緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第67話 ハッピーエンド

 

「……ぐ。――ガハッ!」

 

 オーバードライブが真っ黒な血を吐く。身体の内側から壊れている証だ。完全にワンフォーオールが暴走している。ただ近くにいるだけの者から個性を複製し始めている。

 100、1000、1万――まだまだ増える。彼の身体の許容量にはおさまり切らない。敵がいるならお得意の覚醒でどうにかできたのかもしれないが、死柄木は消し飛んだ。もういない。

 光の亡者が生き付く果て、無限の覚醒。……その末路は一つ、”死”以外にない。彼らは総じて短命だ。異常な成果を叩き出し、ろうそくのように燃え尽きる。

 そう、オーバードライブの英雄譚が幕を下ろす時が来た。

 

「緑谷さん!」

 

「出久君!?」

 

「どうした、緑谷ァ!」

 

 皆が集まってくるがどうしようもない。それがフルメタルギガースの末路だ。過剰な力の代償に未来を失う。慢心しなかろうが同じだ、身に過ぎた力は己自身を滅ぼすのだ。

 そして、彼自身も分かっていたことだ。自爆で果てた幾多のギガースたちと同じように、神風にて命を散らすためにここに来た。

 

「――ハハ。どうやら、俺はここまでみてえだな。遺言は……そうだな。両親には”すまなかった”と伝えてくれ。親より先に死ぬのが最大の親不孝だからな、天国には行けねえな。まあ、どうせギガースなんて自分の命を粗末にする奴らは地獄に居るだろ。俺が居なくてもギガースはやっていける。他になんだっけか……ああ、そうだ。心残りは……」

 

 宙を見つめる。

 

「ああ……そうだな。そう言えば、俺を待ってる娘が一人居たっけか。まあ、俺が居なくなってもアイツは器量がいいからな。いい男の一人や二人簡単に捕まえられるだろ。せっかく、前を向いて生きられるようになったんだ。悲しみだって乗り越えられるさ」

 

 目を閉じる。

 それを見た爆豪が地を叩く。

 

「ふざけるな! 俺はまだお前に勝ってねえ! 目を開けろ! 勝ち逃げなんて許さねえ! 殺すぞ! このクソデクがァ!」

 

 目には涙。勝ちたかった、超えたかった。

 昔から共に居た者、親友など虫唾が走る。幼馴染など死んでもゴメンだ。だが、それでも――心からコイツに勝てたと思えたことはなかったから。この男に勝ちたいと思ったことは偽りではないから。

 ただ、涙がこぼれないように上を向く。

 

「お前みたいな柄の悪い奴は天国には似合わねえ。地獄で待っててやるから長生きしろよ」

 

 

 

 飯田がすがる。

 

「そうだ! 君が居なくなったら僕はどうすればいい!? 法が全てでないと知った。だが、それでどうしていいのかなんて僕は知らない。進むべき道を示してくれ」 

 

 社会の規範(ルール)が全てだと思っていた。守らないと行けないルールがあり、それを守っていれば幸せになれる。あるべき幸せを壊す奴らがヴィランだと思っていた。

 けれど、守らないのではなく”守れない”こともあるのだと知った。99を守るために切り捨てられる1があることを知った。

 幻想は砕け散り、であればオールマイトを、オーバードライブを規範としたいと思ったのに。

 

「誰かを手本にするのはいい。だが、決めるのはお前だよ」

 

 

 

 信じられないと言う顔で、涙も忘れて呆然としている八百万が呟く。

 

「そんな。あなたみたいに強い人が死ぬわけない。きっと、ここから運命を覆すのよ」

 

 彼の力になれたことを誇りと思っているからこそ、彼でも不可能なことがあると知っている。けれど、それで納得できるわけがないだろう。

 認められない現実を前に、八百万は実感が湧かないままただ戸惑う。

 

「悪いな、奇跡は売り切れだ。大丈夫、八百万ならきっといいヒーローになれる」

 

 

 

 焦凍がそばで佇んでいる。顔色は蒼白、病人に白さだ。

 

「先に逝くのか? 俺が先かと思ったが」

 

 言葉は要らない。彼もギガースだ。力の代償に自らを捧げたのは焦凍も同じ。すぐに同じ所へ行けるだろう。

 なればこそ、目を合わせるだけで十分だった。

 

「悲しい思いをさせちまうな。俺の言えたことじゃないが、自分の身体はいたわってやれよ」

 

 

 

 麗日がとりすがる。自らの涙を拭うための腕は――スピナーとの戦いで失くしてしまった。

 

