

 

「「喰らえ、超必殺技『ブリューナク』」」

 

 自らを無重力に、そして己を槍に見立てた槍投げだ。それは易々と音速を突破し、機械の反応速度すら上回る。

 それはまさに神殺しの槍(ブリューナク)。一瞬よりも速い須臾の間に届く。

 

「――ッガ! 先生!」 

 

〈了解じゃ。不要な臓器は切り捨て、埋めるのに使う!〉

 

 心臓を破壊されてもなお諦めない死柄木。だが諦めない。まだ戦う。自分と、そして仲間の望みのために。

 不死殺しが乗っている。壊された心臓は再生しない。……だが、血液そのものをコントロールして自らの身体を生かす。

 

「いいや。これで終わりだ、最後は一緒にやろうぜ、かっちゃん」

「ふざけろや、テメエが俺の力を借りるんじゃねえ。俺がテメエの力を使ってやってるだけだ、死ね」

 

 死柄木の次は続かない。本来の個性『崩壊』はここで使っても意味がない。では、他を。仲間の力を頼ろうにも、それには”使う”というプロセスが必要だ。本来の使用者でないために咄嗟の判断に劣る。

 死にかけの身体を補った。だが反撃ができない。その余裕がない。

 

「「さあ、吹っ飛べ! 『ハウザー・インパクト』!」」 

 

 今度こそ――死柄木弔は消滅した。

 

「……がはっ!」

 

 街に降りたオーバードライブが吐血する。覚醒の代償、天へと昇り黒い太陽を殴り壊したイカロスは地に堕ちる。

 己を代償に人を救うフルメタルギガース。それは首魁であろうと例外はない。犠牲にした自らの身体を振り返ることもしない彼らは、戦いが終われば日常に帰ることはできない。誰かの日常を守るため、自らの日常を捨てた。

 であれならば、これは当然の結末だ。オーバードライブはここで散る。

 

 

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