「嫌だよ、デク君。死なないで……! あなたまで失ったら、ウチは……」

 

 彼を目指してここまで来た。ただ、彼の隣に並ぶために全てを捨てた。否、奪われたからこそ残ったものは彼の隣に立つことしかなかった。夢を奪われて、そして彼まで奪われてはどうすればいいのか。

 なりたいと思える未来が全て閉ざされた麗日は目を伏せる。

 

「お前が居てくれたから、今の俺がある。俺の分まで親孝行してくれ」

 

 

 

 そして、オールマイトは一番顔色が悪い。まるで罪人だ、言葉すら出ないような有様で震えている。

 

「――」

 

 実のところ、一番心が弱いのは彼だ。全てをハッピーエンドに変える英雄。それこそ「助けられなかった人は世界中にたくさん居る」なんて言ってしまえるほどに、目の前の人間を救ってきた。

 だからこそ、というべきなのか……そんな英雄には誰もついていけない。サー・ナイトアイは彼から離れていった。だが、今やオーバードライブは永遠に彼の元を去ろうとしている。

 それは、もうトラウマと呼んでも良いだろう。強すぎるがゆえに、隣に立とうとする仲間が自滅していく。

 

「そんな顔をしないでくれ、オールマイト。俺は感謝している。あなたが居なかったら、自分の生き方に誇りが持てなかった。笑ってくれよ、オールマイト。人は泣いて産まれてくるから、死ぬときは笑顔で送られたい」

 

 そして、彼は満足だと笑うのだ。

 

 

 そこに、ギガースの生き残りがたどり着く。

 

「ボス、逝くのか。先に行った仲間たちによろしくな。俺たちもすぐに行くって伝えておいてくれ」

 

「ま、アレだ。俺らが逝くときにゃ多分、新顔を紹介できると思うぜ。楽しみに待っててくれ」

 

「ま、女っ気は足りねえけどな。あの裁剣乙女もパイオツはでけえんだが、ゴリラだからなあ」

 

「おいおい、殺されるぞお前」

 

 ギャハハハハ、と笑う。ギガースのノリはこんなものだ。

 

 ――皆が諦めた。その瞬間だった。高速ヘリが到着する。

 

「悪いが私は法よりもハッピーエンドが好きでね。と、いうわけで――やってしまえ。正義だ悪だの、そんなもの恋する乙女の前ならぶっ壊せるって証明してやりなさい。そして、私をゴリラと言った奴は後でシメる」

 

 偉そうに見下ろす女――アストレアだった。彼女の後ろから小さな少女が飛び出した。

 

「イズク。やっぱり、あなたはそうするんだね。待ってるだけじゃ叶わない恋もあるから。……だから来たよ」

 

 アストレアに連絡を取ったのは彼女の方からだった。そう、恋する乙女は無敵なのだ。

 

「エリ、悪いな。約束、守れそうにねえわ」

「だめ。守ってもらうもん」

 

 そう言ってキスをする。エリの個性『巻き戻し』がかつてない最大規模で発動する。奇跡の残り香が生き残った彼らにも。

 麗日の失った腕が戻った。焦凍の寿命が回復するのと同時に命を蝕む個性も『半冷半熱』に巻き戻った。飯田の、相澤の身体も戻る。

 

 未来のために戦って、しかし負傷で未来=寿命がないなんて勝利者があまりにも哀れだろう。なぜなら、勝利者こそが全てを手にするべきなのだから。

 

「……やれやれ。これじゃ、約束を守るしかないな」

 

 

 

 そして、3年後にオーバードライブは緑谷出久に戻る。学校を卒業して、しかし仮免は返却した。

 ヒーロー免許は必要ない。これから、約束したとおりにパン屋を開くのだから。

 

 そして、他愛のない日常を繰り返す。敵連合は潰れ、オール・フォー・ワンの残り香は消え去った。役目を負えたのを悟ったかのようにワン・フォー・オールも緑谷の身体から消え去った。

 

 だがしかし、オールマイトは未だに平和の象徴であり続けている。彼だけの個性『オールマイト』を持って。あの時、傷と一緒に全員退化したはずだったが、なぜかオールマイトだけは効果を受けなかった。

 ゆえに、今は『オールマイト社会』の最盛期。悪は栄えることなく、皆が笑顔で生活している。

 

「おはよ、デク君」

「おはよう、麗日。今日も朝早いな」

 

「うん、大変なんよ? 景気が良くて、どこもかしこも箱モノを作っとる」

 

 麗日はヒーロー免許を取った上で両親の建設業を手伝っている。免許の維持が問題ない程度にヒーロー活動をしつつと、二足の草鞋を履いている。

 とても忙しくしているが、本人は楽しそうだ。婚期を逃しそう、とは本人の言だが。

 

「ハッハッハ! ま、お前なら焦らなくてもいい奴が見つかるさ!」

「見つからんから、焦っとるんだけどね。……かわいい恋人がいる人はいいね」

 

「まあな!」

「まったく、このバカップルは――」

 

「で、話してていいのか? そろそろ電車が出る時間だぜ」

「ああっ! って、もう時間過ぎとるやん! デク君、これお勘定」

 

「あ、おい……」

 

 自分を浮かし、地を蹴ってUFOじみた動きで電車を追い越していく麗日を見る。

 

「いや、厳密には免許持ってても駄目なんだがな」

 

 やれやれ、と肩をすくめる。

 

「お茶子さん、元気そうだったね」

 

 先ほど自分が恋人と呼ばれたのも知らずにエリが店の奥から顔を見せる。今更なのだが、彼女はすごく恥ずかしがりやでからかわれるとすぐに緑谷の背中に隠れてしまう。

 

「ああ。皆、それぞれ頑張ってる」

「あ、そういえば。出久、さっき来た人がこれを渡してくれって」

 

 ちなみに、男である。こういうアナログな方法は以外とバレないものだ。無関係な人間を何人か経由すれば特に。ファンレターだのなんだのと言えば不自然に思われない。

 

「ん……ああ」

 

 チラリと見てゴミ箱に放り込む。……箱に入った瞬間に結晶化、粉々に砕け散って痕も残っていない。

 中身は普通のファンレターを装った暗号だった。

 

「んじゃ、ちょっと店番頼むわ」

「また? まあ、いいわ。あなたがお仕事してるときは、ちゃんと私が店を守るから」

 

「まったく、頼りになる嫁さんだな。行ってくるぜ」

「行ってらっしゃい」

 

 緑谷はバスや電車を乗り継いで目的地に向かう。無意味に迂回、戻ったりして目的地を悟らせない。尾行者がどうの以前に、そもそも気配を隠しているのだから誰にも見つからないのだが。

 

「――」

 

 そして、豪奢なビルに侵入する。少し待っていると荷物を持った男が入っていくからついて行った。

 するすると上に登っていく。警備員が居るが完全にスルーだ。今の緑谷に気付ける者はいない。

 静かにドアを開ける。後ろ暗い人間らしくしっかりと鍵を締めていたのだが、そんなもの――いい具合に衝撃を叩き込めば開けられる。無理だろとツッコまれようが、できるのだから仕方ない。それが光の亡者と言うものだ。

 

「……じゃあな。次はもうちょっと真っ当に生きろ」

 

 PCに向かって何かを打ち込み続けている男の頭を掴み、振った。それだけで男は死ぬ。突発性の脳梗塞、働き過ぎが原因のよくある自然死として片付けられる。

 殺されてしまった彼は愛妻家で、成功者だった――おそらく誰もが悲しむだろう。

 だがその実、その男は”悪”だった。ヴィランではない、法律では裁けないからオールマイトは裁けない。法を犯すことなく巨万の富を築いた。

 世の中には便利な言葉がある。「秘書が勝手にやったこと」……まあ、秘書レベルでは駄目だろうがそこは協力会社と置き換えればいい。ヴィランになるのは頭の悪い連中だけで、法を犯さずに金を稼ぐ方法はいくらでもあるのだ。どこかの誰かを犠牲にすることは変わらずとも。

 だから殺す。悪の敵は法などに縛られない。

 

 ――この世に、悪は二度と栄えない。

 





 これにて終了です。
 「地獄への道は善意に舗装されている」、完全なディストピア社会が完成しました。オールマイトを信仰しない人間は『悪』となる。オールマイトのようになれなければ排除される。
 抑圧されるだけの『個性社会』よりもよっぽどヤバい社会です。
 ここはオールマイトのようになれと強制される社会。怠けていたら非難されるよう世界に、私は住みたくないですね。土日くらいは休みたいです。
 『オールマイトは365日象徴であり続けたぞ? そうだ、オールマイトならできたぞ。オールマイトならできたぞ。オールマイトならできたぞ?』といった具合ですね。審判者から見ればまだ手ぬるいかもしれませんが。
 こういうのもメリーバッドエンドと言うのでしょうかね。


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